玉座を置く場所の意味
祝・2600話!
「なんで謁見の間の移動が、愚かなんだ?」
雄也さんの言葉に、九十九が純粋な疑問を呈する。
「お前が玉座を置く場所の意味を、然程重視していないことがよく分かる言葉だな」
雄也さんがゆるゆると首を振った。
「玉座を置く場所の意味?」
九十九が首を捻る。
そう、ここで問題になるのは、雄也さんが「愚か」だと断じる理由は、「謁見の間」ではなく、「玉座」の意味なのだと思う。
そして、意外にも、九十九はその部分に気付いていないようだ。
「謁見の間に置かれる『玉座』と呼ばれる椅子に座るのは、その国の王さまでしょう?」
「そうだな」
わたしの言葉に九十九は頷く。
「その国で一番の体内魔気の強さを誇り、大気魔気の調整の中心となるのも、その国の王さまだよね?」
「恐らくな」
そこは断言できないらしい。
全ての王さまを見たわけではないからその答え方は、おかしなものではない。
「そうなると、大気魔気の調整のために、玉座を大気魔気が濃い場所に置くって考え方は普通だよね?」
「……ああ、そういうことか」
そこまでわたしが言うと、九十九も気付いたらしい。
「玉座の場所は『神気穴』に関係があるってことだな」
前にセントポーリア国王陛下から聞いたことがある。
セントポーリアでは、玉座のある謁見の間、そして、地下にある契約の間は、国……いや、大陸の中でも大気魔気……、大気中に含まれている魔力が濃くなりやすい場所らしい。
だから、契約の間で定期的に魔法を使う必要があるし、他国から魔力が強い人間が来た時は、「謁見の間」で対面し、時には体内魔気を使って威圧するなどして大気魔気の調整をするのだと。
契約の間で魔法を使うのはともかく、謁見の間で国王陛下からいきなり威圧を食らうことになる使者さんたちは気の毒だと思うのはわたしだけでしょうか?
挨拶代わりの威圧とか嫌だよね?
「だが、『神気穴』は城自体が蓋の役目をしているんじゃないのか?」
「大雑把にはね。でも、『神気穴』から噴き出ている大気魔気の濃度には差があるらしくって、凄く濃い場所に『契約の間』、次に濃い場所に玉座、そこそこ濃い場所に王族たちが集まりやすい空間を作ることが多いって聞いたことがあるよ」
「『神気穴』は、かつて、人界と神界が繋がっていた頃に、神々が通った跡だと言われている。だから、そこから高濃度の大気魔気が今も尚、放出され続けているのだと。神界か聖神界に繋がっているから大気魔気が濃密だというのが通説だな」
わたしの言葉に雄也さんも続ける。
確かに、以前、お会いした「神の影」さまも「神気穴」のことを、「神の通り道」だと言っていた。
尤も、あの方は、神気穴は人界と聖神界を繋ぐ扉……みたいなことも言っていたような気もするけど。
「まあ、俺が知っている『神気穴』は一般的な話だ。神官視点では見解も異なるだろうし、事実とは違う可能性もある」
「いや、『神気穴』の知識自体が一般的ではないからな」
雄也さんの言葉に、九十九が的確なツッコミを入れる。
この世界に住む大多数の人間は大気魔気の存在は知っていても、その濃度までは意識しない。
普通の人は用がない限り、濃い場所に行く機会もないということもある。
王侯貴族にしても、城内や契約の間の大気魔気が濃いことに気付いたとしても、それはその周囲に王族がいるからだろうと思っていてもおかしくはないのだ。
「史書に載っている程度の知識なんだがな」
雄也さんがそう苦笑する。
だけど、あなたが言うその「史書」は、人類史全般なのか、王族しか読めない物なのか、神官しか興味を持たない話なのかでも、その意味は変わってくる気がしますよ?
「話が逸れたな。その『神気穴』から出てくる大気魔気の濃度は、時代によって異なるが、その位置についてはずれることがない。あっても、勘違い、記録違い、計測違いなど、人的な過誤があることがほとんどだ」
まあ、本当に「神の通り道」、「人界と聖神界を繋ぐ扉」ならば、その位置が変わることはないだろう。
通った跡地が移動するっておかしいし、扉の位置にしても、誰かが持ち運びできるようなものではないのだ。
何よりも「穴」と呼ばれているものである。
簡単に開けたり塞いだりできないと思われたから、昔の人はそう名付けたのだろう。
「だが、神気穴の存在を知らない世代も増えてきた。ローダンセの行動はそういうことなんだろうね」
「その時点で普通の知識ではないってことですね」
「もしくは、それが知られると、国にとって、不都合なことがあったとも考えられる」
「「え? 」」
雄也さんの言葉にわたしと九十九が驚きの声を上げる。
「周知されない。秘匿されている。そんな情報は、誰かにとって不都合な事実ばかりだよ。特に大気魔気のことなんて、本来はそこで生きている人間たちにとっては、毒にも薬にも変わるような話だ。それなのに、どの国もその詳細を隠している」
言われてみればそうだ。
大気魔気は、疲労した体力回復を促進したり、怪我の治癒が早くなったり、魔力を増強させたり、魔法を強化させたり、魔石を作ったりといろいろ利用できる。
だが、同時に濃すぎる大気魔気は、気分が悪くなったり、魔力暴走を起こしやすくなったり、酷い状態になると失神してしまうこともあるのだ。
だけど、どの国に行っても、大気魔気についての詳細は、話に上ることはない。
まあ、大気魔気が普通よりも濃い所って、王族が住まう城を含めて、身分の高い貴族の屋敷だったり、人が住んでいない場所でも魔獣が大量にいたりと、あまり、普通の人が立ち入らない場所が多いからというのもあるだろうけど。
それ以外では、精霊族が住む場所だったり、自然結界があったりと、やはり、人類の大半が近付くことができない。
「だけど、王家が隠し続けていたためにその重要性を知らぬまま、その王統が継続してしまった国がある。それが、弓術国家ローダンセだ」
隠し続けていたために重要性を知らなかった?
でも……。
「なんで、王家が隠していることを、その王統そのものが知らないんだ?」
わたしが持った疑問を、九十九がそのまま口にする。
ローダンセの王族は、間違いなく、水属性でも最高峰の魔力所持者たちの集まりだろう。
それは間違いない。
そして、水の大陸神ラートゥさまの加護も強いことも分かっている。
だから、ローダンセ王家がその大陸の中心国の王族であることは、誰も否定できないと思っているのだけど……。
「ローダンセ王家は、水の神子である『トルシア=ミャコ=ウォルダンテ』さまの血を引いていることは間違いないが、守ってきたのはその血統のみであり、神子の高潔な考え方は引き継がれていないということだ」
雄也さんは皮肉気に笑う。
でも、その水の神子が本当に高潔な精神を持っていたかは分からない。
わたしは、トルシアさまが大陸を守ることよりも、相方の神さまとのデートに勤しんでいたことを知っているから。
「ああ、そう言えば、ローダンセは、王族による大乱闘の歴史がある国だったな」
九十九がそう呟く。
しかし、「バトルロイヤル」と聞くと、プロレスとか格闘技を思い出してしまうのは何故だろう?
少年漫画か何かで「バトルロイヤル形式」って言葉を見たからだろうか?
「そう。ローダンセは『王家』を『戦い』で保ってきた国だ。始めは王族同士による魔力を高めることが目的だったのだろう。だが、いつしか純粋な魔法戦ではなく、謀略、陰謀、策略による騙し討ちが増え、本来の目的が忘れられていったんだ」
「昔は魔法戦だったってことか?」
「120年前までは、当時玉座のあった『藍玉の間』で、王族たちによる模擬戦闘が毎年行われていたらしい。直系である第一王子が25歳になるまでの間、勝率が最も高かった王族が王位を継承する。昔はそんな方法だったとローダンセの史書にあったから間違いない」
雄也さんによると、ローダンセの国王選抜は、今とは違う形だったらしい。
それが、何故変わってしまったのだろう?
そこには何らかの理由があるのだと思うけれど、わたしには分からなかった。
毎日投稿を続けた結果、驚くべきことに、とうとう2600話となりました。
ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告、最近ではアクションボタンで反応してくださる方々と、何より、これだけの長い話をずっとお読みくださっている方々のおかげです。
まだまだこの話は続きます。
今は説明が多く、話の進みも遅いですが、ローダンセ編の後半に入ると進み方が変わると思っています。
そんな当作品ですが、更新が滞らないように頑張らせていただきますので、最後までお付き合いいただければと思います。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!




