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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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頂点が考えるべきこと

 わたしが2冊の冊子を読み終えた時は、当然ながら、既に彼らの方も読み終わっていたらしい。


「さて、今回の一連の出来事において、各々、反省すべき点、批判すべき点、評価すべき点はいろいろあると思うが、一つずつ整理していこうか」


 雄也さんがそう促す。


「一連の出来事はどこからどこまでだ?」


 九十九が筆記具を準備しながらそう言った。

 今回はメモを取るらしい。


 だが、その準備の仕方は、メモというよりも会議中の議事録を取る書記のような気がする。

 机上に置かれた真っ白な紙は、明らかに量が多い。


 どれだけ本格的に記録をする気なのか?

 いや、大事なことだとは思うけどね。


 わたしもメモの準備はしている。

 彼らほど早く文字を書くことはできないので、本当に走り書きになることだろう。


 自分にしか読めないだろうし、後々、自分で書いた文字でも解読が必要になるかもしれない。


「分かりやすく、仮面舞踏会からだな。順番に検証することにしよう」


 どうやら、今回は報告会ではなく、検証会らしい。


「まず、今回の仮面舞踏会が開かれた理由からだね」

「そこから!?」


 よもやの舞台裏ですと!?


「いや、なんで、それを兄貴が知ってるんだよ?」

「検証と言っただろう? 俺も発起人から直接理由を伺ったわけではなく、城内、城下で漏れ聞いた話を積み重ねて、推測した結果でしかない」


 推測や推量段階で語ることを好まない雄也さんが、今回は、それを口にするらしい。

 多分、九十九やわたしが持っている情報と摺り合わせをしたいのだろう。


 でも、わたしが持っている情報はほとんど、ルーフィスさんとヴァルナさんのどちらかがいる時に聞いたものだから、あまり意味はないかもしれないけど……。


「第二王女殿下の話では、表向きの理由は円舞曲(ワルツ)が苦手な人でも、人目を気にせず練習できる場を設けるため……、でしたよね?」


 一応、自分が知っていることを口にしてみた。


 この件に関しては、ローダンセの第二王女であるトゥーベル王女殿下がそう言っていたから間違いないだろう。


「裏事情としては、あの国王が堂々と踊るためだったよな?」


 あの日、あの場にいた専属侍女はヴァルナさんの方だった。

 だから、それを聞いていた九十九がわたしの言葉を補足してくれる。


「それ以外の理由があるってのか?」

「あると俺は思っている」


 そんな九十九の問いかけに雄也さんは迷いもなく返した。

 どこか迫力を感じさせるその眼差しに九十九がやや怯んだように見える。


「原点に戻れば、単純な話だと思うよ?」

「原点……ですか?」


 この場合、仮面舞踏会が開かれた理由ってことだろうか?


 第二王女殿下の話では、わたしや九十九が口にしたことが理由だった。

 だが、彼女が全てを知っているわけではないとも思っている。


 本来の目的と聞かされたこと自体が、さらに王族たちへの表向きである理由の可能性もあるのだ。


「原点……、そういうことか」


 そして、九十九は分かったらしい。

 わたしには分からない。


 情報量の差?

 状況判断力の差?

 単純に頭の差!?


「この国で、何故、舞踏会が開かれるようになったかってことだ」

「人間界に行った人が、社交ダンスをこの国に持ち帰って、それをさらに国王陛下が気に入ってしまったからでしょう?」


 そして、あの相方(パートナー)を文字通りぶん回す踊りが誕生してしまったのだ。

 迷惑な話である。


「そうだ。そして、あの国王陛下が何故、国を挙げて舞踏会を開くほど気に入ったのかという理由は分かるか?」

「え? 踊るのが楽しかったからとかじゃないの?」


 あそこまで伸び伸び、生き生きと踊ることができたら、楽しいとは思う。

 代償として、一緒に踊る相手(犠牲者)の魂が抜けることになるけど。


「阿呆。ただの王族ならともかく、その頂点が趣味だけで、国民を巻き込む娯楽を強制するかよ」

「絶対ないとは言えないじゃないか」

「国の頂点が第一に考えるべきことはなんだ?」


 九十九の言葉に、とある王さまの姿を思い出す。


 毎日、毎晩、書類に埋もれて過ごしている金髪碧眼の真面目な国王陛下。

 その本質は、戦闘狂な気がしているその方は、いつも、口にしている。


 ―――― 王となったからには、()を殺し、国のために尽くす必要がある


 書類に埋もれるのも、時間があれば契約の間で魔法を振るうのも、ただ一人で王族の役目を担おうとしてしまうのも、全ては国のために。


 つまり……。


「国」

「ざっくりだな」


 わたしの答えに九十九が苦笑いをする。


「間違ってないよ。寧ろ、本質だね」


 雄也さんは茶化すこともなく、そう言ってくれた。

 相変わらず、お優しい。


「その国を維持するために、いや、中心国の頂点は、大陸そのものを守るために、絶対に考えなければならないことがある。それは分かるな?」

「それなら、大気魔気の調整?」


 国だけでなく、大陸全体となれば、これぐらいしか心当たりがない。


「そうだね。大陸内にある全ての王族が意識すべきことだけど、フレイミアム大陸はアリッサムが、シルヴァーレン大陸はセントポーリアが、その役目を担っていたことが現実だ」


 ライファス大陸の中心国は情報国家イースターカクタスだ。

 他のアストロメリアと、オルニトガラムに情報を小出しにしつつ、手伝わせているってことだろう。


 グランフィルト大陸は法力国家ストレリチア一強だし、他国から神官たちを受け入れるという意味で、他大陸からも人間を集めている。


 スカルウォーク大陸は、機械国家カルセオラリアはそこまで魔力が強い国ではないが、それ以外の6カ国と協力しつつ、大気魔気の調整はできていると思う。


 それは記録書を読んでいた時も思ったことだった。


 だけど、ウォルダンテ大陸の中心国であるローダンセは?

 お世辞にも大気魔気の調整ができているとは思えなかった。


 そして、他の5カ国も協力してくれているとも思えない。


 まあ、魔法国家アリッサムを失ったフレイミアム大陸が一番、酷いらしいけど、あの大陸の国々は、その自覚が既にある。


 だから、安定したように見えるセントポーリアに教えを乞いに、城まで遣いが出向いているのだ。


「大気魔気の調整と舞踏会に何か繋がりがあるということでしょうか?」


 それも不思議だと思う。

 大気魔気の調整は、そこに住む人間たちが魔法を使うことで、少しずつ行われることだ。


 中でも、王族と呼ばれる人間たちが使う魔法は桁違いであり、その存在が城の地下にある「契約の間」で魔法ぶっ放し放題になることで、かなり調整ができるということである。


 王族がその場所にいるだけで、その身に纏っている「体内魔気のまもり」によって、多少なりとも大気魔気の調整ができるけれど、流石に意識的に魔法を使った時ほどではないらしい。


 王族が魔法を使う際に、その周囲の大気魔気が大きく変動することは、わたしも肌で何度も感じている。


 気候変動。

 そんな言葉が相応しいほどに。


 そして、契約の間や玉座がある場所は、大気魔気が濃密だ。


 だから、契約の間で魔法を使うことや、玉座に王が座り、その周囲を王族たちで固めることは理にかなっているのである。


「栞ちゃんは、あの『青玉の間』を見て、どう思った?」


 不意に雄也さんから問いかけ。


「昔、謁見用の玉座があった場所なのかなと思いました」


 初めて「青玉の間」と呼ばれるホールに行った時は気付かなかった。

 だけど、後日。


 ローダンセ国王陛下の謁見の場所として選ばれた「星蒼玉(せいそうぎょく)の間」と呼ばれる玉座のある広間を見た後に、「青玉の間」に雰囲気が似ていると思った覚えがある。


「よく気付いたね。あの『青玉の間』は、五十年ほど前までこの国の王が家臣や他国からの使者と会うために使う『謁見の間』と呼ばれた場所で間違いないよ」


 やはりそうだったのか。


 壇上やそこに王が座る場所として置かれた椅子とか、正面にあった大きな扉とか、周囲の柱の感じとかが似ていると思ったのは気のせいではなかったらしい。


「ただその五十年前に()()()()()()()()()()があの場所であったらしい。そして、あの場所には悪い思念が留まってしまったと言われて、急遽、別の場所へと謁見の間を移したそうだよ」

「ひえっ!?」


 悪い思念って、悪霊的な話?

 どうして、この世界は唐突にホラー要素が組み込まれるのか?


「さらに、今から百二十年前にも似たようなことがあったらしくてね。その時の『謁見の間』だった場所は今、『藍玉の間』と呼ばれている。尤も、五十年前はその場所が『青玉の間』と呼ばれていたのだけどね」

「ち、血塗られた歴史……」


 わたしは思わず口にしていた。


 人類史には珍しくもないことだろう。

 人間界だって、国に限らず、暗殺に次ぐ暗殺によって、高い地位に就いた人だって珍しくない。


 だけど、寄りにもよって、国王陛下が座する「玉座の間」で行う必要はないんじゃないかなとも思ってしまう。


「つまり、今はデビュタントボールを行う場所になった『藍玉の間』が、本来、『玉座の間』、『謁見の間』と呼ばれていた場所ということは分かるかい?」

「それより前は玉座のお引越しを行っていないのですか?」


 まさかあの「藍玉の間」が、もともとの謁見の間があった場所だとは思わなかった。


 でも、もしかしたら、その前にも似たようなことがあって……と、考えてしまうのは当然だろう。


「その前後で移動していたら分からないけれど、少なくとも、六千年前は『藍玉の間』の場所で謁見が行われた記録があるね」


 雄也さんはそう言った後……。


「昔のローダンセの王族は、()()()()()()()()()()()ことがよく分かる話だと思わないかい?」


 そんな意味深なことまで口にしてくれたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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