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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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刷り込まれた意識

【「ダーミタージュ大陸」について情報国家の国王陛下が知っていること】


 そんな表題から始まった次の話。


 今回、九十九の報告書としては珍しい書き方だ。

 でも、分かりやすい。


 先ほど見た「世間話」の始まりである中扉も、これまでわたしが読ませてもらった報告書にはなかった気がする。


 最初に読んだ、兄弟合作編集の1冊目とは随分、違う傾向だった。


 紙面の端にメモや走り書きのような補足や追記もない。

 これまでの報告書や記録書と違って、完全に一冊の本なのだ。


 ……暇だったのかな?


 そして、これはこれで同人誌と呼ばれる物になる気がする。

 世界で数冊しかない手作りの本なんて贅沢だとも思うけど。


 さて、その表題にもなっているダーミタージュ大陸が、四千年前、突如として消えた話は、この世界の歴史を調べた人たちならば、有名すぎる話である。


 その跡地が「海獣の巣」と呼ばれるようになっていることも。


 わたしは、雄也さんや恭哉兄ちゃんから聞いたり、そして、情報国家の国王陛下から雑談ついでに差し込まれていた伝書で読んだり、大聖堂にあった人類の史書を読んだりして、その辺の話を知った。


 情報国家の国王陛下は歴史が好きなのか、雑談の合間に人類史を差し込んでくることが多い。

 いや、勉強しろってことなのは分かっているけどね。


 この世界には、大気魔気という大気中の魔力濃度が濃い神気穴(しんきけつ)と呼ばれる場所が、各大陸のあちこちにある。


 そして、それらを人体に害がない程度に薄めるために、そこに各国の城や主要な建築物を建てて、人類たちが持つ体内魔気で中和しているのだ。


 それは、そのダーミタージュ大陸にもあっただろう。


 だから、今、「海獣の巣」にいる海獣たちは、その大気魔気が濃い場所に惹かれて集まってしまったのではないかってわたしは思っている。


 海獣は魔獣と呼ばれる種族の中でも、海に生息し、大型の生物が多い。


 それは、海まで人類が行くことはないため、大気魔気を中和することができず、濃度が濃いままだからなのだろう。


 人類、精霊族、海獣を含めた魔獣がその体内に持っている力は微妙に違う種類なのだが、大気魔気と呼ばれるモノは神の力に近く、それぞれの生命に影響を与えていると言われている。


 そして、その大気魔気の濃度を薄めて中和することができるのは人類だけだと聞いている。


 体内に取り込んで、体内魔気の放出や、魔法という分かりやすい形に変換することは、他の生物にはできないのだ。


 精霊族の力は、大気魔気に性質が近すぎて変質させることはできないし、魔獣は大気魔気を消化吸収した後は、毒素を排出するらしい。


 まあ、毒素と言っても、大気魔気に混ざってしまえば融合したり、分離、分解されてしまうそうなので、それが大量に溜まって澱んでいるような場所に行かない限りは、他の生物に害となることはない。


 だから、過剰に心配、警戒する必要はないと聞かされている。

 人間の中にはそんな毒素を中和、除去できる魔法の使い手もいるからね。


 だけど、魔獣が吸収する量は、どんなに数がいても、大気魔気の濃度を薄めるほどではないらしい。

 吸収するよりも、大気魔気がどこからか湧き出る方が圧倒的に多いから。


 そう考えると人類が使う魔法ってどれだけ大気魔気を消費しているんだろうね?


 だから、人類が滅ぶってことは、大気魔気のバランスが崩れ、この惑星(ほし)の暴走に繋がるそうな。


 この辺りの知識は情報国家の国王陛下からだ。

 雄也さんも恭哉兄ちゃんも、わたしに魔獣や海獣についてはあまり詳しく語らないから。


 尤も、それらは九十九を通して、雄也さんに確認してもらっている。


 九十九には情報国家の国王陛下からのお手紙を()()()渡しているけれど、雄也さんはそれを直接見ることはしない。


 それだけ、苦手……、いや、嫌いなんだろうな。

 基本的に私情を挟まない人だけど、情報国家の国王陛下だけは別格のようだ。


 嫌な目に遭ったこともあるのだろうけど、もしかしたら、雄也さんの父親から何かを聞かされているんじゃないかって思っている。


 幼少期に刷り込まれた意識はなかなか消えないって母も言っていた。


 まあ、わたし(ワタシ)はその時期のほとんどを魔法で消してしまっているし、それで不都合を覚えたことはあまりないからピンとこないのだけど。


 でも、雄也さんと九十九のお父さんって、当然ながら今も昔も会ったことはないのだけど、自分の幼い息子に身内の悪口を吹き込むタイプだとは思えないんだよね。


 自分の弟のことを阿呆扱いはしそうだけど。


 会ったことはなくても、雄也さんと九十九を見ていれば、幼少期からしっかり教えている人だって自然に思える。


 前に見せてもらった文字の練習の筆跡からもそれは明らかだ。


 それに、雄也さんはなんとなく、情報国家の国王陛下だけでなく、父親にも反発しているような気がしている。


 つまりは、情報国家という国自体が嫌いなのかもしれない。


 それでも、九十九というワンクッションを置けば受け入れることができるのだから、情報については信用もしているのだろう。


 本当に嫌で関わりたくないならば、全く見ないって選択肢もあるのだからね。


 そんな風にいろいろ考えながら、読み進めていく。


 そして、ピタリと止まってしまった。

 これは、どういうこと?


【紅い髪と大神官の関係】


 はい~~~~っ!?

 恭哉兄ちゃんがライトの指導をしていた時期がある!?


 えっと、ライトは3歳ぐらいに神導を受けて、正神官になる前、つまり、下神官時代に還俗したということは聞いている。


 対して、恭哉兄ちゃんが正神官になったのは、5歳で……、上神官になったのが10歳だったはずだ。


 ライトが還俗した年齢にもよるけれど、下神官時代に被らなくはない?


 え? 還俗したのは10歳になる前?

 そうなると、結構、下神官時代が長いな。


 正神官(直属の上司)に恵まれなかったのかもしれない。


 目立っていた?

 出る杭は打たれる?


 ああ、あの人は協調性って言葉からかけ離れているからね。

 実力主義の神官世界では、邪魔も多かったことだろう。


 しかし、情報国家の国王陛下がそんなことまで詳しすぎて困る。


 そして、恭哉兄ちゃんも教えてくれても良いのに。

 妙に、親しい気はしていたんだよね。


 リヒトは恭哉兄ちゃんが見出して引き込んだけれど、ライトとの関係は偶然だったのだろう。

 もし、恭哉兄ちゃんとの出会いが早かったら、もっと早く……、還俗していただろうから。


 過程は変わっても、その結果は変わらない。

 ミラージュの人たちは、基本的な法力の使い方を学んだ後は、すぐ辞めているっぽいからね。


 情報国家の国王陛下が勿体ないと言うのも分かる気はする。

 「穢れの祓い」もせずに、素地だけで高神官並の法力を有しているのだ。


 それは血筋とか、境遇もあるだろうけど、ある程度の努力した結果でもあるだろう。


 手にした魔力と法力(ちから)だけで満足するような人ではない。

 多分、ライトは九十九のように努力型だ。


 それは、円舞曲(ワルツ)を踊るだけでなく相方(パートナー)に動きの指示をしたり、弓道経験者に向かって弓道を披露したり、(りゃく)拝詞(はいし)を知っていたことからも分かるだろう。


 人間界でも情報収集、技術習得を欠かしていないってことだ。

 まあ、その姿を誰にも見せずにやっている可能性が高いので、雄也さんタイプかもしれないけど。


 そして、それは情報国家の国王陛下が好むタイプだと思っている。

 あの方は、興味のない相手のことをそこまで調べないだろうし、記憶に止めないだろう。


 九十九はかなり気に入られているっぽいし、雄也さんのことも気に掛けなければ、わざわざ目の前に現れて挑発をする必要なんてはいはずだ。


 つまり、可愛がり方が違うんだろうな。

 面倒な人だ。


 でも、国王なのだから仕方がない面もあるのか。

 彼らが異性だったらもっと分かりやすく囲えただろう。


 他国の人間であっても、寵姫とかそんな名目の許、王命で無理矢理、引き入れることもできたはずだ。

 まあ、実際は三親等なのだから、寵姫と名目を掲げても、内実が伴わないだろうけど。


 ここまでその文章を読んだ時は、わたしはそんな風に軽く考えていたのだ。


 だけど、情報国家の国王陛下はもっといろいろ深読みできるようなことを考えていて、わたしは僅か十分後、その周到さに頭を抱えたくなるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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