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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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災いの成長

 なんだろう?

 2冊目が分厚かったために、かなり濃い話を九十九と恭哉兄ちゃんがしたのかと思っていた。


 だが、違ったらしい。


 真っ白な紙面の中央に、九十九のちょっと癖のある文字で……。


【世間話の立ち合い】


 こんな表題と思しきものが書かれた一枚の紙……、中扉があった。


 しかも、それは全体の四分の一部分に差し込まれている。


 世間話……ってことは雑談?

 しかも、その立ち合い?


 どういうこと?

 首を捻りながら次のページを捲って……、()()()()()()


 いやいやいや!?

 本当にどういうこと!?


 何がどうして、こんな展開になったの!?


 もう一度、捲ってみる。

 書かれている文字は一文字とも変わっていない。


 当然だ。

 ここで文字が変化したら、ホラーだろう。


 いや、魔法ならあり得るかもしれないけど、それはおいておいて……。


【大神官と情報国家の国王陛下が大聖堂の一室にて世間話を交わす場に立ち会うことになった】


 その一文を見て、「何故に!? 」と、叫ばなかっただけマシだろう。

 いや、あまりの展開に思考が停止しただけなのだが。


 しかも、この書き方だと、九十九が望んだわけではなさそうだ。

 恭哉兄ちゃんがセッティングして、その場に立ち会わせたって感じだろうか?


 そうしないと、正面から一国の王と九十九が会うなんて、セントポーリア国王陛下以外では難しいだろう。


 それにしても、情報国家イースターカクタスの国王陛下とな。


 恭哉兄ちゃんがいたなら大丈夫だったとは思うけど、九十九の精神はすり減っていないだろうか?

 あの雄也さんですら苦手意識があるっぽいのだ。


 療養中に出会ったというタイミングの悪さもあっただろうけど、いつもの雄也さんなら、あそこまで動揺はしなかったと思う。


 まあ、雄也さんは情報国家の国王陛下と自分の関係性も知っている。


 対して、九十九は多分、知らない。

 知らない……、よね?


 もしも、知っていたなら、初めてストレリチア城で会った時も、雄也さんほどじゃなくても多少の動揺はあると思うのだ。


 だから、知らない気がする。


【大神官が世間話として「六千年前について語りたい」と、陛下に向かって述べたところから始まる】


 壮大な世間話だ。

 それを世間話と言えるのは、恭哉兄ちゃんぐらいだろう。


 いや! 歴史の一環とすればギリギリで世間話にできなくもない?


 無理だろう。

 「歴史」と言っている時点で、お勉強だ。


 いや、歴史好きが集い、戦国武将たちや幕末志士、新選組の隊員たちについて熱く語ることを思えばいける!!


 あれは趣味の語り場であり、立派に雑談だ!!


【「大いなる災い」について情報国家の国王陛下が知っていること】


 六千年前の悪夢。

 人間が神の怒りに触れて起きた神罰。

 ありとあらゆる絶望の影。


 情報国家の国王陛下はそう話していたらしい。


 そして、それは世間一般の評価だ。


 いや、「大いなる災い」という呼称そのものが、世間一般の認識そのもので、情報国家の国王陛下の言葉は、それに補足する形であるのだろう。


 今の人類は、その「大いなる災い」について正しい知識など持ち合わせていない。


 六千年前に、突如として現れ、この世界に住んでいた多くの人々を絶望に追いやった「大いなる災い」は「聖女」と呼ばれる人間によって、封印されました。終わり。


 この程度の知識である。


 そこに至る経緯、原因、事情、思惑、感情など、一切、伝わっていない。


 人間界にもあった、勇者が魔王を倒す話と大差がないのだ。


 まあ、六千年も昔のことなのに、それが現代に至るまで、その一部でも伝わっていることは十分凄い話ではあるのだが。


 そこまで読んで、改めて考える。


 ―――― 「大いなる災い」って結局のところ、なんだろう?


 始まりは、紅い髪の精霊族が持って来た水差し。


 その水差しに向かって、魔力が強すぎるのに魔法が全く使えない魔法国家の王女さまが、魔力の付加と似たようなことをしたのだと思う。


 だけど、何故、紅い髪の精霊族がそんな魔力を吸い取るような水差しを持っていたのか?


 その紅い髪の精霊族は、モレナさまが言うには、魂響(こんきょう)(ぞく)だったらしい。


 そして、その水差しに入った魔力を利用して、「神の器」となるモノを作り上げ、そこに破壊の神ナスカルシードさまの意識を降臨させ、受肉に似た状態にしたとか。


 その器は多分、「救いの神子」たちの身体のようなものなのだろう。


 彼女たちも用意された身体(肉体)に動力源となる(意識)だけが放り込まれた状態だって聞いている。


 その紅い髪の魂響族の目的は、この世界の浄化だった。

 地上から人類すべてを消し去り、精霊族たちの新たな世界を作るとかなんとか?


 だけど、現実にはそうはならなかった。


 「封印の聖女」がその「大いなる災い」を()()()()()()()()()()


 「大いなる災い」がこの世界で生まれ、「封印の聖女」によって封印されるまで、十数年はかかっているのだ。


 そもそも、精霊族の思う通りに、その欠片とは言え、神さまの意識が従うはずがない。


 神さまは人類を玩具に、精霊族を道具として見ている。

 都合の良いように道具から使われる神さまなんて……、多分、少ないだろう。


 絶対ないとは言い切れないのが、神さまという人類とは違った思考、意識を持つ存在だ。


 破壊の神さまの意識が召喚されたか、別の手段かで人界に降臨し、作られた器に封入しても、すぐに破壊活動は始まらなかった。


 まず、その意識が用意された器の隅々まで浸透し、動けるようになるまで数年を要している。


 それは、当時の魔法国家の王女の魔力が減少し、魔法が使えるようになったと記されている年代と大いなる災いが現れた最初の記録に時差があることからも分かるだろう。


 まあ、古すぎる記録だから誤差はあってもおかしくはない。

 だが、それは大聖堂にあった人類全体の史書に記録されていたのだ。


 そこに外部からの介入が全くなかったとは思っていないけれど、それぞれの国が編纂している自国の史書よりは信憑性があると思っている。


 破壊の神ナスカルシードさまは、目に付くものを破壊しようとする性質を持つ、実に困ったさんな神さまだ。


 言い換えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のである。


 意外な話、「大いなる災い」と呼ばれた神災は、始めは、そこまで積極的な破壊活動をしていなかったのである。


 だけど、神さまという困ったさんな存在は、全く変化のない世界を好まない。


 紅い髪の精霊族は姿を見せないまま、「大いなる災い」を誘導し、少しずつ、人界を破壊していくという地道な活動を開始させることによって「暇つぶし」という形をとった。


 その努力を他の所で使用して欲しい。

 そんな暇つぶしで人類まで潰されたら堪ったものではない。


 そして、破壊の爪痕が大きくなるほど、人類は危機感を覚え、被害があった国々が共同で討伐軍を編成することとなり、あえなく返り討ちにあうのだ。


 そこから先は、紅い髪の精霊族の思うままだった。


 後は、わざわざ出向かなくても、勝手に人類の方から来てくれるようになるのだから、高笑い状態だっただろう。


 始めは運悪く目について破壊されてしまった国だけの問題だったのが、やがて、世界各国に通達され、討伐軍を編成する国が増えていく。


 互いに助け合う精神……、ではなく、()()()()()()()()()()()()


 だが、相手は欠片とはいえ、神さまなのだ。

 その正体を当時の人類たちがどこまで理解していたかは分からない。


 わたしが知るのは、大聖堂にあった人類史と、時折、夢で視せられる「封印の聖女」の記録だけなのだから。


 そして、王族たちの嫡子も、その討伐軍の中に編成されるほどの事態となって、封印の聖女が封印するのだ。


 よく考えたら、その対象を倒すではなく、迷わず封印を選んだ辺り、「封印の聖女」は、相手が神さまの一部であることを知っていたのだと思う。


 違いは知識量。

 そういった感じだろうか?


 だけど、なんで、「封印の聖女」がそこに思い至っていたのかは分からない。


 もしかしたら、友人の、法力国家……、いや、当時は「神教国家」ストレリチアの王女から何か、知恵を授けられた可能性はある。


 その王女も、実は凄い。


 古代魔法だと思うのだけど、自国にいながら、遠く離れた場所にいた「封印の聖女」の能力を強化しているのだ。


 あの能力を見た限り、実は、こっちの方が、神力を持った「聖女」だったのではないだろうか?


 いや、「封印の聖女」も神力所持者だった。

 昔は今よりも神力所持者は多かったらしい。


 神力所持者の特売価格(バーゲンセール)ってやつだね?

 いや、売っていたわけじゃないけど。


 そのストレリチアの王女さまの名前は、「セレブィーナ=プリエル=ストレリチア」さまだっけ?


 「封印の聖女」であるディアグツォープ=ヴァロナ=セントポーリアさまは、その王女さまのことを「セレブ」って呼んでいたから仲良しさんだったことは間違いないだろう。


 「封印の聖女」は、恋人のことも「さま」付けするような人だったから。


 いずれにしても、「大いなる災い」は精霊族と人類たちによって、大きく成長したことは間違いないのだろうけど。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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