表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2589/2799

疑問が疑問を呼ぶ

 わたしがモレナさまから抱き抱えられて、ローダンセ城から消えた後、アーキスフィーロさまとライトが魔法バトルを繰り広げたことは理解した。


 そして、それらはセヴェロさんが介入したことで、終わりを告げたことも。


 だけど、そこからはさらに謎が深まった。


 セヴェロさんの姿を見て、「宰相の親類か? 」と、尋ねたことから、ライトはそれが誰に似ていると判断したのかは理解する。


 セヴェロさんはアーキスフィーロさまの記憶を頼りにその容姿を構成したはずだ。


 記憶の中にある女性の数年前の姿を性転換させた姿。

 それが、あのセヴェロさんの外見だと思っている。


 「水鏡(すいきょう)(ぞく)」には、はっきりした姿がない。


 最初にこの世界に存在した時は、水饅頭のような、そう、近年、日本のRPGによく出てくるようになった中華まんタイプの丸いスライムみたいな形状らしい。


 それは、セヴェロさんと会った後に、精霊遣いである楓夜兄ちゃんに「伝書」で確認したから間違いない。


 尤も、「次はもっと婀娜(あだ)やかな内容を頼むで」と書かれていたのだけど。

 うん、久しぶりのお手紙があんな色気のない内容で申し訳ない。


 だが、次も期待はしないでほしい。

 わたしにそんな艶っぽい内容など書けるはずがないのだ。


 いや、そんな話はどうでも良いとして……。


 ライトが言った「アリッサムから解放されたトムラーム」って文章の意味が分からない。

 いや、この紙の端に、雄也さんの文字で注釈が書かれている。


「え……?」


 思わず、声に出てしまった。


 傍で、それぞれが手にしていた紙を読んでいた二人が同時に顔を上げて、わたしを見る。

 邪魔をしてしまったらしい。


「なんでもないです」


 わたしがそう言うと、雄也さんはすぐに書類へと目を落とし、九十九は何かを言いたげな顔を向けた後、同じように手にした分厚い冊子に視線を戻す。


 二人とも何も言わない。

 何も聞かない。


 わたしをこの冊子に集中させようとしてくれている。

 だから、わたしも彼らの邪魔をしたくないのだ。


 だけど、コレは我慢できなかった。


 アリッサムが、水尾先輩と真央先輩が生まれ育った国が、こんなことをしていたなんて思いもしなかった。


 ある意味、あの「音を聞く島」と似たようなことをしていたのだ。

 いや、目的は違う。


 「音を聞く島」、それに関わっていたミラージュは、法力を使える存在を意図的に作り出したり、その、男性の欲望を満たしたり、自身の法力を強化したりという目的があった。


 だけど、これは、()()()()()()()()()だ。


 ―――― 意図的に新たな「精霊族」を作り出す実験。


 雄也さんの注釈には……。


【アリッサムでかつて行われていた、いろいろな精霊族を掛け合わせたり、魔法や魔道具など様々な方法で手を加えて、人為的に突然変異を引き起こさせようとする実験の結果、生まれた存在の総称】


 そう書かれていた。


 水尾先輩は知らなかったと思う。

 精霊族に憧れがあったようだから。


 でも、真央先輩は?

 これを知っていたから、ウィルクス王子殿下のあの実験を手伝う気にもなったと思えてしまう。


 そうなると、雄也さんは真央先輩から聞かされたってことだろうか?


 そして、この記録からは、それらの「トムラーム」と呼ばれたものは、アリッサムがミラージュから襲撃された際に、逃げ出したことが分かった。


 ライトは「回収させた」と言っていたらしいから、もしかしたらアリッサム襲撃の目的の一つでもあったのかもしれない。


 いや、ライトはあの襲撃に関わっていなかったとも言っている。

 あの人がいない時に、国王の命令によって行われた愚行らしいから。


 それらを全て信じるならば、ライトは襲撃の後で知ったのだろう。


 始めから、アリッサムの襲撃が、その「トムラーム」を狙ったものだったなら、5体も逃がした上、その内の3体を魔獣の餌食にしてしまうなんて勿体ないことをしない気がする。


 かの国は、その襲撃の際に、魔力の強さは世界一であるアリッサムの女王陛下やその王配殿下まで捉えているのだ。


 人工的に作られた精霊族を捕まえるよりも、多分、そちらの方が難易度が高い。


 でも、三人の王女殿下は逃げ延びているのか。

 まあ、その考察はどうでもいい。


 その後、精霊族を隷従させる言葉を、ライトが口にしている。


 その一文は、真央先輩が知っていた言葉と同じだった。

 そう考えると、やはり、真央先輩はその「トムラーム」の存在を知っていた可能性が高いと思う。


 だけど、その言葉は精霊族の血が濃いセヴェロさんだけでなく、精霊族の血が表れているアーキスフィーロさまにも影響があるらしい。


 そのことが恐ろしかった。


 わたしにもそれを行える力があるのだ。


 ―――― 風の大陸神の加護を(セントポーリアの王族)受けし血族(の血を引く者)


 アーキスフィーロさまは、二度告げられた言葉でライトに操られかけたが、九十九がその場に介入して事なきを得たらしい。


 そのことにホッとする。

 そして、わざわざ助けてくれた九十九には感謝しかない。


 あの時の九十九は、カルセオラリアの王城貴族として、あの仮面舞踏会にいたのだ。


 だから、アーキスフィーロさまを単独で助けようとする行為は、わたしとの繋がりを確信させてしまうような行為である。


 仮面舞踏会で円舞曲(ワルツ)を踊るだけならともかく、そこまで個人的な介入は、本当は良くない行動なのだろう。


 まあ、アーキスフィーロさまの親戚であるトルクスタン王子からの命令ってことで片付けられそうな気もするけどね。


 その後、九十九とライトは世間話をしたらしい。

 やっぱり、仲が良いよね、この二人。


 しかし、ライトの状態を見て、そのまま栄養の話になるのは九十九らしいと笑ってしまう。


 確かに、ライトはかなり痩せていた。

 わたしのように張り付かなくても、九十九は見ただけでそれを見抜いたのだ。


 その後に書かれた伝言。


 ライトは無事だったし、感謝もしていることが分かって、ホッとした。

 いや、今にして思えば余計なことだったかなとも思った部分もある。


 でも、あの人は死にたくないと言っていた。

 それならば、少しでも救えるなら救いたいと思ってしまったのだ。


 それが時間稼ぎに過ぎないと、分かっていても。


 そして、その後に、再び、セヴェロさんのご登場。

 それも、険悪な雰囲気から始まっている。


 水の塊に漬け込まれた九十九。


 これは、わたしが昔、セヴェロさんと同じ水鏡族のセドルさまに過去を覗かれた時のような感じだろうか?


 九十九にしては珍しい状況だ。


 いや、わざと捕まったのかな?

 自分の過去と引き替えに、セヴェロさんと情報共有したってことかもしれない。


 純血ではないセヴェロさんの能力が、純粋な水鏡族であるセドルさまと、どこまで同じなのかは分からないけれどね。


 そのセヴェロさんは九十九を挑発して、雄也さんを引っ張り出したらしい。


 何を言われたのだろう?

 その詳細は書かれていない。


 でも、雄也さんまでその場に出ることになったなら、二人の弱みとか?

 そうなると二人のご両親の出自?


 だけど、九十九はほとんど知らなかったと思う。

 ご両親は何も伝えなかったはずだから。


 そうなると、セヴェロさんがかなりの過去に遡ることができるのだろうか?


 九十九と雄也さんの父親は、情報国家イースターカクタスの国王陛下の双子の兄だ。

 つまり、顔が同じである。


 それならば、その過去を見るだけで、彼らの出自は分かってしまうだろう。


 そして、後始末のトルクスタン王子と九十九の会話にも驚くことになる。


 トルクスタン王子が言うには、アーキスフィーロさまの祖母君であるアリトルナ=リーゼ=ロットベルクさまにわたしは何故か気に入られているらしい。


 会ったのはたった一回だけなのに?


 読み進めると、わたしがちょっと変わっているから気に入られたことは理解した。

 まあ、ローダンセの一般的な貴族令嬢たちとは全く違うことは分かる。


 普通は、殿方から模擬戦闘を申し込まれて受けて立った上、あっさりと勝つなんてことはしないだろう。


 だけど、あの状況ではどう断るのが正しかった?


 勝負を申し込んできたのはヴィバルダスさまの方だったのだ。

 もっと苦戦して勝つべきだった?


 そんな器用なことはできるはずがない。


 しかし、この様子だと、わたしの肩書きは「婚約者候補」から、「婚約者」、「妻」に変わるのは思ったよりも早まりそうな気がする。


 それは別に構わない。

 その覚悟でローダンセには行ったのだから。


 その後で、自分の気持ちがはっきりしてしまったのは、かなりの誤算だったけど、それでも良いのだ。


 だけど、アーキスフィーロさまのお気持ちはどうなのだろうか?


 わたしがローダンセに来て、婚約者候補となった後のやらかしは、自分で言うのもなんだけど、かなり酷いものだと思っている。


 とんでもない女と関わったものだと後悔しているのではないだろうか?


 それに、アーキスフィーロさまはまだ、前の婚約者のことを想っている。


 だからこそ、セヴェロさんはあの姿になったわけだし、わたしに向かって「妻として愛することはできない」と言ったのだろう。


 それに、雄也さんも気になることを言っていた。


 この関係が続く限り、アーキスフィーロさまが今以上に嫌な思いをすることになるのなら、わたしはどうするのが正解なのだろうか?


 その答えはまだ出ないままである。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ