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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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必要以上の魔力

 こうなることは必然だった。

 わたしは九十九の忠告を無視してしまったのだから。


 魔法の効果を増幅する効果のある魔石とやらが付いた指輪を付けて、わたしはいつものように「光れ」と口にすると……。


「ひぎょええええっ!?」


 部屋中に弾けるように広がった光線に目を焼かれた気がした。


 同時に、あまりの眩しさに、我ながらどこのホラー映画だと思うような声が出たことも分かる。

 いや、ホラー映画にしては余裕のある叫びだとも思うけど……。


「目が、目があっ!?」


 さらにどこかの大佐のようなことを口にしてしまう。


 いや、光を放ったのは飛行する石ではなく、わたし自身で、そこで誰も滅びの言葉なんて使っていないし、光以外の衝撃などなかった。


 それでも、言いたくなってしまうほどその光は強すぎる明るさを放っていた。


 目を閉じて押さえつけても、緑だか黒だかよく分からない丸い物が、閉ざされた暗い視界の中で、流れるように浮かんだまま消えてくれない。


 いつもなら、心配してくれる九十九は何も言ってくれなかった。


 当然だ。

 わたしは彼の忠告を無視したのだから。


 だけど、勝手ながら思う。

 この状況を予想していたなら、一言、言ってくれと。


「栞ちゃん!?」


 もう一人の護衛、雄也さんの声が聞こえた。


 別室にいたはずの彼がこの場に現れたのは、光じゃなく、唯事(ただごと)とは思えないようなわたしの悲鳴を聞いたからだろう。


 ちょっと申し訳ない。


「何が……、あった?」

「自爆」

「は?」


 雄也さんからの問いかけに対して、弟の九十九は身も蓋もない言葉を返す。

 まさにその通り過ぎて、反論もできない。


 だが、雄也さんからすれば、何のことかが分からないのも当然である。

 だから、九十九はもっと分かりやすい言葉を選んだ。


「栞の魔力が暴発した」

「「暴発!? 」」


 雄也さんとわたしの声が重なる。


 いや、さっきのって、言い換えればそういうことなの?

 だが、魔力の暴走とも違う。


 先ほどの閃光魔法を思わせるような眩しくも激しい光は、わたしの制御から離れていた。


 小さな光球を掌の上で浮かばせようとして、一気にやたらとでかくなってしまったのが、眩しさで眩む前のわたしの視界が捉えた最後の記憶だった。


「魔石による『魔法増幅効果』の影響下にある状態で、『照明魔法』を使ったために、必要以上の魔力が魔法に込められたんだと思う」


 九十九の状況説明で、自分の身に何が起きたのかを理解することができた。

 あの時、魔法増幅効果のある魔石にわたしの魔力が勝手に吸い込まれていったのは分かっていたのだ。


 でも、大した量ではなかったからそこまで気にならなかったのだ。


 今、わたしの体内にある魔力……、体内魔気はかなり減少していることは分かっているけれど、それでもちゃんと身体に流れていることは分かっている。


 その中から、一割にも満たない量が動いたからって慌てることはないだろう。

 魔気の護り乱れ撃ちの方がよっぽどか、魔力を込めるため、魔法力だっていっぱい消費する。


「お前の犯行ではないのだな?」

「犯行って……」


 雄也さんが九十九を詰問している。


 先ほどの状況を「犯行」というのなら、九十九が唆した教唆犯で、わたしは実行犯ということになるだろうか?


 そんな言葉があるかは分からないけれど、殺人教唆って言葉があったはずだからそんな感じの言葉があると思う。


「栞、目に痛みは?」


 雄也さんに疑われたためか、九十九がようやくわたしに声を掛けてくれた。


「目が眩んだだけで、痛くはない」


 先ほどまで視界が変だったけれど、今はそれも消えている。


 なんとなく、目に涙が溜まっているような気はするけど、目にゴミや睫毛が当たった時のような強い痛みはない。


「めまいや頭痛は?」

「ない」


 そんなものがあったら、多分、九十九はもっと慌ててくれたことだろう。

 わたしの体内魔気が落ち着いているから、暫く放置されたのだと思う。


 さらに至近距離でわたしの目を覗き込んでくる黒い瞳。


 これは視診。

 これは視診。

 これは視診。


 だから、その瞳が綺麗だなとか思っても、ニヤけても、目を逸らしてもいけないのだ。

 だけど、これだけは言っておきたい。


「そこまで心配してくれるなら、なんで、あの時、止めてくれなかったの?」


 わたしがそう言うと、九十九が目を丸くした。


 罪悪感がないわけではないようだ。

 まあ、わたしが傷付くことを嫌がる護衛青年が、何も考えていないとは思っていない。


 わたしが傷付くことなく、そして、戒めるためにやったと考えるべきだろう。

 九十九がわざわざ「照明魔法」と指定したのもそういった理由からだと思う。


 だけど、困った。

 九十九が固まってしまった。


 この距離で、あまりじっと見つめられたままなのは困るな~。


 その瞳に戸惑いと、わたしには読めない感情で揺れていることがしっかりと分かってしまうほどの至近距離。


「ところで、九十九」


 そこで、天の声がした。


「なんだ?」


 九十九が金縛りから解放され、雄也さんの方に向き直り、近付いていく。

 引きずられたように見えるけど、気のせいだろう。


 そして、二人で何やら話し始めた。


 さっきのわたしの魔法のことだろう。

 九十九は暴発と言っていたから、そこに至る経緯の説明だと思う。


「今回、栞の魔法の暴発は、明らかに『魔法増幅効果』のあった魔石によるものだ」


 九十九が雄也さんに向かってそう口にした。


 そう言えば発端はその魔石の付いた指輪を……って、その時にわたしは気付いた。


 ぐらぐらと指で揺れている指輪にあった紅い石が消えていたのだ。

 まさか、あのどさくさで、魔石が外れちゃった?!


 わたしは床に視線を向けるが、どこにもそれっぽいのがない。


 転がってしまったらしい。

 探さなきゃ!!


「そもそも、何故、そんな魔石をお前が持っているのだ? 必要なかろう?」


 まあ、九十九はもともと魔力が強いし、魔法も強力なものが使える。

 基本的な風魔法すら、小さなモノから大きなモノまで幅広く出力を調整できるのだ。


「リプテラで目に付いたんだよ。これまで見たこともなかったし、実際、どんな効果かを見たこともなかったからな」


 そう言えば、そんなことを言っていたね。

 リプテラはいろいろなお店があった。


 九十九は割と食材購入のために外出していたから、その時に見つけたのだろう。


「栞。さっき、魔法を使った時の状況を説明できるか?」


 そして、わたしに話題がふられる。

 魔法を使った状況?


「眩しかった」

「それは結果だ。その過程の説明はできるな?」


 今度は問いかけではなかった。


 わたしが状況を覚えていると信じた上で確認される。

 頑張ってそれを口にしよう。


 あの時は……。


「魔法を使う時の体内魔気の流れ、集まり? が、指や手ではなく、その魔石に勢いよく向かって行ったことは理解した」


 いつもはそこまではっきりとした魔力の移動を感じない。


 わたしが頭で思い描き、それを口にすると、目の前に魔力が集まり、ある程度は考えた通りの現象が起こせるようになった。


 それは手から出ている時もあれば、目の前で形作られることもある。


 あれ?

 もしかして、わたしはたまに、目からビームが出ている?


「ほう?」


 雄也さんが興味深そうな声を出す。

 雄也さんはあの魔石を知らないのだろうか?


 しかし、困った。

 現物を見せようにも、わたしは失くしてしまっている。


「でも……、石が……」


 九十九が買った物だというのに。


「魔石が栞の魔力に耐えられなかっただけだ。気にするな」

「でも……」

「無理矢理、()()()()()()()()()()ようなもんだ。勝手にお前の魔力を吸おうとした石の自爆だ。お前は悪くない」


 そこまで聞いて、ようやく理解した。


 この指輪から魔石は外れたのではない。

 消失したのということに。


「魔力……付与なのか……」


 魔力を込めすぎると、魔石に限らず、その器となった物は壊れてしまうことがある。


 適度な器に適度な量を注ぎ込む。

 これがなかなか難しい。


 九十九が選んで渡してくれる練石と呼ばれる魔力が込めやすい石なら、破砕率はかなり減ったのだが、わたしはまだそれを見極められなかった。


 それと似たような現象が起こっていたらしい。


「魔石の効果で、無理矢理引き出された魔法なんて、自分の意思とは関係ねえよ」


 九十九はそんな慰めを言ってくれる。


 確かに、あれは自分の意思とは違った。

 そのことが酷く恐ろしい。


「栞はそれぐらいで揺らがない。特に『照明魔法』に関しては()()()()()()()()()()みたいだからな」


 さらにわたしを信じてくれる護衛。

 九十九はどこまでわたしを理解してくれているのだろうか。


 そのことが嬉しかった。


「イメージ? ああ、あるね」


 九十九が言った「明確なイメージ」。

 それが何であるかを考えるまでもない。


「わたしの照明魔法って、雄也が使った照明魔法の真似なんだよね」


 わたしは、あの日見た雄也さんの照明魔法をお手本にしたのだから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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