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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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衝動的な行動

【あるいは、アーキスフィーロ様との関係を解消するという手もある】


 俺が書いた言葉に……。


『え……?』


 その声から、主人が戸惑ったことはよく分かった。


【栞ちゃんが望むなら、こちらに非がないよう、向こうから言わせることもできるよ】


 向こうから解消の申し出は難しいことではない。

 当主がそう決定してしまえば、貴族の子息でしかないモノは逆らえないのだから。


『それは、平和的な手法でしょうか?』


 そんな質問が瞬時に思い浮かんでしまう辺り、この主人は()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思って嬉しくなってしまう。


【即効性のある手段なら、各部に影響がある方法になるかな。いろいろあるけど、双方にとって穏便に解消することを望むなら、ちょっと時間はもらうけどね?】


 勿論、どの手段を選んでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 主人を()()()()()()()()は、()()()()()()()()()()()()()()()()と思っている。


 それを彼女が望まなくても、俺はそれを許すつもりはなかった。


【栞ちゃんはただ俺に命じれば良い】


 それだけで、俺たち兄弟はすぐに動くだろう。


 尤も、呆れるほど人の好い主人がそんなことをしないだろうが。


『解消は望みませんよ。もともと双方にとって利益があるからこそ結んだ契約ですから』

 

 案の定、彼女は即答した。


 だが、ここからが始まりだ。

 少なくとも、主人の頭には「婚約解消」の()()()()()()()()()()()


 後は、それを少しずつ育て、芽吹かせるだけである。


【その利益なんだけど、それ以上に不利益があることが発覚したんだよね】

『へ?』


 その経緯は癪だが、彼女を説得するにあたって、一番、分かりやすい理由付けとはなる。


【その話については九十九からの報告書を読めるようになってからかな】


 既にまとめられている物を読んだ方が無駄もない。

 後は俺たちが補足するだけである。


『それでも、一度結ばれた契約なので、よっぽどのことがない限り、解消するつもりはありませんよ?』

【だから、向こうから解消したくなるように仕向けるんだよ】


 確かに約束の順守は大事なことだ。


 だが、向こうが始めからまともに()()()()()()()()()()、その解消に動くことは何も問題のあることではない。


 それに、相手方の方から解消させれば、主人の罪悪感もかなり薄れることだろう。


【それも、栞ちゃんが望んだ時の話だ。キミがそれを望まないなら、そんなことはしないと誓おう】


 主人は望まない。


 危ういほど真っすぐな女性だから。

 どんなに信頼している相手から手酷く裏切られても、飲み込んでしまう強さを持っているから。


 それは弟の「発情期」で()()()()()()()()()()()


『わたしは望みません。ですが、アーキスフィーロさまの方が望んだ時は、お願いできますか?』

【分かった】


 とりあえず、言質は貰った。

 後は、あの()()()()()()()()()していくだけだ。


 彼女に惹かれ始めていると知っているからこそ、その育ち始めた想いを()()()()()()()()()()()ことにしよう。


【だけど、この契約を続けた結果、アーキスフィーロ様の方に多大な不利益が生じそうな時はどうする?】


 この点は先に伝えておこう。

 このままでは双方に不利益が生じると分かれば、主人の考えに迷いは生じる。


 意思が強すぎる女性ではあるが、それでも、相手の話を聞かないほど狭量でもない。


 だからこそ生まれる隙。


 一度、懐に入れた人間を見捨てることができない。

 それが、彼女の最大の弱点だ。


 自分の命を天秤に乗せる時には迷わないのに、それが近しい人間の命や矜持、大切な思いとなれば、自分のこと以上に深く強く思考してしまう。


 表情は見えないが、途切れた言葉から大いに迷っている様子が分かる。


『その不利益の種類によります。その辺りについては、九十九からの報告書を読めば分かりますか?』

【うん。分かると思う】


 弟からの報告は彼女を困らせるに十分すぎるものだった。


 同時に、俺たち兄弟が今のままでは駄目だということも含めて、大いに学ばせてもらうものでもあった。


 弟だけでなく、俺もまだまだ甘かったらしい。

 そう考えると笑いしか出なかった。


『今は、話せないのですね?』

【九十九から聞いた方が確実だからね】


 あの愚弟のことだから、自分の私情も多分に含ませながら、それと気付かせないように語ってくれることだろう。


 この手のことは、感情に訴える方が面白い結果になりやすい。


 弟がそれを躊躇するようならば、()()()()

 それだけのことだ。


『さっきの、わたしの言葉に関係はありますか?』

【いや、別の話だよ】


 彼女は別の感情を気にしたらしい。


 大丈夫だ。

 俺は()()()()()()()()()()()()()()()()


 弟やそれ以外の人間の気持ちを利用することはあってもな。


 そんな俺の黒い心に気付かない純粋な主人は……。


『わたしが九十九のことを好きって気持ちは、本人には言わないでくださいね?』


 とても可愛らしいお願いを俺にした。


 その表情が見えなかったことを幸運に思うしかない。

 弟なら、即ノックアウトだっただろう。


【それは分かっているよ。奴には告げない方が良いと思ったから、栞ちゃんは俺に伝えたのだろう?】

 

 告げたところで、弟は彼女に応えることもできない。


 彼女自身は、その理由に気付いているわけではないようだが、それに近い事情を察しているとは思っている。


 だから、俺に伝えたのだろう。

 あの弟の唯一の身内だからな。


『いえ、雄也に伝えたのは、()()()()()()()()ですよ?』


 だが、主人は意外にもそんなことを言った。


『他の誰でもなく、雄也には知っていて欲しかったのです。雄也には嘘を吐きたくないから』


 さらにそんな嬉しいことを口にしてくれる。

 これは弟に対するものとは、()()()()()なのだろう。


『それに、雄也なら理解してくれるでしょう?』


 そう言った彼女の声はかなりスッキリしたものだった。


【栞ちゃんの大事な秘密を共有させてくれるのは光栄なことだね】


 だから、俺はそう書いた。

 それは本心からの言葉でもある。


 それを見た主人は暫く黙っていたが……。


『雄也、()()()()()()()()!!』


 何故か、いきなりそんなことを言った。


 泳ぐ?

 何故!?


 主人が衝動的に何かすることは珍しくないが、「泳ぐ」と言われたのは、初めてのことで、少しだけ混乱した。


 目の前には湖。

 そして、その周囲には光を放つ霊草が咲き乱れている。


 水面に波紋もなかったから、彼女が本当に泳いでいるか分からない。

 だが、その気配は確かに湖の方へと移動している気がする。


 泳いでいたとしても、それを止める術も持たない。

 俺には彼女の姿が視えず、さらには声も届かないのだから、止めようがなかった。


 気配は掴んでいるのだから、そこまで気にすることもないはずなのだが、どうも落ち着かない。

 溺れることはないと思うのだが、主人の状態が分からなかった。


 そのまま、湖面をぼんやりと眺めていたのだが……。


「ん……?」


 不意に、()()()()()()()、波紋が広がった。

 水面には小さな円がいくつも現れ、それらが少しずつ広がり……。


「ぷはぁっ!!」


 そんな声と共に、黒い髪、白い肌の女性がその姿を現す。


 彼女によって、跳ね上げられた水の球体は周囲からの光を受けてそのきらめきを増したが、それ以上に、幻想的でしなやかなその体躯に目を奪われてしまった。


「ふえ……?」


 その声と、俺を不思議そうに見つめる黒い目で我に返り、慌てて、()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()、タオル地製の大きな布を投げ付けるように被せた。


 ―――― 不覚!!


 自慢ではないが、女性の裸体を見る機会は少なからずある。

 なんなら、弟に指摘された通り、ごく最近も見たばかりだった。


 だが、これまで見てきたモノは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ―――― 聖なる女性


 そんな使い古された表現が、こんなにも似合う女性は彼女ぐらいだろう。


「すまない。反応が遅れた」


 主人を包みながら、なんとかそんな言葉を絞り出す。


 ―――― なんて無様だ


 どこかの半童貞でもあるまいし。


 だが、先ほどの姿はあまりにも、現実味がなかった。

 目の前の光景が信じられなかった。


 まるで絵画のような……、いや、そんな言葉では足りないぐらいの姿。

 神官たちが神を讃えるために言葉を尽くす理由の一端を思い知った気がした。


 筆舌に尽くし難いとは、まさにこのことだろう。


「えっと……?」

 

 明らかに戸惑う主人の声。

 それが、先ほどよりも小さく思えるのは気のせいだろう。


 よりにもよって、なんてタイミングで()()()()()のか?!


「あ、あの、まさか、雄也は今、わたしの姿が見えていたり、しますか?」


 彼女もそれに気付いてしまったらしい。


 そのか細く震える声に対して……。


「すまない」


 そんな言葉しか返せない自分の身が情けない。


「えっと、もしかしなくても、()()()()()()

「すまない」


 見ようと思っていたわけではない。

 だが、目を奪われてしまった事実と、目に焼き付いた姿は消えることはない。


 だから、俺にはそんなありふれた謝罪(言葉)を繰り返すことしかできなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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