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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 大樹国家ジギタリス編 ~

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足が止まる

「で、話を戻すが……」

「「「は? 」」」


 雄也先輩の言葉に3人とも同じように目が点になっていたと思う。


「キミたちは……、いったい何の話をしているところだったのかな?」


 彼にしては珍しいほど分かりやすい感情を見せる。


 即ち……「呆れた」顔である。


 えっと……?


「確か定期船が出てないとかいう話だったんじゃないか?」


 水尾先輩が言う。


 ああ、確かそんな話をしていた気が……。


「そう。それでどうするかとそれぞれに意見を求めていたはずだが……」


 雄也先輩は溜息を吐いた。


「やっぱり定期船が出てない以上、このまま港町に行っても意味がねえよな~」

「だけど、いつ出るか分からない船をいつまでも待ち続けるってわけにも行かないでしょうね」

「困ったな」


 ようやく、3人とも本題を思い出し、考え込む。


「そこで、選択肢が発生することになる」

「行くか、戻るかってことか?」


 九十九が尋ねる。


「いや、元より我らに戻るという選択肢はない。この大陸で今からジギタリス以外の他国……。農業国家ユーチャリスへ行くためには、またセントポーリア国内を横断するしかないのだからな」

「あ~、そうなるか」


 九十九が手を顔に当てる。


「でも、進むことも出来ない状態なのでしょう?」

「進む以外の道はないってことだろ? だから、定期船が動くのをどこで待つかってことじゃねえの?」


 なるほど……、そうなってしまうのか。


「いや、進むことができるのは定期船だけじゃない」


 雄也先輩がそう言った。


「転移魔法か? 私でも大陸間転移は奇跡としか言いようがなかったんだが……」

「魔法による大陸間移動は、転移系、飛行系ともに成功率に難がある。下手すると海に落ちてしまうことだろう」


 それは……イヤだな。

 わたし、あんまり泳ぎに自信がないし……。


 カナヅチとは違う。

 決して、泳げないわけではない。


 でも、速度が出ないのだ。


「転移も駄目なら他に移動手段があるのか?」


 水尾先輩は眉を顰めながら雄也先輩に確認する。


 わたしの頭にふと「転移門(ゲート)」という単語が思い浮かんだ。

 大陸間移動ではなく異星間移動というとんでもないことをできる奇跡が。


 あれなら、楽に移動できるんじゃないだろうか?


 でも、それは特別な許可がないと使用できないって聞いているし、移動先は他国の城内になってしまう可能性は高い。


 それはいくらなんでも問題だろう。

 そこに気付き、素直に黙ることにした。


 できないことを言っても仕方ないよね。


「個人船だ。一般の人が趣味で持っているか、漁師のもの。それを借りることができたら、移動はできるだろう」

「そりゃ、無理だ。個人船はもともと大陸の渡し船として使うモンじゃない。それなりの大きさがあるヤツじゃないと長距離には向かないのは先輩だって知ってるだろ?」

 雄也先輩の言葉に対して、水尾先輩が即座に否定する。


 でも、それって……。

「大きければ、行けるって事ですか?」

「そういうことだね」

「じゃあ、大きいヤツを借りられればおっけ~ってことでは?」


 そ~ゆ~ことになるだろう。


「おいおい、高田。簡単に言うなよ。遠洋漁業するヤツだって、簡単には他人に貸さないだろう。自分たちの商売道具なんだからな。そして、そんな大きな船を持っているような道楽趣味のヤツは、金持ちぐらいしかねえ」


 確かに大きな船を個人所有って難しそうだ。


「だから、難しい選択しかなくなるんだ。いつ出るか分からない定期船か、誰かから借りるかの二択となる。進むしか選択できない以上、それは仕方がないかな。ああ、遠泳という手もないわけじゃないけどね」


 水尾先輩と雄也先輩が揃って難しいと言う。


 そして、遠泳となれば普通に泳ぐ以上にわたしには無理だろう。

 歩くだけでもやっとの人間が、魔界人たちの体力についていける気はしなかった。


「頼みのレンタルも今は小型船しかないみたいだ。やはり中心国の異常事態の影響は大きいようだな」


 この国について僅かな時間に、もうそんなことまで調べている。

 やはりこの人の情報収集力は侮れない。


 水尾先輩が、雄也先輩は実は、情報国家って国の人間じゃないかと疑いたくなる気も分かるよね。


「小型船では無理なんですか?」

「阿呆か、お前は。極端な話、ヨットや手漕ぎボートで太平洋横断しろと言ってるようなモンだ。それは少し無謀だろ?」


 ああ、なるほど……。

 魔界人でも冒険家の世界になってしまうわけだね。


「あ、でもクルーザーなら……?」


 小型でも外洋渡航が可能だって聞いたことがある。


「外洋ができそうなものは全部駄目みたいだね。それにクルーザーはお金、時間、体力、精神力、運も必要かな。種類によっては燃料も必要になるし」

「人間界と違って免許が要らないのが救いだったんだがな~」

「モーターボートみたいなのも燃料の問題が発生するわけだから、難しいかもな」


 雄也先輩、水尾先輩、九十九は三人三様の意見を述べて肩を落とす。


 彼らは、わたしより明確に状況を把握している分だけ、絶望感は大きいだろう。


「……定期船はどのくらいで出航するんでしょうね?」

「まあ、少なくても二、三ヶ月くらいだと思うよ。その間にもどの国でも何も起きなかった場合、の話だけどね。交易のことを考えると、あまり長く止めると各国の物流が途絶えてしまう可能性もあるわけだし」

「……何も起きなかった場合?」


 なんだろう?

 その不穏な響きがする言葉は。


「アリッサムの再現ってことだろうよ。他の国でも起きない可能性がないわけじゃないんだから、どこもそれを警戒してるってこった」


 水尾先輩は当事者なのに、どこか、他人事のように言った。


「あ……」


 そうか。

 今、こうしている時でも、知らないどこかの国が襲われている可能性もあるわけだ。


「それで……、警備が多いってことか? さっきからスクーターが妙にチョロチョロしてるんだが……」


 九十九がそう言いながらも、先程から通り過ぎていくスクーターに何度も反応している。


 本当にかなり好きらしい。


 わたしも何度か見ているうちに、スティックボードの下の方が細長いボードではなく、半球みたいになっているものが宙に浮いて動いているというのは分かった。


 そんな形の上、あの速さって辺りがまるで、近未来の乗り物って感じがする。


 でも、停めた時ってどうなるのだろう?

 あの形では倒れてしまうと思うのだけど……。


「いや……、それもあるだろうが……。聞いた話だと、城樹にいるべき第二王子殿下がここ数日姿を見せないらしい」

「は? またかよ」


 水尾先輩が口にお菓子を頬張りながら言う。


 王女さま、お行儀が悪いですよ?


「オーバ村でもジギタリス兵が多かっただろう。聞いたところによると、クレスノダール王子殿下はあの村が好きらしくたまに出入りしているようだ。『城嫌い』という噂も聞くぐらいだからな」

「城嫌いって……王子殿下が?」


 その部分については九十九も初耳だったらしい。


「そう。本来王族という者は、城にいることがどの国でも暗黙の了解となっているのだが、この国の第二王子殿下はどうもその堅苦しさが苦手らしい。城下どころか近隣の村にまでお忍びをすると聞いた」

「私も、内緒で城を何度か出たが、精々城下までだったな~。日帰りできるし」

「王族って……脱走が好きなのか?」


 九十九が呆れた顔をしながら言った。


「堅苦しくて、刺激がないからだろう。セントポーリアの王子殿下も、散歩程度に城下を歩かれることもあった」


 そこでわたしと出会ってしまったわけですが……。


「そうそう。王族ってイヤなんだよ。肩書きと責任ばっか重くって、その反面、個の扱いが軽い。国が大事にしているのは『一人の人間』としての私ではなく、『国の第三王女』という飾り。ただそれだけ。自分が認められねえんだ」


 次々と言葉が並ぶ辺り、普段から不満は溜まっていたのだろう。

 そう考えると、やはり、水尾先輩はグロッティ村に残らなくて正解だったのかもしれない。


「王族の悲劇だな」

「それでも満足できるヤツは良いんだよ。城に置物のようにちょこんとしていれば周りも安心や納得をする。だけど、私やマオは別の世界を知ってしまったから……」


 水尾先輩がわたしを見ながらそう言った。


「別の世界……、人間界ですか?」

「そう。あそこは自分の好きなことを思いっきり出来る。勉強や運動も。魔法だってまったく使わなくても誰も文句は言わない。だから、私だって何度も逃げ出したかったよ」


 水尾先輩が眉を下げながら笑った。


「王族って……、身分が高くて威張り散らしているだけかと思ったが……、それなりにいろいろあるんだな」

「お前は正面からしか物事を捉えていないということだ。どの国、身分に関係なく人は様々な悩みを抱えている」


 そう言えば……、セントポーリアのダルエスラーム王子も、いろいろとあるみたいだった。

 ぼんやりとあの時の王子さまや雄也先輩との会話を思い出す。


 もし、次に会うことになったら、もう少しちゃんと話ができれば良いのに……。


 まだ何も知らなかったわたしは、この時、本気でそう思っていたのだ。


 でも……、そんなわたしの小さな願いは叶わないのだけど。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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