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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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一方通行な会話

 わたしの全裸姿(上半身のみ)を見て、真面目でお年頃の青少年である護衛青年は、男性特有の生理現象を引き起こしてしまったらしい。


 つまり、「発情期」に関係なく、彼は、わたしの身体でも反応するってことになる。

 まあ、これまでもそれとなく、そんなことを言われていた覚えは確かにあった。


 でも、いざ、実際にそんな状態になってしまったと聞かされると、変に性的なものを意識してしまう。


 そして、同時に彼もちゃんと男性だったんだなと妙な安心感もあるから不思議だ。


 日頃はわたしのことを全然、女性扱いしてくれないから、余計にそんな複雑な気分になるのだろう。


 ああ、でも、普段はそこまで考えていなくても、身体を見た時に、異性であることを意識するというのは分からなくもない。


 わたしも九十九の上半身を見た時は、綺麗だと思うし、自分とは全く違う生き物だって意識するから。

 わたしがどんなに頑張っても鍛えても、彼のような身体になることは無理だろう。


 そう言えば、下半身の方はそう意識して見たことはないな。


 何度か膝枕をされているため、あの足が、かなり、がっしりみっしりと肉が詰まっていて逞しいことは知っている。


 中学時代、陸上部だったためなのか、無駄な肉がなくて羨ましいと思う。

 わたしは太ももが太いから。


『雄也さんが言ったとおりだったとして、九十九はどのぐらいの時間で戻りますか?』


 もしかしたら、本当の逃走理由は違ったかもしれない。


 でも、雄也さんの推測だから、そこまで大きく外れてもいないのだろう。

 だけど、わたしにはそういった経験がないものだから、さっぱり分からなくてそう尋ねた。


 数分ぐらいっていうからもうそろそろかな?


 だが、この質問はあまり良くなかったらしい。

 雄也さんが考え込んでしまったから。


 分からないことを知りたいだけなのだけど、男女の違いを知ろうとすると、どうしても相手が答えにくい話になってしまうことは多々ある。


【もう少しかかると思うけど、その話題は、できれば九十九の前でしないでくれるかな?】


 少し考えて、雄也さんは笑いを堪えるような顔をしながらそう書いた。


『らじゃです!!』


 流石にわたしも、怒られることは分かっている。

 この話題が男性にとって、とても恥ずかしい話題であることも。


 わたしがうっかり失言しないように気を遣ってくれたらしい。


 さて、その九十九が戻る前に、この不便な状態をなんとかしてもらおうと思った。

 具体的には、この布団を退()かして、もう少し座れる状態にしてもらいたかったのだ。


 布団だと寝そべった状態が一番、この姿が隠れるのだけど、そんな状態で会話はしたくない。


 身体を起こそうにも、雄也さんにはわたしの姿が視えないけれど、九十九には視えてしまう。

 布団をさらに山積みにすることも考えたけど、布団は積み重ねたら崩れてしまう可能性もある。


 わたしの姿が視えていない雄也さんの前ならともかく、丸見えな九十九の前で雪崩が起きたら、双方にとって悲劇となるかもしれない。


 そんなわけで、雄也さんにそれを伝えて見ると、わたしの周囲を、木製でできた鳥籠のような骨組みの籠のような物を準備してくれたのだ。


 さらに、それをぐるりと布で囲んで、ひょっこりと顔だけ出しているのは分かった。

 (はた)から見ると、スカートから直接、顔が出ているような、かなり奇妙な姿だろう。


 だが、贅沢は敵だ。

 こんな面白可笑しい恰好などしたくないなど、そんなことは言ってられない。


 なんでこんな物を雄也さんが持っているかと思えば、本来はドレスの大きな膨らみを作るための鳥かごのようなクリノリン? という名前のアンダースカートらしい。


 骨組みにしか見えないソレは意外と軽い素材らしく、ペチコートを何枚も重ねるよりは楽だと説明をされた。


 ペチコートは身に付けたことがあるけれど、これはなかった。

 そして、そんな説明をされると自分がドレスの一部になった気がする。


 しかし、女性のドレスの下に穿くアンダースカートってことは、一応、女性の下着ってことになるのだけど、何故、そんな物を雄也さんが持っているのかは愚問だろう。


 ローダンセに行った時に知ったけれど、九十九(ヴァルナさん)よりも雄也(ルーフィス)さんの方が、わたしのドレスを持っているのだ。


 普段着は圧倒的に九十九の方が多いのだけど。


 使ったこともないアンダースカートがこんな形で利用されるなんて、雄也さんすら思っていなかっただろう。


 しかも、高さ調整までできたので、座った状態でも顔が出せるのである。


 決して、わたしの下半身の長さより、座った状態で肩までの高さと同じというわけではない。念のため。


 そうこうしているうちに、九十九が戻ってきた。

 それも、意気消沈しているような顔で。


 雄也さんと何やら話しているようだけど、わたしには二人の会話が聞こえない。


 ただ、九十九が妙に感情的になっていることは分かった。

 それを雄也さんが涼しい顔で聞き流しているような気がする。


 それが、少し前ではよく見た光景だったのに、ローダンセに行ってからは、全く見ることがなくなってしまった。


 わたしの近くにいるのは護衛兄弟ではなく、侍女姉妹になったから。


 雄也(ルーフィス)さんはそこまで変わっていないけれど、九十九(ヴァルナさん)はかなり違うのだ。


 でも、口数が少ない九十九も、やっぱり九十九だとも思えるから不思議だよね。


 それにあまり、話さないから、口を開いた時の威力が凄くなるとは思っている。

 一撃の破壊力が上がる感じ?


 わたし相手にそれが発揮されることはないけれど、セヴェロさんとか、第二王子殿下に対する言葉には分かりやすく棘とか毒が含まれているのだ。


 そして、いつもは分かりやすいその表情に、ほとんど変化が表れなくなる。

 まるで、大神官モードの恭哉兄ちゃんのように。


 まあ、普段、表情が変わらない専属侍女が、ふとした時に、緩める表情とかはかなり良いとも思ってしまうのだけど。


 そんなアホなことを考えている間に、九十九がこちらに来た。


 妙に緊張してしまうのは何故だろう?

 そして、雄也さんがしたようにわたしに向かって跪いた上で、何かを言った。


 そう、何かだ。

 悲痛な顔をして告げられたその言葉は、わたしの耳に届かない。


『ごめん。わたしにはあなたの声が聞こえないや』


 クリノリンから顔を出しただけの状態でそう答えると、九十九は眉間にしわを寄せる。


 九十九にはわたしの声は届いているのだろうか?

 雄也さんにも始め、届かなかった。


『九十九には、わたしの声は聞こえる?』


 わたしがそう尋ねると、九十九は首を横に振った。


 あれ?

 でも、その反応は、伝わっているよね?


 わたしが首を捻っていると……。


【唇の動きを読んだ】


 そう九十九も雄也さんのように文字で伝えてくれた。


 そうか。

 九十九は読唇術が使える人だった。


 だけど、唇って……。

 思わず自分の口を隠したくなる。


 いや、大事なんだよ?

 でも、唇をじっと見つめられるって妙に恥ずかしくない?


 だけど、九十九はわたしの姿が視えても、声は聞こえないらしい。

 名前はさっき呼んだから、雄也さんとは違うってことだろうか?


 ……あれ?


 もしかして、「雄也」さんと同じように「九十九」じゃ駄目ってこと?

 でも、難しいんだよね。


『ツクモ』


 ちょっと固めの発音に切り替えると、九十九の黒い瞳が揺れた。

 もしかして、声が届いたのだろうか?


【聞こえた。でも、声がすっげ~小せえ】


 ……小さい?

 なんとなく、雄也さんを見ると、首を振られた。


 あれ?

 もしかしなくても、雄也さんと九十九では聞こえ方が違う?


 考えてみれば、九十九はわたしの姿も視えているらしいから、兄弟でも違ってもおかしくはない。


 あるいは、九十九がわたしの乳兄妹って部分が何か関係しているのかな?


【そんなことより、悪かった】

『ほ?』


 九十九の書いた文字を読んで、わたしは首を捻った。


【いきなり逃げ出して】

『雄也さんから理由は聞いたから、気にしていないよ』

【兄貴から?】


 そう書いた後、九十九は勢いよく雄也さんの方を見る。


 あれ?

 さっきのは、雄也さんからその説明を受けたってわけじゃなかったの?


 わたしの目の前で九十九が雄也さんに詰め寄って、雄也さんは笑顔で弟からの追求を躱しているように見えたけど……、あ、九十九が魔法を使い出した。


 いや、その距離でそんな魔法は大丈夫なの?

 大丈夫なのか。


 流石は雄也さん、見事に受け流している。


 そして、このクリノリン……()に、張り付けられている周囲の布には結界のような何かが施されているのだろう。


 軽い素材の上、布を被せているのだから、風で吹っ飛びそうなのに、九十九の暴風のような魔法でも動く様子がない。


 そこは助かった。


 九十九の魔法でこれがふっ飛ばされてしまえば、わたしにとっては悲劇であり、周囲から見れば喜劇ともなってしまうだろう。


 でも、それって、雄也さんは九十九を怒らせる予定があったってことかな?


 まあ、どちらでも良いか。

 二人が元気そうだし、何より、楽しそうだから。


 ローダンセにいる時とは全く違う、いつもの兄弟。


 考えなければいけないことはいろいろあるのだろうけど、今は、この二人を見ているだけで良いかとわたしは思うのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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