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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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呼びかけ

久しぶりに(?)主人公が酷いです。

 わたしは、一縷の望みを持って、その名前を呼んだ。


『雄也さん』


 だけど、残念ながら()()()()()()()()()


 雄也さんは、九十九の逃げた方に目を向けた後、ずっと、座り込んで何やら考え込んでいる。


『まあ、そんなにうまい話はないか』


 仕方ないので、わたしもそのままお布団の中で膝を抱え込む。


 恭哉兄ちゃんが言った通り、雄也さんの名前を呼んでみたけど、やっぱり何も変わらなかった。

 今が危機的状況じゃないからだろうか?


 ピンチの時に魔名を、ファーストネームでも、セカンドネームでも呼べば良いって話だったね。


 そこまで考えて……。


 ……あれ?


 あることに気付いた。


 ()()!!

 わたしが今、雄也さんに向かって口にした言葉は、()()()()()()()()()()


 それならば……。


『ユーヤ!!』


 彼の魔名(ファーストネーム)を、先ほどよりも力強く呼んだ。

 

 すると、雄也さんは顔を上げてこちらを見る。


 え?

 まさか、届いた?


 今のわたしはちょっと人前に出られる恰好ではないから、こちらを真っすぐ見られると困る。


 どこかで、わたしは恭哉兄ちゃんの言葉を信じきっていなかったのだろう。

 反応した後のことを考えていなかったのは、そういうことだ。


 膝を抱えたまま、ちょこっとだけ前傾姿勢になる。

 雄也さんは立ち上がり、まっすぐこちらに来た。


 そして、布団の前で片膝を立てると……。


「――――」


 何か言ったが、わたしの耳には届かなかった。

 おおう、そっちは考えていなかったよ。


 でも、多分、「呼んだかい? 」だと思う。

 なんとなく。


 正座の体勢から前のめりになっているような奇妙な姿勢から、顔だけ出す。


 多分、向こうから姿は視えていないだろう。

 雄也さんは微笑んでいたから。


『届き、ましたか?』


 魔名しか届かない可能性もある。


 この世界では魔名は特別なものだから。


 でも、雄也さんは頷いてくれた。

 そして、口を動かす。


 ―――― 届いたよ


 そう言ってくれた気がした。


 それだけで嬉しくなる。

 今は、届かないと思っていたわたしの声が、雄也さんに届いたのだ。


 だけど、雄也さんの声はわたしに届かない。

 それがちょっと淋しかった。


『ごめんなさい、雄也からの声は聞こえないのです』


 わたしがそう言うと、雄也さんは動きを止めて、少し考え込んだ後……。


【これならどう?】


 そう言って、紙に文字を書いてくれた。

 しかも、この世界の言葉ではなく、日本語で。


『読めます! 分かります!!』


 思わず、そう叫んでいた。


【それなら、良かった】


 そう書いた後、雄也さんが微笑んでくれる。


 ああ、なんか、久しぶりだ。

 雄也さんが笑ってくれるのは。


 専属侍女(ルーフィス)さんの笑みは何か違うのだ。

 化粧のせいかもしれないけど。


【愚弟は後、()()()()()()()と思うよ】


 わざわざ「愚弟」なんて、画数の多い文字を使わなくても「九十九」の方が楽だと思うけれど、ソレを使いたかったんだろうね。


『そんなに、わたしに会いたくないのでしょうか?』


 でも、迎えに来てくれたんだよね?


 わたしがそう言うと、雄也さんはちょっと困った顔をして……。


【そんなことはないよ。奴はちょっと収まりがつかないだけだから】


 収まり?

 何の話?


 迎えに来たら、こんな姿だったから怒っているとか?


 ああ、それはある気がする。

 九十九は真面目だからね。


『わたしがこんな姿だから、怒っているということでしょうか?』

【残念ながら、俺には栞ちゃんの姿が視えないから、今、どんな格好をしているかも分からないんだよ】


 やっぱり、姿は視えないのか。

 そして、表記は「視えない」なのか。


『素っ裸です』


 わたしが何も考えずにそう口にすると、これまでわたしの言葉に即答してくれていた雄也さんの動きが止まった。


 あれ?

 わたし、何か、変なことを言った……? 言ったね。


 雄也さんと会話ができるようになったことが嬉しくて、つい、遠慮なく、恥ずかし気もなく、恥ずかしいことを口にしてしまった。


『失礼しました』


 わたしは頭を下げる。

 それも視えていないのだろうけど、なんとなく、下げてしまう。


『雄也にこの姿が視えなくて良かったです』

【九十九には視えていたみたいだよ】

『そうでしょうね』


 あの反応からもそれはよく分かる。


 そして、この羽毛布団。

 目に見えているだけでも、5枚は掛かっているだろう。


 それは、ここで寝ていたわたしを隠すためだということは分かる。


 つまり、よく考えなくても、彼らがここに来た時点で、わたしは九十九に全部見られていたってことになるのではないでしょうか?


 そして、寝ていたわたしを覆い隠すように布団を掛けたってことだろう。


 どれぐらいしっかり見られただろうか?

 いや、九十九のことだから、あまり見ていないかもしれない。


 九十九がもっと下心満載の殿方だったら、わたしが寝ていて、雄也さんには視えないのを良いことにもっとじっくり観察されていてもおかしくはなかったのだ。


 だけど、彼はわたしを隠すことを選んだ。

 自分しか視えないのに。


 まあ、あまり視たくなかったのかもしれないのだけど。


【主人を置いて逃走するのは護衛としては失格だけど、いきなり魅力的な女性の姿を見てもその場で冷静でいられるほどの経験はまだないんだよ。まあ、数分で戻ってくるだろうから、暫くは、俺だけで許してくれるかい?】


 雄也さんは優しいなあ……。


『許すも何も、九十九は別に悪いことをしたわけじゃないです』


 これが、わたしに危険が迫っているような状況だったら、九十九は絶対に逃げ出さない。


 雄也さんがいたこともあるだろうし、この森に対して、絶対的な信頼もしているのだと思う。

 最低限の安全確保はしてくれていることも分かっている。


『それでも、逃げられたのは、ちょっとショック……、なのでしょうね』


 せめて、何か言って欲しかったと思うのは我が儘だろうか?

 言い訳でも、弁明でも、弁解でも、何でも良かったのだ。


 言葉を交わせずに逃げられるよりもそちらの方がもっとずっとスッキリしただろう。


『せめて、九十九から何か言って欲しかったと思ってしまうのです』


 それなら、九十九がなんで、逃げ出したのかも分からないまま、モヤモヤを抱えなくて済んだのに。

 だけど、雄也さんは困った顔をして笑う。


【栞ちゃんは酷なことを言うね】

『え?』


 酷なこと?


【俺が九十九の立場なら、やはり、逃げる】


 そこまで雄也さんは書いて……。


【一刻も早く、栞ちゃんの前から離れたくなると思うよ】


 「逃げる」の文字を二重線で消して、そう書き直した。


『ええっ!?』


 雄也さんが!?

 九十九以上にそんな姿を想像できない。


 でも、わたし、そんな酷いことを言っているの?

 どの辺が?


【何の心構えもなく、魅力的な女性の生まれたままの姿を見て、落ち着いていられる男なんて、そう多くはないってことだよ】


 生まれたままの姿って、濁されているけど、全裸のことだよね?


『雄也さんは平気そうですけど?』

【俺も心構えがなければ無理かな】


 雄也さんは苦笑する。


 そうなのか。

 雄也さんでも、いきなり、全裸の異性が現れると驚くのか。


 ……想像できない。

 特に、今、まさにそんな姿のわたしと普通に会話しているから余計に。


 いや、雄也さんの方からは視えていないからって分かっているのだけど、わたしは自分の姿も見えるのだ。


 一応、布団に隠れてはいるけど。


『そうなると、九十九は居た堪れなくなったってことでしょうか?』


 確かにその顔は真っ赤だった。


【そうだね。男性特有の生理現象が働いていたみたいだから、この場にはいられなかっただろうね】

『男性特有の……?』


 そこで気付く。

 わたしの数少ないそういった知識の中に、該当するものがあった。


『……え゛……っ?!』


 魅力的かどうかは置いておいて、女性の裸体を見た男性は、身体が変化することを少年漫画でも知っているし、保健体育の授業でもさらりと習ったし、九十九の「発情期」の時も、見てはいないけれど……、その、服の上から足に当たっていたので、経験としても知っている。


『そ、それは、男性の身体の一部が硬くなる生理現象のことでしょうか?』


 わたしが思わず、そう尋ねると、雄也さんは目を丸くした後、その目を覆って天を仰いだ。


 あれ?

 一応、言葉を選んだつもりだったけど、これもアウトだった?


 でも、「ぼ」で始まって「き」で終わる男性の生理現象って、口にしなかっただけマシだと思うのですよ?


 九十九だったら「お前はオレの性別を考えろ」と叫ぶ場面ではあったのだろうけど、雄也さんは……。


【正解】


 その二文字だけを苦笑しながらも、書いて見せてくれたのだった。

主人公が最後に思ったことは、実際、言わせるつもりでしたが、流石に幼さの残る若い女性としていかがなものかと思って自重させました。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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