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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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足りないものが多すぎる

 今晩は報告を兼ねて城下の宿に泊まることになった。


 男二人で一室を取るオレたちを、宿の主人が変な目で見ていた気がするが、気のせいと言うことにしておこう。


 行商人の兄弟姉妹などの家族や商人の団体が、宿代を少しでも浮かせるために、集団で一室取ること自体は珍しくもない話である。


 オレたちの場合は、報告会を兼ねているために一室にしただけだ。

 節約のためじゃない。


 尤も、オレたちは商人に見えないことも分かっている。


 だが、兄貴はこの城下では黒髪、黒い瞳で行動している人間だし、オレも少し前まで銀髪碧眼姿で、この城下をうろうろしていた。


 まあ、オレの場合は、濃藍髪、翠の瞳の栞も一緒にいたが。


 そのために、見慣れない恰好に扮して目立たない方が良いだろうということで、今は兄貴は金髪で紅い瞳、オレは茶髪で緑の瞳になっている。


「いや、一室にしてくれと言ったが、なんで、()()()()()()()()()んだよ!?」

()()()()()()のだろう。大きさはダブルベッドだ」

「どんな気の使い方だ!?」


 そんなのは頼んでねえ!!

 いや、確かにこちらも寝台の種類を指定していなかったけれど!!


「寝るために取った宿ではないのだから、問題はない」


 兄貴は顔色も変えずにそう言い放った。


「俺としては、お前の気配で別の気配が上書き出来たら好都合だ」

「いや、オレと兄貴の気配が互いに混ざり合っていたら、逆になんて説明すれば良いんだよ?」

「他人ならともかく、兄弟での共寝なら、あの主人は全く気にしないだろう」


 確かに「仲良し兄弟だね~」で済ませてしまう気がした。

 いや、オレにとってはその方が良いが。


「兄貴は良いのか?」

「良くはないが、背に腹は代えられない」


 まあ、例の気配を消したいわけだからな。


 そう考えると、わざとこの部屋にしてもらったんじゃないかと言う邪推も働いてしまう。

 オレたちは兄弟だから、感応症は働きやすいし、他人の気配よりもずっと馴染むだろう。


「それに実際、共寝をする必要もあるまい。お前が床で俺が寝台を使えば何も問題はない」

「いや、そこは弟に寝台を譲るところではありませんか? お兄様?」

「俺は寝不足なんだ」

「兄貴のソレは自業自得だし、オレも寝不足なんだよ!!」


 なにせ、昨日は大神官と話したばかりか、あの情報国家の国王陛下とも対話しているために精神的な疲労はいつも以上だ。


 普段なら一徹ぐらい問題はないのだが、床か寝台かの二択なら、誰だって寝台を望むだろう。


「俺はセントポーリア国王陛下とチトセ様の仲睦まじい姿を見ながら、大量の事務仕事をしていたわけだが……」


 うわあ、それはそれで疲れそうな気はした。

 特に兄貴は複雑だろう。


「弟は床で寝ます」

「阿呆。疲労を残して主人に会う気か?」

「いや、どっちなんだよ!?」

()()()()()()()()()()()()だろう? 阿呆か、お前は」


 確かにオレたちは寝台どころか、コンテナハウスすら持ち歩いている。


 この部屋はそこそこ広さがあるから、もう一つ寝台を追加することぐらいは問題ないだろう。


 誰かが覗くわけでもないしな。

 宿から出る時に、片付ければ良いだけだ。


 つまり、オレは兄貴から揶揄われたことはよく分かる。


「呆けてないで、とっとと報告書を寄越せ」

「兄貴の分もくれ」


 お互いに手を出し合う。

 オレと違って、兄貴は報告することが少ないかと思ったが、何故か、束で渡された。


「これは……?」

「セントポーリアに上がってきた他国の状況だ」

「あ?」

「国王陛下から許可は下りている。お前も確認しておけ」


 他国の状況?

 どういうことだ?


 だが、読み進めていくうちに、理解した。

 どの国……、いや、大陸も大気魔気が乱れている。


 中でも最も激しいのが、フレイミアム大陸だ。

 魔獣たちの大量発生、のち、暴走も増えたらしい。


 そして、ウォルダンテ大陸も酷い。


 シルヴァーレン大陸はそうでもないが、ユーチャリスの端は、やはりそこそこ乱れているようで、生態系が狂い始めているという報告が見受けられた。


 反対に、ライファス大陸、グランフィルト大陸、スカルウォーク大陸はまだ落ち着いているようだ。


「だが、何故、他国の報告がセントポーリアに上がっているんだ?」


 ユーチャリスやジギタリスは隣国だから分かる。

 だが、それ以外の国々の話は何故、他大陸のセントポーリアに来ているのだ?


「それらの資料はチトセ様がまとめられている。あの方宛に、他国の文官から直接、嘆願書が届くようになったそうだ」

「なるほど」


 セントポーリアの大気魔気がここのところ安定し始めたらしい。


 いくら、魔力が強くとも、セントポーリア国王陛下の力だけではないだろうから、同時期に現れた千歳さんの手柄だと思われたという話は、以前、来た時にオレも聞いた。


 実際は千歳さんではなく、その娘が時々、城に来るようになったためだけどな。

 そんなことは、情報国家を除いて知ることはない。


 だが、とうとう、直接、千歳さんに嘆願するようになったってことか。


「国王陛下に手紙は出せなくても、庶民の女性なら問題ないと判断したのだろう」

「あ~」


 国として他国に弱みは見せられないけれど、庶民相手なら多少恫喝することも可能ってか。

 兄貴もセントポーリア国王陛下も怒り狂いそうな話だ。


「チトセ様は自分の一存では決められないから、セントポーリア国王陛下にご相談してくださいと断っていたようだがな」

「まあ、普通はそうだよな」


 だが、それが叶わないから、千歳さんに直接、嘆願するようになったのだと思う。


 実際、オレたちが城に来た時にも他国からの使者がセントポーリア国王陛下を尋ねてきていたのだ。

 そして、セントポーリア国王陛下は千歳さんに会わせなかったという。


 当然だな。

 千歳さんは古代魔法を使うが、魔力が強いわけではないのだ。


 尤も、その加護はこの世界で最強である。

 大陸神の加護よりももっと強力な創造神の加護だ。


 それを知れば、ほとんどの王族、神官は()()()()()()()()


 大神官の話では、()()()()()()()()()()()()()()()()()とんでもない加護らしいからな。


 つまり、千歳さん相手に魔法、法力、神力、精霊術は全く効果がない可能性が高いそうだ。

 尤も、それは万全ではないから過剰な期待は駄目だとも言っていた。


 その最強の創造神は気まぐれらしいからな。

 それに千歳さん自身は物理攻撃には弱いだろう。


「それよりも、お前のこの記録はなんだ?」

「大神官、情報国家の国王陛下、大神官の話した順で並べた結果だが?」

「そこではない。俺は内容のことを聞いているのだ」

「いや、オレもどうしてそうなったのか、よく分からん」


 兄貴が言いたいことは分かる。


 オレも記録をしていて思った。

 もっと他に聞くべきことがあったんじゃないかって。


 言い訳をするなら、準備が足りなかった。


 いや、はっきり言えば、情報国家の国王陛下の雰囲気に呑まれた。

 ほぼ丸呑みされていたも同然だったのだ。


「問うべきことは、最低限あらかじめ、メモでもしておけ」


 オレの表情で何かを察したのか、兄貴は溜息を吐きながらそんなことを言った。


「話している途中で疑問が湧いた時はどうすれば良い?」

「着座の許可を得たのだろう? 案下(あんか)でメモをとれば良い」


 案下……、机の下とか机の脇みたいな意味だっけか?


「立っている時は?」

「慣れたら後ろ手でもメモが取れる」


 背中に手を回して書くのか。

 そんなことやったこともない。


 だが、この様子なら兄貴はできるのだろう。

 オレはこんな所でも兄貴よりも経験が足りていないのだ。


「だが、一番良いのは、()()()()()()()()()()()()()()ことだな」

「あ?」

「人間界でもこの世界でも会議で『議事録』を取る。『世間話』でも記録の許可ぐらいは貰えるだろう。大神官や情報国家の国王が、記録の重要性を知らん阿呆なら話は別だがな」


 言われてみれば、栞も「メモらせて! 」と言うことがある。


 大神官も情報国家の国王陛下も記録の重要性は知っているだろう。

 オレからの報告書を真剣に読んでいたから。


「勿論、話の内容によっては機密に触れることもあるし、()()()()()()()()()()鼎談(ていだん)……、いや、会談であれば、記録を嫌がられることもある。だが、これらの内容であれば一部停止がかかるかもしれんが、全てを記録するな、などと狭量なことは言うまい」


 一部停止?

 どこが、記録に残したくないようなことだったのか?


 情報国家の国王陛下が、オレたちの親父との関係を口にしていたことは書かなかったが、それ以外はほとんど書いたと思う。


 勿論、メモをしているわけではないから、忘れたしまった、薄れていることはあるだろう。


 やはり、兄貴の言う通り、人前で記録を取ることを意識した方が良いことは分かる。

 兄貴はオレの前で記録をしたことはないが、それ以外の場所では記録しているのだろうか?


 だけど、もう少し早めに教えてくれても良いんじゃねえか?

 オレが記録を付けだしたのは、昨日、今日の話ではない。


 いや、自分で気付けってことだったんだろうけどな。


 目の前で記録されることを不快に思う人間もいるだろう。

 だが、大神官と情報国家の国王陛下は許してくれそうな二人だった。


 だから、そのことに思い至らなかった自分が未熟なだけなのだ。


 もっと学ぼう。

 オレには足りないものが多すぎるのだから。

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