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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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突然の招待

『まあ、あのままでも多分、今代の聖女は死ななかっただろうけどさ~。時間もかかるし、体内魔気の状態と魔法力の回復だけでなく、ちょっぴり傷付いた魂の修復もした方が良いって思ったから、ワタシがここに運んだんだよ。まあ、サービス、サービスぅ! てヤツだね』


 そんなどこかで聴いたことがあるフレーズを口にされても困る。


 だけど……。


「それは、本当にありがとうございます」


 こんな軽いノリだけど、わたしの命が助けられたのは事実だ。


『いやいや、今代の聖女の可愛らしい姿を見ることができて役得、役得』

「可愛らしい姿?」

『いや~、若い娘の肌って、ピチピチだよね~』


 微妙に古さを覚えるその言葉で、モレナさまの発言の意味を理解する。


「そういえば、なんで、こんな状態なんですか!?」


 周囲に誰もいなかったから良かったけれど、もし、他の人が……、特に男性がいたら、わたしは記憶喪失魔法を開発するしかなくなってしまう。


『人工物がない方が、体内魔気の回復が早いんだよ。精霊術の通りも良いからね。(くう)の大陸にあった長耳族の里でも、治癒術は何も着ていない状態で使われただろ?』


 そう言えば、リヒトと出会ったスカルウォーク大陸にある迷いの森で、長耳族たちに怪我を癒された時も素っ裸にされた覚えがあった。


 それは、そういった事情だったのか。


「だけど、この触れた感覚がないのはどういうことですか?」


 そこがちょっと分からない。


 何も身に付けていない状態なのだから、もっと今、踏んでいる地面や草の感触があるはずなのに、やはり、それもないのだ。


『ああ。ここは()()()だからね』

「は? ()霊界?」


 それって、わたしは死んだのではないだろうか?


『違う、違う。精霊界。精霊の世界』

「精霊界!?」


 そっちの方が驚きだった。


 人間は、精霊界に行けないはずなのに……。


『聖女は神力所持者だからね。その()()()()()()の許可があれば、一時滞在はできるんだよ』

「管理者!?」


 人界の大陸……、国の管理者なら、各国の国王ってことになる。


 だけど、精霊界の領域の管理者って……?


 四大精霊を束ねる精霊王?

 いや、精霊王は精霊界で最も力を持つ精霊だけど、その世界の管理者ではなかったはずだ。


 だけど、それ以上の存在となると……。


『そう。大陸神と呼ばれる管理者』

「たっ!?」


 ちょっと待って?

 情報が、情報が多すぎる!!


『まあ、今代の聖女は会うことはないと思うよ』


 神さまに関わりたいわけではないから、それは別に構わないけど……。


『風の大陸神は、自分の眷属が遠い昔、()()()()()()()()()()()()()()()()()()からさ~。ちょっと会うのが気まずいらしいんだよね』

「フラ……?」


 眷属ってことは、風の大陸神に連なる神さまだと思う。

 そして、神さまが人間にフラれるってことは、まだ神界、聖神界、人界の境界が曖昧だった時期の話?


『因みに、その今代の聖女の祖先の名は「ラシアレス」って言うんだけどね?』

「ふぐぉっ!?」


 いきなり出された自分の名前!?


 いや、違う。

 落ち着け。


 わたしは神さまを振った覚えなど……、ない? と思いつつ、なんとなく自分の右手首を見る。


 いやいやいや!

 この左手首に宿っている神さまは、闇の大陸神さまに連なっているけど、風の大陸神は関係なかったはずだ!!


 つまり、その「ラシアレス」は、わたしの祖先で「救いの神子」と呼ばれた……って、ああ!?


 確かにラシアレス=ハリナ=シルヴァーレンさまのことなら、風の系統の神さまを振ったと言えなくもない。


 創造神さまの影とともに視た過去。


 あの真っ暗な中で何が起こったかは分からないけれど、あの時、ラシアレスさまは、間違いなく、側にいた神さまとは別の人を選んだのだから。


 そして、わたしはそのラシアレスが祖先というだけでなく、身体の一部の箇所を除いてとてもよく似ている。


 それは、まあ、複雑な心境になるのも分からなくはない。


 いや、神さまの精神構造や思考回路は人間のものとは異なるから、本当にそんな理由かは分からないのだけど。


『まあ、そんなワケで、そのラシアレスの子孫たる今代の聖女は、風の大陸神に会うことは難しいってことは分かってくれたかい?』

「承知しました」


 それについては、もともと会う気がないから別に構わない。

 寧ろ、先ほどの話を聞いた以上、会えない方が双方にとってもよいだろう。


「それよりも、ここが精神界という話も気になるのですが……」


 精霊族の血が濃くないと入れないはずの世界。


 長耳族の血を引くリヒトは入れなかったと聞いている。


 大陸神の許可があれば、入ることが許されるのは分かったが、一体、何故、許可が下りたのだろうか?


 簡単には入れないと思うのだけど……。


『勿論、許可には条件があるよ。まず、その土地の管理者が精神界に入っても良いと認めた神力の所持者であることが最低限の条件だね。そして、神に関わったために病気や怪我、魔法力枯渇、精神衰弱などになった時の治療目的であること』


 今回は病気や怪我ではないが、魔法力が枯渇した状態であるのかな?

 精神は衰弱していない。


『それ以外にも用件はあるけれど、今回、今代の聖女は、該当すると見なされた。水の大陸神も許可を出してくれたけど、やはり風の姫さんは風の地で癒す方が良いからね。こっちにしたよ』


 わたしがいたのはウォルダンテ大陸。

 そこの水の大陸神さまも許可を出してくれたのか。


「水の大陸神ラートゥさまと、風の大陸神ドニウさまのご厚意に感謝申し上げます」


 そう言って、その場でわたしは跪き頭を下げる。


 その二神には伝わるだろう。


 神さまは人間を救うことはない。

 人間に関わることを許されていないのだから。


 だけど、いつも見ている。

 人間は神さまにとって大事な玩具(娯楽)なのだから。


「ところで、モレナさま? この精霊界が、人界の見覚えのある風景にとてもよく似ている気がするのですが……」


 それがずっと気になっていた。

 精霊界について詳しく聞いたことはないけれど、全てがこんな風景なのだろうか?


『ああ、この精霊界は人界を映す鏡のような世界だからね。だけど、鏡像は、見ることができても、触れることはできないだろう? 仮にこの場所に来た人間が写り込んでも、鏡裏(きょうり)にその声は聞こえないし、こちらからの声も届かない』

「この場所に来た人間が写り込む……。今、セントポーリア城下の森に誰かが来たら、その人がこの場に現れるってことですか?」

『鏡像だけだね。実際、この世界に来ることはできないよ』


 この空間の全てが人界の様子を立体映像化しているようなものだろうか?

 それなら、それに触れた感覚がないのも分かる気がする。


 でも、自分が出した音が聞こえない理由や、自分の身体に触れても分からないのは何故だろう?


 いや!

 それよりも、もっと大事なことを確認しておかなければならない。


「ここに来たその相手からは、こちらの姿って見えるんですか?」

『普通なら視えないよ。空間がずれている状態だからね。でも、神眼所持者とかなら分からないかな。ヤツらは、空間すら視通すから神や精霊族を視ることができるからね』


 ああ、神眼所持者の眼は確かに普通ではないか。


 でも、普通の人なら見えないなら、それだけでも良かった。

 神眼所持者はこんな所に来るはずがないからね。


 わたしだって、こんな姿を見られるのは嫌だし、いきなり見せられた相手の方も迷惑だろう。


『後は、空間を繋げる能力を持っている人間。俗に精霊遣いと言われる種類の人間なら、もしかしたら視る可能性もあるかもしれないよ』


 精霊遣い……、楓夜兄ちゃんとかオーディナーシャさまみたいな人たちのことである。

 やはり、精霊と契約する以上、精霊界が視える可能性はあるってことか。


『さて、今代の聖女。ちょっと貴女に聞いておきたいことがあるんだけどね?』

「はい。なんでしょう?」

『誰が、一番先に、ここに今代の聖女を迎えに来ると思う?』


 そう問いかけられて、迷いもなく浮かび上がった人はいる。


 だけど……。


()()()()()なら、誰が一番かは分かりません」


 どんなにこの世界に魔法が存在しても、到着時間についてまでは分からない。


『おや、意外。真っ先にあの坊やを上げると思ったのに』

「誰が、一番先にわたしを見つけるという話なら、間違いなくそうでしょう。ですが、この場所に誰が一番先に来るかなんて、その時の状況次第になるので断言しにくいんですよ」


 ローダンセからセントポーリア城下の森に運ばれたなら、行先を告げられていない限り、普通は分からない。


 モレナさまのことだから、転移門や聖運門なんて使わずに移動しているだろう。


 そうなると、ここのいることを予想できる人や、ここにいることに気付ける人しかわたしの居場所を発見できないことになる。


 そして、この森に来ることができる人間自体が限られているから、この場所に来るのは間違いなくあの兄弟しかいないと思っている。


 でも、実際、ここまで来るとなると、二人で来るかもしれないし、片方だけが来るかもしれない。

 本当に予想ができないのだ。


『なるほど。今代の聖女を迎えに来るなら、あの兄弟しかいないってことだね?』

「まず、この森のここまで、来ることができないと思うのです」


 あの兄弟はここに迷わず来ることができる。


 多分、セントポーリア国王陛下も来ることはできるのだろうけど、前提として、あの方は城から出ることができない。


 母も昔、ここまで来ていたらしいけど、セントポーリア国王陛下が外出の許可を出さないと思っている。


『誰も迎えに来ないとは思わないのかい?』

「それだと、わたし、帰れないんですよね……」


 何故なら、わたしはこの森の道順を覚えていないから!

 加えて、方向音痴だから!!


「誰も迎えに来てくれないなら、ここでなんとかして自活していくしかなくなりますね」


 幸い、識別魔法を使えるようになった。

 それで生食できる植物を探して、なんとか生き延びるしかないだろう。


『まあ、時間はかかると思うけれど、ワタシもちゃんと還すつもりはあるからさ。だから、それまでは、ワタシと怠惰な日々を過ごそうか』


 未来を視通せるモレナさまは、そう言って困ったように笑った。


 はて?

 わたしは、何か困らせるようなことを言ったかな?

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