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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 大樹国家ジギタリス編 ~

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【第14章― 運命のイト ―】大樹国家

ここから第14章となります。

 風の神ドニウが守護するシルヴァーレン大陸。

 「ジギタリス」はその中にある三つの国家の内の一つである。


 魔界の中でも自然が豊かな国であり、「樹の国」と言われるほど樹齢を重ねた大樹が多く存在する。


 国家としての異名は「大樹国家」。


 近年になって、その国を居とする若き占術師の能力が魔界中に知れ渡り、その特殊な国風と相まって「神秘の国」とも言われるようになった。


 緑あふれる幻想的な国。

 これが他国による「ジギタリス」という国の評価である。

 

「こ、これは……」


 ジギタリスの城下に赴いた者は、まずその奇妙な町の入り口に驚かされるという。


 どの国の者でも間違いなく我が目を疑うというソレは、まさに「樹の国」の名に相応しいことは言うまでもない。


 そしてそれは、異国から来たこの少女も例外ではなかった。


「こんな所でどうやって生活するんだろう?」


 少女はそんな純粋な疑問を抱く。


 彼女の前には樹齢何百、いや、何千年も経っていると言われても信じることができるような巨木がいくつも立ち並んでいるだけだったのだから。


 それ以外のものは何もなく、近くに人の気配すらない。


 「ジギタリス」の城下と言われて来た場所は、明らかにセントポーリアとは雰囲気が異なり、周囲には静けさしかなかったのだ。


 少女は上を見上げたが、樹上に街があるというゲームや漫画にあるようなファンタジーな展開でもないことは分かる。


 見上げても、目に映る木々の間からは陽の光が漏れているだけで、やはり、人の気配はなかった。


 当初、少女たちは先を急ぐために、ジギタリスの中央部には立ち寄らず、ジギタリス国内にある港町「マノハーグ」に向かうところだった。


 その「マノハーグ」から法力国家ストレリチア国内にある港町「クラチョゴ」を介し、ストレリチアの城下にて少女に施されている封印を解呪する。


 その予定で進んでいたが、3日前に立ち寄った「オーバ村」という行商人たちが集う場所にて、予想されていた通り、定期船が動いていないことを知った。


 それでも港町に向かうかどうかを話し合った結果、情報などを含めてジギタリス城下に向かう方が何かと動きやすいという結論に達したのだ。


 そんな理由からジギタリス城下と呼ばれている場所に来たはずなのだが……。


「確かに地図にも、木ばっかりで何もなかった気はするけど……」


 少女がそう考え込んでいた時だった。


「高田~。こっちこっち~」


 少女が立ちすくんでいる場所から少し離れて少し手招きする女性。


「……そっちに建物があるのかな?」


 どこをどう見回しても周囲には巨木しか見えないが、少女は素直に呼ばれている方向へと向かうことにした。


 その少女のいた場所のすぐ近くに、黒髪の少年も立っていた。

 その少年もその巨木たちに圧倒されているようだ。


 少女とは別の意味で。


「すげぇ……」


 少年はただただその巨木たちの力強い生命力と存在感に感動していたのだ。


 人間界でも霊峰と思われる大自然を体感したが、今はそれよりも遥かに強い力を感じていた。


 魔界は広い。

 広くて様々なことがいっぱいあると聞く。


 まさか、それを故郷から離れ、わずか一月足らずのうちに体感するなんて思ってもいなかった。


 少年は魔界で生まれたが、この世界のことについてのほとんどは、兄から渡された書物の中にある知識しか持っていない。


 このジギタリスについても、「樹の国」とだけしかなく、その詳細についてはぼかされていた気がする。


 自分の目で見て確かめ、そして驚けと言うことだったのだろう。

 あるいは、少年の兄が意図的に情報を制限していた可能性も否定できない。


 少年はまだ自分の知らない世界はたくさんあるとワクワクしていた。

 書物から知識や人からの話だけでは得られない刺激と感動。


 否が応でも少年の心にも潜む冒険心がそそられてくる。


「……っと、いけねえ」


 それでも……忘れるわけにはいかない。


 この旅の目的を。

 自身が果たすべき義務を。


 少年はそう思い直して、彼女たちの後を追ったのだった。


*****


「…………」

「どうした?」


 水尾先輩に招かれ、やって来たのは、さっきの樹の裏側だった。


 ぐる~っと回ったそこには、ぽっかりと大きな穴があって、その中から賑やかな声が聞こえてくる。


 まるで昔話のようだ。


 ここは一つ、おにぎりを投げ入れてみるべきか?

 歌が聞こえるかもしれない。


「……まさかと思ったけどやっぱりそう言うことなんですね」

「何が?」

「樹の中に家があるなんて……」

「ふっふっふ……。まだまだ甘いな、高田」


 そう言って水尾先輩はにやりと笑う。


「へ?」

「これは家じゃねえよ。ついてくれば分かるけど」


 そう言って、水尾先輩は穴の奥へと進んだ。


 それを、慌ててわたしも追いかける。


「え?」


 不意に空気が変わった気がした。


 感覚的には、九十九が移動魔法を使った時によく似ている。


 目の前は真っ暗で何も見えないのに、何故か空気の流れの変化が、それに似ていると肌に告げているのだ。


 そして、その奇妙な感覚が消えた時、目の前に光が差し込み、わたしは思わず目を閉じた。


「なっ!?」


 恐る恐る目を開いてみると、そこにある景色に思わず言葉を飲んだ。


 巨木の穴の中から、賑やかな声が聞こえてきた時もびっくりしたが、これはそれ以上の驚きだった。


 樹の中の穴の奥には確かに家はなく、その代わりに街といえるものが広がっていたのだから。


「ここは商業樹(しょうぎょうじゅ)。見ての通り、商店が広がってるだろ。残りは……2つが居住樹(きょじゅうじゅ)。人が住むところだな。それと農樹(のうじゅ)が1つ。まあ、農業系統が主の空間だな。これら4大樹がジギタリスの城下だ。それとは別に城の役割を持っている樹が城樹(じょうじゅ)と呼ばれている」

「し、城まで樹なんですか!?」


 ……っていうか、樹の中で農業ってそれはどういうことなのでしょう?

 日光とかの問題は大丈夫なのでしょうか?


 でも、よく考えたらここもすごく明るい。

 太陽みたいな星はどこにも見えないけど、全体的に明るさが広がっている。


 ……ど~ゆ~こと?


「ジギタリス城と、その城下は見ての通り、樹の中にやたら広く造られた空間なんだ。ただ、ここが、本当に樹の中なのか、異空間なのかは誰も知らない。入口で転移に似た気配を感じただろ? だから、強制転移なんだとは思うが、残念ながらそれを確かめる……いや、調べる術がないんだ。情報国家辺りは知っているかもしれないけどな」

「は~」


 もう何があっても驚かないと思っていたけど……、駄目です。

 わたしの想像力じゃ魔界の常識に太刀打ちできません。


「うおっ!?」


 後ろから声がした。九十九だ……。


「すっげ~。転移させられたのか?」


 ……良かった。

 驚いてるのがわたしだけじゃなくて。


「あれ?」


 一人足りない気が……?


「ああ、先輩ならもう買い出しに行ったよ。『子守りをよろしく』だってさ」

「こ……?」

「子()りだと~? オレをこいつと一緒にしないでください!!」

「それはこっちの台詞だよ」

「……まあ、同じ歳なんだし良いんじゃねえのか?」

「「良くないです!! 」」


 水尾先輩の言葉にわたしと九十九が同時に反応する。


「そういう反応がお子様なんだと思うけどね、私は……」


 うぐ……。

 確かにそう言われるとそうなのかもしれない……。


 ちょっと反省。


「冗談はさておいて、見ての通り、ここはすごく広いから迷子になるんだよ。大の大人でもね」

「お、大人の迷子……」

「それは恥ずかしいな」


 わたしも、セントセントポーリアにある城下の森で迷子になったけど、それより恥ずかしいかも知れない。


 だって、街中ですよ?

 いや、正しくは樹中になるのかな?


「そんなわけだから、樹内(じゅない)呼び出しをされないように気をつけろよ」

「じょ、場内案内みたいだね」

「……だな」


 そう言い合うわたしたちは多分同じ顔をしているのだと思う。


 迷子ってだけでも嫌なのに、この歳で「お呼び出し」は恥ずかしいよね。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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