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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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話の続き

「坊主の動きの基礎は、ミヤドリードか?」

「はい」


 今は兄貴だが、オレを最初に鍛えてくれたのは間違いなく、ミヤドリードだった。


 だが、話の続きとはそっちの方か。

 てっきり、世界と栞の話の続きを話すかと思っていたのだが……?


「アイツはガキ頃からセントポーリアに行って、武闘派になってしまったからな。イースターカクタスの王族にしてはかなり異質に育ったと思っている」


 だが、情報国家の国王陛下はこちらの話を続けたいらしい。

 オレとしても興味のある話題ではあるので、暫くなら付き合っても良いだろう。


 それに、オレはミヤドリードがどんな経緯でセントポーリアに行って、国王陛下の乳母と養子縁組をしたのかを知らなかった。


 だから、武闘派になったのが、セントポーリアに行ったためだということも、今、知ったほどだ。


「アイツが、10歳の時、セントポーリアの守護兵団に入った時は本当に驚いた」

「10歳で守護兵に?」


 ミヤドリードが守護兵団にいたことも、オレにとっては初耳だった。

 オレが城に行った時は、既にチトセ様の侍女のような状態だったから。


 あまりにも、知らないことばかりで、戸惑ってしまう。


 自分が生まれる前の話だから、仕方がないと言えなくもないが、それだけ、ミヤドリードのことを知ろうともしていなかったことに自分でも驚いた。


 兄貴は知っていたのだろうか?


「勿論、見習いだ。セントポーリアは、まだ身体が整わない15歳未満(未成年)を兵にはしない国だからな」


 つまり、15歳になった(成人)後は、守護兵団に入ったのだろう。

 だが、それはそれで今更ながら、心配になってしまう。


 15歳のミヤドリードが、男社会ともいえる守護兵の中にいたのだ。


 そして、5歳のオレの目から見た時もそうだったが、18歳のオレの目から見ても、ミヤドリードは容姿が良かった。


 まあ、胸は作られていたみたいだが。


 女というだけで、男以上の危険があるというのに、何故、女の兵もいる親衛兵団ではなく、今は男しかいない守護兵団を選んだのだろうか?


 王族の血を引いているから、自分を害せる相手がいないと思っていたのか?


「当時のセントポーリアには、守護兵団と親衛兵団しかなかったことは知っているか?」

「はい」


 今、王の警護をする近衛兵がという兵団ができたのは、現セントポーリア国王陛下が即位した十年前だと聞いている。


 増えすぎた兵をさらに分けることを理由としていたらしいが、それは表向きの理由だ。

 セントポーリア国王陛下は知っていた。


 親衛兵と呼ばれる王侯貴族を護ることが任務の兵団のほとんどは、縁故、あるいは、雇用者の趣味だけで選ばれていることを。


 つまり、実力は伴わないらしい。


 反対に、民間からも雇用されている守護兵団が事実上、セントポーリア最強の兵団だと言われている。


 特に、今は、城下から外への出入り口と、城門を守護する兵は半端な実力者が選ばれることはなくなった。


 そして、かなり選考基準も厳しいようだ。

 そこまで考えて、ミヤドリードが守護兵団を選んだ理由を理解する。


 そして、親衛兵と呼ばれる者たちが、妙に容姿が整った人間が多かった理由も、この年齢になった今なら分かる気がした。


「当時のミヤドリードはたった一人に仕えるより、国に属した方が良いと判断したらしい。まあ、普通なら甘い考えだよな」


 情報国家の国王陛下は苦笑する。


 まあ、ミヤドリードが守護兵団に見習いとして入ったのが10歳だという。

 だから、まだある意味、現実を知らなかったのだろう。


 国に属したところで、あちこちから引き抜きがあるのが現状なのだ。

 そして、上司が強引に所属替えを指示することだって珍しくない。


 今でこそ、守護兵は簡単に所属換えできなくなったが、当時は本当に酷い状態だったと聞いている。


 近衛兵ができた時に、兵団の所属換えには本人の意思だけでなく、国王陛下の許可が要るようになったらしい。


 近衛兵は国王陛下を護り、機密を扱うこともあるから当然の話だ。


 そして、守護兵は城や城下のあらゆる部分を知り尽くしている人間が多い。

 簡単に配属を換えられては困るとセントポーリア国王陛下が考えるのは当然だろう。


 寧ろ、昔、容易に換えることができていたという事実の方に驚く。

 国を滅ぼしたいのか? と。


「尤も、ヤツは、乳母の義娘という立場を利用して、守護兵団に入る前にハルグブンにイースターカクタスの王族であることを明かしていた。だから、ある程度、客人として護られた部分はある。まあ、明かすまでもなく、ハルグブンの方は知っていたようだがな」


 ハルグブンは、セントポーリア国王陛下の御名だ。


 普通は、気軽に呼び捨てることなどできるはずはないのだが、同じ中心国の王である情報国家の国王陛下はそう口にする。


 そして、やはり、セントポーリア国王陛下は昔からミヤドリードがイースターカクタスの王族の血を引いていることを知っていたらしい。


 今でこそ、王妹という扱いになるのだが、当時は国王の娘……、王女だ。


 だが、ミヤドリードは養子縁組をしたタイミングで、イースターカクタスの王統から抜けるために、死んだことにされたようだ。


 少なくとも、オレが見たイースターカクタスの王侯貴族図鑑にはそうなっていた。


 そこにどんなやり取りがあったかは分からないが、その時点で、正規の手続きでの養子縁組ではなかったのだろう。


 現王の双子の兄だった男も、病死ということになっている。

 それ自体は嘘ではないが、その時期が大幅にずれていることを今のオレは知っていた。


 その年月は、まだ生存中の時期だったから、この国王陛下ではなく、前国王の判断だったのだろう。


 まあ、自分の息子が国を捨て、正神女だった女と駆け落ちをしたのだから、それを外部に漏らしたくはないことは分かる。


 特に情報国家だ。

 王族とはいえ、自国で起きた醜聞など、消すことは造作もなかっただろう。


 もしかしたら、ミヤドリードもそんな話なのかもしれない。


 セントポーリアへ長期滞在したかったが、反対されたので、遁走して居付いたとか、行動派のミヤドリードならやりかねない気がした。


 ミヤドリードが亡くなったことにされているのは、逆算すれば、5歳ぐらいだ。

 つまり、その前にはセントポーリアにいたことになる。


 生きて国にいる間に、死んだことにはできないだろうから。


 どれだけ、セントポーリアに行きたかったのか。

 あるいは、イースターカクタスに居たくなかったか。


 だが、ミヤドリードが養子縁組をしても、その身体に流れている血だけは変えようがない。

 だから、王籍から抜けても血族である事実は曲げられないのだ。


「だが、ハルグブンはその頃、第二王子だ。しかも、周囲からはただの剣術馬鹿としか見られていなかった。だから、擦り寄っても得のない王族と見なされていたのだ。それでも、王族ではあるから、ミヤドリードをそれとなく護ることぐらいはできたかもしれん」


 は?

 あの国王陛下が?


 オレが知る限り、内政寄りの国王陛下だと思っている。


 確かに昔、オレに向かって神剣ドラオウスを振るった姿は、剣を使い慣れている人間の動きだとは思ったが、剣術馬鹿?


 その評価は意外過ぎて驚くことしかできない。

 勿論、擦り寄っても得がない王族と見られていた理由なら分かる。


 セントポーリアの王位は長子継承だ。


 だから、第二王子に付いても、将来の国王の側近とかになることができないから出世欲のある人間ほど忌避するのは分かる。


 だが、第二王子にはその頃、既に王族の婚約者がいたのだ。

 そして、第一王子にはいなかった。


 そのことから、当時の国王陛下が、既にどちらを跡継ぎにするかを考えていたとか思わなかったのだろうか?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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