表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界旅立ち編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

252/2779

第二王子の噂

「さて……」


 一時的に栞の姿が消えたことで、雄也の方から話を切り出した。


「彼女が身に着けていた物についてだが……」

「アミュレットのことか?」

「この村で買ったということで良かったか?」

「おお。変な商人から買った」

「変な商人だと?」


 九十九の率直な物言いに雄也は眉をひそめる。


「何故か関西弁ってやつだった。この村にいた他の商人を一通り見たが、そんな不自然な訛りを持ったヤツはいなかったと思う」

「それは確かに奇妙だな」

「……だろ? だから、実は、貴族階級以上ってことだと思う」


 確かにそれなら法力国家かどうかはともかく神官と繋がりがあってもおかしくはないかもしれない。


 貴族は正神官以上の神官に、様々な儀式を行ってもらうことが多いのだ。


「それに……、オレにそれを売りつけた後、まだ商品が残っていたのにすぐ姿を消した」


 それについてはいろいろと理由は考えられる。


 オーバ村にあった露店の販売区画は時間制だ。

 1日貸し切ることもできるらしいが、時間単位で支払うのだから長居する予定がないのならある程度売れたら早々に立ち去るだろう。


 あるいは、そのアミュレットを売ったことで十分な売上げが出たのかもしれない。


「一番、厄介なのは、彼女の確認をしたかっただけの時だな」


 雄也が念のために調べたが、居場所特定や追跡系の効果は付いていなかった。


 しかし、物が物だけにコレ自体が餌だった可能性も否定はできない。


「高田はいなかったぞ。ちょうど便所、行ってたし」

「……言葉を選べ」

「兄貴相手に気取った言い方をしてどうすんだよ」


 確かに九十九は栞や水尾の前では多少、言葉を考えてはいた。

 勿論、雄也に言わせればまだまだなのだが。


「独特の話し方で人目を引くというのは商人としてはおかしくはない。が、それが『関西弁』という珍しいイントネーションのものだという点が引っかかるな」

「気を引くなら、沖縄弁や東北、北海道弁でも良いのにな」


 それだとあまりにも訛りが強い気はする。


「『関西弁』は敬語でも抑揚が違う。付け焼き刃かどうかはそこで分かるのだが……」

「相手は敬語を使わなかったし、単語、単語の印象が強すぎてイントネーションまで気にしてなかった」

「……敬語を使っていないのなら、人間界の関西方面に行った貴族の大物の可能性もあるな」


 考えられるのは、敬語を使う習慣があまりないということだ。


 商人に身をやつしても、相手が自分より高い身分でないのなら、敬語を使うという発想がない。


 それを装った情報国家などの諜報員の可能性もあるが、そんな立場にある人間がわざわざ周りから浮くようなことをするはずもないだろう。


 少なくとも雄也はそう考えた。


「兄貴の方は何かあったか?」


 考え込んだ兄の思考を切り替えさせるため、九十九はそう話題を変えた。


 判断材料が少ない状況で考えた所でまともな結論が出るはずもない。


「やはりアリッサム襲撃の影響で港町からの定期船は運休中のようだ。それ以外では現在のジギタリスの状況を少々、掴んだぐらいだな。噂の域を出ないものもあったが……」


 雄也がそう口にした時……。


「噂って第二王子のことか?」


 そう言いながら、水尾が本を抱えて栞と共に登場した。


「あ~、それならオレも聞いたかも。あまり城にいないんだろ?」


 水尾も九十九も何も考えずに村で買い物をしていたわけではない。


 尤も意識しなくてもその「第二王子」とやらの噂は嫌でも耳に入ってくる。


 「放蕩王子」の「道楽三昧」。


 それはここ数年続いていることだと。


 しかし、その内容については様々だったため、確かに雄也が言うように「噂の域」である。


「よく分かりませんが、王子って城にいるのが当たり前なのですか?」


 ただ一人。

 魔界人の常識に疎い栞が疑問を持つ。


「警護の意味でも城にいてくれた方が安心なんだが……」


 九十九はそう溜め息をつく。


「行き先も告げず、何日も城を出るのは無責任だな。城が息詰まるのは分からないでもないけど、それでも脱走は日帰りでなければ周囲に迷惑がかかる」


 水尾はそう口にした。


 勿論、「日帰り」なら無許可でも良いというわけではないのだが、彼女はその辺を気にしていない。


「王族の責務として国と民を守るというものがある。それにもし、有事の際、目の届く位置に王族がいなければその場も混乱するだろうね」

「……遠回しに私に喧嘩売ってないか?」

「気のせいだ」


 雄也の言葉に水尾が噛み付く。


 その「無許可の脱走」行為中に国が襲撃に遭った立場の王族としては、彼の言葉は痛烈な皮肉以外の何物でもない。


 尤も、それを皮肉と感じるぐらいの罪悪を水尾が持っているということでもあるのだが。


「第二王子は無責任な人……なのでしょうか?」

「当人に聞かない限り、その辺は分からないね。理由があってその行動をとっている可能性もある。それがもし、国の利益に通じる行為であれば、その王子殿下はあえて泥を被っているということになるからね」


 九十九や水尾が何かを言おうとする前に、雄也がそう口にした。


「……確か、20歳だもんな。確かに何か理由があってのことと考えるべきか。何も考えてないとは思いたくねえ」


 水尾は何か思う部分があったようだ。少し考えてそう言う。


「水尾先輩はその王子さまに会ったことは?」


 水尾はアリッサムの第三王女である。

 立場的に少なくともこの中で一番他国の王族と接する機会が多いのは間違いない。


「一応、第一王子である『リヤスバード=アルナ=ジギタリス』にも第二王子の『クレスノダール=フォード=ジギタリス』にも会ったことはある。でも、それも6年前だ。人相は変わってるかもな」

「な、名前が長い……」


 栞は頭を押さえる。


「……人間界の貴族の方が長い。魔界は『個人の名=儀式名=家名』の3つしかないけど、人間界ではミドルネームが長かったりするだろ? 洗礼名とか入ると本当に訳が分からねえ」

「……言われてみれば……?」


 栞の感覚としては人間界、現代の日本人のほとんどは、姓と名の二種類しかない。


 しかし、同じ人間界、世界を見ると歴史上だけではなく現代も尚、長いフルネームと言うのは存在する。


「個人の名、家名はなんとなく分かりますが、儀式名ってなんですか?」


 先ほどの水尾の台詞の中で栞が初めて聞く言葉があった。


「先輩、そんなことも教えてねえの?」

「その辺りは九十九に任せていたからな」

「オレのせいかよ!」


 魔界に来てから雄也はほとんど家に帰っていなかった。

 そして、九十九は自分の作業で手一杯だったし、母に至っては自分の勉強に追われていた。


 栞に魔界人の常識を教える人間がいないのは仕方ないと言える。


「わたしも文字の勉強をするため絵本しか読んでいなかったですね。」

 そう言った。


「あ~、高田がどっかずれてんのもその辺にもあるのか。確かに記憶がなければ、文字とかを覚えるのも一苦労かもな」


 そこまで聞いて水尾はようやく納得する。


 栞には、魔界人としての土台が全く無いのだ。

 そして、それは周囲だけの責任にはできない。


「セカンドネーム、儀式名ってのは儀式を行う際に必要な名前だな」

「儀式……、魔法契約とか?」

「いや、魔法契約にはあまり名前は重要視されない。極端に言えば、偽名でもいけたりする。この場合の儀式ってのは神官の立ち会いのもと行う神事のこと。一般的なのは成年儀、婚儀、葬送儀かな。それに偽りがあると神罰が下るだとさ」


 人間界で言う、成人式、結婚式、葬式だろう。


 だが……。


「し、神罰!?」


 栞はそこで仰天した。


「偽名で婚儀を行おうとしたヤツに天から雷が落ちたという記録がいくつかある」

「偽名で結婚式って詐欺師ですか?」

「その辺はいろいろ事情があるかもしれないからなんともいえんが……」


 どんな事情があっても、栞の常識で考えたらとんでもない話である。


「死ぬ前に当人が間違って伝えていたら、やっぱり葬儀中に雷が落ちるのでしょうか?」

「……葬送儀中の雷は聞いたことがないが……、聖霊界には行けそうもないな」

「聖霊界?」

「人間界で言う『あの世』ってやつだな。魔界人は死ぬとそこへ行って、魂を浄化され、次なる誕生を待つと言われている」

「転生ってやつですね」


 栞は自分なりに理解しようとする。


「但し、いくつか例外ってのがあって、まず、魂ごと壊れてしまったら聖霊界には行けない」

「魂ごと……壊れる? 魔法で……ですか?」

「人間界で言う精神の崩壊が近いかな。原因が魔法かどうかは断言できないけど、いくつかそんな事例がある」


 事例があると言うことは……。


「その状態では聖霊界に行けないってなんで分かるんですか?」


 誰かが何らかの方法で確認したと言うことではないだろうか?


「葬送儀では特殊な神具を使って聖霊界へ行くことを確認するかららしい」

「……死後の世界を覗くってことですか?」

「実際それを使える神官ならな。神具にその世界が視えるのはある程度力がある神官だけ。だから、確認のしようがない」


 ここまで来ると魔法の世界というよりも霊力の世界である。


「他には魔界でそれなりに名を残したら、聖神界って神様たちが住んでいる世界に招待されることもあるみたいだ。多分、『聖女』辺りがこれに該当するかな」

「神さまになるってことですか?」

「それだけの活躍をしたと認められたら……だろうけどな。基準は分からん。神の気まぐれってやつだろうし」


 それを聞いた栞は心中、複雑なものを覚えた。


 神さまに選ばれたというのは確かに名誉なことなのだろうけど、身近な人たちと死に別れた後、自分だけが別の世界へ行く……。


 それはちょっと、いや、かなり寂しい話なのではないだろうか。


「それに私は死んだことがないからどこまで本当かは断言できん」


 そう言いながら、水尾は九十九の用意してくれた料理に向かう。


「魔界は不思議なことが多すぎますね~」


 人間界で育った栞としてはそう言うしかなかった。


 そして、数日の後、彼女は更なる不思議に出会うのだった。

この話で第13章が終わります。

次話から第14章「運命のイト」です。

そして、明日からはいつものように定時に二話更新となります。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ