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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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意外な繋がり

「私は畏れ多くも、ミラージュと呼ばれる国の王子殿下を御指導させていただいた時期があります」


 大神官はいつものように表情の読めない顔のまま、そんなとんでもないことを口にする。


 紅い髪と面識があることは知っていた。


 だが、ヤツがミラージュの王族だということを大神官が知っていたことも驚きだし、さらに元上司だなんて思いもしなかった。


 確かに神官は、直属の上司に当たる人間がいることは知っている。


 見習神官は準神官の動きを見て覚え、準神官は下神官から神官の心得を受け、下神官は正神官より神導の覚悟を試され、正神官は上神官より神というものを教えられ、上神官は高神官より世界の在り方を習い、高神官は大神官よりその全てを学ぶ……らしい。


 尤も、大神官が言うには、正神官以上は自学自習に近いとのこと。


 法力については、準神官に基礎的なことを、下神官時代に扱い方を学ぶらしいが、運が悪いと(上司に恵まれなければ)、碌な指導を受けられないこともあるそうだ。


 特に才能があると分かれば、その上司からその芽を潰される可能性もあると聞き、それらを含めて、自分の運が試されるというのだから、本当に嫌な世界だ。


 尤も、常時、監視し合っているようなものだから、密告などにより質の悪い上司ほど入れ替えられるとも聞いたが、昔からそんな監視体制ではなかっただろう。


 密告する勇気もなく、泣き寝入りしてしまう神官もいたから、腐った神官がいまだにのさばっているのだ。


 そんな神官も、今の大神官の世になってから、かなり数を減らしたようだとどこかの王女殿下が自慢げに語っていた。


「あ? もしかして、坊主は知らなかったのか?」


 オレの反応を見た情報国家の国王陛下は、大神官に確認する。


「言った覚えはありませんね」

「マジか!?」


 情報国家の国王陛下は、大神官と紅い髪との関係は、オレたちにも伝わっていると思ったらしい。

 多分、栞も知らないんじゃないか?


「あの方と私の関係など、些末なことでしょう?」


 確かにいちいち口にするほどのことではない。

 世の中、狭いと思うだけの話だ。


 なんでも、元上司とは言っても、大神官が正神官時代のことで、それも、上神官になるまでの話だったらしい。


 ただ、気になるのは、大神官が上神官になったのは10歳だと、栞から聞いた覚えがある。


 正神官が上司というのなら、ヤツはその時点で茶色……、下神官だ。

 ヤツはオレたちと同年だから、少なくとも、5歳以下の時、既に下神官だったということになる。


 シオリと会ったのが、オレと会う直前だったらしいから、3歳。


 その直後に神導を受け、順当に上がっていけば、年代的にはおかしくないが、普通は順当に上がらないのが、神官の世界である。


 見習神官から準神官に上がるのは、ある程度の法力があれば大丈夫らしいが、そこから下神官にすらなれず、燻っている中高年も少なくない。


 それを思えば、ヤツは上司運と才能に恵まれたとしか言いようがない。

 まあ、上司運はともかく、才能については喜べないのだが。


「まあ、あの紅い髪の小僧は、その茶色時代も目立っていたから、俺も知っている。普通なら、出る杭は打たれるものだが、打たれ強かったみたいだからな。だから、ヤツが10歳ぐらいか? 正黒(せいこく)に上がらず、還俗すると耳にした時は驚いた」


 下神官(茶色)時代から、この情報国家の国王陛下が知っていたなら、相当、目立っていたのだろう。


 しかし、「打たれ強い」ってことは、ヤツは神官世界でかなり嫌な目に遭っていたのかもしれない。


「私は特に驚きませんでしたよ。あの方は()()()()、自分は『茶色』までだと言っていましたから」


 大神官は特に気にした様子もなく続ける。


「いや、止めろよ、大神官。真っ当な能力者だぞ? 今の時代は特に貴重な人材なんだぞ?」

「当時は大神官ではありませんでしたが……」

「いちいち細かいぞ」


 情報国家の国王陛下の反応から、やはり、ヤツはかなりの才能があったと言えるのだろう。


「神導を受けるのも、還俗するのも個人の自由です。才能だけで無理に(とど)めることはできませんし、何よりも()の国が許さないでしょう。正神官になる時、出身大陸が明らかになってしまうのですから」

「まあな。大聖堂で必ず、大陸神の加護を確認される(暴かれる)以上、出身大陸は誤魔化せないからな」


 情報国家の国王陛下は肩を竦める。


 ミラージュと呼ばれる国の国民たちは、自身の出身大陸を明かしたくないことを知っているのだろう。


 現存する六大陸とそこで生まれた人間たちを加護する大陸神。

 その大陸神の中で、いつの間にか存在を忘れられた神がいる。


 この惑星(ほし)が始まって間もなく、生まれた大陸神は七神だったのだが、気が付けば、歴史から姿を消してしまったのだ。


 闇の大陸神クラード。

 かつてダーミタージュという名の大陸に加護を与えていた大陸神である。


 ―――― 何故か、忘れられちゃっている神さまなんだよね


 どこかの「聖女の卵」が、呑気な声でそう言ったことがあった。


 ―――― 力は他の大陸神に負けていないのに、影が薄いというか


 そして、続く言葉はさらに酷かった。

 フォローになってねえ。


 ―――― まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だよ


 だが、まるで、そのことを見て来たかのように語る彼女は、やはりどこかで聖女なのだろうと思う。

 普通は、神のことをそんなに気軽に気楽に語れないのだから。


「まあ、紅い髪の小僧の話はいい。それが主題ではないのだろう?」

「いいえ。今回の話の発端は、『導き』とあの方の接触ですから」

「なんだ? 『導き』が紅い髪の小僧に、()()()()()()()()()()


 そんな縁起でもないことを言われた。


 本気でそう言っているわけではないのだろう。

 情報国家の国王陛下は笑いながらその青い瞳をオレの方に向けているから。


 分かりやすく揶揄われているらしい。


 だが、オレにとっては笑える話ではなかった。


 あの男が、「聖女の卵」である栞に性的暴行を加えれば、大神官に匹敵する法力だか神力だかを手に入れる可能性があると知ってしまったのだから。


 幸いなことに、当人にはその気がないようだし、そんな行為に出れば、オレたちだって黙って見てはいない。


 だが、もし、実際、()()()()()()()()()()()、ヤツが本当に行動しないとは本人自身にだって分からないのだ。


 誰だって死にたくはない。

 その気持ちはオレにだって分かる。


 死と引き換えに貫く愛?

 そんなの物語の中だけで十分だ。


 現実にそんなお綺麗な精神など(いだ)けない。

 死にたくないと思えば、どんなことでもしてしまうだろう。


「陛下は本当に品の無い言葉がお好きですね」


 大神官は大きく息を吐いた。


「綺麗に飾り立てたところで、結論が変わるわけではないからな」


 情報国家の国王陛下は澄ました顔で答える。


「それで? その紅い髪の小僧がローダンセで『導き』に接触してどうなったんだ? あの伝書だけでは何も分からなかったのだが」


 大神官は情報国家の国王陛下を呼び出す際、詳しい内容を書かなかった。


「あの方と『導き』はローダンセで()()()()()()()()。こちらにその詳細があるので、ご覧ください」

「そんなものがあるなら始めから……って、いやに分厚いな」


 全ては、このために。


 大神官が情報国家の国王陛下に差し出した分厚い書類。

 それは、オレと兄貴が書いた記録だった。


 正しくは、そこに至るまでの経緯などを省いた紅い髪と栞の遣り取りのみを記録したものとなる。


 情報国家の国王陛下はすぐにその報告書を読み始めた。


「字は同じ…。だが、纏め方が少し違うな……」


 兄貴からの報告書は、オレが情報国家の国王陛下用に書き直したものだ。


 栞の婚約者候補の男やそれに仕える精霊族についてなど、大神官に言われた部分だけを削っているため、兄貴の報告とは少し変化している。


 だが、纏め方が違うところまで読み解くのか。


 オレの報告書の基本は兄貴から指導されたものではあるが、いろいろな影響を受けて、オレ独自のものとなっている。


 兄貴からは字の汚さや主観が入り過ぎているなどの指摘が入ることはあっても、文章の纏め方自体に苦言は最近、ほとんどない。


 オレの報告書をたまに見ることがある栞も、読みやすいと言ってくれているので、兄貴との違いをそこまで気にしたことはなかった。


 だが、分かる人には分かってしまうらしい。


「これを書いたのは坊主か?」

「最初の10枚は、兄が書いた原案を基に私が書きました。残りは最初から最後まで私の記録です」


 まあ、大神官の目と手が入って、削った部分はあるけど、嘘でもない。


「お前ら、なんで、セントポーリアに仕えているんだ?」

「セントポーリアで生まれたからでしょうか?」


 だが、兄貴はともかく、オレはセントポーリアに仕えている意識は薄い。

 セントポーリア国王陛下から雇用されて、栞に仕えているという認識だから。


 あの国のために何かしたいとは思っていないのだ。


「なるほど」


 情報国家の国王陛下は少し考えて……。


「坊主は、セントポーリアに所属したままで、俺にも仕える気はないか?」


 オレにそんなことを提案したのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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