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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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破格の対応

「貴方からの報告を伺い、雄也さんからの報告書を読ませていただいた上での提案となるのですが、九十九さんは、情報国家の国王陛下にお会いすることが可能でしょうか?」


 大神官からそんな提案をされた。


 情報国家の国王陛下に会う?

 オレと兄貴の報告からの提案というならば、今回の栞の話が関係しているのだろう。


 しかし、神が絡む話だというのに、その専門家である大神官だけでは手に余るのか?


 少し、考えて……。


「それは、今からですか?」


 そう確認する。


 流石に今すぐは無理だ。

 オレも心の準備ぐらいはしたい。


 兄貴の報告書をもう少し読み込んでおきたいし、自分の方ももっと整理しておく必要があるだろう。


「すぐにはあちらも準備が整わないことでしょう。ですが、今、連絡すれば、あの方なら今夜にはこちらに来ることができるかと存じます」


 こちらが先触れを出して今から出向くのではなく、一国の王を呼びつけるのか。

 それだけで、この大神官の力が分かると言うものである。


 そして、今夜なら思ったよりもかなり早い。


 一週間後とか言われたら、出直すことも考えていたが、それぐらいならば、このまま、ここに留まらせてもらえば、大丈夫だとは思う。


 栞の方は当然、凄く気になっているのだが、まだあの「暗闇の聖女」が告げた時間にはまだ少しの余裕がある。


 だから、兄貴もセントポーリア城まで行って陛下たちに報告してすぐに、城下の森へ向かうことはしないだろう。


 国王陛下の仕事を手伝わされるか、城内の様子を確認するなどの行動をして時間を潰すはずだ。


 あの「暗闇の聖女」がわざわざ2,3日と言ったのだから、栞がそれより早く還されるとは思っていない。


 そのため、ここに一泊させてもらう分には全く問題はなかった。


 それでも、問題があるとすれば、その相手が悪い。

 悪すぎる。


 面識があるだけに、その(たち)の悪さも分かっているのだ。


 魔法勝負と称して罠に嵌められた覚えもあるし、その際、栞に仕掛けられた(金粉)にも気付けなかった。


 病床だったとはいえ、あの兄貴も手玉に取るような情報国家の国王陛下。


 いや、オレは噂ほど、あの方が悪い人間だとは思っていない。

 兄貴は関わるなと言っていたが、あの方は、オレたちに何度も忠告染みた言葉もくれている。


 それに栞宛に届く伝書は、かなり役立つのだ。


 だが、オレがかなり苦手なタイプではある。

 兄貴がもっと年と経験を積み重ね、老獪さを数十倍、増したような相手。


 あの青い瞳で射抜かれた相手は、虚言も妄言も巧言すら全く吐けなくなるだろう。


「やはり、気は進みませんか?」


 大神官が気遣うようにそっと声を掛けてくる。


「いえ、気が進まないと言うよりも、気後れしているという方が正しいと思います」


 つまりは、怖じ気付いているだけだ。

 我ながら、情けない。


 ―――― 九十九なら、大丈夫だよ


 何故か分からない。

 だが、不意に、そんな声が聞こえた気がした。


 ―――― わたしはわたしで頑張るからさ


 その声の主は、この場にいないのに、何故か、しっかり耳元で聞こえる気がする。


 ―――― だから、()()()()()()、わたしの護衛


 これは、オレが作り出した幻聴。


 それは分かっているのに、何故、こんなことでオレは何でもできる気がしてしまうのだろうか?


 分かっている。

 単純だからだ。


 栞のことを思い出すだけで、あの顔を、あの声を思い出すだけで、力が湧いてくると思い込めるような男だからだ。


 だが、任された。

 幻聴とはいえ、栞からのお願いを、オレが聞かないはずがない。


「失礼しました、大神官猊下」


 迷いは晴れた。


「みっともない所をお見せして申し訳ございません」


 オレが無様なのは今に始まったことではないのだ。


 失敗するのは仕方ない。

 オレは兄貴よりも経験が足りないのだ。


 だから、栞が不利になるようなことだけ避ければ良い。


 オレが護るのは栞だけなのだ。

 自分のことなど護らなくて良い。


 情報国家の国王陛下が相手でも、オレがかっこ付ける必要など全くないのだ。


 もともと、格が違いすぎるような相手に、一矢報いようなんて考えるな。

 教えを乞うつもりで体当たれ。


 まあ、ここで勝手な判断をすることで、兄貴の反応が怖くないと言えば嘘になるが、そこは後で謝り倒そう。


 何より、情報を欲しているのはオレも兄貴も同じだ。

 精度の高い情報(ソレ)を貰えるなら、それ以上の幸運はない。


「情報国家の国王陛下にお会いする機会を設けていただき、ありがとうございます。若輩の身ではありますが、そのお相手を務めさせていただきましょう」

「そのように硬くならなくても大丈夫ですよ、九十九さん」


 大神官はそう言って笑う。


「情報国家の国王陛下にお会いすることが可能かどうかを伺っただけで、()()()()()()()()()から」


 ……なんだと?


「九十九さんは、その側にいて、私の至らない部分を補足してくださるだけでよろしいのです」


 なんだと!?


 いや、この方に至らない部分なんてねえよ!!

 どう考えても、オレの方がいろいろ至ってねえ!!


 そんな相手にどうフォローしろというのか?


 そして、そこで思い出す。


 ―――― 九十九さんは、情報国家の国王陛下に()()()()()()()()可能でしょうか?


 確かに!!

 情報国家の国王陛下に会って、報告しろとは言われてなかった。


 会えるかどうかの確認だけだったのだ。


 報告書を手渡した直後だったし、最近、いろいろと報告させられる機会も多かったから、取り違えてしまった。


 いや、普通に考えてもそれだけで破格の対応である。

 そんな場に立ち会わせてもらえるだけでも、実はとんでもない話なのだ。


 法力遣いとして世界最高位にある大神官と、この世界を牛耳っていると言っても過言ではない情報国家の国王陛下の対談である。


 そんな所にオレが居合わせるだけでも大層なことなのだけど!!

 だが、あまりにも恥ずかしい勘違いだろう。


「穴を掘って、埋まっても良いですか?」

「九十九さんが本気でここの床を掘ると、地下まで貫通してしまう気がするので、できれば()めていただければと思います」


 やんわりと窘められる。

 しかも、これはツッコミかどうかも分からない。


 もしかしたら、本気で言っているかもしれなくて、判断に困る。


「勿論、九十九さんが主となって会話されても構いません。あの方は気に入った相手を言葉巧みに翻弄し、その反応を楽しむという悪い癖をお持ちなので、そのお相手してくださると、大変、助かります」


 どうやら、大神官もあの国王陛下は苦手らしい。

 しかも、自分が気に入られている自覚を持っているようだ。


 言葉巧みに翻弄して楽しむ悪癖……。

 ただの兄貴じゃねえか!!


 そう考えると少しだけ気が楽になった。


 相手は兄貴が年を重ねて経験を積み重ねた未来図だ。

 一足先に、ソレと対面するだけの話である。


「いろいろ、失礼致しました。情報国家の国王陛下と大神官猊下の対談の場に立ち会わせていただく栄誉、承ります」

「そんな大仰なものではありませんよ。私たちは、ただ会って、()()()()()()()()ですから」


 世間話でわざわざオレを立ち会わせる理由はない。

 多分、栞やその左手首に取り憑いている神の話になるだろう。


 だが、恐ろしいことに、大神官は光らない。

 多分、本人としては、本気で世間話だと思っている。


 まあ、大神官基準では、神の話も世間話に……、いや、やっぱり感覚がおかしいだけだ。

 神の話なんて普通は日常会話に割り込んでこない。


 似たような感覚を持っているヤツらもいるけれど、それは神力所持者であるという共通点があるから仕方ないということにしておこう。


「ですから、九十九さんも好きな時に会話に参加してくださいね」


 無理だ!!

 口を挟める気がしない!!


 相手は大神官と中心国の国王だぞ?

 どれだけ面の皮が厚ければ、そんなことができるのか?


「努力はします」


 だけど、逃げようとも思わない。

 少なくとも、目の前にいるこの大神官は、オレにはそれができると思っているのだから。


 そのためには期待に応えてやる!


 オレが強くそう思うと、それが伝わったのか、大神官は微かに笑みを浮かべたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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