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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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神を引き剥がす方法

「『封印の聖女』はただ、運が良かっただけ。私はそう思っております」


 はっきりとそう告げる大神官の言葉に迷いはなかった。


「運が……?」


 だが、運だけで、世界中の誰もが成し得なかったことができるだろうか?


 伝承によると、その「大いなる災い」に立ち向かったのは一人や二人の話ではないのだ。


 軍隊……、それも大軍を派遣した国もあったらしい。

 それでも、誰一人還ってこなかったのだ。


 それだけでも、その存在が脅威だったことが分かる。


「まず、その神は、仮初の器に収まっていました。そのため、神体(うつわ)神気(いしき)の結びつきが弱く、それらは簡単に引きはがせたことでしょう」


 そうなのか?

 そんな話は聞いたことがない。


 いや、伝承のほとんどは突如として現れた災いとしかないのだ。

 その発生理由、原因、状況など、詳しく調べたこともなかった。


「そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が傍にありました」

「水差し……、ですか?」


 何の話だ?

 しかも、魔法国家の王族の魔力?


「この辺りの話は栞さんならご存じでしょう。あの方は、恐らく誰よりも『封印の聖女』のことに詳しいようですからね。それ以外ならば、魔法国家の縁者も、もしかしたらご存じかもしれません」


 栞も知っているなら、神話系かと思ったが、違うらしい。


 アリッサムの縁者……、水尾さんか真央さんのことか。

 魔法国家の王族の魔力とも言っていたからな。


「ですが、今回は神気(意識)は、闇の大陸神の加護を受けた肉体(うつわ)に収まり、ゆっくりと同調していきました。さらに神の欠片(意識)を封印していた水差しも割れてしまったようです。それらのことから、状況は当時よりも悪いと愚考します」

「そうですか……」


 聞くところによると、あの紅い髪に取り憑いている「破壊の神」とやらは、闇の大陸神に連なる系統の神だったはずだ。


 その加護を受けた王族の、しかも、法力を使えるような人間ならば、神との相性も悪くないだろう。


 三年かけてじっくりと、その肉体と魂を侵食していったのか。


 ヤツはその得体の知れない神からいろいろなモノを奪われていく恐怖に三年も耐えた。

 しかも、自死という逃げ道も選ばずに。


 オレにそれができるだろうか?


 無理だな。

 自分が自分でなくなるなんて、耐えられる気がしない。


 あの男は、何故、耐え続けることができたのだろうか?


「そうなると、同じような条件を整えても、再度、封印することは難しいということですね?」

「はい。同じ条件を揃えることも難しいでしょうが、同じ条件であっても()()()()()()()()()()()ね」


 どこかで栞ならできる気がしたが、どうやらそれがかなり難しいことらしい。

 いや、はっきり無理と断言されてしまった。


「既に、肉体(うつわ)に入り込んだ神の欠片(意識)が、その魂にまで侵食しています。そうなると、神の欠片(意識)だけを封印することはできません。神の欠片(意識)自らが離れる意思を持たない限り、()()()()()()()()()()()()()でしょう」


 ああ、()()()()()()()()()だ。

 栞には、あの男の魂ごと封じる覚悟は恐らくできない。


 だから、難しいではなく「無理」なのか。


 例の「封印の聖女」の時は、作り物の肉体にあった神の意識が、今度は、生身の人間に取り憑き、その魂を握った状態なのだ。


 しかも、見も知らぬ他人ではなく、見知った友人枠にいるような相手である。

 相手がどんなにソレを望んでも、栞は全力で拒絶しようとするだろう。


 あの女は究極の我儘なのだから。


「つまり、あの男に取り憑いた神の意識は祓えないということですね?」


 結局のところそういうことになる。

 簡単に祓えて清められるなら、あの男自身がなんとかしているはずだ。


 そして、その取り憑いた神が、シンショク完了目前の肉体を諦めて出て行ってくれるとも思えない。


「いいえ」

「え?」

「神力の宿る肉体へ受肉目前の神の意識を、引き剥がす方法が全くないわけではありません」


 だが、大神官はあっさりとそう告げる。


「勿論、その手段はあの方自身もご承知です。尤も、()()()()()だと笑っていましたが」


 それだけ難しい手段と言うことか。


「一つ目は、あの方の魔力、法力、神力のいずれかが、中にいる神の欠片(意識)を一瞬でも超えることですね」

「それは……」


 一瞬でも神を超えるなど、人間には無理と言うことではないだろうか?


()()()()()()()()()()()()()()()すれば、あの方なら可能なことではあります」

「ぶっ!?」


 い、今、聖職者の口からとんでもない言葉が出てきた気がする。

 こらえきれずに、思わず、吹いてしまった。


「あの方は、現時点で、高神官並の法力の才をお持ちです。邪道ではありますが、一部の神官たちが言うところの、『穢れの祓い』を行えば、間違いなく、今の私を超えることでしょう」

「高神官……並?」


 あの男、そんなに法力の才があったのか?

 なんで、そのまま神官にならなかったんだ?


「正神官に上がる前には必ず、出身大陸の確認をされるためか、そこで還俗する方が近年、増えているのです。どの大陸神の加護があるかで分かってしまいますからね」


 オレは顔に出してしまったのだろう。

 大神官が困ったような顔をしながらそう教えてくれる。


「あ……」


 ヤツはミラージュの人間だ。

 だから、その出自を明かせず、下神官で還俗したってことか。


 そして、同時に、あの男は誰かに性的暴行を加えてまで自分が助かりたいとは思っていないことになる。


 まあ、この大神官相手ににそんなことをできる気がしないというのもあっただろうが。

 現時点では上回っていないのだ。


 しかも、男同士だからな。


 だけど、単純に神力所持者だというのなら、栞も該当する。

 ああ、だから、栞もあの男もそんな話をしていたのか。


「二つ目の方法としましては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことですね」

「はっ!?」


 さらに思わぬ方向からの話が出された。


「栞さんとあの方に宿っているのは、偶然にも同一の神です。栞さんの魂を得ることができれば、満足して、あの方から離れる可能性が高いでしょう」

「つまり、主人が犠牲になれば、あの男が助かる……と?」

「勿論、それは即座に拒絶されました」


 それはそうだ。

 あの男が、今更、我が身可愛さに栞を犠牲にするとは到底思えない。


 だが、一体いつ、この方は、あの男とそんな話をしたのか?


「何より、それは肉体(うつわ)から神の欠片(意識)を引き剥がすことができるだけで、根本的な解決にはなりません。栞さんの魂を手にし、あの方から離れた後は、人界の破壊活動を再開するだけでしょう」


 だが、それでは意味がない。

 六千年前の「封印の聖女」が行った偉業すら無意味なものに為り変わる。


 いや、六千年間も時間稼ぎしたのだから、本当の意味では「無意味」とは言わないのだろうけど。


「尤も、人界の破壊が六千年前に起きるか、今から始まるかの違いでしかありませんが」


 そう言いながら、大神官は薄く笑った。


 最近、この方はオレの前でこんな笑みを見せることも、増えた気がする。

 これも、全くもって嬉しくはないが。


「それ以外の方法としては、()の神を超える神に引き剥がしを願うことでしょうが、それも現実的ではないでしょうね。神は人間のために動くことはないですし、()の神を超える神というのも、そう多くありませんから」


 それは、毒を以て毒を制すというやつか。


 だが、神は人間のために動くことはない。

 人間とは求める対価の種類も規模も違う。


「そして、最も実現不可能な方法となりますが、全世界が同時に動くことでしょうか。大陸神の加護を受けた王族たちが同時に願えば、流石に一神の欠片(意識)ぐらいならば、その身体(うつわ)からずらすことはできるかもしれません」


 確かに実現不可能な方法だ。


 どんなに世界が危機に陥ったって、あの男一人のために世界は動かない。

 その利が目に見えて分からない限り、誰も納得しないからだ。


「既に封印が解けてしまった以上、()の神が再び活動することは避けられません。ですが、そのたびに、この人界で動くための肉体(うつわ)を必要とします。あの方を殺しても、また次の肉体が選ばれるだけでしょう」


 だが、取り憑いている男を殺すことで、一時的にその神の動きを止めることができるならば、寧ろ、積極的にそう動くだろう。


「『封印の聖女』もそれを避けたかったのでしょうね。神が受肉するための肉体(うつわ)として、選ぶのは、()()()()()()()()()()()であることは理解していたようですから」


 例の「封印の聖女」は、()()()()()がいたらしい。

 そして、その王族は神を討ち滅ぼすために兵を率いて乗り込むところだったとも聞いている。


 受肉先に選ばれたら、その未来はない。


 神に魂を侵され、意識も肉体の主導権も奪われた上、その肉体も人類共通の敵(大いなる災い)と見なされることになる。


 それは、全力で止めたいだろう。


 だからといって、その恋人の先回りをした上で、自分が封印するって発想は、どこかの「聖女の卵」のようで、凡人のオレには理解しがたい部分があるのだが。


 だが、この先、どこをどう進んでも、どんな選択をしても、誰も救われないことは分かる。

 平穏な生活など、あと、数年ぐらいしか得られないのだ。


 それを、人類の、ほとんどは、知らない。


 その事実にゾッとしてしまう。

 それらの全てが、自分の主人の肩に乗せられ始めていることも。


 いくら何でも、過積載だ。

 王族であり、聖女であっても、抱えられるものではない。


「ところで、九十九さん」


 考え込んでいたオレに対して大神官が再び声をかける。


「貴方からの報告を伺い、雄也さんからの報告書を読ませていただいた上での提案となるのですが……」


 その青い瞳はオレを真っすぐ捉えて……。


「九十九さんは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんなとんでもないことを言ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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