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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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【第125章― 国の繚乱 ―】報告の下準備

この話から125章です。

よろしくお願いいたします。

「さて、栞ちゃんを迎えに行くわけだが、問題は、何処にいるか……だな」

「セントポーリアだ。それは間違いない」


 兄貴の言葉にオレは断言した。


 かなりぼんやりとした感覚だが、栞はその方角にいる。

 はっきりとしないのは多分、距離があるせいだろう。


 前のように、また仮死状態となって、魂だけ聖霊界に連れて行かれたとかではなくて良かったと思う。

 そうなると、オレでは感知できなくなってしまうから。


「セントポーリアにいることは俺も想定している。普通に考えれば、最も彼女が回復するのはセントポーリア城内だ。だが、国王陛下やチトセ様から何も知らせがないなら、そこにはいないと考えるべきだろう。そうなると、城下の森にいる可能性が高いな」

「ああ、栞がいるなら、セントポーリア城下の森だと思う。普通の王族はともかく、栞は城よりもあちらの方が、親和性が高そうだからな」


 それは、昔から思っていたことだ。

 シオリは、城の中にいる時よりも、あの森で転がっている方が、魔法力の回復が早い、と。


 それは僅かな違いではあったのだろうが、大きな魔法を連発して、魔法力が枯渇しかかっていた時などは、その差が大きく出る。


 幼い頃のシオリは、当然ながら、今ほど魔法力がなかった。

 だから、魔法を連続で使うだけでかなり消費し、消耗も早かったのだ。


 今の栞が規格外に育ってしまっただけで、あの当時のシオリは幼児というだけで、そこまで人間の枠外に飛び出していなかった。


 本当に、今の栞が、普通の、王族の範囲内に、留まっていないだけで、あの当時は、まだ、マシだったのだ。


 時間があれば、魔法力が減って倒れたシオリをそのまま暫くの間、城下の森で転がしておけたが、時間がない時は、シオリを背負って城に戻るしかなかった。


 勿論、あの当時、オレや兄貴、ミヤドリードはともかく、シオリとその母親のチトセ様が城外に出ることは許されていない。


 だから、外に連れ出した時は、シオリの姿を隠した上で、兄貴が背負って戻っていたことを思い出す。


 筋力や体格的にあの当時のオレでは、意識のないシオリを背負うことをミヤドリードが許さなかったのだ。


 まあ、今のオレならばその判断は当然だと思うが、当時のオレは納得できず、(むく)れていたことを思い出す。


 その場で背負うことぐらいはできた。

 そこまで体格に差があったわけではない。


 人間界の幼児たちだって、5歳ぐらいならば、互いに背負うことぐらいはできる。


 だが、自然な足取りで動くことができなかったのだ。

 どうしても、歩みは遅くなるし、よろよろと酔ってもないのに千鳥足になったから仕方ない。


 まあ、今では念願叶って、当人からも抱き抱えることを許されるようになったのだから良いのだけど。


「城には、陛下に報告を兼ねて行く予定だが、セントポーリア城下の森にいない時はどうする?」

「セントポーリアまで行けば、オレの感覚で分かるだろう」


 この距離でも栞の存在がはっきりと分かるのだ。


 同じ大陸、同じ国にいれば、特殊な結界内にいない限り、オレにその場所が分からないはずがない。


 万一、考えている城や城下の森にいなくても、セントポーリアまで行けば、栞の居場所はすぐに分かるだろう。


「相手はあの『人類の天敵』だが、そんなに容易と思うか?」

「あの人は『人類の天敵』かもしれないが、栞にとっては味方だよ」


 少なくとも、オレはそう思っている。


 本当に敵なら、あの場に現れない。

 助けたいなら、2,3日預かるとも言わないだろう。


 普段は、各国に見つからないように、その姿を晦ましているような人なのに、わざわざその姿を見せてくれたのだ。


 そこで疑う理由はなかった。


「栞を揶揄うことはあったとしても、栞が本当に困るようなことはしないだろう」


 この時のオレは本気でそう信じていたのだ。


 実際、再会した時は、栞も、オレたち兄弟も、3人して本気で困ることになるとは思いもしなかった。


 いや、もしかして、あれは揶揄いの範囲だったのか?

 だが、栞があんな状態、状況なんて、この時点では誰も予想できるわけないと言い訳はしたい。


「国王陛下には先触れを出している。それと、大神官猊下にも今回の経緯と結果は、先に報告しているが……」

「じゃあ、オレが大神官猊下に直接報告する。兄貴は大神官猊下に挨拶した後は、すぐにセントポーリアに行って、国王陛下と千歳さまに、現在の状況説明をしておいてくれるか?」


 兄貴が言い終わる前に、オレはそう言った。


 今回のことは、ちゃんと専門家(大神官)の意見も聞いておいた方が良い。

 神が絡んだ話など、オレたちだけの手に余るだろう。


 そこで時間を使うことになるだろうが、少なくとも、その時間は無駄にはならない。


 だが、国王陛下の方にも早めに報告しておく必要がある。

 自分の娘が絡んだ話なのだ。


 先に報告書を送っていても、セントポーリアに行くと決まっているのだから、直接、報告されるのを待っているだろう。


 そうなると、変に待たせるより、早めに報告した方が絶対に良い。

 だから、今回は、オレと兄貴が別々に行動するべきだと思った。


「大神官猊下にお前が直接、話を伺いに行くのか?」

「その方が早いだろ? オレだけでは判断ができない時、どうにもならない時は、後で報告書くから、そのフォローは頼みたい」


 いつものように兄貴に全部任せるよりはその方が良い。


 報告の精度は変わってしまうかもしれんが、その辺りは、兄貴が伝えたいことを纏めてくれれば、なんとかなるだろう。


 オレのセントポーリア国王陛下の対応は、兄貴が報告した後、栞を迎えに行く前に、挨拶だけすれば良いはずだ。


 まあ、フォローを頼まなければいけないのはちょっと情けないが。


「……分かった。正直、助かる」

「助かる?」


 意外な言葉を聞いて、思わず聞き返す。


「俺よりお前の方が、大神官猊下との相性が良いからな」

「そうか?」


 相性については、似たようなものだと思うが。


 しかも、オレは最近、あの方から半殺しの目に遭っている。

 それで、相性が良い?


 兄貴の感覚が分からなかった。


「それならば、今から、大神官猊下に手渡すための報告書を上げる。お前も国王陛下への報告書を仕上げろ」

「時間は?」

30分(半刻)。それ以上は待たん」

「分かった」


 兄貴にしては、時間をくれた方か。


 その場に座って、すぐ様、先に書いていた報告書を書き直していく。

 兄貴が直接、報告するなら、完全に別視点から見た事実だけを書けば良いだろう。


 余計なことは書かない。


「これを、大神官猊下に渡してくれ」

「おお」


 先に書きあがった兄貴の書類を受け取る。


「後で読んで良いか?」

「一度も目を通さずに、大神官猊下からの質問に答えられるならば、読まずに渡せ」


 つまり、先に読んでおけということらしい。


「お前の方は?」

「あ、後……、せめて3分(二十分刻)くれ」

「分かった」


 兄貴は15分(四分刻)で書き上げた。

 オレが大神官猊下へ直接、報告すると思っていなかったのだから、書き直す条件はほぼ同じだ。


 それでも、それだけの差がある。


「後ろの方、字がかなり雑になっているぞ」

「覗くな!!」


 オレの字が汚いのは今に始まったことではない。


 それに、そんなことは国王陛下も知っているので問題ない!!

 ……問題しかない。


 兄貴みたいに早く丁寧な文字にするのはどうしたら良いのだろうか?


 その兄貴だって、メモの字はお世辞にも綺麗とは言えない。

 だが、報告書になると、別人が書いたかのような文字に変わるのだ。


 兄貴を見ると、オレに字の注意をした後、さらに何かを書きつけている。

 オレを待つ間の時間も無駄にしない。


()()

「おお」


 そして、オレが見ていることまで気付いているとか。


 悔しいが、オレはまだまだ兄貴に及ばない。

 兄貴はオレがいなくても、自分で全てなんとかできるだろうが、オレはまだ兄貴の手が必要だ。


 これでは、確かに未熟者扱いされるのは仕方ない。


 だから、オレはオレなりに頑張るしかないのだ。

 今は、兄貴という指針がいるが、いつまでもいるわけではない。


 いつか、いなくなった時、自分の足で立てるようにしなければならないのだ。


 まあ、それはまだ当分、先の話なのだろうけど。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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