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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界旅立ち編 ~

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紅い珠のアミュレット

「さっき、ちっさな嬢ちゃんを連れとったやろ? その子に一つ、どうやろか?」


 そんな風に話しかけられて無視できるほど、オレは大人でもない。


 高田を待っているちょっとした時間つぶしの意味もあって、少しその商人の机を見た。


 なるほど……、魔除けやお護りであるアミュレット。

 そして、護符であるタリスマンが並んでいる。


 単なるアクセサリーではなく、それらを取り扱っている店らしい。


 オレでも分かるぐらいのちゃんとした法力を感じる辺り、ここにあるものは紛い物ではなさそうだ。


 正統な神官が法力を込めたもので間違いはないだろう。


 なんとなく、その中の一つ……、紅い珠が3つついたブレスレット風のアミュレットを手にしてみる。


 並んでいる品々の中でも、これは別格の光を放っている気がした。


「お。なんや、兄ちゃん。目のつけどころがちゃうな~。それはこの店の中でも一番の物や」

「いくら?」


 言われるままに支払う。

 少し値切ろうかとも思ったが……、なんとなく止めた。


 これは値切って良い代物じゃない。


 寧ろ……、かなり安くされている気さえした。


 本当にこの価格で買って良いのか迷うぐらいに。


「まいど、おおきに! 兄ちゃん、ほんまにええ買い物したで。包装はサービスや!」


 その商人は最後までその姿勢を崩さなかった。


 ジギタリスの言葉は、その文字を含めて基本的に同じ大陸であるセントポーリアと差はないはずだ。


 流れの行商人の可能性もあるが、それにしたって聞き覚えのある言語過ぎる。


 考えられるのは、あの商人風の男が、人間界のその場所に行ったことがある人間であるということだと思う。


 彼は商人を装ってはいるけれど、他国に滞在しなければならなかった身の上……、つまり、どこかの国の貴族以上である可能性が高い。


 まあ、オレが知らないだけで、他の国の言語である可能性もあるわけだが。


 しかし、それを追及することはできない。

 そこを追求するということは、自分も人間界にいたことを自白するようなものだから。


「どうしたの?」


 考えごとをしていたオレの目の前に、いきなり黒髪、黒い瞳の少女が現れた。


「うわぁ!?」

「な、なに? どうしたの?」

「わ、悪い……。考え事をしてた」

「ありゃ。じゃあ、声をかけたのは悪かったかな?」

「いや、大丈夫だ」


 思わずボーっとしていたようだ。

 だが、今、先ほどの商人のことを深く考えても仕方はない。


 後で兄にでも報告しておこう。


 ありえないとは思うが、王子の命を受けたセントポーリアの貴族とも限らないわけだから。


「何か良いものがあった?」

「ん?」


 高田が指差したのはオレが手にしていた包み紙。

 魔界の包装には珍しく赤いリボンなんか付いている。


 この辺りも、どこか人間界っぽい気がした。


「ああ、アミュレットの良いのがあってな」

「……魔界にもアミュレットはあるの?」

「アミュレットを知ってるのか?」


 なんか意外だ。

 彼女には魔界の知識なんてほとんどないはずなのに。


「あんまり詳しくはないけど、アミュレットはお守りでしょ? チャームもお守りの意味があった気がするけど……」

「タリスマンについては?」

「護符じゃなかったっけ? いまいちその辺の区別はついてないけど……」


 それでも、基本的な知識はあるようだ。


「アミュレットはお守りで間違いない。主に物理や魔法防御、抵抗を上げるものだ。チャームはその力の源となるものだな。魔石とかがわかりやすい。タリスマンは護符……物理攻撃、魔法攻撃を増強すると言われている」

「詳しいね」

「その辺の知識は一通り兄貴に叩き込まれたからな」

「そういや、人間界でも天然石の話をしたっけ」


 高田は腕を組みながら、何かを思い出して頷いている。


 オレとしては詳しくなくても、彼女がそんな知識を少しでも持っていたことの方が驚きだった。


 確かに人間界でそう言った言葉はあることは知っていたが、オレはそのことについて深く気に留めなかった。


 単に似た言葉で、意味は違うだろう、と。


「やる」

「へ?」


 先程買ったものを押し付ける。


 良い物だったが、元々自分用に買ったわけじゃない。


「お前は無防備だから魔法防御を上げておかないとな」

「魔法防御を上げる装飾品の装備品か~。なんだかRPGみたいだね。ここで、開けても良い?」

「お前にやったのだから好きにしろ」

「うわ~、どんなのだろう?」


 どこか嬉しそうに高田は笑いながら、中身を取り出して……。


「…………」


 何故か無言になった。


 趣味じゃなかったか?


「どうした?」

「い、いや……、これって結構高いもんじゃないの?」

「安くはなかったな」


 かなり、安くはされていたとは思うが。


「そんなのもらっちゃって良いの?」

「質は確かだと思ったが……、気に入らないか?」


 気に入らなくても今後のためには身に付けてほしいのだが……。


 さっきみたいにオレがついていけない場所に行く時だってあるわけだし、少しでも彼女の護りとなる保険は多い方が良い。


「……九十九や雄也先輩って結構、お金を惜しまないよね」


 溜め息を吐きながら彼女はそう言った。


「悪い物を買って損するわけにはいかんだろ?」


 こう言ったものに金を惜しんで、大事な時に仕事をしてくれないような効果のない飾りを持っていても仕方がないと思う。


 尤も同じ商品なら、特売品も嫌いではないが。


「そう言えば、グロッティ村で雄也先輩から買ってもらったハンカチも石が付いてたからか妙に高かったし……」


 そこで、彼女は動きを止めた。


「どうした?」

「……ああ、もしかしてアレもそうだったのか」


 どこか遠い目をして高田はそう呟いた。


「?」

「いや、何でもない。九十九の気持ち、ありがたくいただきます。自分が足手まといなのは間違いないしね」


 そう言いながら、彼女は早速左手首にアミュレットを付けた。


 紅い珠が3つ、キラリと光ったのを確認する。


 身に付けた瞬間に光った辺り、どうやら、彼女との相性は悪くなさそうだ。


 ある程度効果が見込まれる装飾品は、装備する際、所持者と相性が悪ければ色がくすんで効果がなくなってしまうこともあるらしい。


 オレは今までにそんな状態のものを見たことはないが、兄貴がそんなことを言っていた。


「似合う?」


 高田が嬉しそうに手首を見せる。


「無難なデザインだからな」


 付いていた法石の効果しか気にしていなかったが、一般的な装飾品としては地味な部類に入るだろう。


「赤色……インカローズかなあ?」


 人間界の天然石の名を口にした。


 しかし、彼女が手にしているのは残念ながら天然石ではなく人工的に作られた物だ。


 それに……、恐らくはそれ以上の効果があると思われる。


「ロードクロサイト、菱満俺鉱(りょうまんがんこう)より、人間界で言うなら紅玉(こうぎょく)に近そうな気がする」

「……色々、突っ込みたいけど、紅玉って確か、ルビーのことだよね?」

「そうだが?」

「大事にさせていただきます」


 高田は深々と頭を下げた。


「実際のそれは紅玉じゃないと思う。……お前に分かりやすく言うと模倣宝石の中でも人造宝石が近いか」

「イミテーションってこと?」

「勿論、ガラスじゃないけどな。魔界では天然石以外にも色々あるんだよ」


 人間界ではガラスとか安い物質でそれっぽく作る人造宝石や化学合成による人工宝石があったが、魔界人には天然石に魔力や法力を込める方法や、魔力や法力だけで石を作り出すという技術がある。


 「魔力珠(まりょくじゅ)」、「法珠(ほうじゅ)」と呼ばれるのがそれだ。


 そして……、今、彼女に渡したのは法珠が付いた装飾品。


 さすがに百パーセント法力ではないだろうが、それに近い純度のものだと思えるほどのものには見える。


「ああ、魔石ってやつ?」

「込められているのは魔力じゃなさそうだけどな。どこかの神官が巡礼中に法力を込めたんだろう」


 巡礼中の路銀の足しにそういった行いをする神官もいると聞いたことがある。

 これもそんな経緯があるのだろう。


「法力国家に行く前にそんなものが手に入るなんて縁起が良いね」


 どの辺りで縁起が良いと思ったのかはよく分からんが……、確かに考えようによっては法力国家に向かう前に法力関係のものが手に入ったのは悪いことではないのだろう。


「このお護りは魔法防御とかしてくれるってことで良いのかな?」

「店員からの説明は特になかったけどな」


 その辺りもあの商人が商人らしくない部分だと思われる。


「他にもあった?」

「ああ」

「へ~、どこの商人さん?」

「すぐそこの……」


 そう言いかけて気付いた。


 オレが先ほど買い物した場所には誰もいないことに。


「九十九?」

「……もう店じまいしたみたいだな。いなくなってる」

「これから稼ぎ時っぽいのにね」


 確かに……、先ほどよりは人が増えている気がする。

 昼飯の時間も終わり、人の流れが変わったせいか、取引が活発になったというか……。


「他には何かある?」

「あ~、食材を見たいな。あとは調味料」

「わたしは特にないから付き合うよ」

「おう、悪いな」


 そう言って、指定された時間になるまでオレたちはいろいろと見て回った。


 その途中、彼女は先ほどのアミュレットがかなり気に入ったのか何度も手首を見ては笑みを浮かべていた。


 確かに少々値が張るものでもあったのだが、そこまで気に入られたのは素直に嬉しい。


 この時のオレは暢気にそんなことを考えていたのだった。

関西弁については、突っ込みはなしの方向でお願いします。

次回更新は本日18時予定です。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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