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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 護衛兄弟暗躍編 ~

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追加された時間

「まあ、アレが止まらないのは昔からか。そして、あんたが止めずに背中を押してしまうのも」


 紅い髪は大きく息を吐きながら、知ったような口を利く。


「俺よりもあんたの方が絶対に難儀……、いや、これはただのドMか?」

「人を被虐趣味があるように言うなよ。失礼なヤツだな」

「今更、あんたに礼を持って接しても無駄だろ?」


 言われてみればそうだな。


「確かに気味が悪い」

「あんたも十分、失礼だと思うが?」


 そう言いながらも、紅い髪は笑った。


「ところで、左半身は無事か?」


 目の状態以上に、気になっていたことを聞いてみる。


 栞が命懸けで使った魔法。

 それが、無駄だったとは思いたくない。


「どうだろう?」


 紅い髪は首を捻りながら、左袖をまくり上げた。


 先ほど、栞との会話中に見せていた黒い変な痣は見当たらなかったが、紅い髪は顔を顰める。


「見た目には消えてはいるようだが、やはり気配は残っている。暫く経てば、また元に戻るだろうな」


 そう言って、大きく息を吐いた。


 その気配とやらは、オレには分からない。

 見せられた左腕は、普通の男の腕にしか見えなかった。


「暫くとは?」

「分からん。これまでの封印とは質が違うようだからな」


 紅い髪は困ったように笑った。


 質が違う?

 法珠を使っていたことから、オレが昔やったのと同じだと思っていた。


 そして、これまでの話から、この男は大神官からもその身体にあるシンショクの封印を受けたことがあると思っていた。


 つまり、魔法と法力の封印をその身体で試しているのだ。

 それらと今回は何が違う?


「オレが前に渡した珠はどうした?」

「とっくに使い切った。中身はもう空っぽだ」


 大神官から頂いた法珠。

 少し前、この男にそれを渡した。


 この男は法力を扱えるらしいから、オレが使うよりも効果が高かったはずだ。


 それでも、もう使い切ってしまったってことは、その身体に宿る神の封印にそれだけの法力(ちから)を必要としたってことか。


 それは、人類最高峰の法力の使い手である大神官ですら太刀打ちできないということでもある。

 そして、栞の左腕にも似たようなモノが宿っているのだ。


 ―――― 神の執心(シンショク)


 なんて厄介なことだろう。


「まあ、先ほど俺の残り時間は再度、引き伸ばされたことは確かだな。サッカーで言う試合延長時間(ロスタイム)……、いや追加(additional)時間( time)ってやつだ」


 自分の左腕を見ながら紅い髪は笑った。


 オレはこの男のこんなところが嫌いだ。

 全てを諦めたような、軽々しくその命を投げ捨てるようなところ。


 こんなヤツのために、栞は命を懸けたと言うのに。


「なんだよ?」


 オレの視線に気付いた紅い髪は、嫌気が差したようにこっちを見る。


「改めて、オレはお前のことが嫌いだと認識しているだけだ」


 そこを誤魔化す気はない。

 紅い髪は、一瞬だけ、呆気にとられたような顔をしたが、すぐにククッと笑いを漏らした。


「正直で何よりだ。俺もあんたのことは嫌いだよ」


 ―――― ()()()()


 思わず、そう言いたくなったが、黙った。


 これがヤツの本音なら、今、()()()()()に、オレは気付かなかったことにするべきだから。


 ああ、そうか。

 オレに絡むのもそんな理由だったのか。


 ―――― でも、そんな不憫な笹さんも俺は好きだよ、愛してる


 別の声色で似た男の言葉が蘇る。


 あの言葉にも嘘はなかった。


 余計な言葉まで思い出してしまったが、不憫さで言えば、どう考えたって、この男たちの方が上だろう。


「特殊な封印だ。無駄にすんな」


 オレがそう言うと、紅い髪にも意味が伝わったらしい。


「確かに無駄にしたくはないな。これは『愛』だろ?」


 そんなムカつく言葉を返しやがった。

 確かにそこに「(強い想い)」はあるのかもしれない。


「そうだな。ただの『友愛』だ」


 同じ立場なら、この男だけでなく、オレでも兄貴でも栞は同じことをするだろう。


 いや、水尾さんや真央さん、若宮にだってやると思っている。

 下手すれば、トルクスタン王子や、そこで倒れている婚約者候補の男にもやるかもしれない。


 だが、それは栞が自分の命を軽く扱っているわけじゃないのだ。


 単に他者の命が重いだけ。

 自分の目の前で命の火が消えようとするのを黙って見ていられないだけだ。


 そこで、自分に救う手立てがあれば、僅かな可能性でも、賭けようとしてしまう。

 その魂の在り方が、栞が「聖女」たる所以なのかもしれない。


「あんたのそういうところがムカつく」

「それなら両成敗だな。オレもお前のそういう所にムカついている」


 この紅い髪は、分かりやすいオレの牽制に苛立ちを覚え、オレはこの男の分かりやすい煽りに腹立っているのだから。


「まあ、精々、抗うさ。せっかく、もらった命……、いや、愛だからな」

「わざわざ言い直すなよ」


 ホントにムカつく男だな。


「お? 気付いてないのか?」

「あ?」

「俺の左手に、あの女の()()()()()宿()()()()()

「あぁああ?」


 ニヤニヤと笑ってその左腕を見せながら、そんなことを言われた。


 そんな分かりやすい煽りに思わず反応してしまうこのオレの未熟なことよ。

 兄貴からの説教項目が追加された気がした。


「魔法ってのは、そういうことだろ? 特にあの女の想いは普通のモノよりも強くて長い効果があるようだからな」


 その言葉で気付かされる。


 魔法は想像と創造から成り立ち、そこにある根底は強い願いや想いである。


 特に栞の想い(願い)は強すぎる。

 普通の他者強化があれだけ長時間で、強力なモノなど、ありえない。


 あの「音を聞く島」でやっていた温室効果の結界だって、本人が寝ている時も継続され続け、数日間保たれたのだ。


「あの女の()()()()()()()は世界一だからな」

「……ここで、その返しかよ。でも、全く否定できねえ」


 どうやら、栞に対する印象は似たようなものらしい。

 特定の誰かに対する強い想いなら、「愛」でも良いだろう。


 だが、違う。

 彼女の魔法(ちから)の源は、強すぎる思い込みなのだ。


 できるからできる。

 できないものはできない。


 それがあまりにも、はっきりしすぎていて、普通の魔法は使いにくく、挙句、独自魔法を作り出してしまった。


 その結果、友人たち相手にも多大な効果を発揮している。

 ある意味、途轍もないほどの自信家だと言えるだろう。


「それなら、これまでで一番の効果がありそうだな」


 そう思うと笑えてしまう。


 あの女は神にすら勝つ気でいるのだ。


 ほとんどの人間はそれが無謀だと知っている。

 あの大神官ですら。


 だが、栞はそう思わない。

 これほど強気な人間もいないだろう。


 何も知らない、無知なわけではないのだ。

 寧ろ、オレたちよりもその脅威を知っているかもしれない。


 それでも栞は思うのだろう。


 ―――― 自分の想いは神にも負けない!!


 と。

 その思いの強さは一体、どこから来るんだろうな?


「締まりがねえ顔だな」

「あ?」

「女のことを考えて緩んだ顔してやがるって言ったんだよ」


 紅い髪に言われて考える。

 だが、これは女のことを考えていたっていうか……。


「あの女のこれまでの()()を思い出して、笑わない人間なんているのか?」

(しょ)……っ!?」


 オレがそう言うと、紅い髪は何故か絶句した。


「これまで、オレがどんな思いをしてきたと思っているんだ? もう笑うこと以外できねえよ」


 再会する前も再会してからも、呆れるぐらいオレを振り回す女。


 少し前に見た、この国の国王との円舞曲(ワルツ)なんかよりも、もっとずっと振り回し、ふっ飛ばされ、叩きつけられてきた。


 肉体的にも精神的にも。

 本当に笑うしかない。


「言われてみれば、かなり苦労してるよな、あんた……」


 さらに要らん同情まで頂いてしまった。

 そして、嬉しくはない。


「その辺りもお互い様だ。()()()()()()()()をお前が背負っているっぽいからな」


 オレがそう口にすると、分かりやすく眉間にしわを寄せた。


 別に嫌味を言ったつもりはない。

 オレや兄貴ではミラージュの事情や都合なんか分からねえ。


 だが、この男は違う。

 恐らく、知らない所で、栞をミラージュの悪意から護っている。


「そんなものを背負った覚えはない。あんたの気のせいだ」


 ぶっきら棒にそう言いながらも、()()()()()()()()()()()()男を、オレはなんとも言えない気持ちで見ることしかできないのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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