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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 異世界旅立ち編 ~

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資源事情

 目的の両替商人はすぐに見つかった。


 オレは懐から所持金の一部を取り出してセントポーリアの通貨とジギタリスの通貨を交換する。


 有り金を全部出す気はない。


 今後も他国で両替を利用する際、中心国であるセントポーリアの通貨の方が両替しやすいのだ。


「それって九十九のお小遣い?」

 近くにいる高田が素直な疑問を口にする。


「自分の小遣いと……、一部は兄貴の所持金だな。主に食費に使う」


 正確には食費以外にもいろいろな雑費も含まれているのだが……、オレが一番多く使用するのは食材だった。


「わたしも雄也先輩からお小遣いは貰ったのだけど……、使い道があまりないんだよね」

「……水尾さんみたいに本は? お前、好きだろ?」


 オレは人間界でのこの女の部屋を知っている。

 驚くべき漫画の量と、それ以外にも分厚い小説っぽいものもあったはずだ。


「それには、ちょっとした言語障害が……」

「ああ、なるほど」


 本来の使い所とは若干異なる言葉だが、なんとなく言いたいことは分かる。

 読めない言語が並べられた本を買い込むほど、本が好きではないということか。


「……服とかは? 女はそう言うのが好きだろ?」

「わたしの洋服は、必要な分は与えられているからな~。あれ以上買うのも勿体無い」


「アクセサリーとかは?」

「壊しちゃいそうで買えない。昔、おもちゃのネックレスを身に付けていたことをすっかり忘れて着替えの際に引きちぎっちゃったことがあってね。それ以来、買ってない」


 装飾品を壊してしまうから買えないという理由は初めて聞く気がする。


「化粧品とかは?」

「……遠回しに必要だって言ってる?」


 これまでと違って、少し尖った口調で確認された。


「いや、単純に金の使い道を考えているだけだが……?」

「今のところ必要性を感じない。だから貯めておくかな」


 まあ、確かに。

 下手に化粧はしない方が良いからな。


 オレも化粧については、知識としては兄貴に仕込まれたが、今のところ、使う予定はない。

 まあ、いずれは変装とかで使う可能性はあるのだろうけど。


「じゃあ、両替はしないでおけ。中心国の通貨の方が他大陸でも交換しやすい」

「そうなの?」

「使用頻度の問題だがな。大きい国の方が利用価値はどうしたってあるってことだ」

「……そうなのか」


 大陸全ての物流は、それぞれ中心国と呼ばれる国を軸として巡っているとは兄貴の言葉だ。


 それを考えれば、大陸内の小国よりは、中心国の通貨を持っていた方が都合も良いのは当然だろう。


 別々の大陸にある小国同士の両替ができるかも怪しいのだ。


「銀貨、金貨なのは変わらないんだね」

「金そのものに価値があるのは人間界でも似たようなもんだろう。オレとしては紙に価値があったことの方が驚きなんだが」


 そして、その後……。

 その紙に、国家が持つ技術の粋を集められていたことを知って、さらに驚くことになったのだが。


「……九十九が人間界に来たのって5歳だったよね?」

「? ああ」


 質問の意味がわからずそのまま答える。


「その年齢で貨幣価値を考えられるなんて魔界人って本当に凄いね。日本ではその頃にようやく勉強し始めるってくらいなのに」


 そんなことが凄いだなんて……、考えたこともなかったな。


 生まれて間もなく母親が死んで、その後、父親が死ぬまでにはお金の価値とやらを兄とともに習った気がする。


 実際に自分が手にしたのはもっと先の話になるが。

 それが3歳ぐらいまでの話。


 なるほど……、確かに人間界の子どもに比べれば少しばかり早いかもしれない。


「魔界には銅貨はないの?」

「他国にはあるかもしれんが……、オレは見たことがねえな」


 そもそも人間界……、日本のように青銅貨、黄銅貨、白銅貨なんて多種類の合金で作っていることそのものが、魔界人であるオレには凄いことだと思う。


 そんな手間を掛けるよりは加工しない鉱物そのものを使った方が良いという魔界の考えはおかしくないことだろう。


 お札にしてもわざわざかなりの工夫をしてまで紙に価値を持たせることは不思議だった。

 この辺りは、保有する資源に対する考え方の違いなのだとは思うが。


「……金貨とかだと魔界人なら複製しやすそうなんだけど」

「なかなか黒いこと考えるな、お前。だけど、鉱物のコピーは難しいらしい」

「そうなの? 魔界人なら簡単に複製できそうなんだけど」

「……と言うよりコピーってことが難しいってことだな。原料があればともかく、何もない状態から同じものを作り出すってことができない」

「魔法も万能じゃないんだね」

「だから、お前は魔法を何だと思っているんだ?」


 この女がどう受け止めているかはよく分からんが、オレから言わせれば魔法は万能の力ではない。


 無から有は作れず。

 その基本は人間界の化学と同じだ。


 原子や分子に少し別の要素がいくつか加わっただけの話。

 それが魔気……と呼ばれる魔力の源だったり、精霊と呼ばれるものだったりするだけだが。


「なるほど、複製魔法が難しいから金貨とかの複製は簡単にできないってことか。……原材料となる金があれば偽造は可能?」


 何故、そこまで偽造に拘るのか分からない。


「銀や金があれば金銭に加工するより、普通に売っ払った方が高値はつくぞ」

「……おおう。それなら偽造に意味は無いのか。なかなか盲点だ」

「いや、お前の黒い考えの方がオレには盲点だったよ」


 金の原材料そのものに価値があるこの世界では考えられない話だ。

 だが、人間界でも偽造されやすいのは紙の金だった覚えがある。


 たまに他国の白銅貨を使った話もあったが、それでは苦労の割に実入りも少なかったことだろう。


「魔界は鉱物資源が多いってことで良いのかな?」

「鉱物に限らず、人間界よりは天然資源が多いと思うぞ。水資源とかとか森林資源とか。人的資源……労働力はかなり負けている気がするが……」


「魔界って人口が少ないの?」

「確認したことはないが、人間界みたいに何十億はいないんじゃねえか」


 セントポーリアの城下だって一万人を超えるかどうかだ。基本的に魔界はそんなに人間が多いわけじゃない。


「なんか意外だね。寿命とか長そうなのに」

「長く生きるやつは長いだろうけど、若くして病死ってのも珍しくねえ」


 実際、オレの両親とかはそうだし。


「病院がないんだっけ」

「加えて、人間界みたいな治療薬ってやつはないな」


 この辺に関して理由は分からない。

 多分、魔界で一定の質が保障されている薬品を作ることが難しいということなのだろうけど。


「……種族として寿命が長いから、増える必要がないってことかな?」

「は?」


 思いもしなかった方向からの話で、オレは一瞬、彼女が口にした言葉の意味が分からなかった。


「いや、病気を治す術はともかく、生物としての寿命は長いわけでしょ? それならば生態系の維持には問題ないわけだよね?」

「人間界の法則を当てはめるならな」

「人間界……っていうよりこの場合、地球だね。地球ほど環境が目まぐるしく変化しないなら進化の必要もなくなるわけで……寿命が長くても、適応できずに種が絶えるって問題がないのかもね」

「……意味が分からん」


 そこまで深く考えたこともなかった。


「生物の寿命の考え方に生物が環境に適応して進化するためってのがあるんだよ」

「遺伝子が劣化コピーしていくってやつか?」

「……違う。確かに数代前のご先祖様と今の自分では複数の遺伝子が混ざりあってしまって完全に別物だけど、それは劣化しているわけじゃなくてその時代に適応させるために変化した結果って考え方だよ」


 違いが分からない。


「時代……、環境に適応……ねぇ。よく分からんが、一般的な魔界人ほど旅行をしない傾向にあるのもその辺にあるってことになるのか?」

「……そうか! 環境の変化に耐えられる可能性の問題……。他国、他大陸の自然環境に慣れることができるかどうかの不安があるから、魔界人たちは無意識に動かない可能性もある」

「……それ、真面目に考えることか?」

「いや、別に」


 オレの問いかけにあっさりと思考を中断させる。


「単に思いついただけ。魔界人っていろいろ不思議だな~って考えていたら、つい、そんな方向にいった」

「不思議だなぁ……から生物の生態系まで考えが及ぶのは兄貴だけで十分だ」


 あの兄の場合は彼女が考えた以上の思考を伸ばしていそうだが。


 先ほどの話にしても、個人的には興味がないわけでもない。

 でも、素人の考えを集めたところで、結論が迷子になるだけだろう。


 そんなことを考えていた時、すぐ横から、思わぬ言葉が聞こえてきたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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