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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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はかりごと

 吸って、吐く。

 大きく吸って、さらに深い息を吐く。


 さあ、行こうか。


「ライト」

「あ?」

「左手を貸して」


 わたしがそう口にすると、紅い髪の青年は露骨に顔を顰めた。


「馬鹿を言え。そんなことをしたら何が起きるか分からん」

「何かが起きるなら、さっきのキスでとっくに起きているよ」


 さらにそう返すと、紅い髪の青年……、ライトはさらにその整った顔を険しくする。


「何を企んでいる?」


 明らかに警戒されている声。


 それだけ、わたしの空気が変わったのか。


「人聞きが悪いな~。さっきのキスのお礼をかまして差し上げようと思っているだけじゃないか」

「この手をぶん殴る気か? そこに意味はないぞ?」

「あなたがそれを望むなら」


 わたしがそう答えると、ライトは大袈裟に肩を竦める。


「この左腕は動いているが、もう痛みも感覚も分からない。ただの飾りだ。だから、本当に意味はないんだ。お前がこの手を握ったところで、俺はその温かさも柔らかさも分からん」


 さらにそんな悲しいことを言った。


「それなら、少しだけ貸してくれても良くない? 意味がないんでしょう?」

「……だが、反発や活性化はあるかもしれん。やめとけ。碌なことにはならん」


 そう言って、ライトは右手を振る。

 まるで、わたしを追い払うかのように。


 だが、そんなことで諦めるぐらいなら、手を離すぐらいなら、わたしはこんな提案をしていないのだ!!


「うん、始めから聞き入れてもらえないことは分かっているんだよね」

「あ?」


 明らかに警戒しているが、もう遅い。


 この距離なら、身体強化していなくてもわたしは飛びつくことができる。

 伊達にソフトボールで何度もヘッドスライディングはやっていない!!


 わたしは、彼に向かって飛びついた。


 えんび服越しでもかなり腰が細いことが分かる。


 いや、これって前より痩せている?

 さっき見た左腕も細くなっていた気がする。


 だけど、そういえば、身体を支えたことはあったし、何度か抱き締められたことはあったけれど、わたしからこんな風に彼に張り付いたことはなかったなと今更ながらそう思った。


「なっ!?」


 わたしがいきなりそんな行動に出るなんて思っていなかったのだろう。

 流石に焦ったような声が頭上から聞こえた。


 この人のこんな声を聞いたのは、リヒトと出会った迷いの森以来かもしれない。

 でも、あの時よりはマシな状況だよね?


「随分、痩せてる」


 思い切ってそう言ってみた。


「全身、泥に蝕まれている人間が食欲旺盛になれるはずがないだろ?」


 つまり、食事もまともにとっていないってことか。

 そして、わたしの問いかけで調子を取り戻してしまったらしい。


「それより、すぐ離れろ。流石に()()()()()()()()()()()()


 そんなことを言うものだから……。


「自分からは抱き付く癖に、わたしから抱きつかれるのは嫌なの?」


 彼を見ながら、そんな言葉を返してみる。


 紫水晶の瞳が驚愕に揺れたのが至近距離だったためにはっきりと分かった。


 ―――― これなら、()()()!!


 そう確信して……。


()()()()!!」


 そう叫ぶ。


「あ?」


 これじゃあ、駄目か。

 変化がない。


 水尾先輩の時とは違うようだ。


 ゾワリと……、背筋に何かが走る。

 蛇に睨まれた蛙はこんな気分だろうか?


 だが、ここで退くなら、始めから無謀な賭けには出ていない。

 この程度で、負けるものか!!


「浄化!!」


 身体を浄めればどうか?

 ……駄目か。


「防護!!」


 身体の守りを強化する。

 変化なし。


「破魔!!」


 基本的な魔除け……。

 駄目?


「護符!!」


 ……あれ?

 今……?


「シオリ!! もういい!!」


 そんな叫びが聞こえる。


 だが、聞き入れない。


 諦めたら、試合終了。

 それを名言だと、いつか、彼もどこかで認めていた。


 だから、わたしは諦めない。


「臨む兵よ、闘う者よ、皆、陳列べて、前に在れ!!」

「……なんで、九字だよ?」

「かっこいいから!!」


 ノリと勢い、大事!!


「祓い(たま)い、清め(たま)え!!」

「それって、そんな急いで言う言葉じゃないよな!?」


 略をしなかっただけマシじゃないかな?


(かむ)ながら、守り(たま)い、(さきわ)(たま)え!!」

「さらに続けるな!!」


 あ、これが続きって分かるのね?


 背中の悪寒が増加していく。

 さらに、わたしの左手から脈打つような痛みがあった。


「もうやめろ!!」


 どこか悲痛な叫び。


 だけど、わたしを突き放すこともなかった。

 いや、寧ろ、さっきより強く抱き締められているような?


 彼からの拒絶はない。

 そして、いくつか並べた言葉で、なんとなく、どれを口にした方が良いか分かった気がする。


 無意味じゃない。

 ()()()()()


 わたしは母の娘。

 そして、その母の生まれは人間界の神社(神職)の娘なのだ。


「祓い(たま)い、清め(たま)え、守り(たま)い、(かむ)ながら、(さきわ)(たま)え」


 本当なら、「大祓詞(おおはらえことば)」が一番良いのは分かっている。


 だけど、わたしはそれよりも短い「祓詞(はらえことば)」すら覚えていないのだ。

 それならば、「略祓詞(りゃくはらえことば)」で行くしかない。


 その分、(祈り)を込める。


 古来より、日本の神話は、同じ神々同士で愛し、争い、屠ってきた歴史すらある神殺しの話。


 そして、祝詞(のりと)は心身の「禍事(まがごと)」や「穢れ」を祓い清める浄化の言葉。


 それなら、星は違っても、神の意思による魂の侵蝕だって浄化できると()()()のだ!!


「祓い(たま)い、清め(たま)え、守り(たま)い、(かむ)ながら、(さきわ)(たま)え」


 何度も唱える。

 それが無意味じゃないと信じて。


 わたしには、思い込みで効力が上がる一言魔法だってある。

 それなら、神すら浄化できると信じるのだ!!


「「祓い(たま)い、清め(たま)え、(かむ)ながら、守り(たま)い、(さきわ)(たま)え」」


 気付くと、もう一つ声が重なっていた。

 わたしを止めるのは諦めたらしい。


 そうだね。

 今のわたしは止まらない。


 それなら、思い(祈り)合わせる(重ねる)しかないよね。


 左手の痛みが酷くなった。

 こっちにも効いている?


 違う。


 この反応は、神の目を欺く「神隠し」が意味を為さなくなったのかもしれない。

 それだけで、こんなに変化があるのか。


 ―――― 助けたいって気持ちだけじゃ、無理なんだよ


 ―――― 相手が、助かりたいって気持ちだけでも駄目


 まだ足りない。

 足りていない。


 それだけは分かる。


 ―――― 互いに全てを懸けるほどの強い想いがなければ、神なんて存在を退けられると思うかい?


 分かっている。

 まだ、()()()()()()()()()()()()()


 だが、足りなければ、()()()()()!!


「恭哉兄ちゃん、ここで使うよ!!」


 そう言いながら、左手を掲げた。


 あの時は神さまへの祈り方なんて知らなかった。

 それでも、法力の結界を破るほどの力が出た。


 だけど、今は法珠の使い方は知っている。

 恭哉兄ちゃんが教えてくれたから。


 何かあったら、()()()使()()と。

 それは、何かが起こることを予想していたということだろう。


 聞いたのは最近、大聖堂に行った時。

 新たに増やされた白い法珠とともに告げられたのだ。


「法珠、天恵(てんけい)


 それは、法珠の神力(ちから)を解放する言葉。


「この惑星(ほし)を創りし神に祈る」


 わたしの声に応えるように、掲げた御守り(アミュレット)が熱を帯びる。


「その唯一無二の御力(おちから)を賜りて、今、ここにその全てを解放する」


 さらに法珠が熱くなっていく。

 左手首に、自分の全てが全て吸い込まれていくような感覚。


 魔力も、五感も、身体、魂までも。


「世界を創りし神より加護を授かった者が、大気に存在する数多の精霊たちに命ずる」


 頭に浮かぶのは銀色の髪をした()()()


 ()()()()コレを想定していた?


 だから、あの時、わたしに加護を授けた?


「人類の魂に取り憑く愚かな意思を引きはがせ」


 わたしはそのまま強く願う。


 お祓いください(祓い給い)お清めください(清め給え)神さまの御力で(神ながら)御守りください(守り給い)幸せにしてください(幸え給え)


 昔、母から聞いた時は何とも思わなかった。

 神仏に縋るなんて、ある意味、他力本願だと思っていた。


 だけど、神仏に縋るのではない。

 足りない御力(ちから)を借りるのだ。


 ―――― ()()()()


 ぬ?

 わたしの意識にナニかが入り込んでくる。


 それが、無理矢理、混ざろうとして気がして、不快に思う。

 

「嫌だから」


 ―――― ()()、拒ムノカ?


「一方的だから」


 ―――― コンナニモ……


 何を言われているのかは分からないけれど、これだけは言い切れる。


「この魂はわたしだけのモノだ。一欠片だって奪わせない!!」


 その勢いのまま、叫ぶ。


大い(Seal by)なる(the)(consider)( able)封印(wind)!!」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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