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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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他人をはかる

「わたしを抱けば、その命が助かるのなら、あなたはどうする?」


 そんなわたしの問いかけに対して……。


「あ?」


 そんな答えを返すのはどうかと思う。


 でも、モレナさまと話した後から、ずっと考えてはいたのだ。

 僅かでも可能性があるのなら、やってみる価値があるんじゃないかって。


 意味はないかもしれない。

 でも、意味はあるのかもしれない。


 だけど、九十九にも雄也さんにもそのことは言わなかった。

 言えば、絶対に彼らは反対することは分かっていたから。


「なんだ? 誘っているのか?」

「そんな風に見える?」

「いや……」


 わたしを揶揄おうとしたのだろう。


 だけど、わたしが問い返したら、彼は口籠った。

 そして、何か品定めをするような瞳を向ける。


「誰に、何を言われた?」

「さあ? 夢か、(うつつ)か、分からない世界だったかな?」


 あれは現実だった。

 でも、夢のような、狐につままれたような時間でもあった。


 誰も邪魔の入らない場所での、聖女(乙女)同士の恋バナ(秘め事)


「どこの誰かは知らんが、余計なことを……」


 だが、それだけでライトは何かを察したらしい。

 暫く、何を思案していたようだったけど、わたしに紫の瞳を向けてこう言った。


「下らん。却下だな」


 どうやら、フラれてしまったらしい。


「俺を見くびるなよ?」

「見くびったつもりはないのだけど……」


 それでも、答えを聞きたかった。


 それがこの人にとって、矜持(プライド)を揺らがすことになるかもしれないと分かっていても。

 これも一種の試し行為なのだろう。


 どうして、人間は他人を()ろうとしてしまうのか?


 分からないから?

 知りたいから?


 自分の中にない答えが欲しいから?


「正直、()()()()()()()()()()()()()()

「ふえ?」

「お前の血筋、素質を考えれば、茶色が正茶どころか()()()()()可能性があるからな」


 セントポーリアの王族であり、「聖女の卵」でもある。


 だから、そんなわたしを抱けば、準神官で還俗した彼も、上神官どころか、高神官にもなれるという話らしい。


 例の「穢れの祓い」というやつだろう。

 法力の素質がある人が、性行為をすると、法力が増加だか増強だかするという話だ。


「しかも、処女であるお前を犯せば、その能力は跳ね上がるだろう。役満……いや、跳満(はねまん)ってやつだな」

「役満?」


 その前に聞こえた言葉はある意味予想していたけれど、後に付け加えられた言葉に聞き覚えがなくて問い返してしまった。


「……麻雀は知らんか?」

「知らないねえ」


 麻雀用語だったらしい。

 それは知らなくて当然だと思う。


 えっと?

 国士無双とかだっけ?


「格ゲーで四天王に会えるかどうか分からなかった人間が、ボーナスステージを含めてパーフェクトを取り続けることができるようになると言えば分かるか?」

「それは凄い。チューリップのような髪をした人が、ラスボス戦前に乱入して、ラスボスを瞬殺する場面が見れるね」

「こっちは分かるのかよ」

「自力では、数える程度にしか会えなかったけどね」


 いや、別にその隠しキャラに会うためにパーフェクト勝ちする必要はなかったんだけど、一戦も落とせないって難しいよね?


 そして、四天王に会えるかどうか分からない人間って……、自分のことを言われている気分になるのは何故だろう?


 わたしは格闘ゲームは好きだけれど、上手くなかったのだ。

 ほとんど誰かがやっている後ろで見物して、ストーリーを知ることになっていた。


来島(ソウ)が何度か見せてくれたから印象強くて」

「……そうか」


 来島(ソウ)はめちゃくちゃ、格ゲーが得意だったから。

 その縁で、話すようになった。


 因みに、わたしはパズルゲームでしか、(ソウ)に勝ったことがない。


「……話が逸れたな。その可能性があるとは思っていたが、ただの夢だ。確率の低すぎる勝負に全てを賭ける趣味はない」

「なんで?」


 駄目で元々とは思わないのだろうか?


「俺はお前を泣かす趣味などない。好きなヤツを泣かせてどうする?」

「おおう……」


 まさかの答えが返ってきた。


 予想外だ。

 意外過ぎて、考えもしなかった。


「さらに言えば、()()()()

「ぬ?」

「お前には駄犬や番犬だけでなく、守り手もいる。守り手に睨まれた男の末路は決まって破滅だ」


 駄犬(九十九)番犬(雄也さん)、そして……、神扉の守り手(恭哉兄ちゃん)か。


 でも、破滅?

 そんな目に遭った人っているっけ?


 最近でも、高神官(七羽の神官)たちの交代劇があったらしいけど、それは大神官さま(恭哉兄ちゃん)のせいではなく、当人たちの自業自得っぽいんだよね。


「まあ、お前がその身を差し出すと言うのなら、貰ってやらなくもないが?」

「いや、遠慮します」

「即答かよ」


 ライトは苦笑した。


 だが、その答えは予想されていたのだと思う。

 ライトからの言葉も準備されていたかのように早かったから。


 そして、モレナさまが言っていた言葉もこの辺りにあるのだろう。

 わたしの気持ちが足りない。


 自分のために世界が犠牲になるのは厭わないと言い切ってしまう人は、わたし(たった一人の女)は犠牲にしたくないと言う。


 それに釣り合っていないのだ。


「いずれにしても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。少しは考えろ」

「うん、それは分かっている」


 分かっているけど、聞いておきたかっただけだ。


「分かっていない。お前は、これまでほとんど男に縁がなかったんだぞ? あの男を()()()もう()()()()と自覚しろ」

「おおう」


 なかなか酷いことを言われた気がする。

 そんなに縁がなかったかな?


 人間界にいる時よりもずっと殿方たちが近くにいる気がするのだけど。


()()()と老後を過ごす気か?」

「もう老後の心配をしなくちゃいけないのか。わたしはまだ十代なんだけどね?」


 思わず苦笑した。


 でも、わたしもそんな気がしている。


 このまま、誰にも受け入れられることもなく、受け入れることもなければ、そんな未来もあるのだろう。


「『花の命は短くて』という言葉もある。女の盛りなど本当に『光陰矢の如し』だ」


 この人も日本の文化が好きだよね。

 あの世界を好きな人が多いのは嬉しい。


「まあ、老後をわんこたちと過ごすのは魅力的だけどね。有能なわんこたちにまでそんな無駄な時間を過ごさせたくはないんだよ」


 だから、わたしは庇護者を探すしかない。

 護衛(わんこ)たちに護られなくても大丈夫だと思わせなければいけないんだ。


「犬嫌いのくせに……」

「あれ? なんで、知ってるの?」


 そんな話をこの人にした覚えはなかったと思う。

 ソウから聞いたのかな?


「小学生の頃、散歩中の犬を見て逃げ出したことも、その犬から追いかけられたことがあることも知っている」

「ふごおっ!?」


 確かに、小学6年生の頃、そんなことがあった。


 あの頃のわたしは、犬の本能的に走るモノを見ると追いかけたくなることを知らなかったのだ。

 それを知ってから、凄く怖いけど、我慢して走らないようにするようになった。


「中学生の頃、犬の鳴き声でソフトボールの試合に集中できなかったことがあったことも知っている」

「ひぐぇっ!?」


 それも覚えている。

 しかも、アックォリィエさまからも同じようなことを言われた。


「せめて、人間の言葉で叫べ」

「一応、人間のつもりなんだけど……」


 九十九も同じようなことを言うね。


 そんなにわたしの叫びは人間離れしているのだろうか?


「お前のような人類がいるか」


 とうとう人間であることを否定されてしまった。


「お前が並の人間なら、俺は疾うに破壊の闇に呑まれている」


 だが、違うらしい。


「お前が『高田栞』だから、俺はここまで自分を保てた」


 紅い髪の青年はわたしの手をとり、手袋越しに口付ける。


「忘れるな。お前は普通の人間ではない」


 その言葉はわたしの根底を否定するかのようで……


「だからといって、神に愛された女でもないし、当然、誰かを導くような女でもない」


 だけど、続けられた言葉は、「聖女」の()()だった。


 そして……。


「迷うな。お前の思い込みの激しさは、最強にして最大の武器だ」


 さらに続けられた言葉はわたしの肯定のようで……。


「その調子で運命を捻じ曲げていけ」


 わたしを認めるものでもあった。


「昔から、『運命の女(Fortune)神は勇(favors)者に味(the)方する(brave.)』って言うだろ? この世界では我を通す者が一番強い」


 その言葉にハッとなる。

 いつか、どこかで聞いた声が重なった気がした。


「その言葉、わたしに言ったこと、ある?」


 思わず、誰かにいつか言った言葉をそのまま口にする。


「あ? 言ったことはあるかもしれんが……、覚えてねえ。別に珍しくもない諺だからな」


 そして、その返答もよく似ていて、混乱する。


 そんなわたしを見て、何かを思い出したかのような顔をした後、ライトは……。


「いや、本当は覚えているよ。ガキの頃に、お前に向かって口にしたことがある」


 そう言い直した。


「ガキの頃?」

「そう。お前も覚えていないほど昔」


 言われてみれば、この人も、昔のわたし(ワタシ)を知っている人だったのだ。


 その記憶を封印してしまったからわたし(ワタシ)すら覚えていないだけで、この人も幼馴染の一人だったと聞いている。


「ずっと丁寧語で話す泣き虫で妙なガキに言ったことがある。あの当時、俺が好きだった言葉だ」


 それは多分、昔のわたし(ワタシ)のことだろう。

 そして、当時のこの人は、そんな大事な言葉をわたし(ワタシ)に伝えてくれたのだ。


「それは、その子供も心強かっただろうね」


 その当時の話は覚えてもいないし、誰からも聞いていない。

 もう別人だと思っているから。


 それでも、ふとした時に、その当時を知る人たちの思い出に重なる。


 そういった意味でも、この人には大きな恩がある。

 九十九や雄也さんと別に昔のわたし(ワタシ)を救ってくれた人。


 それなら、わたしも我を貫かせていただこうか。


 (われ)が儘に。

 ()が儘に。


 運命の女神は勇者に味方する。


 その言葉を信じて。


 その言葉をわたし(ワタシ)に教えたことを()()()()()()に。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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