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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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六曲目:creative dance

「え?」


 それは本当に予想外の出来事だった。


 これまで、円舞曲(ワルツ)の間の移動時間に流れる曲は、クラシック音楽が使われていた。

 だが、いきなり曲調が変わったのだ。


 それも耳に覚えのある音楽で、思わず声が出てしまう。


 いや、人間界でも管弦楽(オーケストラ)に編曲されたものがあるのだから、吹奏楽への編曲だって楽譜として存在していてもおかしくはない曲ではある。


 この曲は……、わたしが()()()()()()()()()序曲(オープニング)だった。


「これは……」


 先ほどまでわたしと向かい合って、礼をしていた銀髪碧眼の青年も周囲を見回した。

 いや、わたしたち以外にも、数名の貴族が周囲を見ている。


 舞台上では、第二王子殿下と、第五王子殿下が反応した。

 だが、同じく人間界に行ったはずの第二王女殿下はご存じないようだ。


 突然の方向性の変化に驚いていると……。


「失礼、()()()


 そんな声が掛けられた。


 咄嗟に、いつものように九十九がわたしを庇おうする。

 だが、それをさせてはいけない。


 今、彼はわたしの護衛ではないのだから。

 思わず、手を伸ばして軽くその腕を掴む。


「あ……?」


 九十九がわたしを驚いた顔で見るから、首を振り……、。


「庇ってくださって、ありがとうございます。まるで、本で読んだ護衛騎士に守られたようで、少しときめいてしまいました」


 そう声をかけた。


 それだけで、彼も気付いてくれたようだ。

 今、自分は、わたしを守る護衛としてここにいるのではない、と。


 いや、でも、ときめいたのは本当なのですよ?

 咄嗟に、動いてしまうほど、わたしを庇うことが自然な行動って、やっぱり、嬉しいじゃない?


「そこの男。そろそろ、その御令嬢を譲れ。この舞踏会で令嬢の独り占めは許されていない」


 さらに続けられた声。

 それは命令し慣れたものだった。


 だけど、その尊大な言い方と声に、わたしは覚えがあって、思わず相手の顔を凝視した。


 ()()長い髪、そして……、()()()を……隠すようなフルフェイス型のマスク。


 まさか、()()()()()()()()()()()()


 でも、先ほどの声とその容姿。

 えんび服を着ていても、その背格好が変わるわけではない。


 だから、そこにいる相手が知っている()()()()だって分かってしまう。


「なんで、ホッケーマスクなんだよ?」


 九十九も相手が誰かを察したらしい。

 その言い方は、少なくとも、貴族子息と思われるような相手に使う言葉ではないから。


「お前みたいに気取ったマスクは好みじゃない」


 そう言いながら、わたしに向かって、跪き……。


(わたくし)()()()()()をくださいませんか? 可愛らしい御令嬢」


 そう言いながら、再度、手を差し出した。


「いや、()()


 いつもとあまりにも違い過ぎて、思わずそう言ってしまったわたしはちょっとだけ悪い女だと思う。


「あんたも大概、酷いな。だが、仮面舞踏会で正体を尋ねるのは無粋だろ?」


 だが、()()()の相手は、気にした風でもなく、そう答える。


「情けはあげない。一曲、踊るだけ。それで良いなら」

「十分です。元から貰えるとは思ってないからな」

「じゃあ……」


 そう言いながら、差し出された手を取ろうとすると……。


「待て」

「おいこら」


 九十九が先に、紅い髪の青年の手を取ってしまった。


「男同士でも踊りって可能だっけ?」

「「可能だが、嫌だ」」


 わたしの問いかけに全く同じ反応を返す二人。

 やっぱり仲が良いよね?


「離せ、駄犬」

「断る」

「俺は野郎と踊る気はない」

「オレもないが、守るためならやむを得ない」


 両者一歩も退かない。

 だが、これ以上、騒げば、無駄に注目を浴びてしまうだろう。


 どう見ても、これは痴話喧嘩だ。

 わたしのために争わないで!! ……ってやつにしか見えない。


 やだな~、わたしはそんなキャラじゃないのに。


「一回ぐらいは見逃せ」

「嫌だ」

「嫉妬深い男はフラれるぞ」

「なんとでも言え」


 何故かわたしと踊りたい、紅い髪の青年。

 そして、絶対にわたしと踊らせたくない九十九。


 もう、このまま音楽を聴いておこうかな~ってわけにはいかないだろう。

 この曲だって終わるのだ。


「わざわざ現れたのだから、何か意味があるのでしょう? 1曲だけ、踊らせてくれないかな? まあ、その紅髪の……ホッケーマスクさまが踊れるかは分からないけどね」


 このマスクが「ホッケーマスク」と呼ばれていることを今、知った。

 わたしは金曜日の殺人鬼なイメージしかなかったから。


 だが、血のりはない。

 血のりはないが、その鮮やかな紅い髪が、なんとなく鮮血を思わせるのは何故だろうか?


「こいつの目的が分からないから、駄目だ」

「いくらなんでも衆目の集まる場所で何かしでかすほど愚かではないでしょう? 一応、攫われないように見張っておいて?」


 まあ、万一、攫われても、九十九なら見つけ出してくれると思っている。


 わたしがこれだけ彼の気配を掴めるのだ。

 九十九はもっとしっかり掴んでしまうだろう。


「分かった」


 そう言って九十九は渋々といった感じではあったけれど離れてくれた。


「随分、駄犬の調教が済んでいるじゃないか」

「彼は犬じゃない」


 犬なら近くにいることもできない。


「犬みたいなもんだろ」


 そう言って、また手を差し出したから、今度こそ、わたしはその手を重ねる。


「三度目の正直だな」


 そう言いながら、紅髪のホッケーマスクさんは、やや強引にわたしの手を引いて基本姿勢(ホールド)をとる。


「踊れるの?」

「少しだけな」


 まあ、わざわざ乗り込んできたのだ。

 ここまでして実は、踊れなかったら、笑って差し上げよう。


「コレはあなたの()()()?」


 わたしは天井を指差すようにして確認する。


「分かったか?」

「ローダンセの趣味とはちょっと違う気がして」


 アニメソングは使われていたが、ゲーム系はなかった。


 ファンファーレは競馬ゲームっぽかったけど、アレは実際の競馬場でも使われている曲だって聞いたことがある。


「好きだっただろ?」

「好きだけど……、こんな形で聞く曲じゃないよね」


 まさか生演奏で聞けるとも思っていなかった。


「でも、なんで、天空? これは……5作目?」


 このゲームはシリーズ化されていて、同じ序曲でも微妙に曲が違うのだ。

 因みにわたしは全シリーズ、人から借りたりして、サントラを聞き込んでいる。


「そこまで分かるか。これは、次の曲のためだな」


 え?

 まさか、円舞曲(ワルツ)もこのゲームから?


 いや、待って?

 確か、その5作目に円舞曲(ワルツ)は確かにあった。


 作中で、唯一、三拍子のエンディングで、しかも、エンディング専用曲ではないという異例尽くしの曲。


 でも、問題は……。


「わたし、その円舞曲(ワルツ)の振り付け知らないんだけど?」


 リプテラでも、それ以外の場所でも習ったことはないことだろう。

 曲こそ、初聴きではないが、初踊りではかなり難しい。


 基本的な形さえ分かれば、多少、応用はできるけど、全く知らない状態から踊ったことなんてないのだ。


 どんなプロだ?


先導(リード)はしてやるから、俺に身を預けろ」

「……失敗したら、互いに恥をかくことになるよ」

「それも承知だ。用語は分かるか?」

「多分」


 全部覚えている自信はないけど、雄也さんは用語を使って教えてくれたから。


 何事も経験。

 そして、知識は大事。


「上等だ」


 その言葉とともに、序曲(オープニング)が終わった。


 そして、聞こえてきたのは作中の途中でも流れ、さらにエンディングでも流れる聞き覚えのある三拍子のリズム。


 やっぱりこの曲だったか。


「予備歩からナチュラルスピンターン6で行くぞ」

「右回転6拍ね?」


 言われるままの歩数でくるくると回り……。


「リバーススピンターン6の後、ホイスク3、シャッセフロムPP6」

「らじゃ」


 先ほどとは逆にくるくると回る。


 円舞曲(ワルツ)を踊っているというよりも、指導を受けている感じがする。

 聞こえてくるのは、音楽と指導者の声だけ。


 尤も、その音楽もまともに聞けてはいないけれど、テンポが変わるわけではないし、もともと知っている曲だから、なんとなくタイミングは分かる。


「さっきのをもう一度繰り返せ」

「らじゃっ!!」


 わたしの動きを止めることなく、少しだけ先の予告をしてくれる。

 よく頭に入っているなと感心しながら、足を踏み出す。


「踏んだら、ごめんね」

「初心者が踏むのを怖がってどうするんだよ? 今度はコントラチェック6」

「ちょっといろいろ取り入れ過ぎじゃないかな?」

「見映えは大事だ。シャッセフロムPP6」


 まあ、いろいろ入れた方が楽しいのは分かるけど、指示通りに動くのって大変なんですよ?

 会話しながら、わたしに指示するのも大変だろうけど。


 わたしは、なんとかその指示についていく。

 それに夢中になっていて気付かなかった。


 この曲をこの国の誰も踊れず、わたしたちの一人舞台ならず二人舞台だったことに。


 最後のフィニッシュを決めた直後に、周囲から拍手が沸き起こるまで本当に気付かないほど集中していたのだった。

六人目は予想できましたか?

「覗き見」が伏線とも言えなくもないような?


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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