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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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【第123章― 国の動乱 ―】ドレス選択

この話から123章です。

よろしくお願いいたします。

「よくお似合いです」


 アーキスフィーロさまが微かに笑いながら、わたしを褒めてくれる。


「わたしの侍女が頑張ってくれました」


 それが嬉しくて、つい胸を張ってしまった。

 わたしの侍女たちは本当に有能である。


 だが、まさかドレスが二択だとは思わなかった。


 いつものように、用意されていた物を着るだけだと思っていたのに、好きな方を選べと言われたのだ。

 なかなか酷い。


 多分、互いに選んでくれたんだよね?

 教えてくれなかったけれど。


 ピンクが基調のどことなく、月面着陸に成功させた宇宙船を思い出すチョコレート菓子のような形のドレスは多分、ヴァルナさんが選んだのだろう。


 何気にピンクが好きだから。


 だけど、いつも渡されるようなフリルがいっぱい使われているものではなく、柔らかな布でできた裾が広がって、大変綺麗なものであった。


 ふわふわと広がり、円舞曲(ワルツ)に映えそうだ。


 対して、もう一つのドレスは、なんとなく和服を彷彿させる重ね着タイプだった。


 透けるほど薄く白い羽織のような形の布を、腰のぶっとい帯で止めて、そこから、さらに下で両サイドに広げている。


 ドレスの色は、黒みがかった濃く渋い紅色だ。

 ワインレッドよりはもっと暗い色。


 和名では深蘇芳(ふかきすおう)……、濃蘇芳(こいすおう)、確か、そんな名前の色だったはず。


 これは絶対、ルーフィスさんだろう。


 同じ赤系統でも、分かりやすく可愛らしい路線のピンクと、少し大人っぽい路線の暗い赤。


 分かりやすく自分に似合う系統のドレスと、心を鷲掴まれるほど好みの色を使われた系統のドレスで出されると本当に困る。


 はっきりと言い切れるのは、わたしは赤系統が似合うイメージらしいってことだね。


 青が好きなのに、青は似合わない。

 それは、二人から渡されたドレスからもはっきり分かった。


 だが、今回は目立ちたくない。

 それなら、似合う系統よりも、好みの系統の方が良いだろう。


 国王陛下と踊る時点で目立たないことは無理だと思うが、その後、姿をくらませればよいのだ。

 そんなわけで、わたしが選んだのは、暗い紅色衣装。


 多分、ルーフィスさんは、わたしがこれ以上目立ちたくないことを分かってくれたのだと思う。


 だが、完全にこの暗い紅色ドレスだと華やかさが足りないから、羽織みたいな上着も付いているのだろう。


 これがあるだけで随分、華やかになる気がする。


「いつもの装いと随分、雰囲気が違いますが、私はお綺麗だと思います」

「お褒め頂き、ありがとうございます。アーキスフィーロさまもいつもにも増して、凛々しくていらっしゃいますね」

「ありがとうございます」


 アーキスフィーロさまは前回と同じえんび服らしい。


 殿方は良いな。

 あまり迷わない。

 それが時々羨ましい。


 いや、迷うのもある種の楽しみはあるのだけどね。


 そして、渡されたお揃いの仮面。


 こう、もっとマスクドなんとかさんな感じの口元だけは見える仮面を考えていたのだが、完全にのっぺり、ツルリとした目しか見えない真っ白い楕円形のお面である。


 うん、可愛くはない。

 何より、折角の綺麗なドレスも台無しな感が強い。


 わたしの考えている仮面舞踏会は、口元が見えるイメージだったが、この国では違うのだろうか?


 仮面を見つめながら疑問に思っていると……。


「招待状には、仮面(マスク)のご指定はありませんでした」


 ルーフィスさんが笑顔でそう言った。


 なるほど。

 指定がないのだから、完全に正体を隠す方向で行けってことですね?


「それなら、いっそ、被り物も有りなのではないでしょうか?」


 それならば、完全に正体が隠せるのではないだろうか?


 パーティーグッズにあるような馬の被り物とか、SF小説に出てくる怪物のような被り物とかも面白そうだと思う。


「それでは、栞様の髪が崩れてしまいます」


 ルーフィスさんはにっこりと笑って駄目だと言った。


 しかし……、顔より、髪とな?

 せっかくのメイクが完全に隠れてしまった点は宜しいのでしょうか?


「何より、被り物では……、国王陛下の御相手中に崩されてしまうことでしょう」


 言われてみればそうだった。

 ヘアセットも崩れる心配があるのに、被り物までふっ飛ばされては敵いませんね。


「なるほど。理解しました」


 でも、この仮面ならば大丈夫と言うことなのだろう。


『それで納得してしまうのが、シオリ様ですよね』


 何故か、セヴェロさんがそんなことを言った。


 え?

 納得しては駄目な場面だった?


「いや、顔を完全に隠せるのはありがたいことだ」


 そう言って、アーキスフィーロさまは仮面を付ける。


 その綺麗な顔が隠れるのは勿体ない気がした。


 だが、確かにアーキスフィーロさまが言うように自分の顔が隠せるのは良いかもしれない。

 この仮面の方が素顔よりも、色白美人な気がするしね。


 わたしはそう思い込んだのだった。


 ****


 ルーフィス嬢から渡された仮面は白く、目だけがくりぬかれている不思議なものだった。


 付けてみると、なんらかの魔法が掛けられているのか、顔に張り付いてくる。

 これならば、確かに簡単には外れないだろう。


 シオリ嬢の顔も隠されてしまうのは残念だが、既に、先ほど髪も顔も整えられた状態を見ている。

 その全容を知る男は俺だけだと思うと、胸の辺りになんともむず痒い感覚を覚える。


 いや、セヴェロも見ているのだが、ヤツは男の括りに入らない。


 先に見たのは、準備をしてくれたルーフィス嬢とそれを手伝っていたヴァルナ嬢だが、彼女たちはシオリ嬢の専属侍女だ。


 何より、彼女たちの力なくして、シオリ嬢を着飾らせることはできない。


 本来は、婚約者候補として、俺が贈るべきなのだろう。

 これまで一度もそんなことをした覚えがないので、そこに思い至らなかった。


 次の「月の宴」に参加する気はなかったが、もしも参加するならば、ドレスを贈らせてもらっても良いものだろうか?


 いや、婚約者候補でしかない男から、ドレスを贈られるのは気持ちが悪いか?

 そうなると、装飾品?


 だが、シオリ嬢は普段からあまり装飾品の類を身に着けることがない。


 前回の「花の宴」では装飾品を派手過ぎない程度に着けていたが、いずれも高級品だということは俺にも分かった。


 それならば、やはり、「月の宴」に参加するべきか?


「これをつけても、吸血鬼にはなりませんよね?」

「その仮面は、石でできていませんから大丈夫ですよ」


 思考していると、そんな声が聞こえた。

 シオリ嬢とルーフィス嬢の会話だ。


 だが、吸血鬼?

 何の話だろうか?


 石の仮面を付けると吸血鬼になるというそんな話が彼女の国にはあるのだろうか?


 仮面を付けているためにその表情は見えないが、シオリ嬢のことだ。

 楽しそうにしていることだろう。


 彼女はいつも笑っているから。


 だが、書類に向き合う時の顔はいつだって真剣そのものだ。


 特に写真を模写する時の顔は、他の何も目に入っていないかのように集中することを知っている。


「ふわあああっ!? 暗い! 視界が狭い!!」


 そんな叫びが聞こえた。


 どうやら、シオリ嬢も仮面を付けたらしい。

 確かに、やや暗いし、視界は狭く感じる。


 それでも、その存在ははっきりと分かることが嬉しかった。

 先ほどの可愛らしい叫びが、彼女の素なのだろう。


 中学時代にも聞いた覚えがある。


 いつもの丁寧な彼女も魅力的だが、やはりどこか距離を感じてしまうのだ。


 時折、口から出てくる丁寧語が外れた状態を聞きたいと願っているのだが、それを口にしても良いものか、悩むところだ。


 あくまでも俺は契約相手でしかない。

 そんな男から距離を詰められるようなことは嬉しくないだろう。


「栞様、大丈夫ですよ。落ち着いてくださいませ」


 そんなルーフィス嬢の声が聞こえてきた。


『アーキスフィーロ様、()()()()()()()()()()よ』


 セヴェロの呆れたような声が聞こえてくる。


「役目?」

『取り乱した淑女を()()()()()()()()()()()のは、紳士の役目でしょう?』


 どうやら、先ほど仮面をつけて驚いたシオリ嬢を、ルーフィス嬢が抱き締めて落ち着かせたらしい。


「俺も視界が狭いのだ」

『シオリ嬢よりも先に付けるからでしょう。全く、()の悪い……いや、この場合、()の抜けた?』


 どちらにしても酷いことを言われているのは分かる。


 だが、まさかここまで視界が悪いとは思わなかったし、シオリ嬢が取り乱すことも想像していなかったのだから、仕方ないではないか。


『そんな様子だと、他の男にシオリ嬢を奪われても知りませんよ? あんなに魅力的で面白くて退屈せず、常に目が離せない令嬢なんてそう多くないんですからね』


 とても女性を褒めているとは思えないセヴェロの言葉。

 だが、妙に納得できるものではある。


「分かっている」


 そう答えたものの、俺はセヴェロの言った言葉の本当の意味を分かっていなかったのだと思う。


 愚かにも、自分の気持ちに気付いていなかった俺は、この夜、二重、三重にも衝撃を受けることになるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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