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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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2456/2800

専属侍女たちの舞台裏

()()()()()()ぞ」


 オレは、本日の報告書を兄貴に渡しながらそう言った。


「やはり、()()()()殿()()()使()()()()()か」


 兄貴はオレの報告書を読みながら、呟く。


「どれくらい、()()()()()()?」

()()()()だな。本当のことを口にしている方が()()()()()


 あそこまで()()()()人間はそう多くない。


 存在を希薄にするあの眼鏡に、遮光機能を付けたいと思ってしまうほど、眩しさに溢れた女だった。


「主人の反応は?」

「半々だな。全てを信じてはいなかったようだ」


 それは少し意外だった。


 栞のことだから、第二王女殿下の言葉を全て鵜呑みにしてもおかしくはないと思ったが、そこまで浅慮ではなかったらしい。


「先に婚約者候補殿の話を聞いたこと。そして、舞踏会での第一印象が強すぎるのだろう」

「まあな」


 アレは強烈だった。


 それらを全て誤魔化すには、今更、()()()()()()()()()と思うぐらいに。


「あの女はなんだ? 《・》()()()()()なのか?」


 あまりにも話す言葉に()()()()()()()のだ。

 それらを一つ一つ、丁寧に、オレの眼は拾い上げてしまうから困る。


「いや、多重人格者ならば、嘘を吐いていると言う意識が生まれるはずがあるまい。単に役者なだけだろう」

「役者……」


 その言葉で、栞の悪友の笑みを思い出す。


「ケルナスミーヤ王女殿下ほど、役になり切れていない時点で、主人を騙すことなどできないということだな」


 そう言えば、栞は前からあの悪友の芝居を見抜いていた。

 あの王女殿下は本当に厄介なのだ。


 一人の人間として嘘を吐いているわけではなく、その場に立つ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という認識でいるため、()()()()()()()()()()()()()()らしい。


 どれだけその役に入り込んでいるのだろうか。

 そして、それを栞は何故か、見抜くのだ。


 それだけ付き合いが長いということなのだろう。


「3つの願いか。どう見ても、3つ以上あるな」


 話を聞いていて、オレもそう思った。

 まず、仮面舞踏会とやらに参加させる時点で一つ目の願いだろう。


 現時点では招待状が送られていないのだ。

 そして、本来、庶民である栞はその招待状がない限り、参加することができない。


 男女一組で必ず参加しなければならない舞踏会なら婚約者候補の男に付き添う必要があるだろう。


 だが、今日話した時点では、まだ栞に直接招待状を送っていないことを、あの第二王女殿下は知っていたはずなのだ。


「仮面舞踏会の話は知っていたか?」

「ああ、先達(せんだっ)て開催された『花の宴』の直後にその草案が出され、数日前には各家に届けられる程度に()()()()()()()()


 既に城内に忍び込んでいることはよく分かった。


 数日前に布告が出されたことはともかく、草案の話なんか、相当、内部に入り込まなければ知り得ない情報だ。


 可能性としては、オレたちがこのローダンセ国内に入る前に、既に兄貴は入り込んでいたということか。


 この大陸に来てから既に数カ月。

 時間としては十分あっただろう。


「それが主人のデビュタントボールにあったことは明白だ。なかなか、貴族令嬢としては類を見ないほど()()()()()()()()となったようだからな」


 残念ながら、オレたちは、そのデビュー戦を見ることができなかった。


 勿論、忍び込もうとすればできただろう。

 だが、その後が守れなくなる。


 限られた人間だけがいるデビュタントボールよりも不特定多数の貴族たちが集う舞踏会の方が危険は多いと判断したのだ。


 まさか、国王陛下にぶん回されると予想できていたら、どちらかが忍び込んでいたとは思うが。


「国王陛下は踊らないのではなく、踊らせてもらえなかっただけだということも分かった。第二王子から円舞曲(ワルツ)、宮廷舞踊、社交ダンス(ボールルームダンス)の話を聞いて、この国に取り入れたぐらいだから、何かあるとは思っていたのだが……」


 兄貴にもその理由が分からなかったらしい。


 正妃との仲も悪いわけではない。

 だが、その正妃は頑なに国王陛下の相方(パートナー)だけはならないと拒んでいたという。


 正妃が円舞曲(ワルツ)を踊れないわけでもなかった。


 寧ろ、練習では優美な舞踏を披露するため、侍女たちの手本となっているほどだと聞いている。

 そして、人前が苦手というわけでもない。


 だが、その国王陛下の相手をした女たちの中で、最後まで立っていたのが栞だけという事実を聞けば、納得できるものであった。


 ダンス講師はそんな国王陛下相手にどうやって教えたのだろうか?

 謎である。


「それでも、政策としては十分だな。多少、金はかかるが、社交の場を設けることは国にとっても悪い話ではない」

()()()()()になってもか?」


 人が集まりやすいということは良いことばかりではない。

 既に問題もいくつか起きているようだ。


「どこに行っても悪事をやらかす人間はいるのだ。それならば、()()()()()()()()()よりも、()()()()()()()()で悪巧みをしてくれた方が良いだろ?」

「つまり、舞踏会は貴族の管理が目的ってことか」

「そんな面もあるという話だ。事実、貴族による()()()()()()()()()()()らしいぞ」


 そうは言うが、それは露見している事件だけの話だろう。

 貴族相手に泣き寝入りするしかない庶民だっているはずだ。


「二ヶ月に一度、親しくもない人間たちが集められるのだ。当然、牽制、出し抜きなども行われる。裏でも表でも、阿呆をやらかした人間を見つければ、上位者に密告もしやすい。政敵同士が互いの抑止力になっているようだ」


 兄貴が不敵に笑った。

 本当に貴族ってやつは面倒臭え。


「だが、主人は仮面舞踏会で国王陛下のお相手か。そうなると、()()()()()があるな」

「同感だ」


 それは、最重要課題と言っても差支えがない。

 最初の時点で、報告は既にすんでいるのだ。


 分かり切った結論に対して、無駄に言葉を重ねるよりも、この問題に全力で取り組んだ方が、互いの精神にも良いだろう。


「しかも、()()()()()()()()()()

「そうだな」


 そこも大事だ。

 単体(ピン)で勝負となる。


「仮面を付けるとはいえ、舞踏会だ。それならば、ドレスコードはボールガウン、燕尾服となるだろう」

「分かっている。だが、オレンジは避けた方が良いと思っている。シルヴァーレン大陸との繋がりは公にしたくない」

「仮面のバランスも重要だな。主人の顔はできるだけ隠したい」


 何の話か?

 当然、栞の衣装である。


 前回は、デビュタントボールだった。


 衣装は白以外認められなかったし、セントポーリア国王陛下がカルセオラリア経由で()りつけてきた。


 あんなことをされては、オレたちは引き下がるしかない。


 だが、今回は違う。

 ()()()()なのだ。


 しかも、同行者(パートナー)に配慮しなくて良いという点が嬉しい。

 相手の家が古風であれば、その家に伝わる意匠を入れる必要が出てくるからな。


 そして、同行者(パートナー)に気遣って、相手の髪や瞳の色をさり気なくドレスのどこかに入れることもしなくて良い。


 さらに言えば、栞自身はドレスに全く拘りがない女だ。

 言い換えれば、服装に無頓着なのである。


 だが、場に合わせる必要があることはちゃんと理解している点はありがたい。


 オレたちが用意していれば、疑いもなく、それを着てくれるはずだ。

 つまり、栞を()()()()()()()()()というわけである。


 これで張り切らないわけがないだろう。


「国王陛下と踊る時点で目立つことは避けられまい。それならば、派手さなく、清楚さを前面に出したいところだな」

「肌の露出はさせたくない」

「当然だ。する必要もない」


 ボールガウンでは首筋から胸元(デコルテ)を含めて、肩や背中などの露出も珍しくない。

 だが、栞は露出などしなくても十分すぎるほど魅力的なのだ。


 ある程度のところまでは意見は一致した。

 だが、どうしたって互いの好みが完全に合致していなければ、同じ物が選ばれることはない。


 兄弟であっても譲れないものはある。

 これは、仁も義もある戦いだった。


 そして、最終的に残された二着のボールガウン。

 お互いの言い分を呑み込み合った結果である。


 選択は当人に委ねられることとなった。

 さらに、選ばれた方が、当日のヘアセットとメイクまですることで合意している。


 勝者は全てを手に入れ、敗者は悔しい気持ちが残るのみとは、なかなか格差がある話となったものだ。


 さて、主人はどちらを選ぶことか。


 まあ、オレの方が選ばれなかったとしても、兄貴が選んだボールガウンも悪くない。

 寧ろ、良い。


 しかも、メイクやヘアセットも兄貴がするなら、その完成形を見る楽しみもある。

 オレはそう自分に言い聞かせるのだった。

この話で122章が終わります。

次話から第124章「国の動乱」です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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