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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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三つ目の願い

「よし! この子は『白あん』。『白あん』にしましょう!!」


 トゥーベル王女はニコニコしながら、そう言った。


 何の話か?

 ぬいぐるみの名付けの話である。


 先ほど、ヴァルナさんによって、召喚された()()()ゴラウサギのぬいぐるみは、どうやら、「白あん」と命名されたらしい。


 なんとも甘そうな名前である。

 まあ、覚えやすいから嫌いじゃないけれど。


「さて、『白あん』の命名も済ませたので、続きの話をしましょうか」


 あ、まだ話は続くんですね。

 そして、「白あん」はトゥーベル王女の横に座らせるのですね。


 いや、それが悪いというわけではなく、こんな「ごっこ遊び」みたいなことを久しくしていなかったので、ちょっと新鮮な気持ちになっているだけだ。


 それに、このトゥーベル王女にはそんな遊びすら与えられなかったのかもしれないと思うと、なんとも言えない気持ちになってしまう。


 そういった意味ではアーキスフィーロさまと似ているのかもしれない。


 だけど、ちょっと思う。

 あの国王陛下は本当に娘であるトゥーベル王女に対して何もしなかったの?


 この国が、男尊女卑の傾向にあるってことは理解しているつもりだけど、それだけでここまで差を付けるだろうか?


 しかも、王族は他国に5年も滞在するのだ。

 完璧でなくても、最低限の礼節ができていなければ、国の恥になっちゃうよね?


 そうと分かっていても、あの国王陛下が、完全放置するだろうか?

 全部を側室に任せて?


 分からない。

 多分、情報が全く足りていないのだろう。


 だから、この時点で判断するのは危険だと思う。


 ぬいぐるみはあげた。

 でも、それは第四王子殿下にもしたことだった。


 だから、このトゥーベル王女を特別扱いしているというわけでもない。


「それでは三つ目のお願いをするわ」


 トゥーベル王女は「白あん」を撫でながら、楽しそうに微笑む。


 一つ目は、仮面舞踏会にて国王陛下と踊って欲しいというものだった。

 二つ目は、アンゴラウサギのぬいぐるみが欲しいというものだった。


 じゃあ、三つ目は何だろう?


「その前に、シオリさんは絵が描けると聞いたのだけど、それは、()()()()()()描くことができるの?」

「見本があれば、それをある程度は模写することができると思っております。ですが、何もない想像の状態ではその質はかなり落ちますね」


 最近、写真を模写することが増えたせいか、前よりも模写の技術は格段に上がったことを実感している。


 だが、その分、想像ではそこまでの物が描けない。

 ある程度は描けても、細部がどうしても誤魔化す感じになってしまうのだ。


 そして、イラスト風な絵は技術を落とさないように、私室で描くようにしている。


 そちらについては、落ちるほどの技術はないのだけど、自分なりに納得できるラインに腕を保ちたいのだ。

 絵は描かなければ衰えることを、わたしはこの世界に来てから知った。


 人間界で描いていた頃と、今の絵は全く……ではないけど、ちょっと違う。


 当人しか分からない程度の違いではあるけれど、以前、カルセオラリアで作った同人誌をもう一度、最初から作ろうとしたら、やはり、ちょっとだけ違う絵になってしまうのだろう。


「それは、見本があれば描けるってこと?」

「はい」


 どうやら、描いて欲しい絵があるってことだろうか?

 でも、見本があるなら、その絵を描く必要はないよね?


 普通に複製魔法を使えば、絵は増やせるのだ。


 今回の場合、ルーフィスさんやヴァルナさんが持っている図鑑とかの写真を複製しないように、絵を描くことにしたのだから。


「じゃあ、見本の人物画を渡して、その構図を変えることはできる?」

「構図の変更……ですか?」


 人間界にいた頃、漫画を手本にして、自分の絵に描き直したことがあった。

 想像だけで絵を描くには限界があるから。


 でも、漫画の絵って写真とは全く違うのだ。


 手の指、髪の毛、身体つき、表情……、その全てがある程度、デフォルメ……、現実の形から変形させて描くことがほとんどである。


「例えば、人間界の漫画やアニメのキャラクターを……、その……、自分の好きな構図に書き換えるなどは可能?」


 自分の絵に描き換えることはあったけど、漫画やアニメの絵をそのまま、別の構図にしたことはない。


 つまり、漫画やアニメの二次創作ってことだよね?


「やってみたことはありませんが、できなくはないと思います。ただ、すぐにできるようになるとは限りません」


 漫画をそのまま模写はできるだろう。


 だが、それを全く別構図に直そうとすれば、どうしても自分の描き癖が出てしまうと思う。

 それに、全体的なバランスも崩れて、歪な感じになる気がした


「それでは、現実の人間の写真を模写して、そのポーズを変えることはできるかしら?」

「それは顔だけ模写して、身体は別となるわけですね? それもやってみたことはありません」


 写真の模写をするようになったのは最近だ。

 これまで現実の物を描く時は、実際に何かを見ながら描いていた。


 そして、それは写真の模写以上に難しいだろう。


 つまり、顔と身体を組み合わせた合成写真みたいな物ってことになるのだろうけど、やってみたことがないのでこれはできると言い切ることができなかった。


「それなら、現実の人間にウサ耳とか付けることはできる?」

「ウサ耳……ですか?」


 多分、ウサギの耳ってことだよね?

 バニーガールみたいなやつ?


「この『白あん』のような耳を写真で見た人間の頭に付けられる?」

「それぐらいなら、多分……」


 絵に付け足す……、描き加えるってことだよね?


 だが、トゥーベル王女がわたしにどんな絵を描かせたいのかが今一つ読めない。


 結局、写真なのか?

 それとも、漫画やアニメの絵なのか?


「それなら、写真の人間の体型を変えることなんてできる? その、具体的には胸を増やしたり、減らしたり……みたいな?」

「見本となる体型の写真があれば……多分……できると思います」


 胸ぐらいなら大丈夫だろう。


 全体的に膨らませる、細くするとなれば、どうしたって顔にも変化を付けたくなるからちょっと難しくなるとは思う。


「人間以外の……、魔獣とかの絵は描ける?」

「わたくしは、現実で魔獣という生物を見たことがないので、無理です」

「あ~、そっか~。こればかりは諦めるしかないか」


 トゥーベル王女はそのまま肩を落とした。


「トゥーベル=イルク=ローダンセ王女殿下。今の話では、シオリ嬢に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「描くのはあんたじゃないでしょ、アーキスフィーロ」


 アーキスフィーロさまの言葉に、トゥーベル王女は面倒くさそうに答える。


「でも、そうね。そろそろ結論を言っちゃいましょうか」


 トゥーベル王女はにやりと笑った。

 ようやく、答えが分かるらしい。


(アタクシ)ね、新聞を作りたいと思うの」

「新聞……、ですか?」


 新聞ってアレだよね?

 人間界で言うニュースペーパーとか瓦版とか。


「流石に、人間界のように毎日なんてアホなことはできないわ。でも、市井に情報を広く伝えるには新聞が一番なのよ!!」

「既に国の布告などは、城下の掲示板などに貼られるようになっているはずですが?」


 トゥーベル王女の言葉に、アーキスフィーロさまは淡々と答える。


「お黙り、アーキスフィーロ。それには絵も写真もないじゃない。それじゃあ、文字が読めない市民には伝わらないわ」


 どうやら、トゥーベル王女はわたしにその新聞に掲載する絵を描かせたいらしい。


 ()()()~。


「わたくしなどに頼まずとも、()()()()()()()()()()()()()のではないでしょうか?」


 わざわざわたしに描かせようとする理由が分からない。


 この国だって肖像画家はいるはずだ。

 数日前にマリアンヌさまとお話した飲食店にも、どこかの風景画があった。


 つまり、この国に絵がないわけではないだろう。


「何、言ってるの!? あんな写真のような絵を描ける人間が、その辺にゴロゴロしているはずがないでしょう?」


 そうかな?

 探せば結構、いると思うのだけど。


「いずれにしても、この件については、考えさせてくださいませ」


 どんな新聞かも分からない。


 それに、その前の調査と思われる質問の数々が、あまりにも(ばら)けすぎていて、アーキスフィーロさまが言ったようにどんな絵を描くことになるかが全然、見えなかった。


 そんな状態で安易に答えなんて出さない方が良いだろう。


「断るって言うの?」

「いいえ、返答を保留とさせてください。まだわたくしは、この国に来て日が浅いため、アーキスフィーロさまの補佐はともかく、王族のお仕事に直接関わることは、周囲の方々にとっても、面白くないことでしょうから」


 わたしがそう言って笑うと、トゥーベル王女は面白くなさそうな顔をした。


 その顔を見て、なんとなく、単純な新規事業スタッフの募集ってわけじゃないんだろうなと思ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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