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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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王女さまのお願い

「あんたにお願いが3つほどあって来たの」

「お願い……ですか?」


 しかも、3つもあるのか。


 でも、命令できる立場にありながら、わざわざ呼び出すこともなく、出向いてお願いする辺り、やはり悪い人間ではない気がする。


「お、俺もあるぞ!! ヴィーシニャの精霊!! そなたを……」

「ケダモノは黙りなさい!!」


 第二王子殿下が何か言いかけたけど、トゥーベル王女はそれを黙らせる。

 そして、その先を聞かせないでくれてありがとう。


「ああ、もう!! このケダモノが邪魔で話が進まない」


 奇遇ですね。

 わたしもそう思う。


 そうなれば、わたしの取る行動は()()

 その二つの内、確実性の高い方を選ぶだけである。


「ヴァルナ」


 わたしはそう口にする。

 それだけで、少し離れたところから、移動魔法でこちらに来た専属侍女の気配が背後にあった。


「お呼びでしょうか?」


 この早さは、やはり、聞き耳を立てていたってことだろうね。

 本当にこの侍女は心配症だね。


 そして、第二王子殿下の従者たちは、突然、目の前からいなくなったヴァルナさんを探しているようだ。


 それなら、邪魔が入る前に用件をすませよう。


「ゼルノスグラム=ヴライ=ローダンセ王子殿下を暫く、()()()()()()()のだけど、可能?」

「承知しました」


 そんな言葉とともに、金属の格子を握っていた第二王子殿下の手が緩み、その場で倒れる音がした。

 一瞬の出来事すぎて何が起きたか分からない。


「猛獣には()()がよく効きますね」


 さり気なく、第二王子殿下を猛獣扱いするわたしの専属侍女。


「まさか、薬を使った?」

「人聞きの悪いことを言わないでください。先ほど使ったのは、ただの『誘眠魔法』ですよ」


 一体、いつ、誘眠魔法を使ったのか?

 魔法発動の気配など、ほとんど感じられなかった。


 無詠唱魔法を飛ばしたのだと思うが、ヴァルナさんの魔力の気配に敏感であるはずのわたしでも分からないほどだったのなら、他の人間は何をしたのかも分からないかもしれない。


 実際、少し離れた場所にいた第二王子殿下の従者たちも移動魔法でここに来たヴァルナさんに気付いて、口々に何か言っているようだ。


 その中には「威圧」、「隠し武器」、「衝撃波」など、どこか的外れな言葉もあった。


 勿論、普通に魔法だという意見もあるようだけど、攻撃系の魔法が挙げられている。


 無詠唱魔法で、王族を眠らせるって相当難しいから、補助魔法である「誘眠魔法」だとは誰も思い至らないようだ。


 わたしも本人から聞いても信じられないからね。


 いや、ヴァルナさんはわたしに嘘は吐かない。

 だから、「誘眠魔法」だというのは本当だろう。


 でも、薬師志望の人から先に「麻酔」って単語を聞いたら、誰だって「薬」を使ったって思うと思うのですよ?


「よく分からないけれど、ゼルノス兄様は生きているのね?」


 トゥーベル王女は崩れ落ちた第二王子殿下を見ながら、確認する。


「畏れながら、下人の身で直答することをお許しくださいませ、トゥーベル=イルク=ローダンセ王女殿下」


 そう言いながら、ヴァルナさんは綺麗なお辞儀(カーツィー)をする。


「王城内の、人目に付くような場所で、王族を暗殺するほど愚かなことはございません」

「それもそうね。どちらにしても、静かになったのだから良いことだわ」


 淡々と進む会話が、どこかズレていると思うのは、わたしだけ?


 なんとなく、横にいるアーキスフィーロさまを見る。

 アーキスフィーロさまは、どこか遠くを見ているような顔をしていた。


 思考を放棄したくなったのだろう。

 その気持ちはよく分かる。


「ゼルノス兄様に邪魔をされたけど、改めて言うわ。シオリさんに3つお願いがあるの」


 そして、この流れで仕切り直された。

 この王女さまは、切り替えがかなり早いようだ。


「1つは、今月末にある()()仮面舞踏会で、国王陛下と踊っていただきたいの」


 何故に!?

 今、いろいろ、ツッコミどころがあった。


 仮面舞踏会ってあれですよね?

 仮面(マスク)をつけ、素性を隠して踊る舞踏会。


 マスカレイドとも言われ、いろいろ文学の題材になったり、そんな曲名の音楽も作られていたはずだ。


 だが、その仮面舞踏会に参加しろではなく、国王陛下と踊れとは一体?

 しかも「例の」って、わたしは初めて聞いたことですよ?


 横にアーキスフィーロさまを見ると、静かに首を横に振られる。

 この様子から、アーキスフィーロさまも知らないことだったらしい。


「あんたも参加したから知っているとは思うけど、この国では、数年前から二ヶ月に一度、舞踏会を開催するようになったでしょ? だけど、当然ながら誰もが上手く踊れるわけではないの。どんなに練習しても、踊れないものは踊れないのよ」


 わたしの頭に不思議な音感かつ独特なリズム感をお持ちの王子さまのことが思い浮かんだ。


 あの人の踊りが上手くなるよりも、相方(パートナー)の回避能力が上がる未来しか見えない気がするのは何故だろう?


「そこで、今月から二ヶ月に一度、仮面をつけて自分の正体が分からない状態にして踊る舞踏会を開催することになったわけ。正体が分からなければ、失敗しても恥ずかしくないじゃない? シオリさんはともかく、アーキスフィーロは知っているはずよね?」

「いいえ、私は何も聞いておりません」


 きっぱりと答えたアーキスフィーロさまを見て、トゥーベル王女はその可愛らしい顔を歪めながら……。


「あの()()()()


 と、大変、似合わないお言葉を口にする。


 迷わなかった辺り、アーキスフィーロさまの返答に嘘はないと判断したということだろう。


 そして、その反対に、ロットベルク家当主はトゥーベル王女に信用されていないということも理解した。


「報、連、相が大事なことだって、人間界では小学生でも知ってるっての!!」


 そう言いながら、激しく机を叩く。


「今回は初回だからデビュタントボールを済ませた全ての貴族子女は絶対に参加させるようにわざわざ『伝書』で各家の当主に直接通達したってのに、その子息当人に伝わってないってどういうこと!? 嫌がらせなの? 無能なの!? 馬鹿なの!?」


 トゥーベル王女はそう叫んだ。


「そのいずれも可能性としてはあります」


 そして、アーキスフィーロさまはそんな悲しいことを口にする。


「いずれにしても、あんたの父親がアホであることの証明にしかならないわ!! 王族からの『伝書』での通達に従わなければ、過料が科せられることなんて、貴族の常識でしょう? 貧乏のロットベルク家がこれ以上、搾り取られるようなことを自らやってどうするのよ!?」


 過料は確か……、罰金より軽い財産刑……だっけ?


 伝書は、一通当たりの単価が高いため、個人宛に使う私信のイメージが強かったが、この国では、確実に相手に届けるための公文書として使っているらしい。


 通達にお金をかけすぎではないだろうか?

 そこまでしないと、手紙を見ない人がいるってこと?


 でも、それでも、「伝書」はあくまでも、確実に任意の相手まで届くだけで、それ以外の人間が強制的に開封はできないし、勿論、当人に中身を読ませるまでの効果はない。


 つまり、届いた手紙でもその受取人が読まなければそれまでなのだ。


 だが、国王陛下が公文書として発付した書簡を、貴族の当主が読まないなんてことはあるのだろうか?


「まあ、聞いていないなら、改めて説明してあげる。でも、アーキスフィーロ、勘違いしないでよ? 別にこれは父親から邪険にされているあんたのためじゃなくて、シオリさんのためなんだからね」


 トゥーベル王女はそんな少年漫画に出てくる天邪鬼なヒロインが言いそうな言葉を口にする。


「さっきも言ったように、舞踏会と同じように隔月で仮面を付けた舞踏会を開催することになったの。()()()()()()としては、円舞曲(ワルツ)が苦手な人でも、一目を気にせず練習できる場を設けるためね」


 表向き?

 つまり、他に意図があるってことか。


「そして、本来の目的はお父様が()()()()()()()


 ……何故に?


「仮面を付けていれば、お父様がこの国の王だって分からない。そして、正体不明な貴族たちの集まりならば、必ずしも、ファーストダンスでお義母様と踊る必要がなくなるでしょう?」

「疑問が二つございます」


 それもわたしがすぐに思いつくほどの疑問である。


「言ってみなさい」


 第二王女殿下は頬杖をつきながらわたしにそう言った。


「まず一つ目。トゥーベル=イルク=ローダンセ王女殿下は、国王陛下が仮面で顔を隠したぐらいでその存在感を消せると思いますか?」

「思わないわ」


 即答である。

 当然だ。


 王族ならば、貴族の中に埋もれてしまうような人もいるが、国王ともなれば別格だ。


 抑えきれない体内魔気。

 いや、抑える必要のない体内魔気で周囲を圧倒する。


「でも、()()()()()()()()()()()()()()()……ってお達しがあったら、貴族たちは()()()()()()かしら?」


 ああ、なるほど。


「見て見ぬふりはするでしょうね」


 公文書でそんな文言があれば、何があっても、()()()()()()()()()()()()()()が出されているに等しい。


 そうなれば、確かにバレバレの変装であっても、周囲は何も言わない、言えなくなってしまうってことか。


「もう一つの疑問は?」


 トゥーベル王女はクスクスと笑いながら、さらに先を促した。


「舞踏会のファーストダンスにて、国王陛下は必ず正妃殿下と踊らなければならないという仕来(しきた)りを()めることはできないのでしょうか?」


 そこまでして踊りたいのなら、それをやめれば良いだけではないだろうか?


 確かに人間界の舞踏会を参考にしているのかもしれないけど、まだ十年経つかどうかの歴史しかない行事だ。


 ここから試行錯誤を繰り返して、この国の形を作り上げていくことだってできると思う。


「できないわ」


 だが、トゥーベル王女はあっさりと首を振る。


()()()()()()()()()()()()()()()()()から」


 そして、大きな息を吐きながらそう言ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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