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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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感嘆符が好きな王女さま

 第二王女殿下は言った。


「下の者を犠牲にして上に立つ。そんな考え方が正しいとは、どうしても思えないのよ」


 王族としての矜持をその言葉に込めて。


 それに対して、わたしはなんと答えるべきだろうか?

 王族の責務から、()()()()()()()()わたしが。


 だが、わたしが何かを口にする前に……。


「なあ、ヴィーシニャの精霊よ。ベルと俺では随分、()()()()()()()か?」


 そんな声が横から聞こえてきた。


「あら、ゼルノス兄様。銀の鉄格子がとてもよく似合っているわね。まるで、人間界の動物園にいる、チンパン……いえ、オランウー……、いえ、ゴリ……のようだわ」


 第二王子殿下の言葉に対して、第二王女殿下……トゥーベル王女は、言い切らないまでも、酷い返答をする。


 本日も第二王子殿下は部屋に入って早々に、檻の中に放り込まれていた。

 しかも、従者たちの手によって。


 まだ何もしていなかったのに、何かする雰囲気があったらしい。


 そして、お茶とお菓子の準備をしていたヴァルナさんに対して、集団でラブコールしたというわけだ。


 ヴァルナさんは、無視しようとしたようだけど、根負けしたようだった。


「そこまで言ってしまえば、言葉を濁した意味がないではないか。しかも、何故、サル繋がりなのだ?」

「人間に限りなく近い種族だから、ケダモノなゼルノス兄様に相応しいと思って。ああ、ゴリラに失礼ってことかしら? ごめんなさい、ゼルノス兄様。それは気付かなかったわ」


 トゥーベル王女も第二王子殿下も人間界に行っている。

 だから、意味が通じてしまうのだろう。


「大体、どこの世界に、毎回、出会い頭に襲い掛かってくるような男に気遣うことができる寛容な女がいるって言うのよ? そんなことができるのは、まだ何も知らない幼女か、王族に対して無条件に頭を垂れる自主性や主体性のない白痴か、ただの男好きよ」


 さらに続いた言葉に微塵も容赦はない。

 「白痴」なんて、日常会話で使う単語ではないだろう。


「俺はヴィーシニャの精霊に襲い掛かってはいない」


 鉄格子を握りしめながら第二王子殿下は主張する。


「親しくもない未婚女性に対して、許可なく同意なく了承なく承認なく両手を広げて抱き付こうとしているのは十分、立派に痴漢行為だわ。人間界なら、即、現行犯で警察に引き渡されるでしょうね」

「ここは人間界ではない」

「だから、お供たちも無言で檻に詰め込んだのでしょうね」


 トゥーベル王女は大きく溜息を吐いた。


「少し(アタクシ)が見ただけでも、ゼルノス兄様の状態が危険水域にあることが理解できるもの。まあ、そんな檻に入れたところで、ゼルノス兄様にとっては()()()()()()()()()ものでしょうけど」

()()()()のだ」


 さらに言葉を続けたトゥーベル王女に対して、第二王子殿下は悔しそうにそう答えた。


「は?」


 トゥーベル王女は目を丸くする。


「この檻の、この鉄格子に見える物は、どんなに力を込めてもピクリとも動かぬ。こんな材質、初めてだ」

「どういうこと?」

「そのままの意味だ。わけが分からぬ」


 第二王子殿下はそう言って金属製の格子を握りしめて分かりやすく力を込めるが、勿論、動くことはない。


「シオリさん!! 何が、どうなっているの!? このケダモノ……、違った! ゼルノス兄様を物理的に閉じ込めることができるなんて……」


 何故か、その顔はキラキラとして、実に()()()()だった。


「その檻は、わたくしの侍女が用意した物です。そのため、何の材質でできているかも聞いておりません」


 そして、その檻を準備した侍女は本日来ていない。


「侍女って、そこの飛び回っている女?」

「いいえ。別の侍女です。わたくしもアーキスフィーロさまも、国王陛下より、同行者は一人ずつのみと言われておりますので」


 侍女自身が貴族令嬢ならば、登城することに何も問題ないはずだけど、わたしの専属侍女たちは貴族ではないのだ。


 寧ろ、許可が出ただけでもありがたいと思っている。


「それに、檻が頑丈なのは当然ではないですか?」


 簡単に脱出できては檻の意味がないと思う。

 まあ、わたしの侍女たちは簡単にその檻の壁に鉄球を叩き込んでしまうのだけど。


「普通の人間ならね。でも、ゼルノス兄様は怪力が売りの人狼族の血を引いているのよ? その分、思考が単純すぎて、脳みそまで筋肉でできているとも言われているほどなのに、カルセオラリア製のものならともかく、こんな普通の鉄格子を曲げられないなんて……」


 脳みそまで筋肉は言い過ぎではないだろうか?

 脳は確か、筋肉ではできていなかったはずだ。


 だが、どうやら、人狼族は怪力らしい。

 そんでもって、多分、精霊族なのだと思う。


 それが分かっただけで、この鉄格子に見える金属の中に別の素材が含まれていることはわたしにも理解できた。


 今にして思えば、ルーフィスさんもヴァルナさんもその金属部分を避けて鉄球を投げていたのだ。


 その鉄格子に見える金属性の棒には、精霊族対策が施されていると考えるべきだろう。

 銀製品か、それ以外の物かは分からないけど。


 でも、これ以上深く考えさせたくはないな。


 その金属製の格子以外の場所……、周囲を囲んでいる側面部分は普通の囲いであるだろう。

 それに気付かれたら、そこから壊されてしまうと思う。


 既にその部分は侍女たちの凶器によって、何度も壊されているのだ。


 今は、第二王子殿下は見通しの良い格子部分を握りしめているからその事実に気付いていないけど、いずれ、気付く可能性はある。


 まあ、その時は、今は離れている専属侍女が何かしらの措置してくれるとは思っているのだけど、できるだけ負担は減らしたい。


「ところで、トゥーベル=イルク=ローダンセ王女殿下。本日、こちらにお見えになった理由は、ゼルノスグラム=ヴライ=ローダンセ王子殿下のことを気にされて……ということでよろしいでしょうか?」

「はあ~あ!? そんなわけないでしょう!? こんなケダモノのことなんかどうでもいいの!! (アタクシ)はちゃんと用事があって来たんだから!!」


 用事があってもなくても、わたしだけでなく、アーキスフィーロさまも仕事ができていないのだ。

 だから、できればその用事とやらをさっさと終わらせて欲しいと思う。


 だけど、それを直球で言っても駄目だろう。

 この感嘆符が大好きな王女さまは変化球が好きそうだからね。


「ですが、ずっとゼルノスグラム=ヴライ=ローダンセ王子殿下のことを気に掛けておられます。仲が良いご兄妹でございますね?」


 口元を隠すものがないからクスクスと笑うことはできない。

 だから、にっこりと笑って見せた。


「ヴィ、ヴィーシニャの精霊!! 今の笑みをこちらに向けてくれ!!」

「うっさい!! ケダモノ!! ゼルノス兄様のせいで話が進まない!! ちょっとは黙りさい!! いや、息もするな!! いっそ、そのまま死ね!!」


 トゥーベル王女は酷いことを言いなさる。


 そして、リアルで「そのまま死ね」って台詞を聞く機会があるとは……。

 この手の台詞って、悪役とか、悪い人が使う言葉じゃないっけ?


 少なくとも、王女さまが使う言葉ではないと思うのはわたしだけでしょうか?


「ゼルノス兄様の封じ込めることができる檻があるなら、今は好都合よ!! シオリさん!! あんたに話が会ってここに来たの!!」

「アーキスフィーロさまではなくて……ですか?」


 舞踏会の様子を見た限り、このトゥーベル王女はアーキスフィーロさまに執着している印象があった。


 でも、今は、()()()()()()()


 それどころか、トゥーベル王女はわたしとばかり会話していて、アーキスフィーロさまはわたしの横で、ほぼ空気のような状態になっている。


 その点は確かに不思議だった。


「ええ、アーキスフィーロはこの点において、()()()()()()()()もの」


 酷い。

 そして、あっさり切り捨てるのも凄い。


 あれだけの執着心はどこ行った?

 それとも、もしかしなくても、あの態度は振り(ポーズ)だった?


 今のトゥーベル王女は、あの舞踏会の印象とは全く違う。

 口はかなり悪いけれど、それでも、考えが足りないような人には見えないのだ。


 いや、これはあくまで自分の考えだから断言できない。

 後で、ヴァルナさんやルーフィスさんにも聞いておこう。


「それで、わたくしにどのようなお話があるのでしょうか?」


 心当たりがない。


 強いて言えば……、舞踏会での歌ぐらい?

 それとも、その結果、わたしが人間界に行ったことがあることが分かったから、それについて?


 だけど、そんな風に身構えていたわたしに対して、トゥーベル王女の口から出てきた言葉は、どれも予想とは全く違ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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