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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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姫騎士?

「の、『()()』だ……」

「まさか、本物か?」

「いや、こんな所にいるはずが……」


 第二王子殿下の従者たちが、わたしの背後にいる専属侍女を見て、こそこそと何やら言い合っていた。


 髪色としては、濃藍は、このウォルダンテ大陸では珍しいらしい。

 黒髪は多いのにね。


 でも、大神官である恭哉兄ちゃんもそうだし、どこかでフラフラしている「聖女の卵」も濃藍色であるから、わたしとしてはそこまで? ……と、思っている。


 でも、珍しいからこそ、城下で話題の人物と同じ髪色をした人間がこの場にいるだけで騒ぎとなるのだ。


 六日前にもこの濃藍髪の侍女はわたしと一緒にここまで来ているというのに。


 それほど、例の存在を希薄にする眼鏡の効果が凄いということだろう。


「人気者ですね?」

「物珍しいだけですよ」


 これほど騒がれているのに、その濃藍髪の専属侍女は、気にせず、とっとと仕事を始めようとしている。


 その神経の太さが羨ましい。


 さて、こうなったのには、勿論、理由がある。


 遡ること、数分前。


「おお、ヴィーシニャの精霊よ!!」


 もう何度目か分からない第二王子殿下のご登場は……。


「ぶげらっ!?」


 あっさりと濃藍髪の侍女の手によって強制的に退場させられた。


「今の……、何……?」


 あまりにも早くて見えなかった。

 多分、打撃だと思う。


「『旋棍(せんこん)』……、栞様が知っている名称ならば、『トンファー』と呼ばれる()()()()()()()です」


 トンファーなら確かに聞いたことがあるけど……。


「防具?」


 どう見ても殴打しているようにしか見えなかった。

 それに、盾のような物が付いているわけでもない。


 それなのに、どうやって守るのだろうか?


「腕から肘を守り、相手の攻撃を受けて返すことができる攻防一体型の武器です」


 さらに、護る必要がなければ、一方的に攻撃も可能ですと付け加えられた。


 攻防一体型の武器だったのか……。


 十手みたいな感じかな?

 アレも(かぎ)部分に敵の刃を挟み込んで折ることもできた武器だったはずだ。


「いや、それよりも、第二王子殿下が……」


 アーキスフィーロさまが戸惑っている。


 第二王子殿下は、本日も契約の間の扉の前で待ち伏せていらっしゃったのだ。

 お仕事は大丈夫なのでしょうか?


 そして、また、わたしに抱き付こうとして、ヴァルナさんに容赦なく、その旋棍(トンファー)で、殴り倒されたのである。


 ルーフィスさんと違って、この侍女は寸止めする気もないらしい。


 まあ、この城内に限り、王族に手を出しても良い許可が下りているから、遠慮をするつもりはないのだろう。


(わたくし)の仕事は、栞様の身の周りのお世話と護衛です。許可が下りている以上、躊躇う必要性を感じません」


 うん、実にクールビューティーである。


 でもね?

 ちょっとだけ、いつものこの人に会いたいと思ってしまうのは我が儘だろうか?


 ルーフィスさんはそこまで変わっていないから、外見が変化しても違和感がない。


 でもヴァルナさんは、外見が変わったら、その中身まで変わってしまったような気がするのだ。

 そのことが酷く寂しい。


 だが、そんなことを言っている状況ではなかった。

 第二王子殿下をこのままにしておくのは良くないだろう。


「ヴァルナ?」

「……治癒魔法は使います。流石に()()()()()でしょう。但し、契約の間の掃除を優先しますが」


 わたしが名を呼んだだけで、理解してくれたらしい。


 だが、契約の間の掃除を優先するとは一体……。


「治癒魔法をここで使うよりは、契約の間で使う方が問題ありません」


 魔法の気配の話らしい。

 言われてみれば納得できなくもない。


「分かりました。わたくしは治癒魔法が不得手なので、お願いしますね」


 治癒魔法なのに、ふっ飛ばし要素が必ずあるのだから得意とは言えない。


 雄也さんが言うには、治癒できているから問題はないらしいけれど、やはり人前で使えないのはだめだろう。


 それに、目の前で、ちゃんとした治癒魔法を見せられるとやはり、まだまだだな~って思ってしまう。


 まあ、ずっと努力し続けた人と、まだ数年の努力しかしていない人間を比べるのなんて烏滸がましいことだ。


 わたしは、わたしにしかできないことを頑張るのみである。


 そして、ヴァルナさんとセヴェロさんが契約の間を掃除し、第二王子殿下の怪我を治した直後、第二王子殿下の従者の一人が濃藍の髪に気付いたのである。


 そこまで気付かれないのも凄いかもしれない。


 あの眼鏡って、どれだけ凄いのだろう?

 わたしが掛けても同じようになるのかな?


 ぬ?

 でも、わたしはあの眼鏡を掛けている人たちを正しく認識できている。

 トルクスタン王子も多分、そうだ。


 それも不思議だね。


「の、濃藍の髪をした侍女殿。是非、一戦、我々とお相手、願いたい」

「お断りします。(わたくし)は仕事中ですので」


 第二王子殿下の従者たちの申し出も、素気無くお断りする侍女。


「ヴィーシニャの精霊殿! 先日の『翠玉の君』のように、この方とも是非……」

「先ほどの第二王子殿下のようになるかもしれませんよ?」


 ルーフィスさんはいつの間にか「翠玉の君」と呼ばれているらしい。

 この人たちはニックネームを付けるのが好きなのか?


 そして、わたしの言葉に従者の一人は、一瞬だけ、怯んだように見えたが……。


「寧ろ、()()()です!!」


 何故か、そんなことを叫ばれた。


 え?

 ご褒美って何?


 ヴァルナさんと一戦すること?

 それとも、ヴァルナさんからぶん殴られること?


「誤解をなさらぬように!! 今、我が国では『緑髪のお嬢』と『濃藍の姫騎士』、そして、『白き歌姫』の話題で持ちきりなのです!!」


 ちょっと待って?

 いろいろツッコミたい!!


「勿論、『白き歌姫』は、そこにいるヴィーシニャの精霊殿のことですが!!」


 余計な情報が追加されました!?


 嬉しくない。

 本当に嬉しくない。

 全くもって嬉しくない。


「その御姿を間近で拝見できるだけ感無量ではあるのですが、城の者たちの中では、『緑髪のお嬢』と『濃藍の姫騎士』と勝負するのも憧れなのです!!」


 チラリとヴァルナさんを見る。

 目を逸らされた。


 当人は不本意らしい。

 わたしもその変な通り名は嫌だから、気持ちは分かる。


「『濃藍』殿。第二王子殿下は先日のように、頑丈な檻に入れますので、是非、お相手願えないでしょうか?」


 第二王子殿下の従者の一人がそんなことを言い出した。

 

「あ? ちょっと待て!? お前たち、躊躇なく俺を売る気か!?」


 流石に第二王子殿下が抗議する。


「売るなんてとんでもないことでございます。ヴィーシニャの精霊殿と二人きりで語らう良い機会ではございませんか」

「そうですよ。ゼルノスグラム王子殿下。羨ましい限りでございます」

「いよっ!! ゼルノスグラム王子殿下、男前!!」


 あ。

 躊躇なく、従者たちは第二王子殿下を売った。


 どれだけ、ヴァルナさんと勝負がしたいのか?

 しかも、ヴァルナさん自身は噂の「濃藍の姫騎士」であることを肯定していないのに。


 そして、第二王子殿下はおだてられて、あっさりと既に準備されている檻の中に納まろうとしている。


 あの檻、直したのか。

 確かに金属部分は曲がっていなかったが、それでも、壁はひしゃげていたのだ。


 ルーフィスさんによって後始末を押し付けられた……、もとい、任された従者は有能だったらしい。


「ヴァルナ……」

「嫌です」


 一応、打診をしてみるが、すぐに断られた。


「仕事が進まないのです」

「危険人物を前に貴女から離れる方が問題です」


 この場合、危険人物とは第二王子殿下のことらしい。


 気持ちは分かる。

 わたしも金属製の格子越しでもあまり会話をしたくない。


 どこか、話が通じないのだ。

 始めは通じている気がするのに、何かのスイッチが入ったかのように、暴走を始める気がする。


 王族として、これで大丈夫かと不安になるほどに。


 でも……。


「少しばかり距離があっても、あなたには問題ないでしょう?」


 ルーフィスさんと同じだ。

 多少の距離など、この人には関係がない。


「わたくしは、あなたを信じていますので、()()()()()()()()()ください」


 わたしがそう言うと、ヴァルナさんは大きく溜息を吐いて……。


「承知しました、我が主人」


 そう言って、騎士のようにわたしに跪く。


「「「姫騎士だ」」」


 うん、わたしもそう思う。

 今のは、実に騎士っぽくてドキドキした。


 わたしの専属侍女たちは綺麗で、そして、かっこいい。


「その代わり、()()()()()()()()()からね」


 濃藍の姫騎士と呼ばれたわたしの専属侍女は妖艶に微笑む。

 その笑みに不穏なものを覚えた。


 あれ?

 騎士?


 これでは、騎士というよりも、お姫さまを唆す魔女の顔じゃないでしょうか?

 笑顔で毒リンゴを渡されそうである。


 だけど、無理を言っている自覚はあった。

 当人は嫌がっているのだから。


「わたくしに与えられるものでしたら」


 わたしがそう笑うと……。


「それ以上の物は望みませんから、ご安心ください」


 専属侍女も笑ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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