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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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兄弟たちの報告会

但し、双方、女装しているという……。

「厄介なことになった」

「聞いている」


 部屋で報告書を渡してすぐにオレがそう言うと、兄貴はあっさりとそう口にする。


 どうやら、既に栞から話は聞いているらしい。


 まあ、あの第二王子は強烈だったもんな。

 すぐに報告したくなったのだろう。


 帰りに第二王子やその配下たちの待ち伏せを警戒していたが、流石にそこまでアホではなかったらしい。


 あるいは、油断させるためか?


「まずは、読ませろ。話はそれからだ」


 そう言って、兄貴はオレからの報告書に目を通し始めた。


 栞は兄貴にどんな報告をしたのだろうか?


 見たままだったのか?

 それとも、感情をぶちまけただろうか?


「第二王子殿下のことを知りたいと言っていた」

「え?」

「主人は部屋に戻るなり、そう言ったぞ」


 あの第二王子を理解しようとしたのか。


「それで、第二王子がロリコンだって話をしたのか?」

「していない」


 していないのか。

 いや、栞もあの精霊族の言葉からそれに気付いたとは思うけれど。


 オレも調べたが、9歳から13歳までの少女が少なくとも11人、これまであの第二王子の私室に連れ込まれている。


 噂を入れたら、もっと酷い。

 ……そんなヤツに目を付けられたなんて、碌な結果にならないことが分かるだろう。


「なるほどな」


 読み終えた兄貴は一言だけそう呟いた。


「『港町の幻の歌姫』か。あの『音を聞く島』の管理についていろいろ権限を与えられたのは第二王子殿下だったからな。そのついでに、港町に行けば、あの日、あの場にいた人間から話を聞く機会はあっただろう」


 あの夜、あの酒場は盛況だった。

 (サクラ)が歌っている間に客の入れ替わりはなかったと記憶している。


 そして、あの酒場にいたのは5人掛け丸テーブル12脚と2人掛けテーブル5脚が全て埋まり、カウンターだけでなく立ちながら飲んでいたヤツも何人かいた。


 その歌姫(サクラ)に手を出そうとした例の神官たちは飲まずに、立っていたな。


 総計すると、100には届いていないが、それに近しい数字となる。

 噂をするには十分な人数だ。


「しかし、第二王子殿下が『歌姫』に惹かれるのは意外だったな。あの日の主人は背を高く見せていたはずだ。伝聞の容姿からも、実年齢より若く伝わるとは思えないのだが……」


 ああ、かなり厚底の靴を履いて、身長を増量していたな。

 足元はロングドレスで隠していたから、底上げられた部分はほとんど見えなかったはずだ。


 そうなると、単に小柄な女が好きというわけでもないのかもしれない。


「それで、どうする? 近付けないようにするか?」

「何の措置も要らないだろう」

「あ?」


 何、言ってんだ? このクソ兄貴。


「近くに来るだけで害はあるまい。主人に触れようとした時だけ(はた)き落とせ」

「いや、仕事の邪魔だったんだが」

「構うからだ。無視しておけ。それも、第二王子殿下にとってはご褒美だろう」


 兄貴はそう言うが、そんなに簡単にあしらえるとは思えない。

 しつこかったし。


「面倒なら、勝負を持ち掛けろ。それで、全て片が付く」

「片付かなかったぞ」


 最初にそれをやってもごねられたのだ。

 だから、余計に面倒だった。


「お前が叩き伏せておけば問題なかった」

「あ? オレの相手なんかしてくれるかよ」


 そもそも、オレやあの精霊族のことなんて、目にも入れていなかった。

 栞の存在に気付いてからは、婚約者候補の男のことすら無視していたほどだ。


「する。あの第二王子殿下は強者に挑戦することが好きだからな」

「そこは勝つことじゃないのか?」

()()()()()()()()()()()なのだ」


 そう言えば、なんか言っていたな。

 キャッチコピーだったか?


 ―――― 俺より強いヤツを倒しに行く


 挑戦止まりってことは、倒せないのか。

 倒しに行くだけで、返り討たれてばかりってことか。


 それなら、素直に会いに行くだけにしておけ。


「因みにどんなヤツに挑戦したことがあるのか。調べてあるか?」

「ここ数年間で、各中心国の国王陛下には軒並み瞬殺されているな。新たに中心国となったクリサンセマムの国王陛下も含めて、だ」

「アホだった!!」


 いや、各国の国王陛下に挑戦できるだけ凄いのか?

 それでも、アホとしか言いようがない。


「魔獣退治の者たちにも挑戦しているらしいが、流石に王子殿下相手には手加減したり、負けたふりをしているらしいな。そろそろ、『緑髪』と『濃藍』にも挑戦するのではないか?」

「今のところ、そんな気配はねえな。もともと、オレたちは名指しで依頼されることがない」


 正しくは、名前を知られていないのだ。


 魔獣退治をするやつらのほとんどが、オレのことを「濃藍」、水尾さんのことを「緑髪」と呼んでいる。


 名前を聞かれたことがないというのもある。


 いや、水尾さんが聞かれても答えなかったことはあった。

 オレに聞かないのは、オレの方が愛想もないからだろう。


 水尾さんは不機嫌そうな顔をしていることが多いが、メシ食っている時は表情が豊かなのだ。

 だから、メシを食っている時に声をかけようとするヤツらが多い。


 尤も、水尾さんは、他人からメシの邪魔をされることを嫌う。

 結果は、言うまでもないだろう。


 食堂や酒場などで、怪我人の報告がないだけマシなのだ。


「若き日の大神官猊下にも挑戦したことがあるらしい。尤も、いきなり飛び掛かって、返り討ちにあったらしいが」

「本物のアホじゃねえか」


 そして、若き日っていつの話だ?

 大神官はオレよりは年上だが、今でも十分、若いぞ?


「確か、橙羽(とうう)時代だと聞いた」

「その時点で既に高神官じゃねえか。どうして()()()()が勝てると思った?」


 しかも、高神官の中でも第二位だ。

 本物のアホでしかない。


「主人と出会った時点で、既に緑羽(りょくう)だったらしいからな」


 栞と会ったのは中学卒業直前。

 つまりは15歳。


 ああ、うん。

 あの方、本当に規格外だよな。


 神官は完全実力世界だ。

 正神官までは運良くなれても、上神官以上となれば、もう誤魔化しはできなくなる。


 真っ当な神経を持っていれば、仕掛けようとは思わない。


 つい最近、ストレリチアの大聖堂で、オレが一方的にボコられたのは、アレはオレが悪かったからだ。

 あの時は、こちらから攻撃を仕掛けたわけではなく、向こうから仕掛けられたしな。


「まだ挑戦を受けていないなら好都合だ。次は侍女の恰好ではなく、外出着で行って、『濃藍』として、勝負しても良い」

「なんで、オレが?」


 いや、勝負しろって言うなら、するけどさ。

 王族であっても、相手が了承した上で、ボコる権利がもらえるなら喜んで()ってやる。


「強者は身分を問わず認めるらしい。多少の牽制にはなる」

「婚約者候補の男は認められなかったぞ」


 だから、面倒だったのだ。


「認めた上での懇願だ。それに、主人が『ヴィーシニャの精霊』と分かった途端、気にしなくなっただろ?」

「認めた上で、約束を反故にするのはどうかと思うが……」

「これを見る限り、第二王子殿下が勝てば、会わせて欲しいとあるが、負けた時の取り決めはない。それに、第二王子殿下は自分自身の力で、目的を見つけた。当人の中ではそうなっているのだろう」


 迷惑な話だ。

 そのために、何時間(何刻)も無駄にしたのだから。


「だが、この様子だと、お前が挑戦するより、俺が挑戦する方が早そうだな。どうせ、三日後にまた飛び込んでくることだろう」

「国王の許可を取った上で……か?」

「国王陛下は、第二王子殿下の職務放棄は許さないだろうが、休息時間、自由時間まで束縛はしないと予測している」


 そうなると、また面倒ごとに巻き込まれるのか。


「魔法よりは、肉弾戦の方が納得するだろうな。二度と逆らえぬようにショックを与えるなら、鞭か、金槌(ハンマー)。見た目のインパクトなら、星球式鎚矛(モーニングスター)か」


 おいおい。

 血を分けた兄が物騒なことを言い始めたぞ?


 いつものことだな。

 インパクト、インパクトねえ……。


「金棒……いや、釘バットなんかが良いんじゃねえか?」


 分かりやすく、見た目が凶悪だろ?


「バットに釘を刺すな」


 だが、元野球少年は、バットに釘は許せないらしい。

 この様子だと、元ソフトボール少女も許さないかもしれない。


 発言には気を付けよう。


「それ以外なら、チェーンソーはどうだ?」

鎖鋸(くさりのこ)など、この世界では動かん。人の皮で作ったマスクを被れば、持っているだけで見た目のインパクトは十分だがな」

「それは、チェーンソーより、人の皮で作ったマスクを被っている方がインパクト、でけぇよ」


 そして、どこのホラー映画だ?


 個人的にはそっちよりも、不吉な日に現れるホッケーマスクを被った殺人鬼の方が好きだが、(マチェーテ)や斧だと見た目のインパクトが足りないかもしれない。


 そうなるとやはり、戦鎚(ウォーハンマー)か?


拳鍔(ナックルダスター)の方が分かりやすいか」

「メリケンか」


 明らかにぶん殴るための武器とか。

 兄貴も第二王子に対して、いろいろ思うところがあるらしい。


「もう素手で良いんじゃないか?」


 それだけでも十分だろ?


「何を言う。主人は武器を見るのが好きだからな」

「いや、武器を見るのは好きっぽいけど、武器で人を傷つけることは嫌がるぞ?」


 栞が喜ぶのはあくまで、観賞用として見ているからだ。

 人を傷つけることは望んでいない。


 ―――― これで、人を切ったことはある?


 カルセオラリアで聞いたあの言葉は今も耳に残っている。


 あれから一年経ったが……、幸い、まだ殺したことはない。

 羽ならば毟ったことはあるけれど。


「そうなると……、やはり、主人の見た目にも優しい殴打武器だな」

「いや、兄貴のソレは見た目にも優しくはないからな?」


 兄が振るう殴打武器で、過去に何度も殴り倒され、打ち倒されたこともある弟としてはそう言うしかないのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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