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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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迷惑行為

「ヴィーシニャの精霊が俺の手を取ると言ってくれるまでは、頭を上げない」


 そんな風に第二王子殿下が「困ったさん」なことを言うものだから……。


「承知しました。それならば、そのままでいらしてください」


 わたしは、そう言って背を向けた。


 いくらなんでも、冗談が過ぎる言葉だろう。

 万が一、本気なら、もっとタチが悪い。


 第二王子殿下の申し出は、取り方によっては、側女(そばめ)の申し出になる。


 世話になっている家から出るために、王族の手を取るって、多分、そういう意味に取ることができるだろう。


 冗談じゃない。


 これでわたしが「無礼」、「不敬」と言われて処罰を受けるかもしれないけれど、その時は、アーキスフィーロさまには害がないようにしたい。


 命を奪われるようなことはアーキスフィーロさまの有用性を理解している国王陛下がさせないと思うけれど、それに近しいことは何度かされているようなのだ。


 最悪、セントポーリア国王陛下か恭哉兄ちゃんの名前を出そう。

 そんでもって、護衛たちとともに逃げよう。


 背後から、わたしの言葉と振る舞いを非難するような不穏な気配がし始めたので、振り返って……。


「わたくしは、アーキスフィーロさまの付属品(オマケ)ではありますが、ローダンセ国王陛下のご意思により、ここに参上しております。そのため、これ以上、邪魔されては(かな)いません。正当な用件がおありならば、まず、陛下に御進言くださいますようお願いします」


 その一番、根底となる部分を告げる。


 背を向けている間に、第二王子殿下は顔を上げてくれたらしく、目が合った。

 その山吹色の瞳は離れた場所からでも分かるほど、激しく揺れている。


 第二王子殿下も、その後ろにいる従者たちも誰一人として気付いていないようだけど、わたしはここに遊びで来たわけではないのだ。


 個人的には「どうしてこうなった!?」といつものように叫びたい。


 今の状況は、アーキスフィーロさまのお手伝いをお屋敷でするのとは全く違う。

 ローダンセ国王陛下から正式に任命されたことなのだ。


 わたしを動かしたいなら、まず、そちらをなんとかしていただきたい。

 

 まあ、わたしを同行させたいと願ったのはアーキスフィーロさまだったけど。


「いや、だから、そなたが我が手を取れば、そのような雑務など……」


 それでも、第二王子殿下はそんなことを仰る。

 確かに様々な書類が混在していて雑務としか言いようがない。


 第二王子殿下が任されている仕事と比べれば、事務仕事とも言えない内容なのだろう。


 それでも……。


「第二王子殿下は、()()()()()()()()()()を、雑務だと言われるのですね?」


 国王陛下が「これをやれ」と言ったからには立派に仕事だよね?


 それを軽々(かるがる)と投げ出す?

 しかも、自分で勝手に判断して?


 そんなこと、どの国だって許されないことだろう。


 わたしがそう尋ねると、第二王子殿下が口を噤んだ。

 流石に、国王陛下からの言葉は無視できないようだ。


 この第二王子殿下が「王子殿下」と呼ばれるほどの地位にあるのだって、その国王陛下のおかげなのだから。


「それでは、アーキスフィーロさま。お仕事を続けましょうか」


 落ち着いて考える時間は与えた。

 これでも食い下がるようなら、国王陛下にお伝えするしかなくなる。


 ―――― あなたの息子の一人がアーキスフィーロさまの登城の邪魔をしますよ


 その言葉だけで動いてくれるだろう。


 ようやく、アーキスフィーロさまが登城してくれるようになったのだ。

 それなのに身内に邪魔されるのは本意ではないだろう。


 第二王子殿下にはちょっと悪い気もするけれど、言っても聞かなければ実力行使するしかないよね?


「し、シオリ嬢……、その……」


 人の好いアーキスフィーロさまはどこか困った顔で第二王子殿下を見ている。

 王族を無視するのは良くないと思っているのかもしれない。


「大丈夫ですよ、アーキスフィーロさま。第二王子殿下は、聡明な方とお見受けします。自身の私情に(かま)けて、アーキスフィーロさまやわたくしに国王陛下の御言葉を無視させるような愚は冒さないことでしょう」


 少なくとも、それぐらいの教育は受けていると思う。

 だから、食い下がりはしても、感情のまま強行しないのだろう。


「特に余所者のわたくしなど、その意に反する行いをすれば、この国にはいられなくなってしまいます。国王陛下のご意思に逆らうなど、とんでもないことですから」


 一般的に他国の庶民……、行商人や神官たちが、滞在中の国で何かしでかしたら、当然のように追い出される。


 悪いことをするような人を国に留めておく理由などないから。


 そして、自国民ではないために、勝手に処刑とかはできない。

 いや、自国民でもそう簡単に処刑することはない。


 この世界には魔法、魔力があるので、それを使っての処罰がいろいろあるらしい。

 寧ろ、「楽には死ねんぞ」というのが、この世界に共通する刑罰だと聞いている。


「シオリ嬢、貴女という女性は……」


 アーキスフィーロさまは困ったように笑った。

 だけど、そんなにおかしなことを言ったかな?


「アーキスフィーロがここで仕事をしなければ、ヴィーシニャの精霊が国を出て行くことになるのか?」

「わたくしがこの場にいるのはお世話になっているアーキスフィーロさまの補佐のためでございます。それなのに手伝うどころか、足を引っ張ってしまう女など、国王陛下がどう判断されることか……」


 仕事の手伝いのために登城許可を与えているのに、仕事をしなければ、国はともかく、城に来る許可は下りなくなるだろう。


 そうなると、アーキスフィーロさまを守ることができなくなる。

 それは困るのだ。


 これ以上、理不尽で気の毒な目に遭って欲しくはないから。


「顔を上げてくれ、ヴィーシニャの精霊」


 気が付けば、下を向いていたらしい。

 第二王子殿下はそう言った。


 どうやら、本当にわたしは気に入られたご様子。

 隙あらば構い倒される気配しかしない。


 しかも、先ほどからアーキスフィーロさまを完全に無視されておられる。


 そうなると……。


「いいえ、このままでは仕事ができません」


 わたしは素直にそう口にする。


 今、アーキスフィーロさまがお仕事の手を止める原因となっているのは、この第二王子殿下だが、わたしがいなければ、ここまで邪魔されることもなかったはずだ。


 本当に申し訳ない。


 それならば、とっとと追い出すに限る。

 わたしが気に入られたなら、それを利用するまでだ。


「アーキスフィーロさまにも申し訳なくて、この顔を上げるなど……」


 さっき、この第二王子殿下が使った手だ。


 二番煎じと言う(なか)れ。

 この手段は相手を選ぶ。


 通じるか、通じないか、だ。


「いや! もう! 俺は邪魔しないぞ」


 良し!

 通じた!!


 わたしは、こっそり拳を握った。

 その仕草に気付くとしたら、勘の良い専属侍女と、心を読める従僕ぐらいだろう。


 距離のある第二王子殿下の従者たちからは、見えない角度だし、王子殿下しかみていないようだからね。


 そして、その握った拳の指先から少しだけ力を抜いて、口元に当てて、第二王子殿下を見た。


「本当でしょうか?」


 少しだけ声が震えた。


 うん、わたしにコレは向かないよ、ワカ。


 まあ、相手も芝居を見慣れているわけではないだろうし、少し盲目的な部分もありそうだから誤魔化せているとは思うけれど。


 ―――― 高田は可愛いから、コレで()()()()イチコロだ!!


 そして、相手が九十九ではない。

 いや、九十九ならどんな手段も効かないことはもう分かっている。


 本当に、彼は手強い。


「本当だ!! もう、お前たちの邪魔をしない。存分に仕事をしてくれ!!」


 だが、幸いにして、第二王子殿下は騙されてくれた。


 ヴァルナさんの方から冷ややかな視線を感じる。

 うん、やはりあなたにはバレバレですね?


「俺がここで仕事をする!!」


 だが、第二王子殿下はそう叫んだ。


 どうしてそうなった!?

 叫ばなかったわたしは偉いと思う。


 どうしたら、この王子殿下に迷惑だってことが伝わるのだろうか?


 わたしは意識を遠くに飛ばしたくなるのを我慢しながらも、なんとか、この場に踏みとどまったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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