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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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【第121章― 国の治乱 ―】扉の前で

この話から121章です。

よろしくお願いいたします。

 ロットベルク家にある簡易転移門を通って、この城にある転移門に来るのは、もう何度目だろうか?


 転移門自体、短期間でこんなに何度も使ったことが初めてなのだけど。


 城にある転移門は、普通、それを作った機械国家カルセオラリアでも、こんなに気軽に使えないと思っていた。


 セントポーリアの貴族たちは、王城に住み込むか、城下から離れた土地を治めている。


 そして、城下から離れている貴族たちは、滅多に王城に来ないと聞いていた。

 その人たちが王城に来る時は、事前申請をして、承認された後に転移門を使用するらしい。


 勿論、緊急時は除くらしいけれど、ここ数年に事前申請をせずに転移門を使うほどの緊急事態など、アリッサムの消失と、カルセオラリア城の崩壊ぐらいだそうだ。


 わたし(ワタシ)と母が、人間界に行った時にも使用しているが、それはある意味、事前申請をしていたようなものだったらしい。


 母やわたし(ワタシ)が国王陛下……、当時は王子殿下の元から逃げたいと思った時、一度だけ使って良いと許可があったらしい。


 それを事前申請と言っても良いかは謎だが、まさか、人間界へ逃げ込むなんて当時の王子殿下は考えていなかったことだろう。


 そんな距離まで転移門が使えたなんて、それまで知られていなかったらしいから。

 まあ、母もわたし(ワタシ)も一か八かの賭けだった可能性もある。


 どちらがそこへ逃げたいと考えたのは何故だけど、結果として、それは高田栞(わたし)という存在を作り出すことになった。


 だから、そのことについては今となってはどうでもいい話だ。


 楓夜兄(クレスノダール)ちゃん(王子殿下)から聞いた話となるが、セントポーリアと同じ大陸内にあるジギタリスの貴族たちは、もともと数が少ないために、その全て城樹に住み込んでいる。


 そして、城下から離れた土地については、貴族ではなく、集落を管理する人たちがいるそうだ。


 雄也さんから聞いた同じくシルヴァーレン大陸にあるユーチャリスの貴族たちは、城に住んでいるのは王族のみで、それ以外の貴族たちは、それぞれ与えられた土地を治めているらしい。


 そして、王城に行く必要がある時は転移門ではなく、移動魔法が主だと聞いている。

 まあ、農業が主体の国なので、あまり領地から離れることもないそうだけど。


 別大陸のストレリチアの場合は、城内にしか貴族がいない。


 そして、城から離れている土地は貴族ではなく、それぞれの場所に建立されている聖堂が管理している。


 これはあちこちに聖堂があることだけでなく、グランフィルト大陸の国家が今はストレリチアしかないことも一因だろう。


 同じく別大陸のカルセオラリアは、あちこちに貴族が住んでいて、引っ越しとかも自由らしい。


 全ての土地は国が管理しており、定期的に王族たちがその土地を訪れるそうだ。

 貴族とは王族の血を引く者であり、土地の管理する立場にないとのこと。


 さらに言えば、管理とかそんな時間があれば、物作りがしたいという気質の人たちが多いので、問題なく回っているそうな。


 それはそれでどうなのだろうか?


 このローダンセは王城に住んでいる貴族と、城下の貴族街と呼ばれる区画に住んでいる貴族に分けられる。


 城から遠く離れた土地は、貴族街に住む貴族たちが土地の管理者を代行者として派遣して、守っているらしい。


 だが、貴族たちはこの城下から出ることはほとんどないとも聞いている。

 それだけ魔獣が多く、危険らしいのだ。


 この貴族街は、王城から少し離れているが、転移門ではなく移動魔法で十分な距離だと思う。

 馬車のような乗り物を使えとは言わないが、わざわざ転移門を使う理由がよく分からない。


 そして、それだけ転移門の恩恵を受けておきながら、あの世界会合で、カルセオラリアが中心国であることを反対するのも不思議である。


 あのタヌキな国王陛下のことだから、そこにも何かしらの理由はあるのだと思うけれど。


「シオリ嬢、大丈夫ですか?」


 わたしを気遣うような声。

 見ると、アーキスフィーロさまが心配そうな顔をしながら、わたしを見ていた。


「はい、大丈夫です」


 この方から差し出される手を取るのも、もう何度目だろうか。


 中学時代の自分に言っても絶対に信じないだろうね。

 当時、気になっていた男子生徒の手を握ることが日常になる……なんて。


 今のわたしでもどこか信じられていないのだが、手袋越しに与えられる体温(ねつ)が、現実であることを伝えている。


 他国では転移門を使う時は、必ず、手を繋いだり、紐で結んだりと一緒に行動する人たちを何らかの形で結び付けておくのだが、この国の貴族の家から王城へ向かう時は、そんなことをしない。


 一方通行だからだろう。

 そして、帰る時は、城門から移動魔法を使うか、何らかの交通手段を使うようになっている。


 まあ、城から貴族の家に直通って、ある意味危険だからね。

 思うだけで、願うだけでその場所に行けてしまうのだ。


 それぞれが対策しなければ、泥棒さんが入り放題になってしまう。


「もし、お辛いのなら、貴女だけでも先に帰宅をされてください。ルーフィス嬢なら、確実に連れて帰ってくれることでしょう」


 仮に、本当に辛くても、初日から早退などできるはずもない。

 それでも、この人はわたしを気遣ってくれるのだ。


「少々、考え事をしまっただけです。みっともない姿をお見せして申し訳ございません」

「いえ、体調が悪くないのなら問題ありません」


 アーキスフィーロさまはそう言いながら微かに笑った。


「アーキスフィーロさまこそ、大丈夫ですか?」


 この場所は、アーキスフィーロさまにとって良くない思い出しかない場所だ。

 幼い頃から懲罰のように閉じ込められていたと聞く。


 そう言った意味では、アーキスフィーロさまの方がわたしよりも辛いのではないだろか?


「はい。先にルーフィス嬢とセヴェロが中の清掃をしてくれているので、今度も大丈夫だと思います」


 そうなのだ。

 前回、ここに来た時と同じように、この契約の間にルーフィスさんが先に入ってくれている。


 今回はルーフィスさんが掃除するその様子を見たいとセヴェロさんも言ったために、二人して中にいるのである。


 そこで何が行われているか?


 ルーフィスさんがあちこち動いている気配ならなんとなく感じ取れるのだけど、セヴェロさんの方は分からない。


 本来は、男女二人きりになってしまうために、アーキスフィーロさまが懸念を伝えたが、ルーフィスさんが問題ないと言った。


 前回は、扉の所にアーキスフィーロさまが入るまで見届けるための人がいたが、今回は、転移門の部屋からここまで案内した人は、早々に、いなくなったためだろう。


 アーキスフィーロさまも少し悩んだようだが、セヴェロさんがルーフィスさんをそんな対象として見ていないことと、いざとなれば、ルーフィスさんは、セヴェロさんを拘束することができるそうなので、渋々ながら承知してくれた。


 そして、ここまで案内してくれた人から、アーキスフィーロさまの仕事と思われる書類を何束か渡されている。


 その上で、退室時間になれば、また誰かが呼びに来るそうな。


 まあ、アーキスフィーロさまはこの部屋に入ったら、合図をされるまで、勝手に退室したことがないらしいので、そのやり方を今後も継続することになるのだろう。


「でも、このお仕事が終わったらどうしましょうか?」


 見たところ、そんなに量もないっぽい。


 内容の確認は部屋に入ってからとなるが、これならロットベルク家でやってきた書類仕事の方が間違いなく多いだろう。


 尤も、あの書類仕事の半分は、内容に厚みがなかったから比較対象としては役に立たないかもしれないけど。


「終わった後は、またゆっくりと過ごしましょう。読書をしても良いですし、この前のようにカードゲームをやっても文句は言われないと思います」

「そうですね」


 アーキスフィーロさまも、これらの仕事はそんなに時間がかかるとは思っていないようだ。

 まあ、我らには心強い味方であるルーフィスさんがいるからね。


「栞様、アーキスフィーロ様。中に入る準備ができました」


 扉から、ルーフィスさんが顔を出した。


『すっきりしましたよ~』


 その横からセヴェロさんも顔を出す。


「お前は平気だったのか?」

『あれ? もしかしなくても、心配してくれたんですか? ボクはもともと、大気魔気が濃い場所は大丈夫ですなんですよ』


 それはセヴェロさんが精霊族の血が濃いからだろう。


 これまで、セヴェロさんはこの城に入ることができなかった。

 でも、今回、アーキスフィーロさまの従者として地下に来ることまでは許されたのだ。


「問題ないのなら良い。入っただけですぐに倒れるようなら、今後、使えないからな」

『おやおや~? これは、アーキスフィーロ様。心配だったならそう言ってくれた方が、ボクもやる気が出るんですよ~?』


 セヴェロさんが揶揄うようにそう言った。


「いちいち言わなくても、お前には伝わるだろう?」

『いやいや、大事なことこそ、ちゃんと口にしてもらわないと、ボクには伝わりません』


 セヴェロさんは笑いながら……。


『ささっ! お二人とも、入りましょう!!』


 アーキスフィーロさまの背を押すのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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