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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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王族たちの関心

「栞様が心配されなくても大丈夫ですよ。第一王女殿下は確かに理想の女性王族として振る舞っていらっしゃいますが、裏ではしっかり息抜きをされていらっしゃる方です」

「え?」


 ルーフィスさんが微笑みながらそう言った。

 そう言えば、先ほど、表向きって……。


「王族で一番、魔獣退治をされているのは実は、その第一王女殿下です。その数だけならば、現国王陛下を超えております」

「うわあ……」


 頭の中に、とある魔法国家の第三王女殿下が出てきた。


「尤も、魔力はそこまで強くないため、魔法での退治は限度があるようです。しかし、弓術の腕は、弟である第四王子殿下を上回るとも言われております」

「第一王女殿下が王位を継いだ方が良いのではありませんか?」

「現在のこの国の法律では、王位を継ぐのは、直系男子のみなので難しいですね。それに、第一王女殿下は王族から解放されたがっているので、それを望まないとも思います」


 確かに、王族のままでは、雁字搦めになってしまいそうだ。


「どんなに国王として理想的な人間がいたとしても、それを当人が望まないのであれば、ただの押し付けでしかありません。この点に関しては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではございませんか?」

「ぐふっ!?」


 思わぬ所で飛び火した。

 ルーフィスさんが言いたいことも理解できる。


 セントポーリアの王子殿下は、王族として、少し足りない方だ。

 だけど、何の教育もされていないわたしよりはずっとマシだと思っている。


 それでも、魔力が強いというその一点だけで、わたしは、ダルエスラーム王子殿下よりも頂点に相応しいと思われかねないのだ。


 それが、魔力至上主義の多いこの世界の現状である。


「そして、第二王女の御名前は、トゥーベル=イルク=ローダンセ殿下。御年は、15歳。少し前に人間界より戻られました」


 わたしが困っていることが分かっているので、ルーフィスさんはあっさりと話を戻した。


「性格は、自分中心。気が短く、些細なことでも、周囲に当たり散らすそうです。物を投げ付けるなどの行為も多く見られ、専属の侍女や護衛は長続きしないとも伺っております」

「うわあ……」


 先ほどの第一王女殿下の話を聞いた後だと、なんとも、言えない気分になる。


「勿論、()()()()()()()ですが……」

「え?」


 こちらも、表向き?


 え? 何?

 この国の女性王族は、常に何かを誤魔化して生きているってこと?


「専属侍女の一人は乳姉妹(ちきょうだい)。そして、専属護衛は昔から幼馴染によって固められているため、入れ替わるのはもともと専属侍女ではないのです」


 それは裏事情というよりも、表に流れている噂が間違っているだけですね。


「第二王女殿下は小さくて可愛らしい生き物がお好きなようで、部屋にもそれらを模した物で溢れております」

「小さくて可愛らしい生き物?」

「人間界からウサギやハムスター、ひよこ、ネコなどを中心とした小物を多く持ち帰っております。人間界の日本という国で有名なリボンを付けた猫のキャラクターグッズはかなりの量を所持しているらしいですよ」


 そのリボンを付けた猫のキャラクターに、物凄く心当たりがある。

 わたしも小学生の時は好きで、友人からそのキャラクターがついた文房具を貰った時は嬉しかった。


 だが、そのイラストを描こうとすると、意外と難しいバランスで、早々に自分には描けないと諦めて、苦手意識からか、グッズからも離れた覚えもある。


「それ以外では子供好きで、城下の聖堂にある『孤児院(教護の間)』にも週に一度、慰問に訪れるようです」


 いもん?

 ああ、慰問か。


「第二王女殿下のイメージと一致しないのですが……」


 わたしがそう呟くと、ルーフィスさんが苦笑する。


 でも、あのでびゅたんとぼ~るで見た表情や、舞踏会でのアーキスフィーロさまやわたしへの態度、そして、そのアーキスフィーロさま自身から語られた過去の第二王女殿下の言動から、子供好きという印象は全く湧き起こらなかった。


 寧ろ、しっかりした子供から面倒をみられてしまうのではないかと心配になるほどである。


 何より、わたしは散々、「チビ」などと言われたことを忘れてはいないのだ!!


「デビュタントボールで、アーキスフィーロさまのお近くにいた栞様のことも、(いた)くお気に召したようですよ」

「え゛……?」


 意外過ぎる言葉に、濁点付きの返答になってしまったわたしの心境はお分かりいただけるだろうか?


「同時に、国王陛下よりその姿を乱され、正妃殿下の侍女によって化粧直しと髪結い(ヘアセット)をされた時のお怒りはかなり激しかったようです」


 あ~、なんか、古臭いだか、オバサン臭いだか言われた覚えがある。


「第二王女殿下は素直になれない天邪鬼のようです。好きな相手ほど意地悪なことを言いたくなるとも伺っております」


 そういうタイプの人間もいるとは思うけれど、舞踏会の発言はかなり品性を疑う種類のものだった気がする。


 しかも、正妃殿下や国王陛下にも激しい言い方を繰り返した。

 だから、それこそ素直に受け入れられない。


「リプテラのアックォリィエ様のような感じですね」

「それは分かりましたけれど、そのために他者を傷付けて良い理由にはなりません」


 確かに、アックォリィエさまも世間一般では迷惑をかける部類に入るだろう。

 だが、あの方は誰にでも食ってかかるようなことはしていない。


 気に入った人間に迷惑をかけるだけで、それ以外の人にはそこまで酷い態度ではないらしいのだ。


 第二王女殿下のように、目に映る全ての人に喧嘩を売るような方ではないと言うことになる。


「栞様があの場で、美声をお聞かせになったでしょう?」


 いや、わたしは美声ではありません。

 一緒に歌った雄也さんの方がずっと綺麗な声だった。


 しかし、この方は何故、あの時「Hallelujah」を歌えたのか?

 有名な合唱曲ではあるが、担当は男声低音(バス)である。


 主旋律(メロディー)とも言える女声高音(ソプラノ)ではないのに、よく聞き取れて、歌えるほどになっていると感心する。


「あの時、第二王女殿下は栞様に見惚れていらっしゃいました」


 見惚れていたかどうかはともかく、意外なほど静かだったのは確かだ。


「いずれにしても、アーキスフィーロさまに対する態度は、王族としても許されるものではないと思います」

「そうですね」


 幼い頃から、あんな風に絡まれていたなら、さぞ、居心地も悪かっただろう。

 話を聞いた限りでは、幼い頃の方が酷かったっぽいとすら思える。


「幼い頃のアーキスフィーロ様は、かなり可愛らしかったようで……」

「ぬ?」


 いきなり、何の話?


 いや、アーキスフィーロさまはあれだけお顔が整っているのだから、お子さま時代が可愛いことは想像に難くないのだけど。


「成長期に入り、声が低くなり、背も伸びて、体つきも男性的になった途端、()()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()そうです」

「あ~」


 なるほど、素直になれない天邪鬼系の女の子が、好みだった少年に意地悪していたけれど、成長して好きなタイプではなくなったために、それがかなりの悪感情に変化したってことかな?


 だが、それはかなり勝手だとは思う。


 この場合、アーキスフィーロさまは全く何も悪くないよね?

 永遠に成長するなと?


 どこの戯曲の主人公(ピーター・パン)かな?


「あと……、第二王女殿下は魔力が弱く、魔法も不得手と伺っております」

「あ……」


 それに対してアーキスフィーロさまは魔力が強い。

 魔法も魔獣退治ができるほどだ。


 アーキスフィーロさまに言いがかりを突けようとする第二王女殿下の根底にあるのは、劣等感(コンプレックス)の刺激なのかもしれない。


 そうなると、思ったより根が深い問題……なのかな?

 他者を意識しなければ良いだけなのだが、王族でそれは難しいだろう。


「それにしても、王子殿下たちよりも王女殿下たちの方が、細かく教えてくださるのですね」


 王子殿下たちの方がわたし宛に手紙を送ってきたりする。

 だから、そちらを警戒するために細かく教えてくれると思っていた。


「今後、城に上がる機会が増えれば、異性である王子殿下たちよりも同性である王女殿下たちの方が、関わる機会が増えることでしょう」


 それは、確かに。


「そして、第二王女殿下は既に栞様に多大な関心を示しておられます。第一王女殿下は、現在、静かですが、栞様の魔力がアーキスフィーロさまよりも強く、魔法の種類も多いことが伝われば、強引な命令(熱烈なラブコール)も考えられます」

「え……?」


 熱烈なラブコール?


「既にルカ様とヴァルナに接触があったようです。第二王女殿下本人ではなく、護衛が近付いただけのようですが……」


 水尾先輩(ルカさん)九十九(ヴァルナさん)に?


「魔獣退治で目を付けられ……、目をかけられたようです」


 そういえば、魔獣退治をする王女さまって言っていたね。


「そのために、栞様も十分、気をつけてくださいね?」

「はい」


 そう返事をしたものの、何をどう、気を付ければ良いのだろう?

 わたしには分からなかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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