一長一短な王族たち
わたしは、舞踏会前のでびゅたんとぼーるで、一応、成人済みの王族たちの顔を近くで見る機会があった。
その中で面識があったのは第五王子殿下だけ。
そして、成人済みの女性王族は、正妃殿下を除くと二人だけである。
21歳の第一王女殿下と15歳になって間もない第二王女殿下は、年齢差があるので、流石に説明されなくても一目で分かった。
まあ、第二王女殿下からは絡まれたから、嫌でも分かるのだけど。
第一王子殿下と第二王子殿下の容姿は分かったから、後は二択、確率は二分の一だ。
キラキラしい、立ち姿が堂々としていて、如何にも王子さまって感じの雰囲気を醸し出していた長い金色の髪と深緑の瞳をした方か。
それとも、姿勢が良く、恐らく兄弟の中でも一番、魔力の強いと思われる褐色の髪、瑠璃色の瞳を持った方か。
「金色の御髪をお持ちの方が、第三王子殿下です。褐色の御髪は、第四王子であるヴェルドロフ=バルダ=ローダンセ殿下ですね。御年は、20歳。トルクスタン王子殿下と同じ年齢だと伺っております」
わたしがメモを取る手……というより、イラストを描く手が止まっていたためか、ルーフィスさんは教えてくれた。
そして、同時にそれは雄也さんと同じ年齢ってことでもある。
いや、雄也さんは早生まれだから、実際の年齢差は一年近くあるかもしれないけど。
「第四王子殿下は正妃殿下の唯一の子でもあります。魔力が強く、正義感に溢れ、兄弟姉妹たちを窘める……、苦労人ですね」
「苦労人……」
それは評価なのだろうか?
そして、正妃殿下の御子としてそれは大丈夫なのだろうか?
いや、先に正義感に溢れていると言っていたか。
確かに、実際、はた迷惑な第二王女殿下を見たし、第三王子殿下の散々な評価も聞いた後では、正義感に満ちた人は苦労する気がした。
「勉学は優秀で、他国のことにも明るいそうです。得意魔法は水属性防御魔法と、水属性補助魔法。弓術にも優れ、魔法を付加した魔石を弓矢で飛ばすこともできるそうです」
いかにも、ザ、王子さま……らしい。
ルーフィスさんから見ても評価は高そうだ。
それでも、第四王子殿下は舞踏会で、ファーストダンスを踊らなかった。
その時点で、国王陛下を含めた王侯貴族からの評価は第一王子殿下に届かないと判断されていることになる。
それはどうしてだろう?
「但し、第四王子殿下は、女性が苦手だと伺っております」
「女性が……、苦手……?」
「はい。そのために、第四王子殿下を従者たちが社交の場に連れ出すのも一苦労とのことです」
人間界もそうだったけれど、この世界でも人類の半分は女性だ。
それなのに、女性が苦手だとなると、社交は難しいかもしれない。
しかも、連れ出すのも一苦労だというのなら、相当、嫌がっているってことだよね?
王族でなければ、苦手なら接触しないという手もあっただろうけど、それが許されない立場なのだ。
「それがなければ、ファーストダンスを務めるのは、第一王子殿下ではなく、第四王子殿下となる可能性もあると、王城では言われております」
「それは、姉である第一王女殿下が相手でも駄目だと言うことですか?」
「はい」
うわあ。
異母姉弟であっても、ダンスができないってかなりのことだと思う。
もしかして、接触ができない?
体質的なもの?
なんとなく、人間界で異性の近くにいるだけで赤面してしまう人を思い出した。
どことなく、セントポーリアの王子殿下に似た顔の人。
ソウの友人という、遠い位置付けであったが……、あの人は今も顔を赤らめているのだろうか?
あれ?
その友人がこの世界の人間だったってことは、あの人も実はその可能性もある?
いやいや、わたしやワカの友人全てが魔界人ではない。
多分、二度と会えない友人の方がずっと多い。
「第五王子殿下についても、ご説明が必要でしょうか?」
「はい」
人間界でもそこまで親しいわけではなかった。
互いに面識はあったけれど、まともに会話らしい会話をしたのは、あの九十九が淫魔族に襲われた日、合格発表を見に行った時だったと思う。
あの中学校は、一学年200人を超えていた。
しかも、クラスを超えての教室の行き来は用事がない限り許されていなかったのだ。
そうなると、出身小学校が違う上、一度も同じクラスにならない生徒同士の交流なんて、部活や学校行事を除けばほとんどなくなってしまう。
「第五王子の御名前はジュニファス=マセバツ=ローダンセ殿下。最近、19歳になられました。心優しく、周囲の意見を広く聞き入れ、参考にされることも多いようです。得意魔法は水属性攻撃魔法だと聞いております」
人間界で会った第五王子殿下は黒い髪、黒い瞳だったはずだが、この世界では黒い髪、茶色の瞳であった。
色合いにそこまで大きな変化はない。
そして、ルーフィスさんの言葉は、言い換えれば、優柔不断で流されやすい印象とも言える。
しかし、攻撃魔法?
それはちょっと意外……、でもないか。
そう言えば、人間界で、わたしはいきなり攻撃されかけたのだった。
あれは、魔力の暴走だったらしいけれど、もし、あの時、雄也さんがいなければ、どうなっていただろうか?
わたしは魔力の封印を解く前だったのだ。
当然ながら魔法も使えなかった。
最悪の事態がなかったとも言い切れない。
それが、どちらにとって、最悪な事態だったかは分からないけれど。
「以上が15歳以上の王子殿下たちについて……、となります。勿論、詳細を求められるならば、それぞれの性格や性質が分かるような話もいろいろございますが、どうされますか?」
「王子殿下たちの詳細については、必要だと思えば、その都度、教えていただければと思います」
メモを取っているが、多分、覚えきれない。
折角、ルーフィスさんが調べて、わたしに伝えてくれているのに。
恐らく、ルーフィスさんのことだから、分厚い記録をお持ちなのだろう。
それでも、わたしに分かりやすいように短く、最低限の説明に留めてくれている。
だが、王子殿下たちのお名前から既に怪しい。
本当に申し訳ない。
せめて、ファーストネームだけでも頭に叩き込んでおこう。
尤も、王族の名など、呼ぶこともないだろうけどね。
「女性で成人されているのは、お二人です。そのお二人についても説明は必要でしょうか?」
「是非」
第二王女殿下はこの前、会話? ……のようなものをした。
だから、なんとなくは分かったと思う。
完全に理解することはかなり難しいだろうとも思ったけど。
でも、第一王女殿下は見ただけで、話すことはなかった。
本来は、それが当然なんだけどね。
貴族子息の連れとはいえ、庶民であるわたしが王族たちと話すのはおかしいのだ。
それなのに、どうして、王子殿下たちは手紙を送りつけてきたのだろう?
全て、ルーフィスさんに指導されながら、なんとか全て返書は出したけれど、やっぱりよく分からなかった。
「第一王女の御名前はシルヴィエ=ペスラ=ローダンセ殿下。御年21歳。ローダンセ国王陛下の第四子としてお生まれになりました。常に一歩引いた場所から王子殿下たちを支えておられます」
それは、この国では珍しくもない女性の姿。
「表向きは……」
「へ?」
なんだろう?
今、不穏な言葉を聞いたような気がする。
「得意魔法は水属性攻撃魔法。第一王女殿下は幼い頃から活発で、城内や庭を走り回ったり、木登りや城壁を登ることを好まれていたようです。一番、国王陛下に似ていると、周囲の人間たちは溜息交じりに言っておりました」
「あ~」
あの国王陛下に一番似ているのか。
それは、どうなのか?
「王族は国の象徴であり、国民たちの見本となるべき存在です。そして、そのことを第一王女殿下はどの王族たちよりも自覚しておられると言えるでしょう」
「それは……」
どうなのか?
先ほどの話を聞いた限り、王子殿下たちは割と自由っぽい。
だけど、第一王女殿下だけは「この国の理想の女性王族」という型に嵌められている。
女だからという理由で、自分を隠さないといけないのか?
いや、王族の責務とかを考えたら、この国ではそうなってしまうということなのだろう。
納得はできなくても、他国の人間であるわたしは口出しができない部分である。
だけど、どことなく、複雑な気分になってしまうのは、わたしが女だから……なのだろうか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございました




