表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2401/2801

事前準備は大事

 マリアンヌさまは遮音結界を解く前に言った。


 ―――― アキのお兄さんと、第三王子殿下には気を付けて


 それは、多分、警告の意味があったのだと思う。

 最後に口にすることで、わたしが簡単に忘れないようにしたのだろう。


 そして、今、ルーフィスさんもそれとなく、それを確認するように誘導していった。

 そうしないと、意地っ張りなわたしが簡単には口にしないような気がしたのだと思う。


 実際、本当ならこの国に来る前に確認しておくべき、アーキスフィーロさまのことや、その元婚約者であるマリアンヌさまのことを全く聞かないのはおかしいのだ。


 事前情報大事。

 事前準備大事。


 でも、わたしはそれをしなかった。


 全く見知らぬ他人なら、迷わず雄也さんに聞いていたと思う。

 だけど、先に、中学時代の同級生だと知ってしまった。


 そうなると、本人たちが知らないところで、勝手に他者から話を聞き出すことに抵抗を覚えてしまったのだ。


 これは、雄也さんの情報が信用できないからではない。

 逆に信頼できてしまうからなのだと思う。


 だけど、これは別の話だ。

 かつての級友が、わたしに向かって伝えてくれたこと。


 元婚約者に近付いた女との接触を図ろうなんて、体裁を気にする貴族息女としては、随分、迂闊な真似である。


 それでも、わたしに伝えようとした。

 その心は無視できない。


 ―――― それに、彼女は恐らくわたしを……


 そう思いかけて首を振る。


 まだ確証はない。

 だけど、そうなのだと思う。


 だから、ちゃんと確かめなければならない。


 でも、今、考えなければいけないのは、別のことだ。


「この国の第三王子殿下とは一体、どんな方なのですか?」

「お知りになりたいのは、第三王子殿下のことだけでしょうか?」


 わたしの問いかけに、ルーフィスさんは笑みを交えて返す。


 つまり、全て、知れと?

 いや、この国の国王陛下の御子さまだけでも、一体、何人いらっしゃいましたっけ?


「栞様はこの国に住まうと決めたのでしょう? それならば、成人済みの王族の基本的な部分は知っておくべきかと存じます」


 成人済み。

 つまりは、15歳以上の王族。


 全て覚えろというよりはマシか。

 それに、確かに済むと決めた国の王族を知らないのは良くない。


 特に、わたしはアーキスフィーロさまの、この国の貴族子息の婚約者候補となったのだ。

 しかも、明日からは登城する予定でもある。


 無知は許されない。


 そして、これまで一切、王族の名前と年齢以外の情報を渡さなかったのは、わたしが関心を持つまで待ってくれていたということだと思う。


 それならば、王族が多すぎて覚えられないなどと泣き言は許されないだろう。


「それではルーフィスさん。この国の成人済みの王族について、ご教授をお願いいたします」


 わたしはそう言って、一礼する。


「承知いたしました。浅学な身で申し訳ございませんが、(わたくし)が知るこの国の王子殿下、王女殿下について、僭越ながらご指南いたしましょう」


 浅学?

 浅学ってなんですっけ?


 この人が浅学なら、わたしは何なの?

 無学?


「まず、第一王子であるオルヴァルド=キュロス=ローダンセ殿下。御年24。温厚で誠実、人当たりも良いのですが、王族としては、やや覇気が足りないと言われております。勉学は優秀。運動神経は並。魔法は水属性の防護魔法がお得意のようです」


 ルーフィスさんが説明を始める。

 思ったより、情報が詰め込まれていて焦った。


「め、メモを取らせてください!!」


 多分、一気に言われても覚えられない。


「はい。どうぞ」


 そして、準備されていたかのように差し出される紙と筆記具。

 いや、準備していたのだろう。


 渡された紙に、先ほどルーフィスさんから貰った情報を書く。


 ついでに、後で見て分かるように。第一王子殿下のディフォルメしたイラストも付けておこう。


 第一王子殿下は、わたしたちのでびゅたんとぼ~るの後、「花の宴」とやらで第一王女殿下と踊っていた人だったはずだ。


 髪色は焦げ茶。

 瞳はそれより薄い茶色。


 垂れ目だったためか、少し気の弱そうな印象だった。


 第一王女殿下相手の円舞曲(ワルツ)先導者(リード)は、丁寧にされていたと思う。

 気遣いのできる優しい人なのだろう。


「第二王子の御名前はゼルノスグラム=ヴライ=ローダンセ殿下。御年23歳。曲がったことが嫌いで、正義感に溢れるとても、元気の良い方です。身体を鍛えることが趣味で、食欲も旺盛だと伺っております。得意魔法は身体強化だとか」


 なんだろう?

 その溢れんばかりの脳みそが筋肉でできているっぽい王子さま像は。


 第一王子と違って、勉学の部分が省略されたのは意図的でしょうか?


 でも、それで分かった。


 第二王子殿下は、でびゅたんとぼーるの時に第一王子殿下の横にいた深緑の髪、山吹色の瞳で、ローダンセ国王陛下の子供の中では一番、身体が大きかった方だろう。


 恭哉兄ちゃんほど背は高くないが、トルクスタン王子には並びそうだった。


 そして、えんび服がパツパツで、少し動いただけでもはち切れそうな印象があって、王族なのに何故、もっとゆとりのある服にしなかったのだろうと疑問に思った人だと思う。


「栞様が気にされている第三王子の御名前は、カルムバルク=ラニグス=ローダンセ殿下。御年は第二王子殿下と同年の22歳。ロットベルク家第一子息と気が合うようで、行動を共にしている姿がよく見られます」


 ロットベルク家第一子息……、アーキスフィーロさまの兄であるヴィバルダスさまのことか。

 いや、あの人と気が合うって、かなり良くない素行の方なのでは?


 そう言えば、マリアンヌさまは第三王子殿下だけでなく、ヴィバルダスさまにも気をつけろって言っていた気がする。


 しかも、ルーフィスさんがそれ以上の明言を避けた。

 これは、どうするのが正解?


「ルーフィスさん、もう少し、第三王子殿下のことを伺ってもよろしいでしょうか?」


 少し考えて、深追いをすることにした。


 ここまでで問題なければ、ルーフィスさんは話さないだろうし、必要ならもっと突っ込んだ話もしてくれると思う。


 マリアンヌさまが言ったのは明らかに警告だった。

 それならば、一番、わたしが知らなければならない方は、第三王子殿下だろう。


「自分の失敗を自分で解決できない方です」


 うわあ、いきなり酷いのが来た。


「王族であることを笠に着て、城内でも好き勝手なことをしているようです」


 さらに続く言葉も救いがなかった。


「この国の男性らしく、女性に対する敬意はありません。もっと言えば、自分以外の人間を見下しておられるようです」


 自分以外の人間を見下す?

 女性に限定しなかったってことは、男性も含まれることになる。


 それって……。


「国王陛下のことも……でしょうか?」


 国王であると同時に、自分の父親である。

 いくらなんでも、そんなことは……。


「御明察の通りです、栞様。国王陛下も正妃殿下もそれ以外の兄弟姉妹も全て、自分より下の人間とみなしております。自分は選ばれた人間だから……が口癖と伺っております」

「それは……、いろいろ大丈夫なのでしょうか?」


 主に頭が……。


「流石に、誰の前でも口にしているわけではないようなので、今のところは大丈夫かと存じます。最低限の分別はあるようですね」


 それでも、最低限らしい。


 そして、誰の前でも口にしているわけではないようなことを、この人はどこから聞き出したのだろうか?


 相変わらず、謎である。


「幼い頃は、根拠もないまま、漠然とした全能感を抱く時期はありますからね。第三王子殿下は情緒を今、育てていらっしゃるのでしょう」


 いや、「幼い頃」って言っている時点で、現在、成長途上のお子さま扱いをしているってことだ。


「22歳ですよね?」

「22歳ですね。トルクスタン王子殿下よりも少しばかり年配です」


 つまり、雄也さんよりも上ってことだ。


「得意魔法は?」

「水属性の攻撃魔法ですね。補助魔法は自身の強化にしか使えないようです」


 自分しか見ていない人なのだから、自分にしか魔法効果がないのだろう。

 あるいは、他者を見ていないから補助魔法を使う気にならない……とか?


「そして、ロットベルク家第一子息と一緒になって、ロットベルク家第二子息を一方的に敵視しておられるようです」

「あ~」


 なるほど。

 マリアンヌさまがわたしに忠告したのはその部分なのかもしれない。


 だけど……。


「瞬殺されるのではないですか?」


 アーキスフィーロさまは魔獣退治などで実戦慣れしていると思う。


 それならば、城に籠って魔獣退治にも行かないこの国の王族たちが束になっても勝てるとは思えなかった。


「流石にそこまでは。恐らく、秒は持つでしょう」


 ルーフィスさんが笑顔で答える。


 そうか。

 「秒」しか持たないのか。


 そう思いつつも、わたしは言いようもない不安があるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ