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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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2400/2798

確認しておくべきこと

祝・2400話!

 セヴェロさんにしても、マリアンヌさまにしても、精霊族としての能力はあっても、そこまで強くないことはなんとなく分かっていた。


 いや、セヴェロさんは結構、強い方だと思っているけれど。


 同じ混血……、狭間族(きょうかんぞく)でも能力に差はあった。

 長耳族の血を引くリヒトや、綾歌族の血を引くスヴィエートさん。


 その中でも、わたしが知る限り、最強の狭間族(きょうかんぞく)と言えば、間違いなく恭哉兄ちゃんだろう。


 だけど、恭哉兄ちゃんは魂響族の能力はほとんど使っていないと思う。

 二分の一(ハーフ)だから、使えなくはないはずなのに。


水鏡族(本物)に会ったことのある栞様なら、お分かりなのではありませんか?」


 だから、わたしはルーフィスさんが言っている意味も理解できる。


 純血の精霊族はかなり手強い。

 そして、人間の事情など一定部分は理解してくれるけど、自分が気に食わなければ無視をする。


 だけど、セヴェロさんもマリアンヌさまも、基本的に人間側のルールに従っているのだ。


 確かに、普通の人間からズレた感覚は持っている。

 でも、それだけだ。


 人間の「個性」の枠内に収まっている。


「そうですね。セヴェロさんにしても、マリアンヌさまにしても、人間が作った規則には従っているとは思います」

「はい。勿論、警戒は大切ですが、過剰なまでに怯える必要はございません」


 だから、安心しても気を抜くのはダメってことは分かった。

 でも、気を張りすぎてもいけないらしい。


 なんとも難しい話だ。


「他にも何か気にかかる点はございましたか?」


 重くなっていた空気を換えるかのように、ルーフィスさんが問いかけてくれた。


「他に……?」


 その問いかけの意味を考える。

 いや、気になることはいっぱいあったんだ。


「マリアンヌさまは……、今でもアーキスフィーロさまのことをお好きなんだな~とは思いました」


 今回、マリアンヌさまとお話しして、特にそれを強く感じた。


 人間界にいた時のような熱量はない。

 でも、あそこまで気にかけておいて、何の感情もないとは思えなかった。


 幼馴染として心配というのは、勿論あるだろう。


 でも、そのために幼馴染の家に居候している異性を呼び出して、探りを入れたり、警告したりするのはお節介が過ぎると思う。


 これをもし、他のお貴族さまが見たら、余計な勘繰りをされてしまうかもしれないのだ。

 周囲から見れば、幼馴染というよりも元婚約者の印象が強いと思う。


 特にマリアンヌさまが暫くの間、男装されていたなら、尚更だ。


 それを考えると、今回わたしに会うためだけに、結構、貴族令嬢としては危険な橋を渡ったのではないだろうか?


 あの飲食店が、どこまでマリアンヌさまの味方をするかどうか……かな?


 王侯貴族に関わることは、一定の守秘義務はあるが、時として、個人情報が秘匿されないという不思議な矛盾が生じることもある。


 人間界で言うと、お偉い政治家さんとか、人気のある芸能人のような状態だ。


 個人としてのその人たちが隠したい私事(わたくしごと)ほど、何故か、周囲は外に発信したくなるらしい。


 いや、周囲に知らしめようとしないで、他のことしようよ、とは思うけれど、人間界でもこの世界でもそうならば、人間の本質のようなものなのだろう。


(わたくし)はヴァルナからの報告を読んだ限りですが、マリアンヌ様はアーキスフィーロ様のことを、今も憎からず思っていらっしゃるようですね」


 ルーフィスさんはわたしのように直接的な言葉を使うのは避けたらしい。


 まあ、他人の気持ちだもんね。

 簡単に断言はできないか。


 結局、今回のマリアンヌさまからのお誘いが、私情によるものなのか、父親からの命令だったのか、それとも、全く別の方向からの指示だったのかも分からないままなのだ。


 一見、父親から探れという風を装って……ということも考えられる。

 目の前にいる美人さんがそんな立場の人だったから。


「ですが、もし、そうならば、いかがされますか?」

「へ?」

「マリアンヌ様が今もアーキスフィーロ様に心を残されている時、栞様はどの道を選ばれますか?」


 あ~、そうか。

 それは侍女としても、護衛としても気になる所だろう。


 わたしがどう動くかで状況が変わってしまうのだから。


 でも……。


「そのような状況では、わたしが選ぶ……というよりも、アーキスフィーロさまが選ぶ立場ですよね?」


 多分、アーキスフィーロさまは、今でもマリアンヌさまのことがお好きなのだと思う。


 昔の話をする時の、懐かしむような顔。


 そして、わたしが前婚約者のことをどう思っているかを確認した時には少し熱がこもった瞳をしていた。


 マリアンヌさまの話題を避けようとしているのも、その辺りにあるのだと思っている。


 だから、アーキスフィーロさまがわたしではなく、やはり、前の婚約者の方が良いと願うなら、そのお気持ちは叶えて差し上げたいところではあるのだが……。


「それに、一度解消してしまった契約を、結び直すことは難しいとも思います」


 アーキスフィーロさまもマリアンヌさまもわたしと違って、間違いなく貴族子女だ。


 だから、政略婚姻にしても、恋愛婚姻にしても、周囲の思惑や環境を無視することはできないだろう。


 しかも、一度結んだ契約を、都合により解消しているのだ。

 その時点で、一つの信用を失ったことになる。


 当人同士の感情だけの話ではなく、貴族の家同士の契約となるのだ。

 その上で、婚約の結び直し……、復縁ってやつが簡単にできるとは思えなかった。


 そこで生じる信用の瑕疵問題をさらに大きく上回るような利益を提供するだけでも足りるとは思えなかった


 まあ、それ以上の問題として……。


「マリアンヌさまは既に、新たな婚約者がいると聞いております。アーキスフィーロさまの御心が今もマリアンヌさまの(もと)にあったとしても、復縁は不可能ではないでしょうか?」


 わたしがそう言うと、ルーフィスさんが微笑んだ。

 どうやら、正解だったようだ。


「アーキスフィーロ様と栞様は正式に婚姻契約を結んでいるわけではないので、この関係を解消することは難しくありません。ですが、栞様が言われたとおり、アーキスフィーロ様とマリアンヌ様のお二人を復縁させるとなれば、かなり困難だと推測します」


 まあ、わたしの方は口約束のようなものだからね。


 だが、カルセオラリアの王族たちの後押しがある。

 その上、当主さまや前当主夫妻が立ち会っているために、ただの口約束よりは効力が強い。


 解消はできるけど、やはり容易ではないだろう。


「その辺りをご承知おきくださいませ」


 ルーフィスさんがそう言って、一礼した。


 でも、その辺りってどの辺りのことだろう?


 わたしとアーキスフィーロさまのこと?

 それとも、アーキスフィーロさまとマリアンヌさまのこと?


「他に気になった点はございますか?」


 ルーフィスさんはさらに確認してきた。


「マリアンヌさまが、何故か、わたしがアーキスフィーロさまのことを好きだと思い込んでいる理由は分かりますか?」


 本人に聞いてもよく分からなかった。

 しかも、三年前にも同じように言われたことがあったのだ。


 ―――― でも! シオちゃん、アキのこと、好きだったでしょ!?


 あの時も、今も、どうしてそう思うのだろう?


「その点についてはいろいろな可能性が考えられますが……」


 え?

 いろいろ?


 一つ、二つではなくて?


「いくら述べても推測の域を出ません。何度かマリアンヌ様と交流して、本人の口からお聞きになる方がよろしいかと愚考します」


 うぐうっ!!

 この時点で、ルーフィスさんは教えてくれないことが確定した。


 でも、確かに本人の気持ちなんて、本人にしか分からないのだ。

 それなら……。


「わたしは、マリアンヌさまと交流しても問題ないのでしょうか?」


 わたしは、今回限りかもしれないと思って臨んでいた。

 だけど、マリアンヌさまは、また会いたいと言った。


「栞様があの場で口にしたように、婚約者候補であるアーキスフィーロ様か、ロットベルク家当主様の許しは必要かと存じます」


 やはり、そうなるか。

 お貴族さまとの交流は、やはり、自分の意思だけでは無理なのか。


「手紙のやり取りは許されるかと思いますが、今回のように対面して……となれば、難しくなるでしょう」

「その理由は?」


 ルーフィスさんは完全に関係を断たれることはないだろうけど、直接、会う許可は下りないと考えているらしい。


「栞様が警戒されたように、マリアンヌ様が魔眼所持者……精霊族の血を引いている可能性が高いからですね。恐らくは、他の精霊族のように人間の心の声が流れ込んでくる能力を持っていると、アーキスフィーロ様もお考えになると思います」

「なるほど」


 身近にセヴェロさんという事例がいる。


 マリアンヌさまが精霊族の血を引いていることを知らなかった時と、知った後ではやはり、反応が変わるということか。


「その辺りは、またアーキスフィーロ様にお伺いを立てましょう。それ以外で、他に気になる点はございましたか?」

「そうですね……」


 そろそろ確認しておくべきことなのだろう。

 どうやら、ルーフィスさんはソレを伝えたいみたいだし。


「この国の第三王子殿下とは一体、どんな方なのですか?」

毎日投稿を続けた結果、恐ろしいことに、とうとう2400話です。


ここまで、長く続けられているのは、ブックマーク登録、評価、感想、誤字報告、最近ではいいねをくださる方々と、何より、これだけの長い話をずっとお読みくださっている方々のおかげです。


まだまだこの話は続きます。

頑張らせていただきますので、最後までお付き合いいただければと思います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!

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