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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
24/2769

封印の謎

 ―――― バチィッ


 閉じた目のすぐ近くで、静電気のような音が小さく聞こえた気がする。


「うわっ!?」


 そして……、叫び声。


 その叫びは。わたしの声ではなかった。

 つまり……。


「九十九? どうしたの?」


 恐る恐る片目を薄く開けると……。


「いってぇ~!!」


 何故か、九十九が右手を激しく振っている。


「どうしたの?」

「……くそっ!破れなかった」

「は?」


 彼が悔しがっているのは分かるが……、その手を振っている理由が分からない。


「一体、誰が、何のために……? いや、でもこれで封印されてるのは間違いないわけだ。しかし、今のオレでも無理ってことは、当時5歳のこいつがやったとも思えねえ。じゃあ、他に誰が……?」


 九十九が何やら一人でブツブツ言っている。

 そして、まだ手を振り続けていた。


 その勢いだと、手首が凄く痛くなりそうなのだけど……。


「九十九ってば!!」

「うおっ!?」


 大きな声を出して、注意を引いてみる。


「何だよ、驚かすな。あ~、心臓バクバクしてる……」

「どういうことか説明してよ」

「簡単に言うとお前の封印を解こうとして失敗しただけだ。ほら、手が真っ赤だろ?」


 どこか気まずそうな顔で、九十九が見せた手は……。


「うわっ!?」


 わたしが思わず叫んでしまうほど酷い状態だった。


「ちょっとそれ。真っ赤は真っ赤だけど皮膚が剥け……いや、裂けてるじゃない! これって、腫れとかそんな次元超えてるよ。うっわ~、皮がべろべろで、すっごく痛そう。薬箱とかはないの?」


 九十九の右手は、指先から皮が裂け、放射状にひび割れた状態となっている。


「傷口、見るのは平気なんだな」

「良いから、薬箱!!」


 どこか呑気な九十九の反応に、わたしは叫んだ。


 傷口を見るのなんてソフトボールに限らず、スポーツをやってたらある程度は平気になると思う。


 自分や他人の擦り傷や打撲、骨折、靭帯損傷する所をどれだけ見てきたと思ってるんだ?

 激しい接触プレーによって、脳震盪起こして担架で運ばれた選手だって何人もいる。


 幸い、わたし自身は擦り傷や打撲、捻挫、それに少し休めば治る程度の熱中症ぐらいで済んだでいた。


 それに……、中学校生活も三年もあると、流血そのものを見ることも少なくはない。


 ヤンチャしたいお年頃の男子生徒たちが、ふざけて圧し合った後、窓を突き破った現場を見た時は、流石にその出血量を見てゾッとしたけど。


「あ~、薬箱なんてものはこの家にはないな。必要ないから」

「必要……、ないって……」

「心配するな。オレ、これぐらいなら治せるから」


 そう言いながら、九十九は何やらごそごそ始めた。


 そして……。


「ほれ」


 九十九の右手が、仄かに光を発し、みるみる元に戻っていく。


 なんとなく、逆再生の映像を見ているみたいで、かなり違和感があった。


「……ゲームに出てくる魔法もこんな感じなのかな?」

「かもな。便利だろ? これだけは兄貴よりは上手いんだぜ。兄貴の治癒魔法は体組織を破壊するからな」


 あっけらかんと、かなりとんでもないことを言う。


 体組織の破壊をしている時点で、「治癒」ではないと思うのはわたしだけでしょうか?


「あの……、ちょっと気になったんだけど良い?」

「なんだ?」

「さっき手の治療をした時は、呪文の詠唱っていうのかな。そ~ゆ~のなかったよね?」


 ファンタジー好きとしてはそこが引っかかったのだ。


「ああ、ちょっとしたことならな。言わなくても魔法は使えるんだ。ただし、詠唱したほうが威力って言うか、効果は確実にでかい。ほんとは長々とした言葉を詠唱するのが一番だけど、オレ、苦手なんだ。結構、疲れるんだよ」

「あ、ちゃんと長々とした文章もあるんだ」


 無詠唱魔法ってやつと、詠唱魔法ってやつだね。

 この辺は、ファンタジーな小説でおなじみの言葉だ。


「おお。漫画や小説に出てくるようなやつがあるぞ。でも、それは契約時にしかオレは言わないけどな。長いから面倒なんだよ。それに魔法に集中するためにいうだけに言ってる感じもするし。集中すれば、その分、魔力も高まるので威力はでっかくなるってわけだ」


 九十九は解説してくれるが……。


「ふ~ん。ちょっぴり分かったような、さっぱり分からんような?」


 わたしとしては、そう言うしかなかった。


「そこはしっかり分かっとけよ。せっかく説明してんだから」

「無茶言わないでよ。わたしは『魔法』って単語とその光景を見ただけでゲームの混乱魔法状態なんだから。その上、『魔界人』でしょ? 何が何だか……」

「しかも、そこからかよ」

「さらに封印でしょ? もう本当にわけが分からないよ。結局、何がど~ゆ~ことで、ど~なっちゃったわけ?」


 それをどうにかしようとして、九十九の右手の皮がずる剥けろなる事態になったことはよく分かった。


 聞こえてきたのは静電気のような小さな音だったのに、その威力が絶大ってすっごい恐ろしい。


「封印されているのは、お前の魔力だと思う。そして、それが、さらに別の魔法で抑えこまれている。だから、お前は魔法が使えないんだ」

「別の……、魔法?」


 魔法の重複効果というやつかな?


「一体、誰が……?」


 九十九はまた考え込んでしまった。


 でも、一体、誰がなんて言われたって、わたしに分かるはずもない。


 今まで、自分に「魔力」ってのがあることすら知らなかったのだ。

 しかもそれは封印されているとか。


 これまでのわたしの日常生活には存在しないものだったのに。


「お前、5歳か、10歳のときに何か変わったことがなかったか?」

「は?」


 毎度ながら唐突な九十九の問いにまたも頭は白くなった。


「何でもいい。どこかに旅行に行ったとか、怪我でも病気でも思い出せることを何かあげてくれ」


 そんなことを急に言われても困る。しかも、妙に限定的だし。


「5歳は、記憶にないから……、10歳? 何かあったかな?」


 10歳といえば、小学校5年生だ。

 わたしは、3月生まれだから。


「水疱瘡になったのは6年生のときだし、旅行は、県外にある母の実家に小学校2、3年ぐらいに行ったのと、中学に入る前に行ったっけ……」


 こうして改めて思い出そうとすれば、結構、出てくるものだ。


 芋づる式に、次々と記憶を掘り起こしていく。


「あ、一度だけ大阪に行ったけど……、それは4年生の春休みだったはず」

「春って……、小4になる前か?」


 それまで黙っていた九十九が、不意に反応した。


「ううん。5年生になる前。あ、これなら一応10歳だね。後は、小6と中2の修学旅行ぐらいしか旅行してないかな」

「大阪って……、何をしに?」

「捻挫したのはもう、中学の部活中だったし……」

「おい」

「怪我も……打撲くらいは日常的にやってたしな~」

「聞けよ」

「ん? 何?」

「大阪へは何しに行ったんだ?」

「何しに……って、旅行だよ。決まってるじゃない」


 変なことを言う。


「そりゃ、ここから大阪までわざわざ大根買いに行くやつもおらんだろうがな。オレが聞きたいのはその旅行の目的だ、目的」


 何故、そこに引っかかったのかは分からないけど、あの時、大阪に言った理由は……。


「葬式」

「は?」


 九十九の目が丸くなった。


「母さんの親戚が亡くなったんだよ。だから、葬式に行っただけ」

「そういうのは旅行と言わん気もするが……。まぁいい。そこで変なことはなかったか?」

「変なこと?」

「その……、昨日みたいなことだよ。」

「昨日みたいなことは普通、ありえないと思うよ?」


 親戚や、地元の人には会ったけど……、何かに襲われた記憶はない。


「そうか。時期的には丁度いいんだがな」

「丁度良いって?」

「オレたち魔界人は5年に一度、成長のために魔力が大きく変化するヤツがいるんだ。」

「魔力が大きく変化?」


 少年漫画やゲームでよくある第二形態みたいな感じだろうか?


「ああ。例えば、昨日までまったく魔法が使えなくても、何故か魔法が使えるようになったりするとか。今まで、苦手だった魔法が突然、得意になったりとかな」

「へぇ~」

「体質みたいなもんだ。お前の記憶がないのは5歳以前。だから、なんらかの変化があったのかと思ったんだが違うのか」

「魔法が使えない体質ってのもいるの?」


 魔法の使えない魔法使いって……、それはただの人間と同じではないだろうか?


「純粋な魔界人ならあまり考えられないことだな。たま~にいるらしいが、オレは会ったことがない」

「じゃあ、わたしが最初ってことかな?」

「あのな~。お前はオレの話をちゃんと聞いてるのか? お前の魔力は何者かが封印してんだよ。そうでなければ辻褄があわねえ。オレの手を見ただろ? 封印を解こうとしてああなったのが何よりの証拠だ。何もなければ、オレの手があそこまでなるはずがねえ」

「じゃあ、わたしはやっぱり魔法使いってこと?」

「これだけ、証拠の提示をしても、まだオレの言ってることが信用できねえのか?」

「そういうわけじゃないよ。」


 でも、信じたくないってのが心のどこかにはある。

 目の前で魔法を見せられても、まだどこかで信じ切れていない。


「九十九はわたしたちを見つけてどうするの? その……、父親とやらに御報告?」


 そこが、一番、大事な部分だと思う。


「オレたち兄弟の任務は、二人を見つけて連れて帰ることだ」

「は?」


 九十九の言葉に固まった。


「連れて帰る!?」


 今までの話を総合すると、わたしと母さんは……。


「魔界に、行けってこと?」


 そんなの急すぎる。


「他の魔界人に見つかった以上、他のヤツらも次々にやってくる可能性はある。そうなったら、周りの人間も確実に巻き込まれるぞ。基本的に魔界人は表沙汰にすることは避けるが、手段を選ばんヤツもいるだろうからな」

「でも!」

「昨日、巻き込まれたのはたまたま魔界人(オレ)だった。でも、次は? お前の周りは多分、魔界人より、人間のほうが多いぞ」


 ワカを筆頭に、友人たちの顔が次々と浮かぶ。


 確かに、昨日は事情も全て知ってた九十九がいたから助かった。

 でも、次にあんなことがあったら、今度、巻き込まれるのは全く関係のない人かもしれない。


「それでも……」


 今の生活を捨て去ることもそう簡単にできるはずもない。


「だが、オレたちはお前たちを無事、魔界に連れて帰らないといけない」


 九十九の事情も分からないわけではない。


 でも……。


「つまり、お前らがここにいる間は守る義務があるってことだ」

「え?」


 九十九はわたしを真っすぐ見て……。


「できる限り、守ってやるよ。約束だ」


 はっきりとそう口にした。


「……ってことは、わたし、ここにいても……?」


 聞いたことに間違いがないか、確認する。


「お前らの意思は尊重する。今の生活を捨てたくない気持ちは、オレも分からないわけじゃないからな。ただ、オレたちにだって、限界はあるんだからな」


 顔を逸らしながら、九十九はそう言った。


「うん。ありがとう、九十九」

「礼は兄貴に言ってくれ。その選択肢を考えたのは兄貴だからな」

「うん!」


 九十九の言う通り、まだ見ぬ彼のお兄さんに、心から感謝しよう!

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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