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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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踏み込んでくる御令嬢

「いや、本当に、ビックリしたんだよ。アキがデビュタントボールに参加することも、そこで同行者(パートナー)として連れてきたのがシオちゃんだったことも」


 マリアンヌさまは少し興奮気味にそう言った。


「シオちゃんは知らないだろうけど、アキはずっと王城に行くことを拒んでいたんだ。行くだけで体調不良になっちゃって、倒れたアキを転移門まで連れて行くのはいっつもボ……、いや、私の仕事だったんだよ」


 王城に行くことを拒んでいたことは知っている。


 だが、倒れたアーキスフィーロさまを転移門まで運んでいたのがマリアンヌさまだということは知らなかった。


 それが10歳未満の話だったしても、倒れた人間は重かったことだろう。


「マリアンヌ=ニタース=フェロニステさまは、力持ちなのですね」

「いや、気にするところはそこなの? もっと、こう、いろいろない?」


 いろいろ?


「体調不良になると分かっているのに王城に向かうなんて、アーキスフィーロさまは忠誠心が高いか、頑張り屋さんなのですね?」


 話を聞いた限りでは忠誠心よりは頑張り屋さんの方かな?


 この国の貴族の子息として王家に尽くす気持ちはあるようだけど、心から従っているようには見えなかったから。


 だけど、わたしの答えはマリアンヌさまにとってお気に召さなかったようだ。

 わかりやすく顔を崩されたから。


 だけど、不満や不機嫌というよりもどこか呆れた感じに見えるのは何故だろうか?


「あの頃のアキは私よりも手足が細くて軽かった。それに、私は身体強化が使えるから、全然問題はなかったよ」


 最初のわたしの感想に対する答えらしい。


 この世界の人は、人間界の人たちよりもずっと体力も多いし筋力も強い。

 さらにそれらを強化する(すべ)もある。


 小学生女児が意識を飛ばしている小学生男児を運ぶことだって難しくないのかもしれない。


 九十九だって、決して軽くはないわたしを抱えて普通に立ち回るから。


「言っておくけど、意識を失ってはいなかったよ。朦朧としていただけ。なんでそんな状態だったかも分からない」


 アーキスフィーロさまはマリアンヌさまに伝えていなかったらしい。


「ただ、アキは城の地下にある『懲罰の間』に数時間(数刻)いただけ」


 そう口にしたマリアンヌさまは酷く寂しそうに……。


「それも私のせいで」


 そして、悔しそうに俯いた。


 その顔を見て、わたしは先にアーキスフィーロさまから当時の話を聞いていて正解だったと思う。


 確かに、きっかけはマリアンヌさまだったかもしれない。


 だけど、魔力を暴走させてしまったのはアーキスフィーロさまだし、それを父親として監督責任から逃れようと当事者とはいえ5歳の息子に全ての責任を押し付けたのはロットベルク家当主だ。


 だから、マリアンヌさまは特に悪くないと思う。


 いや、父親に男装をさせられたけど、結果として王家を騙そうとしたことになったのだから、全然悪くないとは言いにくい部分はあるのだけど。


 だけど、それを知ったところで、わたしはマリアンヌさまにそれを伝えることはできなかった。


「でも、もう、私はそんなアキを支えることができないんだよ」


 二人の婚約が解消されたからだろう。


 それまでは幼馴染として一緒にいることも、世話を焼くことも許されていたかもしれないけれど、もうそれができなくなったのだ。


 マリアンヌさまが女性で、アーキスフィーロさまが男性だから。


 アーキスフィーロさまから話を聞いた限りでは、この国は5歳になる前から性別で扱いを分けている気がする。


 男性王族には貴族子息を。


 そして、女性王族には貴族子女を友人候補として登城させている辺り、それがはっきりしているだろう。


「だから、これからはシオちゃんに支えてほしいと思う」


 マリアンヌさまは顔を上げて、わたしを見る。


 だが、その結論はどうかと思う。


 いや、立場上支える気ではあるのだけど、それを()婚約者が、わたしに向かって言う理由は分からないし……。


「何故、そこまでわたしを信用するのですか?」


 その理由もよく分からなかった。


 わたしたちは、確かに同じ学び舎で勉学に励んだ仲ではあるが、それ以上の関係ではない。


 しかも、それは数年前のことだ。

 立場が変われば、いろいろ、変わってしまうものもある。


 それがマリアンヌさまに分かっていないはずがない。


「シオちゃんは、悪い人間ではないから」


 マリアンヌさまはためらうこともなく、そう口にする。


「そして、あの警戒心が強いアキが、気を許していたから」


 ぬう。

 アーキスフィーロさまは、確かに警戒心がかなり強い人だとは思う。


 だけど、それは仕方のないことだろう。

 アーキスフィーロさまは、生まれた時からその生活環境が特殊だったのだから。


 寧ろ、あれほどの経験をしているにも関わらず、人間が曲がっていないのは、最早、奇跡だといえるかもしれない。


「アキはね。その生い立ちが複雑だったためか、他人の悪意に過敏なんだよ。だから、簡単に人に気を許さないし、笑うどころか、話しかけることもほとんどしない」


 そうかな?


 始めはともかく、最近は、結構、話してくる気がする。

 主に仕事の話だったりするし、一緒にいる時間が長いせいだろう。


 もしくは、本当は誰かと話すことが好きで、会話に飢えていた可能性もある。


「それは、()()()()()()()()()()()()()()()()ことなんじゃないかな?」

「アーキスフィーロさまが悪意に敏感だということは存じませんでした」


 あの頃のわたしはそこまでアーキスフィーロさまと接していない。


 無口で笑わない人という印象はあった。

 多分、ほとんどの同級生はそう思っていたのだと思う。


 だから、わたしに話しかけただけで、周囲が(ざわ)めいたのだろうし。


「そんなアキがね。第五王子殿下と私以外で、唯一、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ」

「え……?」


 意外なマリアンヌさまの言葉に、わたしは取り繕うことができなかった。


「それは、知らなかったでしょう?」

「存じませんでした」


 だから、あの時、あそこまで(ざわ)めいたのか。


 いくら無口な人が話しかけたからって、大袈裟な反応だとは思ったが、確かに、マリアンヌさまの言葉が本当ならば、それは当然の反応だったことになる。


 アーキスフィーロさまを知っている人ほど、驚いたはずだ。


 特に……、その例外である第五王子殿下とマリアンヌさまにとっては、驚愕といっても差し支えなかったかもしれない。


 まあ、だからどうだという話でもある。


 それはもう四年ぐらい昔の話で、今のわたしたちの話ではない。


 今のアーキスフィーロさまならば、人間界に行ったとしても、あの頃とは違う形の人間関係を構築できるのではないだろうか?


「それを聞いて、どう思った?」

「それで話しかけられた時、周囲が異常なまでに賑やかな反応だったのかと納得しました」


 激レアを見たのだ。

 騒ぎたくなる気持ちは分かる。


「シオちゃんって、昔もそうだったけれど、今も結構、どこかズレているよね?」

「庶民だからでしょう」


 だから、生粋のお貴族さまの娘さんと感覚や感性が違うのは仕方ない。


 だが、わたしの言葉にマリアンヌさまは一瞬、動きを止めた後、顔を見て、さらに流れるように胸元を見た。


 これは上から下まで舐めるような視線というやつだろうか?


 そして……。


「庶民? シオちゃんが?」


 さらにマリアンヌさまは確認するかのようにそう言った。


「はい。わたしの母親は庶民ですし、父親から認知をされていない私生児でございます」


 あの母を庶民と言って良いかは謎だが、少なくとも貴族ではない。


 役職こそ「国王陛下の秘書官」ではあるし、「創造神に魅入られた魂」として、普通以上の加護もあるようだけど、血筋は……、人間界で神職にある人の娘でしかない。


 父親は認知したがっていたけれど、母は父親だと認めていなかった。


 公式に認知してしまうと今後、わたしや母の意に添わぬ方向へと転がることが分かっているため、今後も強行することもないだろう。


 あの父親は、真実が分かれば良かったらしいから。


 わたしが自分の直系にしか抜けないはずの神剣「ドラオウス」を目の前で抜いた時点で確信……、いや、確定してしまっただから、それで良いそうだ。


 それはそれで、あの国は大丈夫か? とも思う。

 あの国王陛下は身内に甘すぎる。


 尤も、身内に甘くても、対外的には相応に強いことは、あの会合で知ったけれど。


「え? 私生児?」


 マリアンヌさまが目を丸くする。


 まあ、庶民であることはどこからか伝わっているかもしれないけれど、父親が認知していないという話は、ロットベルク家にしか伝えていない。


 あの場には当主さま以外にも数人いたが、そんな機密を漏らすような阿呆はいなかったってことだろうか?


 それとも、単純にマリアンヌさまに伝わっていなかっただけ?


「それって、本当?」

「公式に認知はされていないのは事実です」


 わたしの返答に、マリアンヌさまは少し考えて……。


「シオちゃんは、()()()()()()()()()()なのに?」


 割と、決定的なことを口にしてくれたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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