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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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御令嬢と会食

「じゃじゃじゃじゃーん! お料理が来たよ~」


 先ほど料理名を書いた石板の上に、広がっているお料理。

 カルセオラリアの自動販売機に似たようなシステムだろうか?


「さ、(あった)かいうちに食べよ、食べよ」


 そう促されて、わたしも目の前の料理を見る。


 マリアンヌさまが書かれた「甘い(Лучше)(горькая)より(правда,)苦い(чем)真実の方が(сладкая)良い(ложь.)」は肉料理だった。


 いや、これは肉料理というよりも、肉という方が近いだろう。

 それも漫画に出てくるような骨付きの肉の塊だった。


 それがほこほこと湯気を立てていて、いかにも、アツアツ! ……と言った感じである。


「これって、ここでしか味わえないんだよ~」


 それはそうだろう。

 こんな料理があちこちで売られていても困る。


 見た目は面白い。

 まるで、漫画のようだ。


 でも、男装の美女が、でっかい骨付き肉を持っている絵面は実にシュールであった。

 あなたはどこかの少年漫画に出てくる野菜の星の出身者ですか?


 さらに、そのまま豪快に齧り付いている。

 そこにある食器(カトラリー)を、料理に使わない御令嬢を見るのは初めてです。


 そして、わたしの方に出てきたのは、お肉と野菜、きのこの煮込み料理っぽい。

 ちょっと赤いのが気になるけど、青じゃなくて良かったとは思った。


「いただきます」


 わたしも手を合わせて食べることにする。


 勿論、横にあるスープ用のスプーンはちゃんと使います。

 この料理でスプーンを使わないのはかなり無理があるからね。


 ふむ……。

 不味くはない。


 様々な食材が溶け込んだ複雑な味に、仄かな酸味。

 見た目が赤いから辛そうに見えるけど、辛味はまったくない。


 前にリプテラで食べたミネストローネに似たスープにちょっと似ているが、入っている食材が違うためか、香りと酸味の種類も違う気がした。


 でも、この世界で煮込み料理はかなり難しい。

 食材がドロドロに溶けるまで煮込めば、変質する可能性も高まるのだ。


 それなのに、そんな煮込み料理を……、しかも、お貴族さまが利用するような店で提供するのはかなり凄いことだと思う。


 だけど、この料理が美味しいかと問われたら、やはり九十九の作る料理ほどではないと思ってしまうのも事実だった。


 比較は良くない。

 そんなの、九十九だって嫌だろう。


 でも、どうしても、いつでも、どんな料理でも、口にするたびに考えてしまうのは彼のことだ。

 そして、あの味に勝つような料理に出会ったことはまだない。


 多分、水尾先輩もそう。

 困ったことにわたしたちは、ガッチリと彼の手で胃袋を掴まれてしまっている。


「口、緩んでるよ?」


 マリアンヌさまに言われて気付く。

 気を抜いてしまったらしい。


「そんなに美味しい? ここの料理はどれも絶品だからね~」


 嬉しそうに笑う姿を見て、ちょっと申し訳なく思う。


 わたしは、もっと絶品料理を食べたことがあるから。

 そして、そのことを考えて口元を緩めていたのだから。


「でも、思ったよりも驚かなくて詰まらない。もっと驚いてくれるかと思ったのに」


 マリアンヌさまは大きく息を吐いた。


「人間界の料理の味に慣れてしまうと、この世界の料理って激マズの域でしょう? だから、人間界へ行った王族や貴族子女たちが不満を言い捲っちゃったんだよね。それで、この国の料理人たちが頑張った結果、結構、それなりの味が食べられるようになったんだよ」


 あ~、あの世界の味に慣れたら、確かにこの世界の料理ってかなりきついと思う。

 セントポーリア城下に行った時、下調べもなく入った飲食店もそうだった。


「だから、人間界の料理ほどではなくても、美味しく食べられるところを選んだのだけど、シオちゃんはもっと美味しい料理をこの世界に戻ってきた後も食べたことがあるんだね?」


 寧ろ、その料理が圧倒的に多い。

 いや、今はそんな話じゃなくて……。


「そうですね。セントポーリア城下には、人間界のカレーに似た美味しい料理を出すお店がありました」


 あの九十九……、いや、()()()が、一日だけの恋人である女性(シア)のために自信を持ってデートに選ぶような店だった。


 それが不味いはずがない。

 それでも、わたしは彼が作ったカレーが一番好きだと今でも胸を張って言うけどね。


「え!? 他国にも美味しい店があるんだ」


 その呟きには驚きが隠しきれていない。

 でも、九十九や雄也さんが作る料理以外にも美味しい店はある。


 ストレリチア城下には、九十九がレシピを伝えた喫茶店があるし、「ゆめの郷(トラオメルベ)」でソウに奢ってもらった店も美味しかった。


 尤も、あれは、ソウ自身も自分で作れるために、食べる料理にも拘りがある人だったからだと後から気付いたのだけど。


「わたくしも全ての店を知っているわけではありませんが、他にもあると思いますよ」

「なるほどね」


 マリアンヌさまは感心したように言った。


「シオちゃんは、これまで、どれだけの国を回ったの?」


 おや?

 そろそろ探りを入れられ始めたかな?


「いろいろですね」

「魔法国家アリッサムなんかは?」


 何故にアリッサム?

 そう思いながらも……。


「わたしが旅を始める前には既に無くなっていたと聞いています。一度、結界都市と名高い、かの国を見てみたかったとは思いますが……」


 そう答えた。


 それは本当のことだ。

 水尾先輩や真央先輩が育った国を、一度で良いから見てみたかったと、わたしは今でも思っている。


「アリッサムの王族と交流は?」


 ああ、そういうことか。

 アーキスフィーロさまも気にしていたね。


 わたしはその水尾先輩や真央先輩と人間界にいた頃から交流があったのだ。

 それを知っている人たちは気になってしまうのだろう。


「人間界にいた時はお世話になりました。あの方々が王族だと知ったのは、この世界に戻って、魔法国家アリッサムが無くなってからの話です」


 だから、アーキスフィーロさまに答えた通りの言葉を返す。

 嘘がないから、気楽なものだ。


 だが、マリアンヌさまはそこで終わらなかった。


「その後に交流は本当にない?」


 さらに、踏み込んだ問いかけをしてきたのだ。


「……と、言いますと?」

「シオちゃんもいろいろ事情があって、国に居られないでしょう? それなら、どこかで合流して一緒に行動していれば、アリッサムの王族たちの行方が分からない理由にも繋がるんじゃないかって思ったんだよ」


 マリアンヌさまはどこか確信を持っているようだった。

 だが、言質は取らせない。


「それは、わたしが、大事な先輩方と共に行動して、危険に晒すような女に見えると言うことですか?」


 少しだけ口調を強めると、その返しが意外だったのかマリアンヌさまが目を見開いた。


「マリアンヌさまも恐らくはご存じのように、わたしは逃亡者の身です。そのために、いろいろな国を渡りました。そんな危険な旅に、人間界にいる間、可愛がってくださっただけの縁しか持たない方々を巻き込むような女だと思われていたのですね?」


 しっかり、ガッツリ巻き込みましたけどね!!

 だけど、そんなことは言えない。


 何をもって、わたしとアリッサムの王族たちの繋がりを見出したのかは分からないけれど、それを自分から言うつもりなど一切ないのだ。


「そうは見えないけど……」


 マリアンヌさまは迷いながらも呟くような声でそう口にする。


「シオちゃんは、あの『花の宴』で、周囲を巻き込んだから……」


 おおう?

 その「花の宴」って何?

 状況的に、わたしにとっては「でびゅたんとぼ~る」だった舞踏会の正式名称なのかな?


 でも……。


「巻き込んだ……ですか?」


 そこが物凄く、引っかかった。


 多分、周囲を巻き込んだって、恐らくは、歌のことだろうけど、アレは、わたしは巻き込まれた方じゃなかったっけ?


 この国の第二王女殿下が、公衆の面前で、いきなり「余興なさい」とか言ったのだ。


 アーキスフィーロさまから過去の話を聞いた後では、かなり捻じ曲がった愛情表現をお持ちの方と言うことは分かった。


 そして、わたしに対する感情は嫉妬とかそういった種類のものだと思っている。


 でも、熱は微妙に感じなかったから、思い通りにならない男性をどうにかしようとして、その相方(パートナー)を貶めたかっただけの気もしている。


 いずれにしても迷惑な話なのだけど。


「機械国家カルセオラリアのトルクスタン王子殿下が帯同していた女性たちに声を掛けていたでしょう?」


 ああ、なるほど。

 あの時に、あの人たちがアリッサムの王族たちだと思ったのか。


 それが鎌をかけているわけではなければ、かなりの眼だと思う。


 だが、二人とも変装をしていた。

 しかも、真央先輩(リアさん)はそのままだけど、水尾先輩(ルカさん)の方は薬で若返っているのだ。


 いや、若返っているから逆に気付きやすくなるかも?


 水尾先輩の若返り年齢は確か、6歳。

 13歳の水尾先輩なら、あの中学に通っていれば覚えている人は少なくないことに気付く。


 生徒会長までやっていたのだ。

 少なくとも水尾先輩の前後1年差の人間なら知っていておかしくはない。


 髪色や瞳の色が違うなんて、この世界ではよくある話。


 それでも、確実に年齢は合わないため、もしかしたら、アリッサム王家の傍系血族ぐらいには見られているかもしれない。


 でも、これぐらいなら言い逃れができる範囲だ。


「わたしも元は、トルクスタン王子殿下の連れですよ。わたしにアーキスフィーロさまをご紹介くださったのは、親族であるトルクスタン王子殿下ですから」


 嘘は何一つとしてない。


 わたしはトルクスタン王子と入国審査だって共に受けているし、同じ日に一緒にロットベルク家に入っているから、万一、調べられたとしても、問題はなかった。


「トルクスタン王子殿下の……?」


 訝し気にマリアンヌさまが問い返す。


「はい。トルクスタン王子殿下のご友人とわたしが知り合いだった縁で、お声がかかりました」


 雄也さんとトルクスタン王子は友人である。

 実際、繋がりはそこからなのだ。


 水尾先輩や真央先輩の方とも繋がっているけれど、トルクスタン王子の意識も、どちらかと言えば、雄也さんとの縁だと思っているだろう。


「そのために、トルクスタン王子殿下はわたしと踊ってくださいました」

「ああ、それで……」


 マリアンヌさまは少し、額を押さえて……。


「想像以上に、シオちゃんにはいろいろな秘密(繋がり)がありそうだ」


 そんなことを言ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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