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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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子息には内密に

 ―――― でも、シオリ様には、恋人がいらっしゃるのでしょう?


 そんな言葉をセヴェロさんが言ってくれたので……。


「へ?」


 我ながら、間の抜けた言葉を返したものだとは思う。


 いや、コイビトって何?

 そんなもの、わたしにいたっけ?


 わたしがそう首を捻っていると……。


『ボクに視えたのは、()()()()()()()()、背が高く、顔の整った男です』


 セヴェロさんがヒントをくれた。

 そして、その心当たりなど、一人しかいない。


 その人物を思い浮かべるだけで、自分が変に緊張したのが分かった。


『暫く、一緒に生活していたではありませんか? それで、全く無関係などと言い切るには無理がありますよ』


 さらに呆れたように言葉を続けられるが、わたしとしてはその返答に困ってしまう。


 確かに無関係ではない。


 だが、あの人はただの護衛であった。

 詳しく言えば、セントポーリアの城下の森にいた時限定の護衛である。


 そう言い切ることができれば楽なのに、そう言えない。


 あの生活は、確かに知らない人が覗き見たら、護衛と主人の関係には見えなかったことだろう。


 一つ屋根の下で、部屋こそ違うものの、ずっと一緒にいた。

 そして、その間、ずっとわたしは幸せだった。


 ごく普通の女の子でいられた気がしたのだ。


 それを無関係とは言い切りたくない。


「セヴェロさんが言った方に心当たりはあります。ですが、わたしはもう、あの方にお会いすることはないでしょう」


 少なくとも、この国にいる間は、あの姿にはなってくれないだろう。


 あの姿になる理由がないのだ。


 それに、セントポーリア国王陛下が、見た時に一瞬、ギョッとしてしまう程度には、情報国家の王子殿下によく似ているという。


 当人が複雑そうな顔でそう言っていたのだ。


 それは祖神が同じなのか。

 それとも、実は近しい血縁だからなのかは分からない。


 でも、それを知っている以上、そう簡単に、あの格好で人前に立たせることはしない方が良いとも思った。


 似ているだけだと言い逃れはできる。


 でも、それがきっかけで、実は血縁だったと知られるようなことがあれば、いろいろと面倒なことを引き起こしてしまうだろう。


 セントポーリア城にいた文官たちは、情報国家の王子殿下の顔を知らなかったから、あの格好の彼でも問題なく受け入れられた。


 外交担当は母や陛下を除いて、あの場にはいなかったということになる。


『それは、あの方とは既に別れたということでしょうか?』


 セヴェロさんは訝し気な表情のまま、確認してきた。


 だが、別れたというのは何か違う気がする。

 別れるも何も、交際していたわけではないのだ。


 そして、あの人と完全に縁が切れたわけではない。

 実は、姿を変えた状態で、わたしの背後に立っている。


 だから、余計に気まずい。

 変なことを口走れない。


 だが、セヴェロさんが言っているのが、「恋人」関係だと疑われているようだから、それに対しての言葉は返せなくもなかった。


「期間限定の関係だったのです。あの国にいる少しの間だけ、あの方はわたしの我儘にお付き合いしてくださいました」


 わたしは目を伏せながらそう言った。

 これについては、全くの嘘ではない。


 悪女っぽさは増した気がするけど、今も恋人関係にある男性がいると誤解されるよりはマシだろう。

 

『期間限定の関係……』


 セヴェロさんはわたしを見ながら、確認するかのように呟いた。


 嘘は言っていないのに、向けられている視線に居心地の悪さを覚えてしまうのは何故だろう?


『まあ、良いでしょう。ボクはシオリ様の言葉を信じることにします』


 そして、そんなに簡単に信じて良いのだろうか?

 それはそれで裏がありそうな気がして、不安になってしまう。


『シオリ様は、()()()なようですし』


 ぬ?

 それは、恋人がいるように見えないってことですね?


 異性に慣れていないのは認めよう。


 わたしがそんなことを考えていると……。


『ああ、通じなかったようですね。シオリ様は異性経験がないでしょう? そう言う意味ですよ』


 セヴェロさんがとんでもないことを口にした。


「なっ!?」


 そのあまりにも無遠慮な言葉に、わたしは取り繕うことができず、一瞬、セヴェロさんに顔を向けると、楽しそうにニヤリと笑われた。


 ―――― 揶揄われた!?


 それに気付いた時には、もう遅い。


 わたしは口を押さえたまま、顔が上げられなくなってしまった。

 顔が一気に熱をもったから、多分、真っ赤になっていることだろう。


『まさか、こんな言葉だけでも、そのような表情をされるなんて思いませんでした。これは、アーキスフィーロ様の前で言うべきでしたね』


 さらに、そんなことを言われても困る。


 これは、軽いセクハラだろう。

 だが、それを訴える場所はない。


 本来ならば、セヴェロさんの主人であるアーキスフィーロ様に報告すべきかもしれないが、それも躊躇(ためら)われた。


『勿論、アーキスフィーロ様には内緒にしておいてくださいね。あの方は結構、お固いので、ボクの言葉でシオリ様を辱めてしまったと知られたら、どんな罰を受けることか……』

「それなら、揶揄わないでくださいよ」


 その見た目に騙されてしまいそうだが、セヴェロさんは精霊族なのだ。


 しかも、姿を自在に変えられるのだから、見た目通りの年齢であるはずがなかった。

 人生経験もわたし以上に豊富だろう。


 だから、アーキスフィーロさまもよく揶揄われてしまうのだと思う。


『いや、いつもな結構、ボクから何を言われても平然としているから、まさか、あんなに可愛らしいシオリ様の御顔を拝見できるとは思ってもいませんでした』

「それならば、見たものを記憶から消してください」


 うむ。

 やはり、これは揶揄われているね。


『おや、いつものシオリ様に戻ってしまいましたか』


 セヴェロさんが苦笑をする。


『それはそうと、そろそろ、約束の刻限も近いです。移動に時間はかかりませんが、ボクの姿についてはどうしましょうか?』


 そう言えば、もともとはそんな話だったね。


「わたしの記憶を読み取ったのでしょう? 今なら、『暗闇の聖女』さまでも、白い神さまでもなれるのではありませんか?」


 人に知られていない姿を望むというのなら、間違いなく、この二人の姿だろう。


 一人は、「盲いた占術師」の異名を持ち、世界中の人間たちが探し求めても会うことができないほどの女性。


 そして、もう一人(?)は、誰もが知っているのに、ほとんどの人間がその姿を直接目にすることはないと言う創造神である。


 秘匿性という意味では理想的だと思うが、どうだろうか?


『その()()()()()()()()()()()()ね』


 セヴェロさんが呆れたようにそう言ったが、これは、ちょっとしたお返しのようなものなので、そこは許して欲しい。


『それに、シオリ様の記憶で読み取れたのは、そこまで多くありません。恐らくは、この世界に来た後、魔力の封印を解放してから……の、シオリ様にとって印象強い出来事ばかりなのでしょう』


 つまり、わたしにとって銀髪碧眼の美青年との同居生活は、それほど印象強い出来事だったということなのか。


 いや、確かにまだ半年と経っていないのだから、そう簡単に記憶から薄れるはずもないのだけど。


 あの城下の森で過ごした日々も二ヶ月はなかったというのに、毎日が刺激的だったことは確かだからね。


『その上で、オススメの姿はありますか?』


 セヴェロさんがそう言うので……。


「白……、かなあ?」


 わたしは素直にそう答えさせていただいた。


『よりにもよって……、当然ながら、却下です』

「いや、神さまのことじゃないですよ。わたしが言う『白』とは、ちゃんと人類です」


 一応、人類の範疇には入っていると思う。


 その判定としては、正直、疑惑ではあるが、少なくとも、世間一般では人間だと思われているはずだ。


『ちゃんと人類……? ああ、そう言うことですか……』


 セヴェロさんもそれに気付いて顔を顰めた。


『とりあえず、まずは、変化(へんげ)してみましょうか。それで問題なければ、その姿になるということでよろしいと思います』

「そうですね。もうあまり時間もないことですし、恐らく、今回だけでしょう。そう願いたいものです」


 わたしの言葉にそう返答しながらも、セヴェロさんは小さく溜息を吐いたのだった。

この話で119章が終わります。

次話から第120章「ハラハラな生活」です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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