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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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子息の元婚約者

 ―――― マリアンヌ=ニタース=フェロニステさまはどんな女性ですか?


 わたしがそう聞いた時、アーキスフィーロさまが話してくれたのは、マリアンヌ=ニタース=フェロニステさまの背景だった。


 そこにはアーキスフィーロさまの感情が、ほとんど入っていなかったのだ。


 先ほど、自分の半生を口にしていたように、マリアンヌさまのことについても事実だけを語ってくれた。


 この国の事情を知らないわたしからすれば、それらの話は確かに、いろいろと参考にはなったと思う。


 だけど、わたしが本当に聞きたかったのは、そんなことではなかった。


「アーキスフィーロさま自身は、マリアンヌ=ニタース=フェロニステさまのことをどう思っていらっしゃいましたか?」


 だから、言葉を変えてみた。

 これなら伝わるかな?


「それは……」


 自身の感情を口にするのは苦手なのだろう。

 アーキスフィーロさまが言い淀んだ。


「わたしは、彼女の為人(ひととなり)が知りたいのです。中学時代の彼女は、作られたものだったのか。そうでなかったのか。そこを知らないと、マリアンヌ=ニタース=フェロニステさまにお会いしてお話しする際に障りがあるでしょうから」


 わたしがそう言うと……、アーキスフィーロさまは、少しだけ目を見張って……。


「ああ、なんだ。そう言う意味か……」


 口に手を当てて、小さな声でそう呟いた。


 はて?

 わたしはそう言う意味で言っていたつもりだったけれど、そうは受け止められなかった?


 言葉って難しい。


「マリアンヌ嬢は確かに、人間界での性格は作られたものだったと思います」


 やっぱりそうか。


 あのどこか幼さがあり、明るくて、笑顔をたやさない。

 だけど、言いたいことははっきり言う。


 そんな彼女は、作られたものだった。

 わたしが本当の彼女に接したのは多分、あの時だけだったのだろう。


 ―――― これ以上、魔界に関わらない方が良いよ


 抑えていても迫力のある声だった。

 あの時、わたしに向かって警告してきた真理亜が、マリアンヌさまの素顔だったのだと思う。


「いや、もしかしたら、私も本当のマリアンヌ嬢のことを知らないのかもしれません」

「え……?」


 どこか戸惑いながらも、アーキスフィーロさまはそう言った。


 アーキスフィーロさまも本当のマリアンヌさまを知らない?

 それはどういうことだろうか?


「マリアンヌ嬢からずっと、線を引かれている気はしていました。勿論、貴族子女ですから、それは仕方がない話ではあります。そして、マリアンヌ嬢からは、私も同じように見えたことでしょう」


 ああ、そうか。


 わたしと違って、彼らは貴族の子息、息女なのだ。

 よほどのことがない限り、素の自分なんて他人の前で出せるはずがない。


「ですので、マリアンヌ嬢に会う時は、シオリ嬢はそのままで大丈夫だと思います」

「え……?」


 アーキスフィーロさまの言葉の意味を掴みかねて、思わず、変な反応をしてしまった。


「マリアンヌ嬢がお話したいのは、何も知らない貴女でしょう」


 アーキスフィーロさまから言われて気付く。


 マリアンヌさまが手紙を出して会いたいと思ってくれたのは、貴族の知識も何もない、庶民のわたしだったのだ。


 この国の貴族ではない相手に、礼儀とか教養とか常識なんて深い話を求めていないってことだろう。


 だが、そう言われても、素直に頷けないものがあった。


 確かにそれらを全く求められていないという点に関しては同意する。

 だけど、それだけではないと思うのだ。


 マリアンヌさまからすれば、わたしは、元婚約者であるアーキスフィーロさまにすり寄っている女に見えているかもしれない。


 勿論、婚約を解消している以上、二人は他人である。

 それでも、先ほどの話を聞いた限りでは、その付き合いは決して短くなかった。


 互いに第五王子殿下の友人候補として登城し、様々な交流を深め、いろいろな思惑がある中での婚約を結んだ。


 そして、第五王子殿下が人間界へ行った後、それを補佐するために、同行して五年もの長い間、級友として過ごしたのだ。


 5歳から15歳ぐらいまでならば、完全に幼馴染というやつである。


 互いに線を引き合っていた?

 それは当然だし、そんなのは関係ないのだ。


 誰だって踏み入って欲しくない部分はあるだろう。


 だけど、この状況はアレだ。

 昔の付き合っていた男性に好意を持って近付く女。


 いや、わたしはアーキスフィーロさまに対して、そんな意味での好意を持っているわけではないのだけれど、そんなのマリアンヌさまには分からないのだ。


 そうなると、既に相手に対して、何の感情も持っていなかったとしても、多少なりとも、面白くないと思ってしまうのではないだろうか?


 少女漫画によくあるパターンである。

 考え過ぎだとは思うけど、一度、頭に浮かんだら、そうとしか思えなくなってしまった。


 つまり、わたしが中学校の同級生であっても、そうじゃなかったとしても、会って話がしたいと言っているのは、牽制だと考えていた方が良いかもしれない。


 それぐらいの考えでいれば、何があっても大丈夫だろう。


「こんな回答ではありますが、満足はされましたか?」

「はい、十分です。ありがとうございます」


 思った以上に突っ込んだ話まで聞くことができた。


 勿論、それでも全てを話してくれているとは限らない。

 婚約解消の理由以外にもいろいろ隠されたことはあるだろう。


 それも当然だ。


 全てを話す、隠し事をしない関係は、ある種の理想であるけれど、全てを話さない、不都合なことを隠すことで円滑な人間関係を築くことができると思う。


 わたしは九十九に隠し事をしているし、雄也さんにも言ってないことだってある。


 そこに罪悪感を覚えないと言えば嘘になるけど、自分からそれを話そうとは思えないのだ。


「マリアンヌ嬢とはいつお会いになる予定かを伺ってもよろしいでしょうか?」

「申し訳ございませんが、会う日も場所も、まだ決まっておりません。マリアンヌ=ニタース=フェロニステさまにお任せしようと思っております」


 何しろ、お誘いは二度あったが、会うことを決めたのがさっきなのだ。


 身分的にはマリアンヌさまの方が上なのだから、わたしがあちらの予定に合わせることになるだろう。


 その辺りの日程調整のやり方については、ルーフィスさんに相談しようかな。


「分かりました。それならば、日時と場所が決まった後、教えていただけますか?」

「はい、それは勿論」


 ちゃんと報告はする。

 わたしはまだこの国には不慣れだからね。


 専属侍女たちはいろいろ知っているかもしれないけれど、やはり、地元のことを地元民目線からも確認してもらった方が良いと思う。


 このロットベルク家で会うということはないだろう。

 そうなると、フェロニステ家を考えたが、マリアンヌさまは庶子だと聞いている。


 家に知人未満の相手を呼べる立場にあるとは思えない。

 庶子の命を狙うような正妻もいらっしゃるようですし。


 そうなると……、外かな?


 貴族子女たちなら、飲食店の個室とかを借りて会うとか、人が集まるような催し物とかの会場で待ち合わせて一緒に行動したりするんだっけ?


 もしくは、懇意にしている友人、知人宅の交流会とかもあるか。


 本格的な貴族子女たちの付き合いをしたことはないが、王族のワカたちとのお茶会の経験はある。


 給仕がわたしの護衛だったけど。


 まあ、相手も貴族の礼儀なんてわたしの方に期待などしていないだろうから、そこまで気負う必要はないと思っているけどね。


 とりあえず、情報共有は終わった。

 それと、マリアンヌさまとの交流の許可も得た。


 これで、ある程度、この部屋に来た目的は終わったのだ。


「それでは、部屋に戻りますね」


 そう言って、専属侍女たちとともに退室する。


 今からわたしがやるべきことは、先ほどの話の整理と、専属侍女たちの意見を聞いて、今後の指針を考えることだ。

 

 それと……。


「栞様」


 考え事をしていたら、ルーフィスさんから声を掛けられた。


()()()()()()()が入りましたが、いかがされますか?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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