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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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甘口評価

「50点」

「ぐふっ!!」


 賢者ルーフィスの(言葉)が、中ボスに向かって容赦なく振るい落とされる。

 痛恨の一撃! 中ボスに効果は抜群だ!!


 アーキスフィーロさまの書斎にて、セヴェロさんに報告した後、さらに部屋に戻って開口一番食らったのがこれだった。


 何の話かを確認するまでもない。

 今回のわたしの振る舞いについてだろう。


 そのまま、テーブルに頭を伏せる。


 合格(80)点には到底足りない数字。

 赤点よりはマシだが、十分、主人失格の烙印を押された気分だ。


「まず、これらの重要な話をその場で決める必要はありません。アーキスフィーロ様の登城に関しては、当事者間で平行線となっていても、口を挟まず、黙って見守るべきでした」

「はい」


 そうなのだ。


 この件に関しては、わたしは完全なる第三者である。

 しゃしゃり出る必要は全くなかった。


 でも、あの時のアーキスフィーロさまの顔を見ていたら、何かしたくなって……、その結果、50点である。


 顔を上げることができない。

 失望されてしまっただろうか?


 自分たちが命を賭して護ると決めた主人がこんなに情けないなんて。

 そんな顔を見たくなくて、そのまま、わたしはテーブルに額を寄せたまま動けなかった。


「他には、先にアーキスフィーロ様の城での仕事を聞いておくべきでしたね」


 話を聞かない選択をしていたのはわたしだ。


 当人に確認していれば良かったのにそれもしなかった。

 変な先入観を持ちたくなくて、セヴェロさんにも確認しなかった。


 あの人がいない所で誰かに聞くのも申し訳なくて、既に調べているであろうこの人たちからも情報を貰わなかった。


 ……泣きたい。

 自分で考えて行動した結果がこの様だ。


「仕事場を契約の間とするのは、少なくとも、アーキスフィーロ様の話を伺ってからするべきでした。あのセヴェロ様があれほど感情を露わにするのだから、相応の理由があったとは思いませんか?」

「思います」


 単純に大気魔気の調整だけの話だと思っていた。

 だけど、もしかしたら、あの場所にはわたしが知らない嫌な思い出もあったのかもしれない。


 それすら確認していなかった。


 ますます、泣きたくなってくる。

 でも、ここで泣くわけにはいかない。


「せめて、その理由を確認しておくべきでしたね」

「あうううっ……」


 明らかに相手の嫌なことに対して土足で踏み込みたくはなかった。

 だけど、その結果、もっと嫌な思いをさせることになったのかもしれない。


 全てが終わった後、残っているのは悔いだけだった。

 もっと、先にああしていれば……、そんな感情ばかりである。


 ……泣きたい。


「そして、栞様が口を挟んでしまったために、アーキスフィーロ様に対して、栞様の身柄を交渉の材料として使われました。これが最悪です」

「ぐはっ!?」


 ああ、アレは本当に最悪だったと自分でも思った。

 わたしの存在が、アーキスフィーロさまの足を引っ張ってしまったのだ。


 雉も鳴かずば撃たれまい。

 余計なことを言わなければ、あの国王陛下の目に付くこともなかったのに。


 ひっそりと目立たず。

 そんな簡単なこともわたしはできなかったのだ。


「その時点で、アーキスフィーロ様は大人しくローダンセ国王陛下に従う以外の道を選べなくなりました。そればかりか、今後、同じように、栞様の身柄を使って脅すことが増えるでしょう」

「ふぐっ!!」


 事実を指摘されるって本当に辛い。


 分かっている。

 あのタヌキ陛下は、あれで味を占めてしまった。


 わたしを使えば、アーキスフィーロさまが素直に従うことを知ってしまった。


 ずっと、あの国王陛下に従わないように頑張ってきたのに、わたしがそれを壊してしまったのだ。


「この国を救おうと模索した貴女の考え方は立派だと思います。それでも、アーキスフィーロ様がそれを望んでいたかは分かりませんよね?」

「ううっ!!」


 もう何度目か分からない、うめき声を口にする。


 分かっている。

 全てを手に入れることはできない。


 大きい葛籠(つづら)と小さい葛籠(つづら)

 金の斧と銀の斧。


 欲をかいた者は、結局損をするという考え方に、和洋関係ない。


「ただその中で、随行者の許可をもぎ取った点については、よく頑張ったと思います」


 そう言いながら、わたしに甘い専属侍女は、頭を撫でてくれる。

 だけど、それは素直に喜べない。


「お情けでした」


 あれは、わたしの手柄ではない。


 アーキスフィーロさまを屈服させたことを喜んだあのタヌキ陛下が、わたしに対して情けをかけただけ。


「その交渉は、ローダンセ国王陛下の気まぐれによるものでした。本来なら、ありえない譲歩です」


 ローダンセ国王陛下はそんなことをする必要はなかった。

 完全敗北だったのだ。


 あれは勝者の余裕でしかない。


「普通なら引き出すことができませんでした」


 あんなご褒美がなければ捻じ込むこともできなかった。


 もっとうまく立ち回った上で、相手から言われるのではなく、自分から申し出るべき大事なことなのに。


「確かに今回は、相手からの情けはありました。でも、それを生かしたのは栞様です」


 それでも、どこまでも甘い雄也(ルーフィス)さんは、わたしの頭を撫でながらそう言う。


 情けない。

 こんな風に励まされなければ、わたしは自分で立ち上がることもできないなんて。


「ローダンセ国王陛下の意表を突いた上で、こちらにとって、プラスとなる条件を呑ませた。これについては栞様の成果ですよ」


 意表を突けたのだろうか?

 あのわたしの言葉すら、あのタヌキ陛下は計算していた可能性だってある。


 アーキスフィーロさまに従者がないことなんてあの国王陛下は知っていたことだろう。

 これまでもなかっただろうから。


 そして、わたしは平民だ。

 城に従者として共に登城することができる侍女や護衛がいないことなんて、考えれば分かることだ。


 平民に従う(頭を下げる)貴族など、数が少ない。

 名ばかりの貴族や、没落した貴族が金銭のために、裕福な平民の従者になるぐらいしかないだろう。


 従者となれば、城に務めている下働き(平民たち)とは扱いが違ってくる。


 貴族として、一度、この国にその名前が登録されたというのは、それだけで価値(信用)があるのだ。


「そんなに甘やかさないでください」


 みじめになる。

 泣きたくなる。


 だけど、ここで泣くのは卑怯だ。

 わたしは、これ以上、自分の価値を下げたくない。


「これは甘やかしではなく、正当な評価です」


 だけど、わたしに甘い専属侍女はそんなことを言う。


「本来、栞様まで城へ行く必要はありません。それでも、アーキスフィーロ様は、この家に貴女を置くより、共に城へ行き、側で護る方を選ばれました」


 確かに、城までわたしを同行させたいと願ったのはアーキスフィーロさまだった。


 わたしはそのことに驚いたのだ。


 貴族ではないわたしの登城については、賛否あるだろう。

 平民の上、貴族子息の婚約者候補でしかないのだ。


 しかも、仕事を手伝わせるという名目なら、尚のことだ。


 仮令(たとえ)、書類仕事の補佐であっても、貴族令嬢を手伝わせることなんてしないし、ましてや、それを公言もしない。


 自分の能力が足りないことを口にすることになるのだ。

 自分の家でこっそりとさせることはあるだろうけどね。


 家の中なら、従僕たちは口を紡いでくれる。

 自分の仕えている家に不利なことは外で話さないだろうから。


 だけど、城となればそうはいかない。


 城に出入りするのは、王侯貴族たちに忠誠を誓ったモノたちばかりではないのだ。

 口の軽い、口さがないモノだっているだろう。


 アーキスフィーロさまは自分で、さらに重い荷物(悪い条件)を背負ったことになる。


「今回のことは、どちらも互いのことを思い合った結果です。それならば、貴女にお仕えする人間として、(わたくし)どもも、誠心誠意を尽くしてより良い方向へと進めるよう愚考致しましょう」


 わたしの専属侍女は、どこまでも甘いと思う。


 本当はもっといろいろと言いたいこともあるだろう。

 それなのに、それらを呑み込んで、わたしを受け入れてくれる。


 ずっと一言も発しないけれど、その後ろに控えているもう一人の専属侍女もそうだ。


 悔しい。

 こんなところでも甘やかされていたことを自覚する。


 だけど、まだ評価してくれている。

 立ち上がれると信じてくれている。


 だから、半人前(50点)のわたしは頑張るしかないのだ。

 ジタバタしても、見苦しくても、その先を見るために。


 そう!

 いつか、合格点をとるために!!

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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