遊戯の時間
「パス」
とうとう三回目のパスを宣告する。
もう、後がない。
誰だ?
スペードの6と8をまだ出さずに大事に持っている人は。
単独犯か、複数による犯行かが分からない。
ぐぬぬぬ……。
そうなると、この虎の子のダイヤの6を出すしかなくなる。
これを出しても、後が続かないんだよね。
ダイヤの6以下のカードは持っていないのだ。
そして、スペードなら、2、3、9、Jがある。
頼むから、誰か早く出して!!
さて、わたしたちはトランプの真っ最中であった。
アーキスフィーロさまが、これぐらいしかできないと言ったからである。
将棋は駒の動かし方ぐらいしか分からないし、麻雀もやったことはあってもうろ覚えらしい。
そうなると、必然的に残ったトランプとなる。
そして、今、やっているのは七並べ。
いろいろなローカルルールがあるが、パスは三回まで。
四回目のパスで負けとなる。
始めに7を全て置いて、そこから同じマークの連続する数字以外は出せないというシンプルなルール。
7からAまで行けば、次はKも出せるようになるといった変則的なルールはなし。
ジョーカーもなし。
四人でやると、最初の手持ちのカードがそこそこあるため、最初に場に出すことになる7をどれだけ持っているか。
7に近い数字がどれだけあるか。
同じマークが揃っているかなどで、戦略を立てるゲームだと思っている。
ダイヤの7を出した人から時計回りとなる。
今回は、アーキスフィーロさま、わたし、雄也さん、九十九の順。
人間界で高瀬やワカとやった時も手強いと思ったけれど、この場にいる彼らもかなり手強い。
まず、三人とも顔に出ない!!
多分、わたしが一番、顔に出ていると思う。
雄也さんはずっとニコニコだし、九十九は不機嫌そうな顔を崩さない。
そして、アーキスフィーロさまはもともと感情表現が分かりにくい人だ。
でも、七並べはババ抜きほどポーカーフェイスが要らない。
そこはちょっと助かっている。
四人だとババ抜きはあっという間に終わっちゃうからね。
いや、七並べも結構、早く終わるけど。
「あ……」
思わず、声が漏れてしまった。
アーキスフィーロさまがスペードの8を出してくれたのだ。
これで一回分は生き延びれる!!
「嬉しい!! アーキスフィーロさま、大好き!!」
スペードの9を出しながら、気付いたら、そう口にしていた。
あれ?
今、わたしは何を口走った?
三人の目が丸くなっている。
……あ。
「ああああっ!? 違います!! これはアレです!! 女友達たちとカードゲームをやっていた時のノリで、つい!!」
ゲーム中に興奮度が上がって、嬉しさのあまり、つい、いろいろ口から飛び出してしまうやつだ。
感謝が行き過ぎて、好意になってしまった。
女子特有のノリというか、なんというか。
この場には男性しかいないから分からないかな~?
でも、人間界でも見たカードゲームをやっていたら、つい、あの頃の感覚になっちゃって、高瀬やワカに対するようなノリで……。
「シオリ嬢、大丈夫です。分かっていますから」
「で、でも……」
大変、失礼な言葉をノリで吐くとか!!
これまでワカから指導されてきたことが一瞬で台無しになった感がある。
「女性はそう言った単語を勢いで口にするということは知っていますから、私は大丈夫です」
ふと、人間界を思い出す。
ああ、確かに、アーキスフィーロさまはそのノリを知っている人だ。
あの子はそうだった。
わたし以上に「好き」って言葉を使っていた覚えがある。
それも男女問わずに。
そのことをなんとなく思い出した。
「それでも、はしたないことを口にしました。申し訳ございません」
でも、自分が恥ずかしいことを言ってしまったことには変わりない。
それも人前だ。
アーキスフィーロさまだって、困ったことだろう。
「大丈夫です」
何度、大丈夫と言われるのか。
穴があったら埋まりたい。
誰か、埋めてください。
「仲が良いのは結構ですが、続けさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そう言って、雄也さんが次のカードを置く。
仲が良いって言われたけど、これは何か違うと思う。
同性に対してならともかく、異性に向けて、そんな軽々しく使って良い言葉じゃないのに。
―――― 世迷言
誰かの声で、そんな言葉が蘇る。
ああ、こんなに簡単に口にしちゃうんだから、そう思われても仕方がないのか。
因みに、先ほど、雄也さんが置いたのは、スペードの6だった。
貴方が、そこを止めていたのか。
わたしがそんな想いを込めて雄也さんを睨むと、苦笑された。
バレバレらしい。
七並べと言うのは、意外と戦略ゲームである。
アーキスフィーロさまは割と素直だ。
出せる時に出せるカードを出す。
相手が困るような意地悪なことはしない。
そして、カード運が良いらしく、割と、7に近い数字が揃い、絵札も少ない。
七並べにおいて、絵札がないって結構、大事なのだ。
九十九は自爆覚悟の妨害型だった。
そこを出さないと、後で、自分も困ると分かっていても、相手をパスさせるためだけに、我慢して出さないタイプ。
カード運はそこそこ。
同じマークの連続した数字を持つことも珍しくない。
羨ましい。
雄也さんは、状況に応じて使い分ける。
基本は、6,8などの重要な所を出さずに、相手が出せなくなるまで待つタイプ。
そして、たまに意味深なことを口にして周囲を惑わせる心理戦も仕掛けてくる。
具体的には、「フルハウスですね」と横にいる人に聞こえるか聞こえないかの声で呟く感じだ。
厄介なことにその言葉に嘘がないから困る。
因みに、雄也さんの横は、わたしと九十九。
心理戦をしかけるには絶好の鴨だろう。
但し、カード運に恵まれないらしく、何もできないまま終わることもあるのは、ちょっと意外だった。
「運に恵まれないのですよ」
困ったように笑う雄也さんも新鮮である。
わたしも相手が出せなくなるまで待つタイプ。
だけど、時々、うっかり大事な所を出し忘れることがあるのでそうは見えないだろう。
同じマークの8、9を持っていながら、パス3回してようやく気付くとか、ただのアホである。
いや、なんか、カードが隠れてしまうのですよ?
カード運は、うん、銀行(A、絵札が強い)したい。
大富豪(2が最強。ついで、A、絵札の順)でも良い。
でも、これが不思議なモノで、他のゲームに切り替えると、「求む、七並べ!」のカードになる。
世の中、そんなものだ。
そんな七並べだが、始めにそれぞれコインを十枚ずつ持っていて、一戦ごとに一枚ずつ出す。
一位が総取り、二位以下は何もなしという非情なルールを設定していた。
要は一位になれなければ、何もないのと同じである。
最小で十戦することになるが、これが、意外と一位が入れ替わるため、コインが行き来する。
そして、何戦か繰り返した後、最終的な勝者は雄也さんだった。
あのカード運で何故、勝てるのだろう?
謎である。
そして、ビリはわたしである。
一度しか一位を取っていないので、当然の結果だ。
二位には何度かなるけれど、一位をどうしても取れなかった。
順当にコインを提出していったのだ。
さらに、最後は自爆だったよ。
ダイヤの6と2を持っていたのに、ずっと6の存在に気付いていなかったのだ。
注意力って大事だよね。
まあ、九十九も二回しか一位を取っていないので、どんぐりである。
「七並べは助け合いのゲームだと思っていましたが、考えを改める必要がありますね」
そう言ったのはアーキスフィーロさま。
うん。
わたしは小学生の時に、そんな考え方はできなくなったよ。
助け合うより、他者を蹴落とすゲームだと思う。
だから、中途半端な戦略を身に着けることになったんだけどね。
その後は、大富豪、ダウトなど、人間不信になってもおかしくない戦いを繰り広げました。
特に、ダウトは、雄也さんの一人舞台だった。
まさか、ダウトが十戦だけで終わるなんて、思っていなかったよ。
え?
最終的に一番、負けたのは誰かって?
実は九十九でした。
大富豪がちょっと苦手らしいです。
わたしは、大富豪だと富豪か大富豪になりやすかったから、そこで頑張りました。
絵札が揃いやすかったのが勝因でした。
しかし、ゲームって本当に性格が出るね。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました




