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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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欲しいモノは何ですか?

「お手柄だな、シオリ嬢」


 アーキスフィーロさまから承諾の意を受けて、そんな嬉しくない言葉を上機嫌で口にする国王陛下。


 どこまでもタヌキの印象が拭えなくなってしまう。


「この頑な男を解き解したのだ。そなたは相当、惚れこまれているな」


 そんなことはない。

 アーキスフィーロさまが優しすぎるだけだ。


 だから、わたしのために、自分の意に添わぬ道を口にさせてしまった。


「そなた、何か、欲しいモノはあるか?」


 欲しいモノ?


「褒美をくれてやろう。何でも言うが良い。質の良い魔石か? その方に似合う愛らしい装いか  それともその身を飾る豪奢な装飾品か?」


 どうやら、結果としてアーキスフィーロさまを説き伏せたことによるご褒美をわたしにくださるらしい。


 だが、魔石、服、装飾品など、腐るほど持っている。

 わたしではなく、その専属侍女たちがね。


 だから、そんなものは要らない。


「畏れながら、なんでもよろしいのでしょうか?」

「何でもだ。王に二言はない。王子たちのいずれかを望むなら、くれてやっても良いぞ?」


 この方にとって、息子たちはどれも一緒と言うことらしい。

 まるで、物のような扱いだと思う。


 でも、正直、要らない。

 微塵も興味が湧かない。


 何より、この国王陛下は、わたしがアーキスフィーロさまの婚約者候補であることを知っているのだ。

 その上で、王子たちをお勧めされている点もわたしには理解できなかった。


「それでは許可をいただければと存じます」


 だけど、悔しいが、今、この王さまにしか叶えられない願いはある。


「許可?」

「アーキスフィーロさまとわたしが登城する際、世話役も連れてくる許可をいただきたいのです」

「ほう?」


 わたしの言葉に、国王陛下は愉悦を含んだ物言いをした。


「日頃、ロットベルク家で世話をしてくれているアーキスフィーロさまの従僕も、わたしの侍女もその出自が庶民であるため、登城が許されておりません。ですが、仕事となると世話をしてくれる者も必要かと存じます」


 これがあるかないかで、今後のわたしたちの運命は大きく変わると思う。

 いや、絶対に変えることができるだろう。


「それに、いくら婚約者候補の身であっても、未婚の男女が登城のたびに人気(ひとけ)のない密室で過ごすなど、良からぬ噂の元となるでしょう。何より、仕事のためとはいえ、それを許可してくださった国王陛下の御高名に翳りが出るやもしれません」


 命令とはいえ、未婚の男女を密室で二人きりにするとか。

 表立って言う人はいないだろうけど、裏で何を言われるか分からない。


 それでなくても、この国王陛下は、女好きとして知られているのだ。


 未婚の貴族子息、子女を持つ親なら、警戒するだろう。

 次は、自分の子供たちがそんな理不尽な命令をされるかもしれない、と。


 そうなれば、その貴族たちは、王から距離を置く。

 万一、目を付けられたら(気に入られたら)、我が子が同じ目に遭うかもしれないのだから。


「そのために、()()()()()()を入れさせろ……と?」

「はい。それが陛下の威光で叶うなら」


 わたしは国王陛下を真っすぐ見る。

 そこには先ほどまでの軽さなどない。


 冷たく、相手を見定める瞳。

 だけど、そんな瞳をわたしが、これまでにどれだけ浴びてきたと思っている?


 伊達に王族と交流があるわけではないのだ。


 だから、わたしは笑った。

 それぐらいの威圧でどうにかなると思わないで欲しい。


「望むなら、城から世話役を出すが?」

「契約の間で仕事するだけの見張りに、城の人間の手と時間を煩わせるのは本意ではありません。人件費も馬鹿にはならない昨今、それが国王陛下の一声で安く済むなら、その方が良いかと存じます」


 ここで、それならばロットベルク家から人を出せと言われることはないと思っている。


 この国王陛下は、ロットベルク家があまり裕福ではないことを知っているはずだ。

 つまり、もともとお城に上がれるような人も少ない。


 そこで、無理に出すように命ずれば、アーキスフィーロさまだけでなく、当主さまも難色を示すようになるだろう。


 そして、国王陛下は城から出すと言ってはいるが、恐らく自薦はなく、押し付け合いになる。


 何故なら……。


「何より、アーキスフィーロさまがずっと籠ることになる地下まで、わざわざ来てくださるような方はこの城にいらっしゃいますか?」


 そんな人がいれば、アーキスフィーロさまはこんなにも悩まなかったはずだ。


 言い方は悪いが、誰もが忌避している存在を、人気(ひとけ)のない密室で見張れとか喜んで望む人間はいないだろう。


「くっ……」


 国王陛下は、一度だけ顔を下に向け、肩を震わせた。


「はーっはっはっはっ!!」


 そして、そのまま高笑いをする。

 三段笑いではなかった。


「よかろう。アーキスフィーロとシオリ嬢に一人ずつ、供を付けることを許可する。但し、地下、あるいは、人目に付かない場所のみだ。それ以上の特例は認められん」


 よし!!

 わたしは心の中で強く拳を握りしめた。


 人数と場所の制限はあるものの、従僕(セヴェロさん)専属侍(ルーフィスさん)女たち(とヴァルナさん)を連れてくることが許されたのだ。


 これは大きいと思う。

 少なくとも、これならアーキスフィーロさまもわたしも、一人になる可能性がぐっと減る。


「詳細は追って詰めることにしよう。まずは、城の地下へ行くが良い」


 地下……?


「今後、働くことになる場所ぐらい、見てから帰れということだ」


 わたしが分かっていないことを察したのか、国王陛下はそう続けた。


 つまりは、契約の間へ行けということらしい。

 寧ろ、それは望むところだった。


「シオリ嬢……」

「大丈夫ですよ、アーキスフィーロさま」


 アーキスフィーロさまが顔色を変えたから、居心地の良い場所ではないのだろう。


 でも、わたしは一部の中心国の契約の間を知っている。

 この国の契約の間がどんな場所かは分からないけれど、そこまで大きな違いはないと思う。


 尤も、そのわたしの予想は大きく外れてしまうのだけど。


「ああ、忘れるところだった」


 そう言って、国王陛下は、アーキスフィーロさまに向かって何かを投げる。


 アーキスフィーロさまは慌てることもなく、それを掴み取る。

 距離があるし、周囲に人もいないから仕方がないとはいえ、物を投げるのはどうかと思う。


 まあ、投げつけたわけでもなく、わざと下に落として拾わせるよりはマシかな?


「これは……?」

「お前たちの世話役に持たせろ。登城資格のようなものだ」


 アーキスフィーロさまに投げられたのは二つの楕円形の魔石だった。


 濃く青い石に星状の光が広がっている。

 これって、漫画で見た「スターサファイア」って宝石ではなかろうか?


 それをこんなに無造作に投げちゃって良いのか?

 いや、ここは世界が違うから、宝石に対する価値観も違うのかもしれない。


 そうでなければ、わたしの護衛があんなにも宝石を持っているはずがないだろう。多分。


「首から下げるも、手首に下げるも良い。但し、その石に傷をつけるな」


 石の加工は許さないと。

 でも、周囲に何かを施すのは良いらしい。


「これが登城資格になる……と?」

「その魔石には、我が魔力が込められている。王からの許可を持つものを拒むことは許されん」


 思ったより、とんでもないモノだった。


 でも、これがあれば、問題ないことは分かる。

 それに、拒否もできない。


 大事にしよう。


 でも、石を傷つけるなと念を押した部分が気になる。

 普通に考えれば、王から下賜された宝石を許可なく傷つけるなどしないと思う。


 加工(研磨)前の原石なら分かる。

 でも、これは既に加工済みだ。


 そうでなければ、こんな星状の光を放つ楕円形の形にはなっていないだろう。

 それなのに、わざわざ念を押した理由は何?


 わたしはどこかの護衛兄弟のように魔石の鑑定ができない。

 鑑定はできないが、それ以外の方法を持っている。


 後で、識別してみるか。

 流石にこの場にあのルーペは持ってきていない。


 それでも、()()()()()()けどね。

 わたしの侍女は本当に有能である。


「陛下の御心、痛み入ります」


 アーキスフィーロさまはその二つの魔石を手にして、礼をする。

 わたしもそれに合わせて礼をしたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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