謁見のご案内
ロットベルク家にある簡易転移門を抜け、ローダンセ城内にある転移門に辿り着いた。
本日のアーキスフィーロさまの衣装は、黒のフロックコート? ……の上に黒いクローク? ……を羽織っている。
そのフロックコートは、舞踏会の時に見たえんび服と違って、全体的に長い。
そしてボタンが無駄に多い。
その中に着ているベスト……、いや、ウェストコートというのもボタンが多いので、着脱が大変だと思う。
そして、本日のわたしの衣装は、アフタヌーンドレスと呼ばれているドレスらしい。
なにそれ? ですよね。
わたしもそう思います。
午後の正装って何?
舞踏会で着たボールガウンよりは軽くて動きやすいのだ。
だが、全身にぴったりフィット部分は黒で、首から肩、腕はピンクのレース仕立て。
腰の両サイドに入ったスリットから覗く……、というより飛び出る豪華なフリルも実にピンクである。
そして、さらにマキシ丈? の裾にもピンクのフリルが付いていて、まあ、何が言いたいのかと言いますと、黒とピンクのドレスである!!
そのまんま過ぎた。
いや、可愛いのです。
ドレスはとても可愛いのです。
だけど、18歳が着るものとしていかがなものか?
黒はともかく、ピンクは多分、ないよね!?
ルーフィスさんは「可愛らしい」、アーキスフィーロさまは「お似合いです」と褒めてくれたけど、それでも、こう、自分の中ではあまりそうは思えないのだ。
こんなに可愛いのは、わたしには似合わないのに、何故、皆、こんな系統の服を持ってくる?
そして、わたしたち二人の後ろには、トルクスタン王子殿下からお借りした従者である雄也さんと九十九がいる。
服装は、アーキスフィーロさまと同じく黒のフロックコート。
但し、アーキスフィーロさまと違うのはクロークと呼ばれるものを身に着けてはいない点だろうか。
いや、それ以外にもあるのだと思うけれど、わたしが分かるのはそれぐらいだ。
そして、相変わらずの眼鏡姿。
いや~、顔が良い殿方たちの眼鏡は良いよね?
なんというか知的な感じがする。
雄也さんに至っては色気が増すのです。
魅力に際限がないって凄いな~。
「シオリ嬢」
「はい」
名を呼ばれながら、すっと差し出される手に自分の手を重ねた。
この流れも、少しだけ慣れた感がある。
アーキスフィーロさまも御顔がよろしい。
まあ、この方はそれをあまり喜んではいないみたいだけど。
……あれ?
今のわたしって、美形の殿方たちを侍らせている状態?
もしかしなくても、悪女っぽい?
ワカのような高笑いがいる?
こんな時、いつもなら女性がいるのに今日はいないのだ。
おおう。
侍女がいない弊害がこんな所にも出たらしい。
****
転移門のキラキラしい部屋を出ると、そこには、案内人と思われる人が待っていた。
アーキスフィーロさまの顔を見て、一瞬だけ顔を引きつらせる。
またかと思わなくもないけれど、アーキスフィーロさまは涼しい顔を崩さない。
わたしも顔に出さない努力……、いや、ここで笑う努力をするのだ!!
やはり、この状況をなんとかしたいとは思う。
会う人、会う人に変な顔されるのに慣れてしまうのもどうかと思うし、慣れたからって平気なわけではないだろう。
でも、この状況って、本当に魔力の暴走やアーキスフィーロさまの眼だけが原因なのだろうか?
なんとなくだけど、それ以外にも理由がある気がする。
国王陛下からの招待状をわたしとアーキスフィーロさまは案内人に見せ、九十九と雄也さんは身分証を提示したようだ。
従者には招待状が届かない。
だから、貴族であることを確認できれば良いらしい。
今回の案内人は逃げることもなく、変な所に案内するわけでもなく、普通に目的地へと連れて行ってくれた。
本来はそれが当然なのだけど、最初が酷過ぎたのだ。
まあ、前回はでびゅたんとぼーるというある意味、お年頃の少年少女に届く招待状であったらしいが、今回は国王陛下からの正式な召喚、お呼び出しを受けての参上である。
変な所に案内することもできないだろう。
陛下も、案内人も。
そうして、案内されたのは、豪華な扉の前。
でびゅたんとぼーるが行われた「藍玉の間」でもなく、舞踏会で使われた「青玉の間」でもない場所。
「星蒼玉の間」らしい。
別名、玉座の間。
いや、何故、そんな本格的な場所に案内された?
アーキスフィーロさまは今回の謁見の用件を知っているの?
わたしに来た招待状には、単純にまた機会があれば会いたいというような内容だった。
その時点で機会を作って城に来いと読み替えが可能である。
だけど、アーキスフィーロさまの方に届いたものについては分からない。
もっと分かりやすく明確な目的が書かれていたのだろうか?
そうでなければ、わざわざ玉座の間なんて使わないと思う。
玉座ですよ、玉座。
国の頂点、国王陛下以外が座ることを許されない椅子が置かれた場所だ。
いや、昔やったRPGでは、夜中にこっそりと座っていたとんでもない大臣とかいた気もするけど、あれは子供向けのゲームだから許されることだった。
本来ならば、謀反を疑われても仕方がない行為である。
「お連れの方はここでお待ちください」
しかも、従者たちと引き離されるらしい。
いや、何も危険なことはないと思う。
でも、不安だ。
不安しかない。
しかも、これから会うのはあのタヌキな国王陛下だ。
何が起こるか想像もできない。
「行きましょうか、シオリ嬢」
そんな優しいアーキスフィーロさまの言葉に、頷くことで応える。
不安を顔に出さない。
わたしが不安がってしまえば、アーキスフィーロさまも困るだろう。
大丈夫。
わたしは、大丈夫だ。
そう言い聞かせて、扉を潜り抜ける。
真っすぐ伸びる青い道が目に入った。
いや、道ではなく、長く真っ青な絨毯が敷かれている。
その先には壇上。
そして空の玉座。
どうやら、でびゅたんとぼーると違って、その場でお待ちいただいているわけではなかったらしい。
そのことに少しだけ安心した。
いや、控室で待機しているとは思うのだけど、玉座で待たれるよりはずっと良い。
さらには、周囲に人はいない。
警備の兵ぐらいはいると思ったのけど、それもなかった。
「行きましょうか」
アーキスフィーロさまは動じた様子もなく、そうわたしに促した。
この国では、これが普通なのだろうか?
思わず、場も弁えずに首を捻りたくなるが、我慢した。
周囲に人はいない。
でも、あちこちに気配は感じる。
姿を消しているか。
距離をとって、わたしたちを観察しているだけなのかは分からないけれど。
とりあえず、わたしのすべきことは、警戒心を強くしすぎて、うっかり「魔気の護り」を発動させないようにすることである!!
青いカーペットでできた道の真ん中で、アーキスフィーロさまと足を止める。
そのまま暫し、待機。
10分くらいすると、玉座の後方から人の気配を感じたので、二人とも、頭を下げて跪く。
さあ、ここからが本番だ。
頑張れ、わたしの全身の筋肉たち。
尤も、一時間ぐらいはこの姿勢で持つとは思っている。
伊達に「聖女の卵」として、同じ姿勢でずっと待機していない。
姿絵を描かれる時は、単純に立って微笑むだけではないのだ。
絵を描く人間として、いろいろ描きたい気持ちも分かってしまうので、無理のない範囲で頑張って様々な一時停止の図を心掛けました。
「そこでは碌に声も届くまい。二人とも側へ来るが良い」
玉座に座った国王陛下から、でびゅたんとぼーると同じ言葉を掛けられる。
「シオリ嬢」
「はい」
あの時と同じように、わたしはアーキスフィーロさまの手に自分の手を重ね、さらに玉座に近付いた。
国王陛下は座ったまま、不敵な笑みを浮かべてこちらを見ている。
驚くべきことに、たった一人で。
傍には本来いるはずの従者が一人もいなかった。
鬼が出るか、蛇が出るか。
タヌキが出るか、キツネが出るか。
何が出てくるのかは分からないけれど、ここは大事な場面だと思い、わたしは国王陛下を見るのだった。
補足するならば、今回の主人公のアフタヌーンドレスは、マキシ丈のプリンセスライン。
デコルテと腕部分は薄いレース生地に覆われて露出が少ないものとなっております。
作中の主人公が持っている「ピンク=子供っぽい」の図式は主人公個人の感想であり、作者の意見ではないことを申し添えておきます。
ピンクでも大人っぽく品のある服は多いと思うのですが……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました




