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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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デビュー戦

 軽い話題のつもりで話していたら、とんでもないものを引き出しました。


(わたくし)は、『翼が生えた大蛇(ラステクリタウォク)』が初の召喚獣ではない魔獣との出会いでした」


 そう言いながら、ルーフィスさんは妖艶に笑う。


 翼が生えた大蛇(ラステクリタウォク)はその昔、セントポーリア城に現れたという魔獣だ。

 神獣に近いものだったという。


 その名も「ミケランジェロ」くん。


 だが、何故、その魔獣が城という場所に現れて、セントポーリアのダルエスラーム王子殿下を襲ったのかなんて分かっていない。


 その魔獣は、セントポーリア国王陛下が振るう神剣「ドラオウス」によって、斬られた以上のことは分かっていないのだ。


「でも、それって、こんな所で、言っちゃっても良い話ですか?」


 確か、それを口にしてはいけなかったのではないだろうか?

 昔、それを言いかけて、口を封じられた覚えがある。


「栞様は既にご存じのことですからね。勿論、その細部を語る気はありません。尤も、あれは、魔獣退治とは言えないものでした。自分の攻撃は意味を為さず、挙句、情けないことに呑み込まれただけの話です」


 ああ、そうか。

 言ってはいけないのは、ダルエスラーム王子殿下の行動に関してだけ……、ってことか。


 ダルエスラーム王子殿下は、助けに入った雄也さんを捕まえた上、その魔獣に差し出したのだ。


 自分が助かるためだけに。

 誰もその場面を見ていなかったことを良いことに。


 あんな現場を第三者が見ていたら、聞いていたら、それを知ったら、どう思われるかなんて分かり切っている。


 だから、隠したのだろう。


「まさか、その現場を栞様が()ることになるとは思っていませんでしたが……」

「ご、ごめんなさい」


 わたしだって視たくはなかった。

 だけど、視てしまった。

 偶々だった。


 わたしの過去に起きた出来事を夢に視る力、過去視の能力が、あの光景を夢に視せたのだ。


 それはどんなイトが紡がれた結果だったのかは分からない。

 だけど、それは、実際に起きた出来事だったと今のわたしは知っている。


 夢を視ても忘れやすいのに、あの夢は、一度しっかり思い出してしまったせいか、忘れにくいものとなった。


 でも、そういった意味では、わたしも魔獣を視たことはあるのだろう。

 あの翼が生えた大蛇(ラステクリタウォク)も、()()()()()()()()()も。


 わたしの過去視は、それだけのモノを視せてきたのだ。


「それ以後、国王陛下よりお許しを頂き、魔獣退治に参加させていただくことになりました。自分に足りてないのは実戦だったと感じましたので」


 そう繋がるらしい。


 つまり、9歳以後ってことになる。

 年齢一桁で魔獣退治はこの世界の常識なのだろうか?


「あれ? それなら、ヴァルナさんの魔獣退治デビュー戦はいつですか?」


 雄也さんは何度も戻り、こちらでも生活するように困らないようにしてきたと言っていた。

 だが、その弟である九十九は、ずっとこの世界には戻っていなかったと聞いている。


「勝手に退治していない限りは、このローダンセに来てからだと思います」

「ほげっ!?」


 つまり、これまで、九十九は一度も魔獣を退治していなかったってこと?


 ああ、でも、そんなことを言っていた覚えがある。

 その時も信じられなかったのだ。


 九十九は、あんなに強いのに。


「魔獣退治よりも、人間と対峙する方が多かったですからね」


 ああ、妙に美味いことを言われた気がする。


 だけど、いや、人間界で野生動物を捕殺した経験はあるらしいから大丈夫か?


 でも、人間と獣って多分、全然、違う。

 そして、人間界の野生動物とこの世界の魔獣も。


「そんなに心配されるヴァルナが羨ましいです」

「同じような状況なら、わたしはルーフィスさんも心配しますよ?」


 勿論、水尾先輩のことだって心配だ。


 魔獣を退治してきたといっても、王族なのだから、周りのサポートは充実していたことだろう。

 それが、今やサポートするのはたった一人。


 どちらも、心配しないはずがない。


「栞様」

「はい」

「皆の無事をお祈りください。心配されるよりはそれが一番でしょう」

「はい」


 わたしにできるのなんて、結局、それぐらいだ。

 皆の無事を祈る。


 それしかできないのだ。


「ああ、でも、栞様の場合は、あまり強く祈り過ぎると、思わぬ奇跡が飛び出しそうなので、()()()()()()()()()()()します」

「そこそこ!?」


 まさか、祈りに手を抜けと言われるとは思わなかった。


 いや、それは当然か。

 これまで、やらかしたモノの数々をこの方は余すことなくご存じなのだ。


 全力で祈ったら、確かに何かをやらかす可能性は低くない。

 寧ろ、高い。


「あうううう」


 机に頭を伏せって唸るしかない。

 いや、唸ったところで何も変わらないのだが……。


「ところで、返書は書き終わりましたか?」

「はい」


 国王陛下に対してだけ、急いでお返事を書き、もう、送っている。


 アーキスフィーロさまの登城に合わせて自分も登城する形で良いかと伺う必要があったからだ。


 貴族的な言い回しは本当に難しい。

 まあ、形容詞、形容動詞が多すぎる神官たちよりはマシだけど。


 そして、それに対する了承の返答も早かった。

 もともと、準備をしていたのだろうと思うぐらいには。


 短いながらも、その返書も国王陛下の直筆っぽかったので、なんとなく、囲い込まれている感があって複雑である。


 その後、残りの封書も読み、その返事を書いた。


 推敲した後、添削。

 それはルーフィスさんに任せて、再度、書き直す作業。


 今日一日で、どれだけウォルダンテ大陸言語を書いたか分からない。


 国王陛下への御返事は、セヴェロさんとアーキスフィーロさまにも相談しながら書いたのだけど、ルーフィスさんの言い回しが一番、問題なさそうだったらしい。


 この国の人間ではないのにね。


 でも、ルーフィスさんはセントポーリア城でも、それ以外の国々でも、様々な文書に目を通している人なのだ。


 その中には勿論、ウォルダンテ大陸言語で書かれた物もあったはずだ。

 つまり、これまで見てきた手紙の桁が違うということだろう。


「他は良いのですが、ここが一語、抜け落ちている気がします」

「書き直します」


 そして、誤字脱字チェックも有能です。


 でも、こんなにいっぱいお手紙を書いて、一箇所だけの間違いなら、まだ許される気がしなくもない。

 いや、人様に出す文書としては、誤字脱字なんて許されないことは分かっているのだけど。


 それにしても、いっぱい、わたし宛に来たものである。


 国王陛下を始めとする王族たちは、またお会いしたいというものであった。


 王子殿下たちへの返書については、近々、アーキスフィーロさまと共に国王陛下にお会いするために登城する予定があり、その際でよろしければと書いた。


 ついでに、自分は本来、単独で城に上がれるような身分ではないことも書き添えている。

 それでも、強引に……となれば、このロットベルク家に喧嘩を売るようなものだ。


 一般的な判断力があれば、無理強いはしないだろう。


 気になったのは第五王子殿下からの手紙だ。

 内容的に、あの方、わたしが同級生だって気付いていない可能性がある。


 いや、検閲を避けるために無難にまとめているのかもしれないが、アーキスフィーロさまもそのようなことを言っていた。


 他の貴族令息からのお手紙は、まあ、会いたいという内容だった。


 でも、セヴェロさんが言っていたような内容の物は見受けられなかったので、有能な専属侍女さんがこっそり(はじ)いた可能性があると思っている。


 それらについては、自分に決定権はないので、ロットベルク家のアーキスフィーロさまを通してくださいと返答した。


 アーキスフィーロさまを怖がっている貴族令息なら、まず、ここで諦めてくれるだろう。


 貴族令嬢からも来ていたが、これらは、昨夜の舞踏会で歌ったことによる感想文が多かった。


 また聴きたい、他にはないか? ……という内容のものだったので、それに対しては、昨夜の舞踏会の歌は第二王女殿下のご厚意によって設けられた場であるために、本来は場違いであったことを謝罪しつつ、今後についてはご期待に沿えず申し訳ございませんと返答しておいた。


 御令嬢の中には一人だけ、わたしと会って話したいという方もいたが、そちらについては、迷った末、やはり、アーキスフィーロさまを通すようにと返答した。


 いろいろ思うところはあるし、わたしからも聞きたいこともあるけれど、お互いの立場的にそれが無難だろう。


 何の対策もせずに逢えば、周囲からどんなことを吹聴されるか分かったもんじゃないから。


 ―――― Марианна Нитерс Ферронисте


 綺麗なウォルダンテ大陸言語で書かれた差出人の名前。


 それは、アーキスフィーロさまの元婚約者である「マリアンヌ=ニタース=フェロニステ」さまからのものだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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