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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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登城のために

「そちらにも来ましたか」


 いつものように書斎にいたアーキスフィーロさまが難しい顔をして呟く。


 机には書類の束……、ではなく、わたし以上の封書の山。

 うん、人気者?


「書簡が来たのは、陛下からだけですか?」

「いいえ、第一から第五王子殿下まで全て、あの舞踏会に参加されていた王子殿下たちより、栞様宛に玉簡(ぎょっかん)を拝受しております」


 わたしの代わりにルーフィスさんが答えてくれる。


 わたしは陛下からのお手紙しか見ていなかったが、その他の王子殿下たちもお手紙をくださったらしい。


 そうなると、順番的に陛下の次ぐらいにあったのかな?


 だが、全ての王子?

 どうしてそうなった?


 わたしは、誰にもまだ関わっていないよね?

 せいぜい、第五王子殿下から届くぐらいだと思っていたよ。


「第一から……。第四王子殿下からもあったのですか?」


 第四王子殿下は、確か正妃殿下の息子さんだったはずだ。


「はい。王子殿下たちはそれぞれ、栞様と交流を持ちたいとのことでした」


 別々に手紙を寄越したってことは、個別に思惑があるってことだろう。

 それが分かっているから、アーキスフィーロさまは難しい顔を崩さない。


『アーキスフィーロ様。厄介なのは、シオリ様には、王族以外……、貴族令息からも手紙が届いているんですよ』

「何故、お前がそれを知っている?」

『ルーフィス嬢にそれらをお渡ししたのはボクですからね』


 確かにそんなことを言っていた気がする。


『仕込み刃、爆発物系は令嬢からが多かったですね。子息からは、まあ、閨のお誘いが多かったようですよ』


 どこに驚いて良いか分からない。

 仕込み刃って本当にあるのか。


 そして、爆発物系って読む前に爆発するの?

 それとも、読んだ後に証拠隠滅として爆発するの?


 この手紙は自動的に消滅する……とか?


 何より、閨のお誘いって、一応、アーキスフィーロさまの相方(パートナー)としてあの場所に行ったことは皆さん、ご存じだと思うけど違うの?


 婚約者候補と公言したわけではないが、公の場に貴族子息のでびゅたんとぼーるの相方(パートナー)として参加したのだ。


 既に相手(パートナー)がいるのだから、一夜限りで遊ぶには適さないだろう。


 それに、同じ遊ぶにしても、凹凸が分かりにくいわたしなんかよりも、もっと良い女性がいると思うのですよ?


 わたしがそう思って、セヴェロさんを見ていると……。


『シオリ様は舞踏会で歌声を披露したのでしょう? そのため、自分の寝台でもその声を聞かせて欲しいと願う声が一部にありました』

「歌声と嬌声って全く別物だと思うのですが……」


 寝台で声を聞かせてほしいって、つまりは、そういうことだというのは理解した。


 でも、まだその内容のお手紙を読んでいないけれど、多分、セヴェロさんが言ったようなことが書かれていたのだろう。


 他者の嬌声など聞いたこともないが、過去、九十九の発情期の時に、自分の口から漏れたそれっぽい声は、その艶とか高さが全く違ったと記憶している。


 聞いた方が恥ずかしくなるほど高くて甘えた声だった。

 自分の口から、あんな声が出るなんて信じられなかったら余計に忘れられない。


 九十九も発情期のことは記憶に残っていると言ったから覚えているのだろうけど、できれば記憶から消していてくれると嬉しいと思っている。


 やはり、記憶消去魔法は必要だと思う。


『男にとってはどちらも大差がないですよ。要は、寝台の上で声を出させたいだけですから』

「セヴェロ!!」

「セヴェロ様」


 セヴェロさんの軽口に、アーキスフィーロさまは鋭く、ルーフィスさんがやんわりと、同時に制止の声を上げる。


 まあ、品の良い話ではないからね。

 アーキスフィーロさまは性格上、ルーフィスさんは立場上、止めるしかないだろう。


 ここでわたしがいなければ、殿方ばかりだから盛り上がる話なのかな?

 いや、一人、女性にしか見えないけど。


『まあ、そんな話はどうでも良いでしょう。目下、重要なのは国王陛下の直筆による招待状です。それ以外は無視して問題ありません』


 それはそれで、問題しかない発言だと思うのだけど……。


『この国で最も尊く、アーキスフィーロ様が傅くべきは国王陛下です。()の御方の御心に従う意思を表面上だけでもお見せすれば、王子殿下たちの要望など跳ね除けることは可能でしょう』


 先ほどからいろいろツッコミどころしかない。

 セヴェロさんって、この国の貴族だけでなく、王子殿下たちや国王陛下もお好きではないのね?


「まさか、国王陛下がここまで、シオリ嬢に興味を持つとは思いませんでした。私への登城要請もずっと文官による代筆だったのに……」


 これまでと状況が違うことはよく分かった。


 アーキスフィーロさまが突っぱねることができていたのも、代書だったことが理由だったのかもしれない。


 いや、それはそれで不敬だとも思うけれど。


 現に、国王陛下はそれをでびゅたんとぼーるで口にしていた。

 これまで咎めなかったのも、その場がなかっただけということでもある。


 今後は、もう、これまでのように無視はできなくなるかもしれない。


「それでは、登城する日を決めた方が良さそうですね」

「いいえ、登城する日はもう指定されております」

「え……?」


 指定されている?


「シオリ嬢の方には指定がなかったようですが、私宛の物には指定がありました。これに合わせると返答されてください」

「なるほど……」


 わたしはてっきり、一人で行かなければならないと思っていたけれど、アーキスフィーロさまが一緒ならば心強い。


「指定されているのは、三日後です。それまでに、ルーフィス嬢。シオリ嬢の準備は間に合いますか?」

「はい、勿論」


 準備?

 ああ、登城ってことは服とか化粧とか装飾品とかも必要になるからか。


 しかも、でびゅたんとぼーると違って、明確な服装の指定(ドレスコード)がない。


 そうなると、ルーフィスさんに任せよう。

 そうしよう。


「いや、シオリ嬢より、アーキスフィーロ様の方でしょう。登城用の服ってありましたっけ?」

「……ないな」


 少し考えて、アーキスフィーロさまはそんなとんでもないことを言った。


「オーダーメイドは間に合わないから、既製品か~。アーキスフィーロ様は標準サイズよりやや小さめだから、城下にもあるとは思いますが」


 城下?


「城下?」


 わたしと同じ疑問をアーキスフィーロさまも持ったらしい。


「普通の貴族令息ならば、仕立て屋を呼ぶところですけどね。時間もありませんし、城下に出て既製品を買うしかないでしょう。残念ながら、商人はここまで来ませんよ。この家の第二令息の悪名は知れ渡ってますからね」


 悪名って……。

 アーキスフィーロさまは別に悪いことをしているわけじゃないのに。


「だが、代価は……」

「今夜辺り、さくっと魔獣退治しに行きましょう。王家からの直接命令でない限り、金銭は貰えるはずです。それから、城下に出て、ギリギリではありますが、登城日までには支度が間に合うことでしょう」


 ぬ?

 代価って確か、商品を買うためのお金だよね?


 だけど、今の会話から……。


「アーキスフィーロさまは、報酬など、貰っていないのですか?」

「報酬……、ですか?」


 かなり不思議そうに問い返された。


「いえ、あれだけのお仕事をされていたのに、これまで、その対価はなかったのでしょうか?」


 少し前、書類に埋もれていたアーキスフィーロさまの姿を思い出す。


「あれは、私の仕事ではなく、家のことですから」


 まさかの無報酬だった!?

 あれだけ、一日のほとんどを費やしても終わらないような仕事量だというのに。


 セントポーリア国王陛下は、わたしや九十九に書類仕事をさせていたけど、ちゃんと相応の……、かは分からないけれど、報酬はくれたのだ。


 仕事をする以上、対価を渡すのは当たり前だと言っていた。


 いや、確かに家のことだよ?

 でも、それをアーキスフィーロさまに押し付けた方々は、自分がやったこととして、報酬を受け取っているのではないの?


 え?

 どっちが正しい?


「あれらの仕事は、自分の衣食住のためですから」


 アーキスフィーロさまは困ったようにそう言うが……。


「現に『()』が足りてないじゃないですか!!」


 わたしは思わず反論してしまった。


 アーキスフィーロさまは貴族令息だ。


 確かに15歳以上(成人済み)なのだから、自分の食い扶持は自分で稼ぐという考え方は間違っていないと思う。


 だけど、まだ「令息」の身なのだ。


 家、預かりの身なのだ。

 家に所属しているのだ。


 それならば、王城に上がるための服とかなければ、家の恥になるというやつではないだろうか?


 ぐぬぬぬ……と口に出したいのを我慢する。


 ―――― お前は中ボスか


 そんな声がどこかで聞こえた気がした。


 それだけで落ち着く気がするのは何故だろう?

 その声の主は、今、この場にはいないのに。


「心配なさらなくても、大丈夫ですよ、シオリ嬢」


 アーキスフィーロさまはそう言いながら……。


「セヴェロの言う通り、三日後までになんとかしますから」


 困ったように微笑むのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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