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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 弓術国家ローダンセ編 ~

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水の戯れ

「魔獣の生態系にも影響が出るほどだから、この国を始めとして、この大陸自体が大気魔気の調整が上手くいっていないことは間違いないと思うよ」


 真央先輩は大きく息を吐きながら、そう言った。


「この国の問題だけってわけじゃないんだな?」

「いや、この国が一番の問題なのは間違いないと思うけどね」


 水尾先輩の言葉に、真央先輩はあっさりと返す。


「ローダンセは、ウォルダンテ大陸の中心国として、それなりに長い期間、君臨している。そこが乱れたら、従属している国もどうなるかなんて分かり切っていることでしょう?」


 それほどまでに、この世界の大陸は、どこも中心国が支えている。


「中心国って結局のところ、名前だけの存在じゃないんだよ。カルセオラリアだって、城が崩壊したから一時的に外されただけ。残っている国に挿げ替えれば良いって話じゃないのは、今、代行させられているエラティオールが一番、知っていると思うよ」


 真央先輩はそう言って皮肉気に笑う。


「まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことかもしれないけどね。上手くいかなくたって、消えてしまった国のせいにすれば良い。碌に引き継ぎもできていないのだから仕方ない、自国は何も悪くないって言えるからね。気楽な立場で羨ましいよ」


 それがどの国を皮肉っているのかは嫌でも分かってしまう。


 アリッサムと違い、カルセオラリアは国が消えたわけではなかった。

 それでも、そのどこかの国の王さまは、他の中心国の前で、簡単に変えれば良いと言っていたのだ。


 自分たちだって、苦労しているはずなのに。


「中心国は人間界の家で言う大黒柱、他の言い方だと、屋台骨みたいなものなんだよ。そこが揺らげば、大陸の他の国家も一緒に揺らぐ。だから、中心国は揺らげないし、他の国はそれを支える」

「それって、甘え過ぎているってことじゃないのか? つまりは、自分たちの足で立てないってことだろ?」

「おんぶに抱っこの方が何も考えなくて良いし、楽だからね~。だから、アリッサムが無くなっただけでフレイミアム大陸は駄目駄目になったでしょ? 理想は、一応、ライファス大陸かな? 今のところ、中心国に揺らぎはないけれど、万一のためのリスク分散はしているらしいからね」


 この辺りの情報は雄也さんからだろう。

 イースターカクタスについては苦手意識があっても、ちゃんと調べているのは流石だと思う。


「ああ、生態系で思い出したけど、キミたち。魔獣を狩る時は、できるだけ水属性の魔法でお願いできる? もしくは氷属性。その方が大気魔気の調整に一役買えるだろうから」


 そんな真央先輩の言葉に……。


「あ?」


 水尾先輩は怪訝な顔をし……。


「ああ、はい。承知しました」


 九十九はあっさりと受け入れる。


「いや、ルカはなんで理解できない? この国を含めたこの大陸は既に不安定な状態で、このままだともっと酷い状況が起こりえる。だから、自分たちがいる間だけでも手助けしようって話だよ」

「そんな義理はないだろ?」


 水尾先輩はあっさりとそう言い切る。


「義理はないけど、滞在している間に何かあると、そのまま面倒ごとに巻き込まれそうじゃない? つまり、私の提案は、善意じゃなくて身を護るための保身だよ」


 真央先輩がそう言うと、水尾先輩は少し考え込んで……。


「リアの言う理屈は分かったけど、私、水属性、氷属性って苦手なんだよな~」


 そんな意外なことを口にした。


 水尾先輩は、どの属性の魔法も満遍なく使える万能型という認識だった。

 でも、違うと言うことだろうか?


「ルカの場合、水属性や氷属性の魔法の出力調整が苦手ってだけだよね?」

「水は微調整ができないんだよな~」


 やはり、万能型ではあるらしい。


「火属性の出力を失敗するよりは害がないから良いよ」


 それは、確かに。

 水魔法の失敗は水浸しぐらいだろうけど、火魔法の失敗は、火傷、大火、爆発だ。


「九十九くんの方はあっさりだったけど、水属性が得意なの?」

「水属性よりは氷属性の方が得意ですね。兄が好んでよく使っていたので、耐性もそれなりにあると思っています。魔法国家基準ではまだまだだとは思いますけどね」


 真央先輩の言葉に、九十九は微かに笑いながら答える。


 だが、何故だろう?

 わたしの脳裏には、小学生ぐらいの九十九が両腕を凍らせているようなイメージが浮かんでいる。


 はて?

 どこかで()たかな?


 でも、小学校時代は九十九が魔法使いだなんて知らなかったから、最近の13歳九十九(ヴァルナさん)の姿にイメージが引き摺られた?


 そう言えば、ルーフィスさんもヴァルナさんもわたしの前では化粧を落としてくれないな。

 ルーフィスさんは、男装姿を見せてくれたけど、化粧を落とした素の顔ではなかった。


 見せてくれって言ったら見せてくれるかな?


 やっぱり気になるのだ。

 13歳雄也(ルーフィス)さんと、13歳九十九(ヴァルナさん)の素顔。


 九十九は12歳からの変化だから予想はつくのだけど、雄也さんと会ったのは、彼が17歳の時だ。

 小学校は同じだったけど会うこともなく、中学校は違ったから知ることもなかった。


 だから、13歳雄也さんが想像できないというのもある。

 今回のことで、13歳時点では九十九よりも高かったことは、今回、知ることができたけどね。


 兄弟でも、成長期に入るタイミングは違ったらしい。

 成長期があるだけ良いと思うのだけどね。


「まあ、苦手ではないなら大丈夫か。普通は大気魔気が不安定な地って、その環境に慣れるまで魔法は使いにくいらしいのだけど、キミたちはそれもないんだね?」

「ないな」

「ありませんでした」


 真央先輩の問いかけに水尾先輩と九十九が同時に頷きながら答える。


 大気魔気が不安定だと魔法が使いにくいのか。

 それは知らなかった。


「あと……、大気魔気が不安定な地だと、魔力食いの性質を持つ魔獣が増えるって聞いたことがあるけど、どう?」

「食われたことがないから分からん」

「魔力食いの話は、二、三十年ほど昔からでているそうです。そのために城下を魔力含有穀物(イシュー)で囲うようになったとか。それと、対峙している魔獣も、近くにいるオレよりも、魔力の強いルカさんを狙うモノの方が多かったように感じます」


 さらに続けられた問いかけに対して、水尾先輩は身も蓋もない答えを返し、九十九は聞いた話と、自身の体験と感想を交えて回答する。


「あ~、それでヴァルナよりも私の方に向かってくるヤツが多いのか」


 だが、そんな言葉を聞いて心安らかでいられるはずがない。


 いや、水尾先輩が強いってことも知っているし、九十九は誰かを護れる人だってことだって分かっている。


 だけど……。


「魔獣も大気調整の重要性は知っている。異常気象なんかになったら、自分たちにも影響があるからね。だから、魔力の強い人間を食らって、その体内魔気を大気魔気に融合させようと、いや、()()()()()()()()()()()らしいよ」


 その言葉にゾクリとしたものを覚える。


 分かっている。

 魔獣だって生き物だ。

 自分たちが生きるためのことをしようとしているだけなのだ。


「まあ、真っ当な生物なら、ルカのように魔力が強すぎる人間に向かうことはない。自分たちよりも強いことが本能的に分かるはずだからね。だけど、それが働かないのが、魔力食いの特性でもある」


 そうなると、魔獣たちも本能が働かない状態ってことだろうか?


「自分の命よりも、僅かでも傷つけて体内魔気を放出させようとしているのか、単純に魔法を使わせようとして向かってくるのかは本当のところは分かっていない。でも、ルカにまで向かってくるなら、後者かな。ルカや九十九くんが簡単に還ることはないだろうからね」


 それも分かっている。

 彼らの強さを信じている。


 だけど、世の中に「絶対」という言葉はないのだ。


「九十九……。無理だけはしないでね?」


 思わずそう言うと、九十九はその整った顔を歪める。


「なんで、オレだけに言うんだよ?」

「いや、九十九が強いことを知っているけど、それ以上に、水尾先輩(ルカさん)を護ろうとしちゃうだろうから……」


 あの「音を聞く島」で、たった一人、水尾先輩を助けに行ってくれたことを覚えている。


 わたしを悲しませたくないというのも理由だったと思うけれど、九十九自身が気に掛けたことも事実だろう。


 あの時、わたしがお願いするよりも先に、自分から「行く」と言ってくれたのだから。


 幸い、二人とも無事に戻ってくれたけど、あの時のような思いはあまりしたくなかった。

 無事を祈りながら、待つことしかできない状態って本当に辛いのだ。


 あんな思いをするぐらいなら、自分が乗り込んだ方がマシだと思ったぐらいである。

 勿論、そんな阿呆なことをすると、状況は悪化することも分かってはいたのだけど。


 わたしは戦国武将の妻にはなれない、と改めて思ったほどだった。


「ああ、高田は九十九くんの強さを信じているけど、同時にルカの無謀さも心配ってことだね?」


 そこまで酷いことを言ったつもりはない。


 だが、そんな真央先輩の言葉が耳に届いたのか、九十九は不機嫌そうな表情のまま……。


「お前は二日前に食った肉を覚えているか?」


 敬語を外して確認してきたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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